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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
閑話 その三

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第47話「小部屋の鍵」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

朝一番で、六人はアーカイブに向かった。


「例の窪み、聞いてみるか」


カインが言うと、誰も反対しなかった。


---


アーカイブの資料室は、朝から静かだった。


小人族の司書、ティリーが、六人の顔を見て、少し驚いたように眉を上げる。


「珍しいですね、そちらの方まで、一緒に」


ネリスを見て、そう言った。


「気になることが、あって」


ネリスが、短く答える。


---


「これなんですけど」


ダダが、地図の隅に描いた窪みの形を、記録帳の横に広げて見せる。


「七層の先、大きな扉に、こういう窪みがありました」


「親指くらいの、大きさで」


ネリスが、付け加える。


---


ティリーが、絵を、じっと見つめる。


しばらく黙ったまま、記録帳を何冊か、机に積み上げた。


「似たような報告が、いくつか、あります」


「あるんですか」


カインが、身を乗り出す。


---


「深層の扉に、こういう窪みが見つかった、という記録は、確かにあります」


ティリーが、古いページをめくりながら言う。


「ただ、何をはめ込むのか、実際に開けた、という記録は、見当たりません」


「一つも?」


ダダが、聞き返す。


「一つも」


ティリーが、はっきりと答えた。


---


「予想でも、いいので」


カインが、粘るように聞く。


「予想は、いくつかあります」


ティリーが、記録帳のページを指でなぞる。


「ダンジョン産の、特殊な素材でできた品ではないか、という説。あるいは、特定のモンスターがドロップする、鍵状のアイテムではないか、という説」


---


「どっちが、有力なんですか」


ネリスが、聞く。


「どちらも、有力とは言えません」


ティリーが、静かに首を振る。


「説が二つあるということは、まだ、どちらも証明されていない、ということです」


その言い方に、六人は、思わず顔を見合わせた。


---


「わからないんですね、結局」


ダダが、苦笑しながら言う。


「わかりません」


ティリーが、はっきりと頷いた。


「わからないことを、わかったふりで話すより、いいと思っています」


---


「その方が、助かります」


カインが、素直に答える。


「深層の扉は、階層ごとに、細かい違いがあることも多いです。この窪みも、七層特有のものかもしれませんし、もっと深くまで共通しているものかもしれません」


ティリーが、記録帳を閉じながら続けた。


「もし、はまるものを見つけたら、ぜひ、教えてください。記録が、増えます」


---


「わかりました」


カインが、頷く。


「ありがとうございます」


ネリスが、頭を下げた。


「珍しいですね、あなたが、お礼を言うの」


ティリーが、少しだけ、口元を緩める。


「たまには」


ネリスが、小さく答えた。


---


「あと、もう一つ、聞きたいんですが」


カインが、続けて聞く。


「七層まで来てる、他のパーティのこと、何か聞いてますか」


「ああ、その話ですか」


ティリーが、別の記録帳を手に取る。


「最近、何組か、七層まで到達した報告が、上がっています。詳しい名前までは、こちらでは把握していません」


---


「先を越されてるかも、ってことですね」


ダダが、腕を組む。


「越されているかどうかは、わかりません」


ティリーが、静かに言う。


「同じ場所に、複数のパーティがたどり着くこと自体は、珍しくありません。深廊は、そういう階層です」


「なるほど」


カインが、納得したように頷いた。


---


門をくぐり、六層前室へ。


石板に触れ、視界が白く染まる。


気づけば、いつもの場所に立っていた。


「今日も、行くか」


カインの声に、六人が頷いた。


---


深廊の通路を、慣れた足取りで進む。


七層への階段を降り、昨日確かめた分岐を、迷いなく越えていく。


「今日は、あの扉より先、探してみるか」


ダダが、聞く。


「窪みに合うもの、見つかるかもしれないしな」


カインが、答えた。


---


扉のある小部屋を通り過ぎ、これまで通っていなかった脇道を進む。


「こっち、まだ行ってない」


ネリスが、狭い通路を指す。


「行こう」


六人は、その道へと、慎重に足を踏み入れた。


---


