第64話「小部屋の主、また一つ」
マランの世界、毎日投稿中です。
当面、数話を連続投稿の予定です。
お楽しみいただけましたら幸いです。
朝、六人は、九層への階段を、迷いなく降りていった。
「今日こそ、鍵、見つけたいな」
カインが、通路を見渡しながら言う。
「見つかるといいけど」
ダダが、盾を構え直しながら、答えた。
「見つからなくても、収穫はある。九層自体、まだ削り切れてない」
ミラが、静かに、付け加えた。
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「昨日までで、大体、削れてきたよな。探すところ」
ネリスが、袋から地図を取り出しながら言う。
広げた紙には、これまでの探索で塗りつぶされた区画と、白く残った区画とが、はっきり分かれていた。
「残ってるの、あと、この辺りだけか」
カインが、白い部分を指でなぞる。
「東側の、あの一帯」
ミラが、静かに、頷いた。
「東側って、確か、前に一度、途中で引き返した所だよな」
ダダが、記憶をたどるように言う。
「あの時は、時間切れだった。今日は、最後まで行こう」
カインの声に、迷いはなかった。
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古層特有の、見慣れない石組みの通路を、六人は、慎重に進んでいった。
石の質感が、階層ごとに違う。
木のような木目が浮いた石もあれば、金属に近い光沢を持つ石もある。
どの世界の建築なのか、誰にもわからない。
「相変わらず、気味悪いよな、ここ」
ダダが、壁を見ながら、呟いた。
「気味悪いというか」
ノリアが、続ける。
「落ち着かない」
「落ち着かないのは、正直、俺も同じ」
カインが、苦笑しながら、認めた。
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「来る!」
ネリスの声と同時に、通路の奥から、甲殻の生き物が、二体、姿を現した。
八層で何度も見た、中型の甲殻モンスターだった。
「もう慣れたもんだな、この辺の連中」
ダダが、盾を前に出しながら、言う。
「油断は、しない」
カインが、剣を構える。
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戦いは、これまでより、早く片付いた。
ワングの一撃が、一体の関節を正確に断ち切る。
「型に、無駄がなくなってきたでござる」
ワングが、静かに、刀を納めた。
「レベル上がった分、実感あるな」
カインが、残る一体を斬り伏せながら、答えた。
刃が、以前より軽く、甲殻を割った。
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「ノリア、今の一発、いつもより強くなかった?」
カインが、振り返る。
「業炎獄、初めて実戦で使った」
ノリアが、まだ煙の残る手を、見つめながら言う。
「五階梯まで来た甲斐、あったな」
「あった、と思う」
短い答えの奥に、確かな手応えが滲んでいた。
「終焉、まだ、試してないよな」
ダダが聞く。
「使う場面が、来ないでほしい呪文だから」
ノリアの答えに、誰も、それ以上は聞かなかった。
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進むほどに、通路は狭く、入り組んでいった。
天井が低くなり、六人は自然と、前後に間隔を詰めて進むようになった。
「この先、行き止まりっぽいけど」
ネリスが、耳を伏せて、気配を探る。
「気配、ある」
「どっちの意味の気配だ」
ダダが聞く。
「わからない。とにかく、ある」
ネリスの答えに、六人の足が、自然と慎重になった。
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道は、いくつかに分かれていた。
一つずつ、順に潰していく。
行き止まり、また行き止まり。
その度に、小さめの魔物と、何度か、鉢合わせた。
コウモリに似た影の群れ、床に張り付く擬態系。
いずれも、六人の連携の前に、大きな苦戦にはならなかった。
「数は、こなしたけど」
ミラが、額の汗を拭いながら言う。
「鍵らしきもの、まだ、見当たらないですね」
「まだ、この先がある」
カインが、地図の、最後に残った空白を、指差した。
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「そういえば」
カインが、歩きながら、思い出したように言う。
「鍵って、そもそも、どんな形してるんだろうな」
「わからない」
ダダが、あっさり答える。
「わからないのに、探してるのか」
「探すしかないだろ、見つけるまでは」
ダダの理屈に、カインが、小さく笑った。
「アーカイブにも、この扉の記録、なかったもんな」
ミラが、続ける。
「記録がないってことは」
ネリスが、口を挟む。
「わざわざ報告するほどのことでもない、って、思われてたのかもな」
「九層まで来る人自体、そんなに多くないし」
カインが、続けた。
「それか、単に、見つけた人が、報告し忘れてるだけ、とか」
ダダが、あっさり言う。
「理由は、いろいろありそうだな」
ノリアが、静かに、頷いた。
