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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
閑話 その三

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第45話「罠と、宝箱」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

石板に触れ、視界が白く染まる。


気づけば、六層前室だった。


「今日は、前回より先まで、行ってみよう」


カインの声に、六人が頷いた。


「六人分の力なら、いけるところまで、行けるはずだ」


ダダが、静かに続けた。


---


深廊の通路は、相変わらず、光が乏しかった。


魔石灯の届く範囲が、いつもより狭く感じられる。


壁も、天井も、これまでの階層より、一回り、圧迫感があった。


「先頭、代わろうか」


ネリスが、耳をぴんと立てながら、静かに前へ出る。


「頼む」


カインが、道を譲った。


---


しばらく進むと、ネリスの足が、ふと止まった。


「止まって」


六人が、一斉に動きを止める。


「どうした」


ダダが、低い声で聞く。


「床、色が、微妙に違う」


ネリスが、しゃがみ込み、指先で、石畳をなぞる。


---


「継ぎ目が、不自然に、真新しい」


ネリスが、目を細める。


「新しい、ってことは」


「最近、誰かが、仕掛け直した可能性がある」


その言葉に、六人の間に、緊張が走った。


「深廊、罠も、時間が経つごとに、更新されるってことか」


カインが、低く呟く。


「かもしれない。油断はしない方がいい」


ネリスが、静かに答えた。


---


「触るなよ、まだ」


ネリスが、皆を制する。


腰の道具袋から、細い金属の棒を取り出す。


石畳の隙間に、慎重に差し込んでいく。


---


「……糸、ある」


ネリスが、静かに呟く。


「糸?」


ミラが、聞き返す。


「踏むと、引っ張られる糸。この先に、何か仕掛けが繋がってる」


ネリスが、棒の先の感触だけで、構造を読み取っていく。


---


「糸の先、二手に分かれてる」


ネリスが、慎重に続ける。


「片方は、たぶん、矢。もう片方は……わからない。違う種類の仕掛けかもしれない」


「わからないのに、続けるのか」


カインが、心配そうに聞く。


「わからない部分は、触らない。糸を、辿るだけ」


ネリスが、落ち着いた声で答える。


---


「深廊、罠の質が、悪質になっていくって、ティリーさんも言ってたな」


カインが、思い出したように言う。


「言ってた。今のが、その一つかもしれない」


ネリスが、頷く。


「一種類だけじゃなく、複数の仕掛けを組み合わせてる。今までより、明らかに、手が込んでる」


---


「解除、できるか」


ワングが、静かに聞く。


「できる。ただ、慎重にやる」


ネリスが、道具袋から、もう一本、細い針のような道具を取り出す。


爪の先ほどの隙間に、正確に差し込んだ。


---


「糸の張り、そのまま。金具だけ、外す」


ネリスが、息を止めながら、針を、わずかに捻る。


かちり、と、小さな音がした。


「……よし、片方」


ネリスが、短く息を吐く。


すぐに、もう一つの糸に、針の先を移した。


---


「こっちは、少し、勝手が違う」


ネリスが、眉を寄せる。


「大丈夫か」


ダダが、静かに聞く。


「大丈夫。ただ、金具の位置が、逆になってる。焦らなければ、いける」


ネリスの指先が、慎重に、金具を探り当てる。


かちり、ともう一度、小さな音が響いた。


「……よし」


ネリスが、ゆっくりと、息を吐いた。


---


「終わったのか」


ダダが、聞く。


「終わった。踏んでも、もう平気」


ネリスが、立ち上がりながら、答える。


「さすがだな」


カインが、感心したように言う。


「これくらいは」


ネリスが、あっさりと答えた。


その口調に、確かな自負が滲んでいた。


---


「一応、確認、通ってみるか」


ネリスが、自ら、罠のあった場所を踏んでみせる。


何も起こらなかった。


「よし、大丈夫」


六人が、順に、その場所を通り抜けていく。


---


さらに進むと、通路の先に、複数の人影が見えた。


石でできた、小ぶりな人型。


三体、並んで、こちらに気づいていない様子だった。


「小型のゴーレムか」


カインが、剣を構える。


「数は、三」


ネリスが、静かに報告する。


---


「一体ずつ、各個撃破する」


カインが、指示を出す。


「ダダ、正面。ワング、右から。俺は左」


「承知」


ワングが、静かに刀を構えた。


「久しぶりに、六人全員で、囲めるな」


ダダが、盾を構えながら、ぽつりと言う。


「六人分の連携、そろそろ、板についてきた」


カインが、笑いながら答えた。


---


「ファイア」


ノリアの一撃が、先制で、一体の側面を捉える。


