第41話「型を、探す」
マランの世界、毎日投稿中です。
当面、数話を連続投稿の予定です。
本話は、ノリア。
お楽しみいただけましたら幸いです。
ギルド本部の資料室で、ノリアは、一人、古い魔導書を開いていた。
アルカナ系統、第四階梯以降の詠唱理論。
文字は読める。
理屈も、頭では理解できる。
だが、それを実際に唱えることは、また別の話だった。
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(魔力量だけなら、とっくに、この階梯を超えてるはずなのに)
ノリアは、静かに、そう思う。
ギルドの記録に残る、同年代のエルフの魔力量。
その中でも、ノリアの数値は、際立って高いとされている。
なのに、使える術は、長らく「ファイア=火花炎」ただ一つだった。
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魔力が大きすぎることが、かえって、型の習得を難しくしている。
そう説明されたのは、もう何年も前のことだった。
「制御しきれない力は、力として数えられない」
ミラージュの職員に、そう言われた日のことを、ノリアは、今でも覚えている。
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それでも、レベルを重ねる中で、静黙を覚えた。
業火弾も、覚えた。
眠霧も、覚えた。
一つ一つ、時間をかけて、確かに、型を増やしてきた。
(それでも、まだ、全部じゃない)
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第四階梯、第五階梯、その先。
魔力量だけで言えば、とうに届いていて良いはずの場所に、ノリアは、まだ、手が届いていない。
(私の中には、まだ使えていない力が、たくさんある)
その事実は、時に、誇らしく、時に、もどかしかった。
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「まだ、根詰めてるのか」
声をかけてきたのは、カインだった。
「根詰めてる、ってほどじゃない」
ノリアが、魔導書を閉じながら答える。
「その割には、難しい顔してる」
「難しい顔くらい、するだろ、これ見てたら」
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「見せてみろよ」
カインが、覗き込む。
「読めるのか、これ」
「読めない」
「読めないなら、見ても意味ないだろ」
「意味なくても、見たい時ってあるだろ」
ノリアが、少し笑いながら言う。
その軽いやり取りに、張り詰めていた何かが、少しだけ緩んだ。
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「なあ」
カインが、ふと、真面目な声で言う。
「お前の魔力、桁外れなんだろ」
「一応、そう言われてる」
「それなのに、まだ全部使いこなせてない、ってこと、悔しいか」
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ノリアは、しばらく、考えた。
「悔しい、って言えば、嘘になる」
正直に、答える。
「でも、もどかしい、とは思う」
「もどかしい、か」
カインが、繰り返す。
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「大きい力が、そこにあるのはわかってる」
ノリアが、続ける。
「でも、それを扱う型が、まだ、私の中に、追いついてない」
「型が追いつけば」
「追いつけば、もっと、色々できるようになる。多分」
ノリアが、静かに言う。
「多分、じゃなくて、絶対だろ」
カインが、笑う。
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「絶対、とは言い切れない」
ノリアが、慎重に言う。
「魔力が大きいことと、それを使いこなせることは、別の話だから」
「でも、少しずつ、増えてるじゃないか」
カインが、指を折りながら数える。
「ファイアだけだったのが、静黙、業火弾、眠霧。四つになった」
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「四つ、か」
ノリアが、自分の手を見つめる。
「まだ、全部じゃない」
「全部じゃなくても、四つは、四つだ」
カインが、静かに言う。
「ワングは、レベル13で第四階梯だ。俺は、万能士で、まだ第一階梯止まり」
「知ってる」
「職業が違えば、伸び方も違う。お前だって、お前のペースがある。それでいいんじゃないか」
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「私のペース、か」
ノリアが、繰り返す。
その言葉が、これまで、あまり自分にかけられたことのない言葉だということに、ノリアは、気づいた。
(大きい力を持って生まれたから、それに見合うだけの結果を、早く出さなきゃいけない)
どこかで、そう思い込んでいたのかもしれなかった。
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「ファイアで足りないことなんて、そうそうない」
ノリアが、以前、よく口にしていた言葉だった。
その言葉には、強がりも、少し混じっていたのかもしれない、と、今なら思う。
だが、今は、少し違う感覚があった。
(足りないことが、なくなったんじゃない。足りない部分を、少しずつ、埋めてきただけだ)
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「魔力が大きいことは、多分、悪いことじゃない」
ノリアが、ぽつりと言う。
「悪いわけないだろ」
カインが、即答する。
「ただ、大きい力には、それに見合うだけの時間がかかる、ってだけの話だ」
その言い方が、妙にしっくりきた。
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「時間が、かかる」
ノリアが、繰り返す。
「かかる。でも、かかった分だけ、ちゃんと、積み上がってる」
カインが、続ける。
「業火弾も、眠霧も、お前が、時間をかけて、自分のものにした型だ」
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資料室の窓から、夕暮れの光が差し込んでいた。
ノリアは、閉じた魔導書を、そっと、棚に戻した。
「第四階梯、まだ先だと思うけど」
ノリアが、静かに言う。
「先でも、いつか届く」
「いつか、届く」
その言葉を、ノリアは、自分の中で、もう一度、繰り返した。
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「今日は、もう、根詰めるのやめる」
ノリアが、伸びをしながら言う。
「そうしろよ。フラグメンツ、行くぞ」
カインが、笑いながら、資料室を出ていく。
その後ろを、ノリアは、これまでより、少し軽い足取りで、ついていった。
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フラグメンツに着くと、ガラントが、すぐに気づいた。
「今日は、二人か。珍しいな」
「資料室で、根詰めてただけ」
ノリアが、答える。
「根詰めた顔には、見えないな」
ガラントが、からかうように言う。
「そうか?」
ノリアが、自分の頬を触る。
「そうだ。何かが吹っ切れた顔してる」
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奥の卓には、すでに、ダダとネリスが座っていた。
「遅いぞ」
ダダが、短く言う。
「悪い悪い」
カインが、笑いながら腰を下ろす。
ノリアも、いつもの席に座った。
(このペースで、いい)
魔力の大きさは、焦る理由ではなく、これから積み上げていくものの大きさなのだと、ノリアは、初めて、そう思うことができた。
いかがでしょうか?
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