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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
閑話 その三

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第35話「刃を、括り付ける」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

フォージタウンに入ると、金属を打つ音が、あちこちから響いていた。


「賑やかだな、ここ」


ワングが、周囲を見回しながら言う。


「ダダの盾、ここでずっと直してもらってる」


カインが、答える。


---


奥まった一角に、小さな工房があった。


看板には、槌と歯車が彫られている。


「ここだ」


ダダが、迷わず扉を開ける。


---


中では、髭の長いドワーフの男が、金床に向かって槌を振るっていた。


「よう、盾の坊主」


男が、手を止めずに言う。


「今日は、盾じゃないんです」


ダダが、答える。


「ブロムさん、こちらが」


---


「ワングと申す。よしなに」


ワングが、頭を下げる。


ブロムが、槌を置き、こちらを向いた。


視線が、すぐにワングの右腕へと向かう。


「なるほどな」


---


「刀を、この腕に、括り付けたいんだそうです」


ダダが、経緯を説明する。


「左は今まで通りの刀、右は、特殊な小ぶりの刀で、二刀の形を保ちたい、と」


ブロムが、腕を組む。


「話は、わかった。だが、簡単じゃないぞ」


---


「まず、こっちに座れ」


ブロムが、椅子を指す。


ワングが、腕を差し出すと、ブロムの太い指が、手首の断面を、丁寧に確かめていく。


「痛むか」


「多少は。だが、普段の暮らしには、支障ない」


---


「ここに、何かを固定するなら、まず、革の受け皿がいる」


ブロムが、断面の形をなぞりながら説明する。


「断面にぴったり合わせて作る。合わなければ、擦れて、すぐ傷になる」


「型を、取らせてもらってもよろしいか」


「頼む」


---


「刃は、固定式にするか、それとも、多少動くようにするか」


ブロムが、道具箱から、木の模型をいくつか取り出す。


「固定なら、頑丈で、扱いも単純だ。だが、角度は変えられん」


「動く方は」


カインが、聞く。


---


「継ぎ手を入れれば、二、三段階、角度を切り替えられる」


ブロムが、模型を動かして見せる。


「刺す構え、受ける構え、切り上げる構え。だが、手首のように、自在には動かん。あくまで、数段階の切り替えだ」


---


「戦いの中で、いちいち切り替える余裕は」


ワングが、慎重に聞く。


「ないだろうな」


ブロムが、正直に答える。


「事前に、どの構えで挑むか、決めておく必要がある。とっさの持ち替えは、できないと思え」


---


「では、刺突を主に」


ワングが、少し考えてから言う。


「左の一刀で、受けと斬りを担う。右は、隙を作った時の、一撃に絞る」


「それなら、固定に近い角度で、十分だ」


ブロムが、頷く。


---


「実際の使い所、想像つきますか」


カインが、聞く。


「左で相手の得物を受け、崩れたところに、体ごと踏み込む」


ワングが、答える。


「その勢いのまま、右の刃を、突き込む。腕の力というより、体の動きで刺す形になろう」


「腕で振るうんじゃなく、体当たりの延長、って感じか」


ダダが、確かめるように言う。


「左様。以前の二刀とは、根本から、違う型になる」


---


「引き抜く時は」


ネリスが、聞く。


「そこも、課題だ」


ブロムが、腕を組む。


「固定された刃は、真っ直ぐにしか、抜けん。捻って抜く、なんて芸当は無理だ」


「では、深く刺しすぎぬよう、加減が要る」


ワングが、静かに言う。


「肉に食い込ませすぎれば、抜けなくなり、隙になる」


「そこは、稽古で、掴んでいくしかないだろうな」


ブロムが、正直に言った。


---


「防御には、使えますか」


ミラが、聞く。


「使える」


ブロムが、答える。


「固定された刃を、そのまま盾代わりに、相手の得物を受け止めることもできる。むしろ、そっちの方が、実用的かもしれん」


「受けに徹する分には、腕が動かなくても、支障が少ない、ということでござるか」


ワングが、確かめる。


「その通りだ。攻めは一点集中、受けは、腕ごと壁のように使う。そう考えた方がいい」


---


「普段は、どうする」


ミラが、聞く。


「戦いのたびに、括り付けるんですか」


「そのつもりでいる」


ワングが、答える。


「普段の暮らしでは、断面に、軽い覆いをするだけで十分。刃を仕込むのは、迷宮に潜る時だけ」


「着脱に、時間は」


「慣れれば、大した手間ではないはずだ」


ブロムが、答える。


「革紐と、留め金。左手と、口を使えば、一人でもできるように作る」


「食事とか、日常の細かい作業は」


ネリスが、聞く。


「刃を外していれば、いつも通りだ」


ワングが、答える。


「この一年、覆いだけで、大抵のことはこなしてきた。刃をつけるのは、あくまで、戦いの前だけになろう」


「手入れは」


ダダが、聞く。


「使うたびに、革の受け皿を、確かめてもらった方がいい」


ブロムが、答える。


「汗と血で、革は傷む。緩んだまま使えば、断面が擦れて、傷になる。定期的に、ここへ、見せに来い」


「承知した」


ワングが、頷く。


---


「重さも、考えないとな」


ブロムが、続ける。


「腕の先に、重い物を括り付けると、それだけで疲れる。振り回す得物じゃない。あくまで、最小限、軽く仕上げる」


「刃渡りは、短めが、良さそうでござるな」


ワングが、頷く。


---


「魔法を使う時は、どうする」


ノリアが、ふと聞く。


「あの装備をつけたまま」


「刃を、後ろに畳める仕組みにしよう」


ブロムが、模型をひっくり返して見せる。


「使わない時は、腕に沿わせて畳んでおける。邪魔にはならん」


---


「材料は」


カインが、聞く。


「深廊で拾った金属の欠片、まだ持ってますよね」


「アーカイブに、預けたままだ」


ダダが、答える。


「あれは、正体が知れてから、だな」


ブロムが、笑う。


「今回は、普通の素材で、まず作る。試してみて、良さそうなら、あとで良い素材に替えればいい」


---


「型を取ったら、どれくらいで」


ワングが、聞く。


「三日、四日、といったところだ」


ブロムが、断面の型を、丁寧に布にくるむ。


「急いで雑に作るより、そのくらいは、もらいたい」


「承知した。急かすつもりはない」


---


工房を出ると、日が、傾き始めていた。


「本当に、できるといいな」


カインが、空を見上げながら言う。


「できても、慣れるまでは、大変でござろう」


ワングが、静かに言う。


「だが、諦めていたことに、また、手が届くかもしれん」


---


「三日後、また来ましょう」


ミラが、言う。


「かたじけない」


ワングが、深く、頭を下げた。


夕暮れの中、五人と一人分の影が、フォージタウンの通りに、長く伸びていた。


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

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