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さらに進むと、天井の低い一角で、擬態していた魔物が、不意に襲いかかってきた。
「壁!」
ネリスが、叫ぶ。
石の壁だと思っていた表面が、突然、脚を生やして動き出した。
「見えなかった!」
カインが、慌てて剣を構える。
「落ち着け! 動きは、遅い!」
ダダが、盾で受けながら、指示を飛ばす。
ワングの一閃が、擬態を解いた魔物の胴を、正確に両断した。
「片付いたでござる」
ワングが、静かに、刀を鞘に戻す。
「危なかった……」
カインが、胸を撫で下ろした。
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さらに奥へ進むと、通路の空気が、それまでと変わった。
ひんやりとした冷たさに、湿った匂いが混じっている。
「なんか、匂う」
ネリスが、鼻を鳴らす。
「何の匂いだ」
「わからない。嫌な匂い、ではある」
はっきりしない答えに、六人の緊張が、じわりと増した。
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その空白の先に、それまでの通路とは、明らかに違う扉があった。
小さく、装飾もない、地味な扉だった。
「これ」
ダダが、扉に近づく。
「今までの、ボス部屋の扉と、違うな」
「小部屋、っぽい造りでござるな」
ワングが、静かに、扉を観察する。
指先で、表面をなぞる。
「鍵穴は、なさそうでござる」
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「前にも、こういう扉、あったよな」
カインが、思い出したように言う。
小部屋の主が、隻腕の証を守っていた、あの日のことを、誰もが、頭のどこかで覚えていた。
「あの時も、狭い部屋に、強い一体、だったよな」
ダダが、記憶をたどりながら言う。
「今度は、何が、いるんだろう」
ネリスが、扉に手をかけながら、呟いた。
「開ける前に、聞いておくけど」
ミラが、皆を見回す。
「今日、無理はしない。危なそうなら、すぐ退く」
「賛成」
カインが、即座に頷いた。
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「開けるぞ」
カインの声に、六人が、頷く。
扉は、これまでの重い石扉とは違い、驚くほど、軽く開いた。
「軽い」
ダダが、拍子抜けしたように、言う。
「軽いのは、いいことだと思う」
ミラが、答える。
「軽い扉の方が、逆に、怖いこともあるでござるよ」
ワングが、静かに、付け加えた。
その言葉に、誰も、笑わなかった。
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部屋の中は、狭かった。
これまでのボス部屋のような広さはなく、六人が並んで立てば、それだけで、余裕がなくなるほどの空間だった。
天井も低く、圧迫感がある。
壁は、他の区画と違い、黒ずんだ石で覆われていた。
「狭いな」
ダダが、周囲を見渡しながら、呟いた。
「狭いと、逃げ場も、少ない」
ネリスが、低く、言う。
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奥の暗がりに、何かが、蹲っていた。
その輪郭を見た瞬間、カインの息が、止まった。
甲殻に覆われた、幾本もの脚。
長く伸びた胴体。
「これ……」
カインの声が、掠れる。
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「グラヴォル、か」
ダダが、低く、呟いた。
三層で見た、あの姿と、確かに似ていた。
だが、何かが、違う。
「大きさ、が」
ネリスが、後ずさりながら、言う。
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三層のグラヴォルより、一回りどころではなく、大きい。
甲殻の色も、赤黒く、より禍々しい。
脚の一本一本が、太く、長く、鋭い。
先端は、刃物のように尖っていた。
「あれと、同じ系統の、化け物でござるか」
ワングが、静かに、刀の柄に手をかけた。
「同じ、なんだろうけど」
カインが、乾いた声で、続ける。
「あれの、何倍だよ、これ」
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暗がりの中で、巨大な影が、ゆっくりと、頭をもたげた。
甲殻の隙間から、赤黒い光が、いくつも覗く。
三層で見たものより、その数が、明らかに多かった。
一つ一つの光が、こちらを、確かに捉えている気配があった。
「気づかれた」
ミラが、短く、言う。
「気づかれた、な」
ダダが、盾を握り直しながら、答えた。
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魔物が、ゆっくりと、立ち上がっていく。
狭い部屋の中で、その巨体が、天井近くにまで届きそうになっていた。
軋むような音が、甲殻の隙間から漏れる。
六人の誰も、動けずにいた。
「これ、今日、戦うのか」
ネリスの声が、震えていた。
誰も、まだ、答えを出せずにいた。
いかがでしょうか?
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