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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
閑話 その三

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第42話「万能士の道」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


本話はカインのお話。

お楽しみいただけましたら幸いです。

鑑定所からの帰り道、カインは、自分の右手を、じっと見つめていた。


レベル5。


万能士としては、悪くないペースだと言われた。


それでも、ダダやネリスのレベル7に比べれば、まだまだ、見劣りする数字だった。


---


ワングが加わってから、カインは、時々、自分の立ち位置を、あらためて考えるようになっていた。


レベル13の侍。


第四階梯の呪文を操り、刺突の一撃で、戦況を決める。


その隣に立つと、自分の数字の小ささが、余計に際立つ気がした。


---


(前は、この数字が、ただ悔しかったな)


カインは、静かに思う。


未選択のまま、レベル2で止まっていた頃。


鑑定士に「変わっていません」と言われるたび、何も言い返せなかった、あの頃。


今は、同じ数字を見ても、感じ方が、まるで違っていた。


---


「便利屋」


その呼び名を、カインは、ずっと、自分から名乗ってきた。


剣術も、交渉も、罠解除も、荷物整理も、応急手当も、料理も、ひととおりできる。


だが、どれも、特化はしていない。


それが、コンプレックスだった時期もあった。


---


万能士という、80年ぶりの希少なクラス。


それが、自分の中から現れた時、カインは、驚きよりも先に、こう思った。


(便利屋、が報われた)


何でもできることを、ずっと武器として使い倒してきた。


その積み重ねの先に、この職業があったのだと、今なら、そう思える。


---


夕暮れのヘクサインで、カインは、一人、装備の手入れをしていた。


剣、革鎧、道具袋。


どれも、突出した性能はない。


だが、どれも、自分の手に馴染んでいた。


---


「何、一人でにやついてる?」


声をかけてきたのは、ミラだった。


「にやついてないだろ」


「にやついてた」


ミラが、笑いながら、隣に座る。


「万能士として、これから、どうするか、考えてただけだ」


---


「考えは、まとまった?」


ミラが、聞く。


「まとまってきた」


カインが、答える。


「俺は、多分、この先も、一つのことに特化することはない」


「それで、いいの?」


「いいと思ってる」


---


「アルカナも、ノストスも、両方、少しずつ使える」


カインが、続ける。


「戦闘も、交渉も、道具の扱いも、それなりにできる」


「うん」


「これまでは、それを、中途半端だと思ってた時期もあった」


---


「今は?」


ミラが、聞く。


「今は、違う」


カインが、静かに言う。


「六人、それぞれ、得意なことがある。ダダは盾、ネリスは索敵、ノリアは火力、ミラは回復、ワングは決め手」


指を折りながら、数える。


---


「俺は、その全部に、少しずつ手が届く」


カインが、続ける。


「誰かが倒れかけた時、盾になれなくても、応急手当はできる。呪文が届かない時、剣で割り込める。誰かと誰かの間を、繋ぐことができる」


「繋ぐ、か」


ミラが、繰り返す。


---


「万能士って、多分、そういう役目なんだと思う」


カインが、続ける。


「一番強い一撃を出すことじゃなくて、皆が、それぞれの得意なことをやりやすいように、隙間を埋める」


「それ、前から、やってたことじゃない」


ミラが、指摘する。


---


「そうかもな」


カインが、笑う。


「便利屋の頃から、やってたことと、そんなに変わらないのかもしれない」


「じゃあ、何が変わったの」


ミラが、聞く。


---


「前は、それしかできないことが、悔しかった」


カインが、少し考えてから、答える。


「今は、それこそが、俺のやり方だって、胸を張って言える」


その違いは、小さいようで、カインにとっては、とても大きかった。


---


「レベルが、他の皆より低くても」


カインが、続ける。


「もう、それで、卑屈になったりしない」


「昔は、してた?」


「してた。かなり」


カインが、正直に認める。


その素直さに、ミラが、小さく笑った。


---


「万能士として、これから、どう立ち回るか」


カインが、夕暮れの空を見上げながら、続ける。


「戦い方も、装備も、これから、もっと工夫できる余地がある」


「楽しそうだね」


ミラが、言う。


「楽しい」


カインが、即答する。


---


「特化した力がないことを、弱点だと思ってた頃には、絶対に出なかった言葉だ」


カインが、静かに続ける。


「今は、これが、俺の武器だって、はっきり言える」


「良い顔してる、今」


ミラが、微笑む。


---


「深廊、これからもっと厳しくなる」


カインが、真剣な声で言う。


「その中で、俺にしかできない繋ぎ方を、もっと見つけていきたい」


「見つかると思うよ」


ミラが、静かに言う。


「これまでも、ちゃんと、見つけてきたんだから」


---


夕暮れの空が、少しずつ、藍色に変わっていく。


カインは、道具袋の中身を、もう一度、丁寧に確かめた。


剣、包帯、火打石、細々とした道具。


どれも、特別ではない。


だが、どれも、自分の手で選び、使い続けてきたものだった。


---


通りがかったワングが、軽く会釈して、隣を通り過ぎようとした。


「ワング」


カインが、呼び止める。


「何でござる」


「あんたのレベル13、正直、羨ましいと思う時もある」


カインが、素直に言う。


---


「拙者からすれば、その道具袋の中身の方が、よほど頼もしく見えるがな」


ワングが、静かに言う。


「拙者には、それだけの引き出しはない」


「引き出し、か」


カインが、繰り返す。


その一言が、今日、一番、しっくりときた気がした。


---


(万能士は、何でも屋の延長でいい)


カインは、静かに、そう思う。


(一つに絞らないことが、俺の型だ)


その考えに、迷いはなかった。


これから先も、皆の間を繋ぎながら、自分にしかできない立ち回りを、探し続けていくつもりだった。


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

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