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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
閑話 その三

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第46話「鍵穴のない扉」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

翌日も、六人は六層前室に立った。


「今日も、いい流れで行こう」


カインの声に、いつもの落ち着きがあった。


「行こう」


ダダが、短く応じる。


---


深廊の通路を、昨日と同じ足取りで進む。


ネリスが、先頭に立ったまま、時おり足を止めては、床や壁を確かめていく。


「今のところ、罠、なし」


「昨日ので、少し感覚がつかめたか」


カインが、聞く。


「まだ、油断はできない」


ネリスが、静かに答えた。


---


しばらく進むと、通路の先が、下りの階段になっていた。


「これ」


ネリスが、指をさす。


「七層への、階段だ」


ダダが、地図を確かめながら言う。


「意外と、早かったな」


カインが、少し驚いたように呟く。


---


「昨日、あそこまで進めたのが、大きかったのかもな」


ノリアが、階段を覗き込みながら言う。


「行ってみるか」


「行こう」


六人は、慎重に、階段を降り始めた。


---


七層は、六層よりも、さらに暗かった。


魔石灯の光が、届く範囲が、また一回り、狭くなっている。


「視界、悪いな」


カインが、目を細める。


「ここも、罠、多そうだ」


ネリスが、耳を伏せながら言う。


---


「一体ずつ、確実に進む」


カインが、指示を出す。


「今日は、無理しない」


ダダが、頷く。


「無理しない。でも、行けるところまでは、行く」


その言葉に、六人が、揃って頷いた。


---


七層のモンスターは、深廊の名にふさわしく、影に紛れて現れるものが多かった。


「気配、来る」


ネリスの声に、六人が身構える。


暗がりの奥から、大型の狼のような影が、音もなく現れた。


---


「ワング、頼む」


カインが、静かに合図する。


「承知」


ワングが、刀を構えて前に出た。


一合、二合と刃を交わし、最後は、片腕の刀が、影の首筋を正確に捉える。


「決まった」


ワングの声は、静かだった。


---


「相変わらず、無駄がないな」


カインが、感心したように言う。


「拙者一人ではござらん」


ワングが、いつもの調子で返す。


「皆が、道を、開けてくれるゆえ」


---


魔石を回収し、さらに奥へと進む。


しばらく行くと、通路が、二手に分かれていた。


「どっちだ」


カインが、聞く。


「右、奥の方から、複数の気配」


ネリスが、耳を澄ませながら答える。


「左は」


「静か。でも、何かの臭いがする」


---


「臭い?」


ミラが、聞き返す。


「鉄っぽい、というか……よくわからない、臭い」


ネリスが、眉を寄せる。


「右を先に、片付けるか」


ダダが、提案する。


「賛成。わからない方は、後回しでいい」


カインが、頷いた。


---


右の通路を進むと、甲殻に覆われた虫型のモンスターが、数体、うごめいていた。


「型、いつも通りで」


カインが、短く指示を出す。


「ノリア、静黙」


「静黙」


光が、群れの半数を包み込む。


---


「ダダ、前へ、ワング、右!」


「了解」


「承知」


ダダが、盾を構えて踏み込む。


ワングが刀を振る。


動きを封じられた個体を、ワングが、正確に仕留めていく。


「拙者の刀、こういう硬い相手にも、意外と、相性がいいでござるな」


ワングが、刃を返しながら言う。


---


残る数体に、ネリスとミラが、左右から回り込む。


爪と鎖が、それぞれの間合いで、関節の隙間を正確に捉えた。


「終わった」


カインが、剣を納めながら言う。


「今日も、大きな怪我、なし」


ミラが、素早く皆を見回しながら、頷いた。


---


「さっきの、左の通路、行ってみるか」


ダダが、聞く。


「臭いの正体、気になる」


ネリスが、答える。


慎重に近づくと、そこには、既に朽ち果てたモンスターの残骸らしきものが、転がっていた。


「これは……」


カインが、顔をしかめる。


「別の冒険者が、既に、片付けたあとか」


ダダが、周囲を見渡しながら言う。


「魔石も、残ってない。誰かが、拾ったあとだ」


「七層まで来てる冒険者、他にもいるってことか」


カインが、少し驚いたように呟いた。


「今日も、六人分の力、悪くない」


ダダが、盾を担ぎ直しながら言う。


「悪くない」


カインが、笑って応じた。


---


通路を抜けると、行き止まりのような、小さな部屋に出た。


その奥に、これまで見たことのない、大きな扉があった。


「これは」


カインが、足を止める。


石造りの壁に、はめ込まれたような、重厚な扉だった。


