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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
閑話 その三

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第43話「役に立てること」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


本話はミラのお話。

お楽しみいただけましたら幸いです。

鑑定所で「蘇生の祈り」を告げられた夜、ミラは、なかなか寝付けずにいた。


第四階梯。


ずっと、いつか届くと思っていた場所だった。


だが、いざ届いてみると、喜びだけでは、片付かない何かが、胸の奥に残っていた。


---


(使う機会が、来ないのが、一番いい)


ミラは、静かに、そう思う。


蘇生の祈りは、誰かの死を、覆すための呪文だった。


それを覚えたということは、いつか、それが必要になる場面が来る可能性を、認めることでもあった。


---


回復役として、パーティに加わってから、もう長い時間が経つ。


最初は、ただ、求められたから、ここにいた。


前衛が薄い、回復ができる人がいない。


その穴を埋めるために、呼ばれた。


---


回復が、常に成功するとは限らない。


そのことを、ミラは、このパーティに加わるずっと前から、知っていた。


詳しくは、誰にも話していない。


話す日が来るとしても、それは、まだ、先のことだった。


---


(私は、埋め合わせでしかないんだろうか)


そう思っていた時期が、ミラにも、確かにあった。


戦闘の最前線に立つわけではない。


一番目立つ一撃を放つわけでもない。


「浄光」の一言で、何かを守れた気になるだけの日々。


---


だが、深廊まで潜るようになった今、ミラは、その考えが、少しずつ変わってきているのを感じていた。


グラヴォル戦で、カインの傷を癒した瞬間。


女王戦で、皆の消耗を支え続けた時間。


ワングが、迷いながらも合流を決めた、あの日の言葉。


---


「片腕でも、じゃない」


あの時、ミラは、思わず、そう口にしていた。


「片腕の、あなたが、今日、私たちを何度も助けてくれた。それだけです」


自分の言葉に、自分自身が、少し驚いた。


誰かの価値を、欠けている部分ではなく、そこにある部分で語ることの大切さを、ミラは、その瞬間、あらためて実感していた。


---


(それは、私自身にも、当てはまることだ)


回復役として、前衛のように目立つことはできない。


だが、目立たないことは、役に立っていないことと、同じではない。


そのことを、ミラは、ワングに言った言葉を通して、自分にも、言い聞かせていた。


---


窓の外、月の光が、静かに差し込んでいた。


ミラは、寝台の上で、自分の手を、じっと見つめた。


この手が、これまで、何人の傷を癒してきただろう。


数えたことはない。


だが、その一つ一つに、確かな意味があったことだけは、はっきりとわかった。


---


朝、ヘクサインの食堂で、ミラは、いつものように、朝食の支度を手伝っていた。


「昨日、あまり眠れてなさそうだったな」


声をかけてきたのは、ダダだった。


「わかる?」


「顔に出てる」


ダダらしい、簡潔な指摘だった。


---


「蘇生の祈り、覚えたこと、まだ、整理できてなくて」


ミラが、正直に言う。


「使う日が、来ないといいな」


ダダが、静かに言う。


「うん」


「けど、あんたがいてくれること、うちに来てくれたことは、心強い」


その一言に、ミラは、少しだけ、救われた気がした。


---


「私、役に立ちたくて、このパーティにいるんだと思ってた」


ミラが、ふと、口にする。


「思ってた、じゃなくて、実際に役に立ってるだろ」


ダダが、あっさり返す。


「それは、わかってる。でも、最近、少し違う感覚もあって」


---


「違う感覚?」


ダダが、聞き返す。


「役に立つことと、ここにいたいと思うことが、別々の理由じゃなくなってきた、っていうか」


ミラが、言葉を選びながら、続ける。


「うまく言えないけど」


「うまく言えなくても、伝わる」


ダダが、静かに言う。


「回復役として、最初はここにいた。今は、それだけじゃない理由で、ここにいる。そういうことだろ」


「そういうこと、だと思う」


ミラが、頷く。


その言い換えは、ミラ自身が探していた言葉より、ずっと簡潔だった。


---


食堂に、少しずつ、他のメンバーも集まってくる。


ネリスが、あくびをしながら席に着く。


ノリアが、静かに、パンを手に取る。


カインが、いつものように、他愛のない話を振り始める。


ワングが、その様子を、穏やかな表情で眺めている。


---


(この光景の中に、私がいる)


ミラは、皆の顔を、順に見渡しながら思う。


回復役として、求められて、ここにいる。


でも、それだけじゃない。


この光景そのものが、好きで、ここにいたいと思っている。


---


「今日は、どこまで潜る?」


カインが、皆を見回しながら聞く。


「行けるところまで」


ダダが、答える。


「無理はしない範囲で」


ミラが、付け加える。


その一言にも、迷いはなかった。


---


蘇生の祈りは、使わずに済むのが、一番いい。


それでも、いざという時、その力があることは、確かな支えになる。


ミラは、自分の役割を、恐れではなく、静かな誇りとして、受け止められるようになっていた。


---


「今日も、よろしくね、みんな」


ミラが、皆に向かって、そう言った。


「よろしく」


六人の声が、揃った。


その声を聞きながら、ミラは、迷宮に潜ることの意義を、これまでで一番、はっきりと感じていた。


役に立つために、ここにいるのではない。


ここにいることが、役に立つことと、重なっているのだと、ミラは、ようやく、そう思えるようになっていた。


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

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