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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
閑話 その三

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第41話「型を、探す」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


本話は、ノリア。

お楽しみいただけましたら幸いです。

ギルド本部の資料室で、ノリアは、一人、古い魔導書を開いていた。


アルカナ系統、第四階梯以降の詠唱理論。


文字は読める。


理屈も、頭では理解できる。


だが、それを実際に唱えることは、また別の話だった。


---


(魔力量だけなら、とっくに、この階梯を超えてるはずなのに)


ノリアは、静かに、そう思う。


ギルドの記録に残る、同年代のエルフの魔力量。


その中でも、ノリアの数値は、際立って高いとされている。


なのに、使える術は、長らく「ファイア=火花炎」ただ一つだった。


---


魔力が大きすぎることが、かえって、型の習得を難しくしている。


そう説明されたのは、もう何年も前のことだった。


「制御しきれない力は、力として数えられない」


ミラージュの職員に、そう言われた日のことを、ノリアは、今でも覚えている。


---


それでも、レベルを重ねる中で、静黙を覚えた。


業火弾も、覚えた。


眠霧も、覚えた。


一つ一つ、時間をかけて、確かに、型を増やしてきた。


(それでも、まだ、全部じゃない)


---


第四階梯、第五階梯、その先。


魔力量だけで言えば、とうに届いていて良いはずの場所に、ノリアは、まだ、手が届いていない。


(私の中には、まだ使えていない力が、たくさんある)


その事実は、時に、誇らしく、時に、もどかしかった。


---


「まだ、根詰めてるのか」


声をかけてきたのは、カインだった。


「根詰めてる、ってほどじゃない」


ノリアが、魔導書を閉じながら答える。


「その割には、難しい顔してる」


「難しい顔くらい、するだろ、これ見てたら」


---


「見せてみろよ」


カインが、覗き込む。


「読めるのか、これ」


「読めない」


「読めないなら、見ても意味ないだろ」


「意味なくても、見たい時ってあるだろ」


ノリアが、少し笑いながら言う。


その軽いやり取りに、張り詰めていた何かが、少しだけ緩んだ。


---


「なあ」


カインが、ふと、真面目な声で言う。


「お前の魔力、桁外れなんだろ」


「一応、そう言われてる」


「それなのに、まだ全部使いこなせてない、ってこと、悔しいか」


---


ノリアは、しばらく、考えた。


「悔しい、って言えば、嘘になる」


正直に、答える。


「でも、もどかしい、とは思う」


「もどかしい、か」


カインが、繰り返す。


---


「大きい力が、そこにあるのはわかってる」


ノリアが、続ける。


「でも、それを扱う型が、まだ、私の中に、追いついてない」


「型が追いつけば」


「追いつけば、もっと、色々できるようになる。多分」


ノリアが、静かに言う。


「多分、じゃなくて、絶対だろ」


カインが、笑う。


---


「絶対、とは言い切れない」


ノリアが、慎重に言う。


「魔力が大きいことと、それを使いこなせることは、別の話だから」


「でも、少しずつ、増えてるじゃないか」


カインが、指を折りながら数える。


「ファイアだけだったのが、静黙、業火弾、眠霧。四つになった」


---


「四つ、か」


ノリアが、自分の手を見つめる。


「まだ、全部じゃない」


「全部じゃなくても、四つは、四つだ」


カインが、静かに言う。


「ワングは、レベル13で第四階梯だ。俺は、万能士で、まだ第一階梯止まり」


「知ってる」


「職業が違えば、伸び方も違う。お前だって、お前のペースがある。それでいいんじゃないか」


---


「私のペース、か」


ノリアが、繰り返す。


その言葉が、これまで、あまり自分にかけられたことのない言葉だということに、ノリアは、気づいた。


(大きい力を持って生まれたから、それに見合うだけの結果を、早く出さなきゃいけない)


どこかで、そう思い込んでいたのかもしれなかった。


---


「ファイアで足りないことなんて、そうそうない」


ノリアが、以前、よく口にしていた言葉だった。


その言葉には、強がりも、少し混じっていたのかもしれない、と、今なら思う。


だが、今は、少し違う感覚があった。


(足りないことが、なくなったんじゃない。足りない部分を、少しずつ、埋めてきただけだ)


---


「魔力が大きいことは、多分、悪いことじゃない」


ノリアが、ぽつりと言う。


「悪いわけないだろ」


カインが、即答する。


「ただ、大きい力には、それに見合うだけの時間がかかる、ってだけの話だ」


その言い方が、妙にしっくりきた。


---


「時間が、かかる」


ノリアが、繰り返す。


「かかる。でも、かかった分だけ、ちゃんと、積み上がってる」


カインが、続ける。


「業火弾も、眠霧も、お前が、時間をかけて、自分のものにした型だ」


---


資料室の窓から、夕暮れの光が差し込んでいた。


ノリアは、閉じた魔導書を、そっと、棚に戻した。


「第四階梯、まだ先だと思うけど」


ノリアが、静かに言う。


「先でも、いつか届く」


「いつか、届く」


その言葉を、ノリアは、自分の中で、もう一度、繰り返した。


---


「今日は、もう、根詰めるのやめる」


ノリアが、伸びをしながら言う。


「そうしろよ。フラグメンツ、行くぞ」


カインが、笑いながら、資料室を出ていく。


その後ろを、ノリアは、これまでより、少し軽い足取りで、ついていった。


---


フラグメンツに着くと、ガラントが、すぐに気づいた。


「今日は、二人か。珍しいな」


「資料室で、根詰めてただけ」


ノリアが、答える。


「根詰めた顔には、見えないな」


ガラントが、からかうように言う。


「そうか?」


ノリアが、自分の頬を触る。


「そうだ。何かが吹っ切れた顔してる」


---


奥の卓には、すでに、ダダとネリスが座っていた。


「遅いぞ」


ダダが、短く言う。


「悪い悪い」


カインが、笑いながら腰を下ろす。


ノリアも、いつもの席に座った。


(このペースで、いい)


魔力の大きさは、焦る理由ではなく、これから積み上げていくものの大きさなのだと、ノリアは、初めて、そう思うことができた。


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

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