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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
閑話 その三

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第58話「見えない敵、見える手」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

その日も、六人は、八層へ向かった。


「石、届けてから、五日目か」


カインが、歩きながら言う。


「あと、一日」


ネリスが、指折り数えた。


「楽しみござるな」


ワングが、静かに言う。


「まあ、待つしかない。今は、今日の分、頑張ろう」


カインが、頷いた。


---


分岐を進み、奥へと進んでいく。


「気配、今日は、なんか、変」


ネリスが、ふと、足を止めた。


「変、って」


カインが、聞く。


「動いてるのに、生きてる感じが、しない」


---


通路の先、開けた空間に、これまで見たことのない魔物が、佇んでいた。


朽ちた骨だけの姿をしたものが、数体。


ぼろぼろの布をまとった、人型の影のようなものも、混ざっている。


「あれ……」


ミラが、声を詰まらせた。


「不死系、か」


カインが、低く呟いた。


---


「不死系、初めてだよな」


ダダが、盾を構えながら、確かめるように言う。


「初めて」


カインが、頷く。


「普通の攻撃、効くのか」


「わからない。とりあえず、様子見だ」


---


「ダダ、前へ」


「了解!」


ダダが、盾を構えて踏み込む。


骨の魔物が、がちがちと顎を鳴らしながら、迫ってきた。


「剣、通る!」


カインが、斬りかかりながら、叫ぶ。


だが、手応えは、これまでよりも、明らかに軽かった。


---


「効いてるのか、これ」


カインが、戸惑ったように言う。


「切れてる。切れてるけど、崩れない」


ネリスが、爪で切り裂きながら、叫ぶ。


骨の魔物は、切られた部分を、平然と、また元の位置に戻していく。


「再生してる……!」


ミラが、目を見開いた。


---


「物理、あまり効かない相手か!」


カインが、素早く判断する。


「ミラ、何か、効くやつ、あるか!」


ダダが、盾で押しのけながら、叫ぶ。


「邪払い!」


ミラが、即座に、声を上げた。


---


祈るような光が、ミラの手のひらから、骨の魔物に向かって放たれる。


光が触れた瞬間、骨の魔物が、大きく、体を震わせた。


「効いてる!」


ミラが、驚いたように、叫ぶ。


「物理より、効いてる!」


---


「聖光弾、使えるか!」


カインが、後方に叫ぶ。


「使える! でも、そっちは、もう少し、様子見てから!」


ミラが、即座に、答えた。


「わかった、任せる!」


---


「ダダ、俺で、動き、止める! ミラに、集中させろ!」


カインが、叫ぶ。


「了解!」


ダダと並び、カインが、骨の魔物の正面に立ち、盾と剣で、動きを封じにかかる。


「今のうちに!」


---


「邪払い!」


ミラが、続けて、声を上げる。


二度目の光が、骨の魔物を、深く、蝕んでいく。


「もう一体、いける!」


ミラが、力強く言った。


---


「ワング、ネリス、そっちの影、頼む!」


カインが、叫ぶ。


「承知!」


「任せて!」


ワングとネリスが、布をまとった影の魔物へ向かう。


剣も爪も、輪郭を、わずかにかすめるだけで、手応えがなかった。


「これも、物理、効かないでござるか」


ワングが、静かに言う。


「削れない、けど、動きは、鈍らせられる」


ネリスが、爪を振るいながら、答えた。


---


「ミラ、聖光弾、まだいけるか!」


カインが、叫ぶ。


「いける!」


ミラが、答える。


「聖光弾!」


輝く光の弾が、影の魔物を、真正面から貫いた。


「効いてる、こっちも!」


ミラが、力強く、叫んだ。


---


「一体、倒れた!」


ネリスが、鋭く声を上げる。


骨の魔物が、砕け落ちていた。


「残り、影が一体!」


---


「ミラ、無理はするな!」


カインが、心配そうに言う。


「まだ、大丈夫。もう一押し!」


ミラが、力強く答えた。


「邪払い!」


三度目の光が、揺らめく影を、包み込む。


---


「ダダ、押し込め!」


カインが、叫ぶ。


「了解!」


ダダの盾が、揺らめく影を、壁際に追い詰めていく。


「今だ!」


ミラの光が、影の輪郭を、確実に、削っていった。


---


影の魔物が、声もなく、闇に溶けるように、消えていく。


戦いが、ようやく、終わった。


「終わった……のか」


カインが、剣を支えに、大きく息をついた。


「終わった」


ダダが、盾を下ろしながら、頷いた。


---


「不死系、物理、あんまり効かないんだな」


