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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
閑話 その三

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第40話「潜る理由」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


本話はネリスです。

お楽しみいただけましたら幸いです。

アーカイブの片隅で、ネリスは、一冊の記録帳を開いていた。


ティリーには、いつも「気になっただけ」とごまかしている。


本当は、気になっている、というより、確かめたいことがあった。


だが、それを、まだ、誰にも話していない。


---


深層のどこかにいるらしい、という噂。


それだけを頼りに、ネリスは、もう何年も、少しずつ、記録を集めていた。


似たような特徴を持つ魔物の記述を見つけるたび、心臓が、跳ねる。


だが、大抵は、別の魔物の話だった。


今日も、そうだった。


---


(今日も、載ってない)


ページをめくりながら、ネリスは、小さく息を吐いた。


なぜ、それを探しているのか。


それは、ノストスの教義と、深く関わる、ネリス自身の事情だった。


いつか、誰かに話す日が来るとしても、それは、まだ、今日ではない。


---


「お金のため」


パーティのみんなには、そう言ってある。


嘘ではない。


だが、それだけでもなかった。


(いつか、話せる日が、来るんだろうか)


記録帳を閉じながら、ネリスは、そんなことを考えていた。


---


アーカイブを出て、ヘクサインへ向かう道すがら、ネリスは、ふと、立ち止まった。


夕暮れの光が、通りを、橙色に染めていた。


途中、フォージタウンから戻る途中らしいダダと、鉢合わせた。


「また、アーカイブか」


ダダが、短く聞く。


「また」


「見つかったか、探し物」


「まだ」


いつもの、短いやり取りだった。


ダダは、それ以上、何も聞いてこなかった。


(この人は、多分、何か気づいてる)


ネリスは、そう思うことがある。


だが、ダダは、決して、それを言葉にしない。


その距離感が、ネリスにとっては、何より、ありがたかった。


「先、行くぞ」


ダダが、軽く手を挙げて、去っていく。


その背中を見送りながら、ネリスは、考え始めた。


(このパーティに、いる理由)


考え始めると、いくつもの答えが、頭に浮かんできた。


---


最初は、本当に、成り行きだった。


一人で潜っていたところを、カインたちに拾われた。


「気づいたらいた」と、皆には思われている。


それで、都合が良かった。


詳しい経緯を話さずに済んだから。


---


本当は、あの日、ネリスは、限界だった。


浅層で、体力も、気力も、尽きかけていた。


そこに、たまたま通りかかったのが、まだ三人だった頃のカインたちだった。


「一人か?」


ダダに聞かれて、頷くことしかできなかった。


「一緒に来るか」


誘われた理由も、あの時は、よくわからなかった。


ただ、断る理由も、見つからなかった。


---


それから、何年も経つ。


理由も聞かれず、詮索もされず、ただ、一緒に潜り続けてきた。


(拾われた、で始まったはずなのに)


今では、拾われたことより、ここに残り続けたことの方が、ずっと大きな意味を持っている気がした。


---


だが、今、振り返ると、成り行きだけでは、説明のつかないことが多かった。


ダダは、ネリスが突っ込みすぎる度に、何も言わずにフォローしてくれる。


カインは、ネリスの謎めいた行動に、深くは踏み込んでこない。


ノリアは、無視されても、ちゃんと、また声をかけてくれる。


ミラは、ネリスが傷ついた時、真っ先に駆けつけてくれた。


---


(誰も、詮索してこない)


それが、ネリスにとって、何よりも、ありがたいことだった。


秘密を抱えたまま、ここにいられる。


隠し事をしていることに、後ろめたさを感じずに、いられる。


そんな場所は、これまで、どこにもなかった。


---


深廊で、罠を見抜いた時。


グラヴォルの継ぎ目を見つけた時。


ワングと一緒に、女王の翅に爪を打ち込んだ時。


ネリスは、自分の速さと目が、誰かの役に立っている実感を、確かに、感じていた。


(これは、成り行きなんかじゃない)


自分の意思で、ここにいる。


その事実に、ネリスは、あらためて気づいた。


---


ヘクサインに戻ると、ミラが、夕食の支度を手伝っていた。


「ネリス、遅かったね」


「アーカイブ、ちょっと寄ってた」


いつもの、ごまかし方だった。


だが、ミラは、それ以上、聞いてこなかった。


「お腹空いたでしょ、先に食べる?」


「食べる」


その気遣いが、いつもより、少し染みた。


---


「なあ」


ネリスが、ふと、口を開く。


「なに?」


ミラが、振り返る。


「私、このパーティ、好きだよ」


自分でも、少し驚くくらい、素直な言葉だった。


「急にどうしたの」


ミラが、笑いながら聞く。


「なんとなく。今日、そう思ったから」


---


「私も、好きだよ、このパーティ」


ミラが、あっさりと答える。


「みんな、変な人ばっかりだけど」


「それ、私にも言ってる?」


「言ってる」


軽口に、二人で笑った。


---


夕食の席で、カインが、いつものように、他愛のない話を振っていた。


ダダが、短く相槌を打つ。


ノリアが、少し呆れたように、それを聞いている。


ワングが、その様子を、静かに、だが、確かに嬉しそうに眺めていた。


---


(私の秘密は、まだ、誰にも話せない)


ネリスは、皆の顔を、順に見渡しながら思う。


(でも、いつか話せる日が来るとしたら、多分、この人たちにだ)


その確信だけは、はっきりと持てるようになっていた。


---


食事が終わり、それぞれが、各々の部屋に戻っていく。


ネリスは、窓の外の月を、しばらく眺めていた。


「お金のため、って言ってきたけど」


誰にともなく、ネリスは、小さく呟いた。


「本当は、居場所のため、なのかもしれない」


その言葉は、誰の耳にも届かなかった。


だが、ネリス自身には、これまでで一番、はっきりと聞こえていた。


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

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