第48話「積み残し」
マランの世界、毎日投稿中です。
当面、数話を連続投稿の予定です。
お楽しみいただけましたら幸いです。
「そういえば」
ヘクサインの食堂で、ダダが、地図を広げながら言う。
「七層、もう、ほぼ全域回ったよな」
「回ったな」
カインが、頷く。
「でも、六層、まだ、抜けてる場所がある」
ダダが、地図の一部を、指でなぞった。
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「ここと、ここ」
ダダが示したのは、六層の地図の中で、線が途切れている二箇所だった。
「七層に、急いで降りたので、素通りしたところだな」
カインが、腕を組む。
「小部屋の鍵、探すにしろ、そうじゃないにしろ、六層に何かあるなら、先に見ておいた方がいい」
ネリスが、静かに言った。
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「じゃあ、明日は、六層、回り直すか」
カインが、皆を見回す。
「賛成」
六人の声が、揃った。
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翌朝、六人は、再び六層前室に立った。
「今日は、七層じゃなくて、六層」
カインの声に、いつもの落ち着きがあった。
「久しぶりだな、六層」
ダダが、笑いながら言う。
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地図の空白を頼りに、これまで通らなかった道を進んでいく。
「こっち、初めて来る」
ネリスが、耳を伏せながら、慎重に先へ進む。
「気配、どうだ」
カインが、聞く。
「今のところ、静か」
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一つ目の空白は、小さな行き止まりの部屋だった。
「何もない、な」
ダダが、周囲を見渡しながら言う。
「ちょっと、拍子抜けだな」
カインが、苦笑する。
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壁際に、古い木箱が一つ、転がっていた。
「あれは」
ネリスが、近づいて確かめる。
「空っぽ。もう、誰かが持ち去ったあとみたいだ」
「先に、誰か来てたのか」
ダダが、呟く。
「にしても、こういう場所、一つずつ潰していくの、大事だな」
カインが、地図に、丁寧に印をつけた。
「もう一つの空白、行ってみるか」
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別の分岐から、二つ目の空白へと向かう。
しばらく進むと、通路が、大きく開けた場所に出た。
これまでの六層の通路とは違い、天井が高く、広い部屋になっている。
「ここ、部屋になってる」
ダダが、周囲を見渡しながら言う。
「素通りしてたら、絶対、気づかなかったな」
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奥の暗がりに、何か大きなものが、蹲っていた。
「気配、強い」
ネリスの声に、六人の間に、緊張が走る。
「今までと、違う」
ダダが、盾を構え直しながら言った。
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暗がりから、巨大な影が、ゆっくりと動き出した。
四本の太い脚、鎧のような分厚い甲殻、頭部からは、二本の長い触角が伸びている。
「でかい」
カインの声が、掠れた。
「これまでの敵と、明らかに、格が違う」
ワングが、静かに刀を構える。
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「戦うの?」
ミラが、緊張した声で聞く。
「戦う。ここまで来て、引くのはもったいない」
カインが、答える。
「六人分の力、試す時だ」
「無理は、しない。危ないと思ったら、すぐ退く」
ダダが、静かに付け加えた。
「賛成」
六人の声が、揃った。
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巨大な影が、咆哮とともに、突進してきた。
「来る!」
ダダが、盾を構えて前に出る。
正面からの突進を、盾ごと受け止めた。
「重い!」
ダダの足が、深く沈み込む。
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「浄光!」
ミラの声が、すぐに響く。
ダダの肩に、淡い光が灯った。
「助かる」
ダダが、短く答え、盾を構え直す。
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「ワング、右から!」
カインが、叫ぶ。
「承知」
ワングが、素早く回り込み、巨大な脚の付け根に、刀を突き立てた。
「入った! が、浅い」
ワングの声に、初めて、焦りがにじんだ。
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甲殻が、これまでの敵よりも、遥かに硬かった。
「ノリア、火力頼む!」
カインが、叫ぶ。
「ファイア!」
ノリアの一撃が、側面を捉える。
だが、甲殻は、ひび割れる程度で、砕けなかった。
「硬すぎる!」
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巨大な影が、触角を振り回す。
「避けろ!」
カインの声に、六人が、一斉に散った。
触角が、床を叩き、石畳が砕け散る。
「あれ、当たったら、まずいやつだ」
ダダが、汗を拭いながら言う。
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「関節、狙うしかない」
ネリスが、影の動きを見極めながら言う。
「脚の、付け根の内側。そこだけ、甲殻が薄い」
「見えるのか」
カインが、驚いたように聞く。
「見える。任せて」