ダダが、額の汗を拭いながら言う。


「ほとんど、効いてなかった。ミラの邪払いと聖光弾、なかったら、どうなってたか」


カインが、正直に言う。


「ミラ、大丈夫か、呪文、結構、使ったろ」


「大丈夫。でも、正直、けっこう、使った」


ミラが、答えた。


「今日は、ミラに、負担かけたな」


カインが、静かに言った。


「不死系が出たら、私が、要になるってこと、覚えておいて」


ミラが、静かに、付け加えた。


---


「魔石、いつもと、また違う」


ネリスが、地面に転がる、灰色がかった魔石を、拾い上げながら言う。


「不死系の魔石、色も違うのか」


カインが、覗き込んだ。


「これも、アーカイブに、報告した方がいいな」


---


さらに奥へと進む。


小さな空間に、木箱が一つ、静かに置かれていた。


「宝箱、あったな」


カインが、目を見開く。


「罠、確かめる」


ネリスが、爪の先で、蓋の縁を、そっと叩いた。


光の線は、浮かばなかった。


---


慎重に確かめたあと、蓋を開ける。


中から、丸められた紙片が、姿を現した。


「また、スクロールか」


カインが、手に取る。


見慣れない筆致は、前回のものとは、また違う模様だった。


---


「これも、何が書いてあるか、わからないな」


ノリアが、覗き込みながら言う。


「アプレイザル、持って帰るしかないか」


カインが、慎重に、袋にしまおうとした、その時だった。


---


「試しに、拙者が、見てみるでござる」


ワングが、思いついたように言う。


「見る、って」


カインが、聞き返す。


「真贋の瞳」


ワングが、静かに言った。


---


「そんな呪文、あったのか」


ダダが、驚いたように言う。


「アルカナ第四階梯にある、簡易鑑定の呪文でござる。使う機会が、あまりなかったが」


ワングが、スクロールに、手をかざす。


「真贋の瞳」


---


淡い光が、スクロールを、静かに包んだ。


しばらくして、光が、収まる。


「どうだ」


カインが、身を乗り出す。


「……何か、封じられた呪文の記録、らしきものが、見える気がするでござる」


ワングが、目を細めながら言う。


「気がする、って」


ネリスが、聞き返す。


「はっきりとは、わからない。輪郭だけ、ぼんやりと」


ワングが、正直に答えた。


---


「アプレイザルの鑑定とは、違うのか」


カインが、聞く。


「違うでござる。あちらは、はっきりと、名前まで教えてくれる。こちらは、あくまで、簡易」


ワングが、続けた。


「精度、落ちるんだな、やっぱり」


ダダが、確かめるように言う。


「落ちる。でも、何も知らずに持ち帰るよりは、いくらか、目安になる」


ワングが、静かに言った。


---


「今の感じだと、危険なものではなさそうか」


カインが、聞く。


「そこまでは、断言できないでござる。ただ、明確な悪意は、感じなかった」


「なら、持ち帰って、ちゃんと鑑定してもらおう」


カインが、頷いた。


「その方が、確実でござるな」


ワングも、同意した。


---


「便利な呪文だな、それ」


ネリスが、感心したように言う。


「便利だが、万能ではない、ということでござる」


ワングが、静かに、付け加えた。


「使いどころ、覚えておくか。とりあえずの目安をつけたい時とか」


カインが、頷いた。


---


「今日は、この辺で、切り上げるか」


カインが、皆を見回す。


「賛成。ミラの負担、大きかったし」


ダダが、静かに言う。


「拙者も、賛成でござる」


ワングが、続いた。


---


来た道を、六人は、ゆっくりと戻り始めた。


「不死系、か」


カインが、歩きながら、呟く。


「物理、ほとんど、通じない相手だったな」


「ミラの邪払いと聖光弾、頼りきりだったな、今日は」


ダダが、静かに言った。


「私だけじゃ、心細いから、みんなが、動きを止めてくれる分、集中できた」


ミラが、静かに、答えた。


---


八層の奥から、七層、六層と、階層を登っていく。


篝火の灯る前室に戻ると、ようやく、肩の力が抜けた。


「今日も、新しい発見、多かったな」


カインが、皆を見回しながら言う。


「多かった。不死系のこと、ミラの立ち位置のこと、ワングの瞳のこと」


ダダが、指を折りながら言う。


「明日、アプレイザルに、報告と鑑定、両方、行くか」


カインが言う。


「行こう」


六人の声が、揃った。


「不死系の情報、ティリーさん、喜びそうだな」


ネリスが、少し楽しそうに言う。


「新しい記録、また増えるな」


カインが、笑った。


夕暮れの光が、通路の入り口から、静かに差し込んでいた。


いかがでしょうか?


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よろしくお願いいたします。

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