しばらく進むと、ネリスの足が、ふと止まった。


「止まって」


六人が、一斉に動きを止める。


「床、また、継ぎ目が変」


ネリスが、しゃがみ込み、指先で石畳をなぞる。


---


「今度は、何が」


カインが、聞く。


「わからない。糸は、なさそうだけど」


ネリスが、慎重に、床の一部を、棒でつついてみる。


かちり、という音とともに、壁の一部が、わずかに沈んだ。


「起動式か」


---


「危なくないのか」


ダダが、聞く。


「今のところ、何も、飛んでこない」


ネリスが、周囲を見回しながら答える。


しばらく待っても、何も起こらなかった。


「音だけの、仕掛けだったのかもな」


「それとも、まだ、これから、何か起こるのか」


ノリアが、少し不安げに言う。


---


「念のため、少し様子見してから、進もう」


カインが、皆を見回す。


しばらく待っても、通路には、変化がなかった。


「大丈夫、そうだな」


ダダが、慎重に、足を踏み出した。


---


通路は、これまでより一段と、狭かった。


一人ずつしか通れないほどの幅で、天井も低い。


「窮屈だな」


カインが、頭を屈めながら言う。


「奥、まだ続いてる」


ネリスが、耳を澄ませながら答えた。


---


しばらく進むと、通路の先に、小さな扉が見えてきた。


これまでの大きな扉とは違い、人の背丈ほどの、ごく普通の大きさだった。


「小部屋、あるみたいだな」


ダダが、扉に近づく。


---


「気配、ある?」


カインが、聞く。


「今のところ、感じない」


ネリスが、耳を伏せながら答える。


「静かな部屋、みたいだ」


---


ダダが、扉に手をかける。


押しても、引いても、扉は動かなかった。


「これも、開かないのか」


カインが、眉を寄せる。


---


「さっきのとは、違う感じ」


ネリスが、扉に顔を近づける。


「これ、普通に鍵がかかってる」


「鍵?」


ミラが、聞き返す。


---


ネリスが、扉の下の方を指す。


そこには、見慣れた形の、小さな鍵穴があった。


「窪みじゃなくて、ちゃんとした鍵穴」


ネリスが、静かに言う。


---


「さっきの扉と、違う仕組みってことか」


カインが、腕を組む。


「違う、と思う」


ネリスが、答える。


「あっちは、特殊なものをはめる感じ。こっちは、普通の鍵で開く感じ」


---


「開けられそうか」


ワングが、静かに聞く。


「やってみないと、わからない」


ネリスが、道具袋から、細い針を取り出す。


鍵穴に、慎重に差し込んでいった。


---


「……固い」


ネリスが、眉を寄せる。


「今までの鍵より、複雑だ」


「無理そうか」


ダダが、聞く。


「無理じゃないけど、時間、かかりそう」


ネリスが、正直に答えた。


---


「今日は、もう遅い」


カインが、通路の奥に目をやりながら言う。


「無理に急いで、変な音立てて、何か呼び寄せても困る」


「そうだな」


ダダが、頷いた。


---


「この小部屋、覚えておいて、また今度、時間をかけて開けよう」


カインが、皆を見回す。


「賛成」


ネリスが、針を、袋にしまいながら答えた。


「せっかく、鍵穴まで見つけたのに」


ノリアが、少し残念そうに言う。


---


「今日、収穫は、収穫だ」


ダダが、静かに言う。


「特殊な窪みの扉と、普通の鍵の扉。両方見つかった」


「両方、正体は、わからないままだけどな」


カインが、苦笑しながら答えた。


---


「わからないことが、増えたな」


ミラが、小さく笑う。


「増えたけど、悪くない」


ネリスが、静かに答える。


「わからないことが、あるってことは、まだ、先があるってことだから」


---


来た道を、六人は、ゆっくりと戻り始めた。


七層の暗がりを抜け、六層の通路を進み、篝火の灯る前室に戻ると、ようやく肩の力が抜けた。


「今日も、収穫、あったな」


カインが、皆を見回す。


「あった」


ダダが、頷く。


---


「あの小部屋、何があるんだろうな」


ノリアが、呟く。


「わからない」


カインが、答える。


「でも、鍵がかかってるってことは、何か、守るものがあるんだと思う」


---


「楽しみが、また一つ増えたな」


ダダが、静かに言う。


「増えた」


六人の声が、揃った。


夕暮れの光に向かって、六人は、静かに歩き出した。


窪みのある扉と、鍵のかかった小部屋。


答えのない問いは、今日も、一つ、増えたままだった。


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

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