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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
閑話 その三

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第37話「五層前室、旧友」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

一層の隠し部屋はワングが参加したからか、見つからない。


まっすぐに六層を目指すことが出来るのは、まだ先の話らしい。


今日は、あらためて五層まで、地上から潜り直すことになる。


今日も、あっさりと五層の前室前にたどり着く。


「ワング殿にとっては、ここも、久しぶりの場所かな?」


ミラが、歩きながら、そっと聞く。


「左様。だが、懐かしい、というほどでもない」


ワングが、静かに答える。


その声には、何かを噛みしめるような、微妙な間があった。


---


五層前室に足を踏み入れると、いつもの篝火が、静かに揺れていた。


「今日も、いるかな」


カインが、周囲を見回す。


「三年、って言ってたもんな」


ネリスが、小さく呟く。


---


「おや、また来たか」


年配の獣人族の男が、こちらに気づき、片手を挙げた。


「今日は、随分、賑やかだな」


男の視線が、ワングのところで、ふと止まった。


---


「……ロウガ、か」


ワングが、静かに呟く。


男の目が、大きく見開かれた。


「ワング……?ワングなのか?」


---


「久しいな」


ワングが、短く答える。


ロウガが、立ち上がり、大股で近づいてくる。


その視線が、すぐに、ワングの右腕へと向かった。


---


「その腕……噂には、聞いていたが」


ロウガの声が、低くなる。


「引退した、と聞いていたぞ」


「していた。今は、違う」


ワングが、静かに言う。


---


「戻ったのか」


「戻った」


ワングの答えは、それだけだった。


言葉少なだったが、その一言に、確かな重みがあった。


---


ロウガが、しばらく、ワングの顔を見つめていた。


「そうか」


やがて、それだけ言うと、大きく頷いた。


「詳しいことは、聞かん。聞かんが……無事で、何よりだ」


「心配させたか・・・」


ワングが、短く頭を下げる。


「心配するに決まってるだろう。急に消えちまって、それきりだったんだ、お前は」


ロウガが、少し声を荒げる。


だが、その顔には、怒りより、安堵の方が濃く滲んでいた。


---


篝火の向こうから、ドワーフの女性と、ヒューマンの若い男が、こちらの様子を窺っていた。


「ロウガの、知り合いか?」


ドワーフの女性が、興味深そうに聞く。


「昔の、戦友だ」


ロウガが、振り返らずに答える。


「片腕、失って、それきり姿を消してたやつだ」


「それでも、また潜ってるのか」


若い男が、感心したように言う。


「たいしたもんだな」


---


「世話になった。ロウガには特に」


ワングが、カインたちを、手で示す。


「へえ」


ロウガが、五人を、順に見回す。


「あんたが、選んだ相手か。だったら、心配はいらなそうだな」


「選んだのは、こちらの方でござる」


ワングが、静かに訂正する。


「拙者は、誘われた側だ」


「誘われた、か」


ロウガが、ふっと笑った。


「昔から、そういう巡り合わせに、恵まれる男だったな、お前は」


---


「三年、ここにいるって、前に聞きました」


カインが、思い切って聞く。


「ああ、変わらずだ」


ロウガが、苦笑いする。


「壁は、相変わらず、気まぐれでな」


「悔しくは」


「悔しくないと言えば嘘になる、って、前にも言ったな」


ロウガが、静かに続ける。


「だが、今日、ワングの顔を見て、少し、考えが変わった気もする」


「考えが?」


ミラが、聞き返す。


「腐らずにいれば、また、何かが動く。そういうこともあるんだな、と」


---


「今日は、六層まで、行くつもりで」


ダダが、静かに言う。


ロウガの表情が、わずかに動いた。


「そうか。……気をつけてな」


その一言には、羨望とも、応援ともつかない色が、混じっていた。


---


篝火を離れ、六人は、大広間へと向かった。


「昔の、知り合いですか」


ミラが、そっと聞く。


「昔、共に、いくつかの迷宮を回った仲だ」


ワングが、答える。


「それ以上は、また、いずれ」


その言葉に、誰も、それ以上は踏み込まなかった。


---


あんなに苦労して抜けた五層を簡単にこなし、六層への入り口に立つ。


今まで、多くの人がここで足止めを食らった場所だった。


ワングが加わり何かが変わるのか?


「来るなら、来い」


カインが、身構える。


隣で、ワングが、静かに、いつもの構えを取った。


その落ち着き方に、緊張していた五人の肩が、少し緩んだ。


---


だが、何も起こらなかった。


一人ずつ、当たり前のように、境目を越えていく。


「あっさり、通れたな」


ダダが、拍子抜けしたように言う。


「今の俺たちなら、ワングなら通れて当然か」


カインが、静かに答えた。


「拙者も、以前より、少し重みが増した気がする」


ワングが、右腕を、軽く振りながら言った。


---


六層前室に降り立つと、篝火が、揺れていた。


奥に、見覚えのある石板が、鈍く光っている。


「あれが、噂の」


ネリスが、指をさす。


「六層に来た者だけが、意味を理解できる、っていう」


ミラが、続ける。


---


「転移石板、でござるな」


ワングが、当たり前のように言った。


その一言に、五人は、揃って動きを止めた。


「知ってる、んですか、これ」


カインが、驚いたように聞く。


---


「知っている」


ワングが、静かに頷く。


「以前、ここまで来たことが、ある」


「六層以下の層まで、来たことが」


ミラが、思わず聞き返す。


---


「左様」


ワングが、短く答える。


それ以上、何も語らなかった。


カインは、聞きたい言葉が、いくつも喉元まで出かかるのを感じた。


だが、今は、それを飲み込むことにした。


篝火の炎だけが、六人の顔を、静かに照らしていた。


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

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