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ネリスが、低い姿勢のまま、影の懐に飛び込む。
鋼の爪が、脚の内側、薄い甲殻の隙間に、正確に突き刺さった。
「入った!」
「今だ、ワング!」
カインが、叫ぶ。
「承知!」
ワングが、同じ場所に、刀を叩き込む。
甲殻が、大きく、砕けた。
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「効いてる!」
カインが、剣を構えて、踏み込む。
砕けた甲殻の隙間へ、刃を、深く突き刺した。
影が、大きく、身をよじる。
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「まだ、終わってない!」
ダダが、盾で、影の突進を、もう一度、正面から受け止める。
「ダダ、大丈夫か!」
「まだ、いける!」
ダダの声に、確かな粘りがあった。
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「もう一度、関節、狙う!」
ネリスが、再び、影の懐に飛び込む。
爪が、同じ場所を、さらに深く抉る。
「もらった!」
ワングの刀が、その隙を、逃さなかった。
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巨大な影が、大きく、体を震わせる。
「ノリア、今だ!」
カインが、叫ぶ。
「業火弾!」
大きな炎が、砕けた甲殻の隙間から、内部へと、流れ込んだ。
影が、大きく、のけぞる。
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「決める!」
カインが、剣を構えて、最後の一撃を、影の中心へと、突き刺した。
長い、うなり声とともに、巨大な影が、ゆっくりと、崩れ落ちていく。
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しばらく、誰も動かなかった。
荒い息だけが、部屋に、響いていた。
「終わった……のか」
カインが、剣を支えに、呟く。
「終わった」
ダダが、盾を下ろしながら、静かに頷いた。
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「みんな、怪我は?」
ミラが、すぐに、確認に回る。
「大丈夫」
「大丈夫」
「かすり傷程度」
のこりの五人が、口々に答えた。
「今日は、誰も、深手を負ってないよね」
ミラの声に、安堵がにじんでいた。
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「今の、絶対、格上だったよな」
ノリアが、息を整えながら言う。
「格上だった。六人分の力が、なかったら、危なかった」
ダダが、静かに答える。
「拙者も、正直、冷や汗をかいたでござる」
ワングが、刀を納めながら、珍しく本音を漏らした。
「ワングでも、冷や汗、かくんだな」
カインが、少し驚いたように言う。
「かくでござるよ。あの硬さは、尋常ではなかった」
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魔石を回収しようと近づくと、影のあった場所に、大きな木箱が、静かに佇んでいた。
「宝箱か」
カインが、魔石の大きさに目を見開く。
「これまでで、一番、大きい」
ネリスが、慎重に、箱の周囲を確かめていく。
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「罠、なさそう。今回は、素直な箱みたいだ」
ネリスが、静かに言う。
「開けるぞ」
カインが、蓋に手をかける。
ゆっくりと、持ち上げた。
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中から、鈍い光を放つ、見覚えのある形をした、小さな金属の鍵が、姿を現した。
「これ……」
ダダが、鍵を、そっと手に取る。
「サイズ、七層の、あの鍵穴と、合いそうじゃないか」
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「本当か」
カインが、身を乗り出す。
「わからない。でも、形は、それっぽい」
ダダが、鍵を、光にかざしながら答える。
「待望の、鍵かもしれない」
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「やっと、繋がったな」
ネリスが、静かに笑う。
「窪みの方は、まだ、正体不明のままだけど」
「一つずつだ」
カインが、答える。
「一つずつ、わかっていけばいい」
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魔石と鍵を、丁寧に袋にしまい、六人は、来た道を戻り始めた。
篝火の灯る六層前室に戻ると、ようやく肩の力が抜けた。
「今日は、大きな収穫だったな」
カインが、皆を見回す。
「大きな収穫」
六人の声が、揃った。
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「明日、七層の、あの小部屋、試してみるか」
ダダが、聞く。
「試そう」
カインが、頷いた。
「今度こそ、開くといいな」
ミラが、静かに言う。
その言葉に、六人は、揃って頷いた。
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夕暮れの光が、通路の入り口から、差し込んでいた。
六人は、その光に向かって、静かに歩き出した。
積み残した場所に、思わぬ収穫があった一日だった。
急いで先に進むだけが、迷宮の攻め方ではない。
見落としたところに、まだ、何かが眠っているかもしれない。
そのことを、六人は、今日、あらためて、実感していた。
答えの一つに、ようやく、手が届きかけていた。
いかがでしょうか?
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