石の破片が、飛び散った。


「今だ!」


ダダが、正面の一体に、盾ごと突っ込む。


---


ワングが、右の一体との間合いを、一気に詰める。


左の刀で受け、右の刃で、継ぎ目を正確に突く。


「入った」


ワングの声は、静かだが、確かな手応えを伴っていた。


「相変わらず、決め手、速いな」


カインが、感心したように言う。


「拙者一人の手柄では、ない。皆が、道を作ってくれるからでござる」


---


「浄光!」


ミラの声が、戦いの合間に響く。


ダダの肩に、淡い光が灯った。


「助かる」


ダダが、短く答え、盾を構え直す。


---


三体目、ノリアが、続けて呪文を放つ。


「もう一発、ファイア!」


爆発とともに、最後の一体が、崩れ落ちた。


しばらく、誰も動かなかった。


「終わった、か」


カインが、剣を納めながら言う。


---


魔石を回収していると、通路の奥に、何か、鈍く光るものが見えた。


「あれ」


ネリスが、指をさす。


近づくと、古びた木箱が、静かに佇んでいた。


金属の縁取りが、魔石灯の光を、鈍く反射していた。


---


「宝箱、ですかね」


ミラが、目を輝かせる。


「かもしれない。だが、油断はできない」


ワングが、静かに言う。


「箱自体に、仕掛けがあることも、あるでござろう」


---


「私が、見る」


ネリスが、進み出る。


箱の周囲を、ゆっくりと一周する。


蝶番、鍵穴、縁の隙間。


一つ一つを、丁寧に、確かめていく。


---


「木目、不自然な場所がある」


ネリスが、箱の側面を、指でなぞる。


「不自然、って」


ミラが、聞く。


「継ぎ足したような、跡。中に、何か仕込んである可能性がある」


ネリスが、耳を伏せながら、慎重に、箱を傾ける。


小さく、何かが動く音がした。


「……振り子か。傾けすぎると、反応する仕掛けだ」


---


「鍵穴の奥に、針が仕込まれてる」


ネリスが、静かに言う。


「無理に開けようとすると、指を刺す仕掛け」


「そういうのも、あるのか」


カインが、驚いたように言う。


「深廊からは、宝箱自体が珍しくなるらしいから、その分、守りも固いのかもしれない」


---


ネリスが、細い針を取り出し、鍵穴に差し込む。


慎重に、内部の感触を探る。


「……もう一声」


呟きながら、針を、わずかに動かす。


かちり、という、小さな音。


「解除、できた」


---


「開けるぞ」


カインが、蓋に手をかける。


ゆっくりと、持ち上げる。


中から、鈍い光を放つ、小さな結晶と、見慣れない形の道具が、いくつか出てきた。


---


「これも、正体不明、か」


ダダが、結晶を手に取りながら、苦笑する。


「アーカイブ、また、お世話になるな」


カインが、笑いながら言う。


「今度は、私からも、聞いてみる」


ネリスが、静かに言った。


その一言に、皆が、少し驚いた顔をした。


---


「珍しいな、ネリスが、自分から」


ダダが、からかうように言う。


「たまには」


ネリスが、小さく笑う。


その笑顔には、いつもより、少しだけ、柔らかいものが混じっていた。


---


「今日は、いい収穫だったな」


カインが、皆を見回す。


「罠も、宝箱も、ネリスのおかげだ」


「おかげ、は言い過ぎ」


ネリスが、照れたように言う。


「言い過ぎじゃない。今日、あんたがいなかったら、間違いなく、誰か怪我してた」


ダダが、静かに、だが、確かな口調で言った。


---


魔石と結晶を、丁寧に袋にしまい、六人は、来た道を戻り始めた。


篝火の灯る六層前室に戻ると、ワングが、ふと、口を開いた。


「今日の働き、見事でござったな、ネリス殿」


「殿、はいらない」


ネリスが、笑いながら返す。


---


「にしても、罠の解除、あんなに、色々な手順があるとは、知らなかった」


ミラが、感心したように言う。


「棒で探って、糸を辿って、金具だけ外す。言葉で聞くと簡単そうだけど、実際は」


「実際は、指先の感覚が全部」


ネリスが、答える。


「一つ間違えれば、それで終わりだから」


その言葉の軽さと、内容の重さのギャップに、皆が、少し黙った。


---


「だからこそ、あんたに、任せられる」


ダダが、静かに言う。


「任せてもらえるのは、嬉しい」


ネリスが、素直に答える。


その素直さに、皆が、少し驚いた顔をした。


いつもなら、はぐらかすところだった。


---


夕暮れの光には、まだ少し早い、深廊の奥から戻ってきた六人の顔には、確かな満足感が浮かんでいた。


「明日は、もっと先まで、行けそうだな」


カインが、皆を見回しながら言う。


「行けそう」


六人の声が、揃った。


その声には、これまでにない、確かな一体感があった。


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

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