---


「八層への、入り口か」


ダダが、扉に近づきながら言う。


「たぶん」


ネリスが、周囲を確かめながら答える。


「罠、なさそうだけど」


---


カインが、扉に手をかざす。


何も、起こらなかった。


「開かない、な」


「押してみるか」


ダダが、両手で扉を押す。


扉は、びくともしなかった。


---


「私も」


ミラが、進み出て、扉に手を当てる。


淡い光が、指先から、わずかに漏れた。


だが、扉には、何の変化もなかった。


「反応、ない」


ミラが、首を傾げる。


---


「拙者も、試してみよう」


ワングが、扉に手を当てる。


刀を握る手にも、力を込めてみたが、扉は、静かなままだった。


「動かぬな」


---


六人が、一人ずつ、代わる代わる扉に手をかざしていく。


ノリア、ネリス、最後にカインが、もう一度。


結果は、いずれも同じだった。


「誰が触っても、同じ、か」


カインが、腕を組む。


---


「鍵穴、探してみる」


ネリスが、扉の縁を、丁寧になぞっていく。


蝶番らしきものはあるが、鍵穴と呼べるものは、どこにも見当たらなかった。


「鍵穴、ない」


ネリスが、静かに言う。


---


「鍵穴が、ない?」


カインが、聞き返す。


「代わりに、これ」


ネリスが、扉の中央、少し下がった位置を指す。


そこには、親指ほどの大きさの、独特な形をした窪みがあった。


---


六人が、窪みを確認する。


丸くも四角くもない、いびつな形をしていた。


縁には、細かい溝のようなものが、いくつも刻まれている。


「これ、何かを、はめ込む場所じゃないか」


ダダが、呟く。


---


「触って、いいのか」


カインが、慎重に聞く。


「見た感じ、罠っぽくは、ない」


ネリスが、窪みの縁を、指先で軽くなぞりながら答える。


「ただ、変な仕掛けが、奥に隠れてる可能性もある」


「触るなら、私が先に」


---


ネリスが、指先を、そっと窪みの中に差し入れる。


冷たい、滑らかな感触だけが、返ってきた。


「奥、特に何もない。ただの、へこみ」


「へこみだけ、って、ことは」


ミラが、聞く。


「本当に、何かを、はめ込むためだけの場所、なんだろうな」


ダダが、答えた。


---


「魔石を、はめてみるか」


ノリアが、手持ちの魔石を、窪みに近づける。


大きさも形も、まるで合わなかった。


「これじゃ、ない、な」


ノリアが、苦笑しながら、魔石を、袋にしまい直した。


---


「はめ込む、って、何を」


ミラが、聞く。


「わからない」


ダダが、正直に答える。


「見たことない形だ」


---


「アイテムか、鍵みたいなものか」


カインが、腕を組んだまま、窪みを見つめる。


「とにかく、手だけじゃ、開かないってことは、はっきりした」


ネリスが、静かに言った。


---


「この窪みに、合う何か。それを、探すしかなさそうだな」


カインが、皆を見回す。


「アーカイブか」


ダダが、聞く。


「アーカイブ、聞いてみる価値、ある」


ネリスが、頷く。


「私からも、聞いてみる」


---


「無理に開けようとして、変なことになっても、困る」


ミラが、慎重な口調で言う。


「今日のところは、これ以上は、やめておこう」


カインが、静かに言った。


「賛成」


六人の声が、揃った。


---


窪みの形を、ダダが、地図の隅に、丁寧に書き写す。


「大きさ、こんなもんか」


「もう少し、縁が、深かった気がする」


ネリスが、覗き込みながら、指摘する。


ダダが、線を、少しだけ描き直した。


---


来た道を、六人は、ゆっくりと戻り始めた。


七層の暗がりを抜け、六層の通路を進み、篝火の灯る前室に戻ると、ようやく肩の力が抜けた。


「今日は、七層まで、行けたな」


カインが、皆を見回す。


「行けた」


ダダが、頷く。


---


「でも、その先は、お預けか」


ノリアが、少し悔しそうに言う。


「お預け。でも、収穫は、あった」


ネリスが、静かに答える。


「あの窪み、絶対、何か意味がある」


---


「明日、アーカイブに、行ってみるか」


カインが、提案する。


「行こう」


ダダが、即座に頷いた。


「私も、一緒に行く」


ネリスが、続けた。


その一言に、皆が、少し目を見開いた。


---


「珍しいな、二日続けて」


ダダが、からかうように言う。


「気になることは、気になる」


ネリスが、小さく笑いながら答えた。


---


夕暮れの光が、通路の入り口から、わずかに差し込んでいた。


六人は、その光に向かって、静かに歩き出した。


見たことのない扉と、いびつな窪み。


答えのない問いを、また一つ、抱えたまま。


いかがでしょうか?


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よろしくお願いいたします。

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