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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
閑話 その三

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第34話「フラグメンツの侍」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

翌日、五人は、フラグメンツへと向かった。


「本当に、来てくれるかな」


ネリスが、少し落ち着かない様子で言う。


「リゼットさんが、話は通してくれてるはず」


カインが、答える。


「緊張するな、こういうの」


ダダが、珍しく、声を低くした。


---


フラグメンツの扉を開けると、ガラントが、すぐに奥の卓を指さした。


「あそこだ。もう、来てる」


カインが、指の先を追う。


「早いな」


「約束の時間より、随分前からいるぞ」


ガラントが、そう言いながら、五人分の水を運んできた。


---


奥の卓に、一人の男が座っていた。


鱗のような肌の名残と、金色に近い瞳。


姿勢を崩さず、まっすぐに前を見ている。


右の腰に、鞘に収めた刀を提げている。


右腕は、手首から先が、なかった。


---


「ワング殿、で?」


カインが、少し緊張しながら声をかける。


男が、静かに立ち上がった。


椅子を引く音すら、抑えられていた。


「いかにも。ワングと申す」


低く、落ち着いた声だった。


「此度は、お声がけ、かたじけない」


---


「座ってください」


ミラが、椅子を勧める。


「失礼いたす」


ワングが、丁寧に腰を下ろす。


その所作の一つ一つに、無駄がなかった。


「噂には、聞いておった」


ワングが、五人を、順に見る。


「パーティ登録から一月前後で、深廊まで、五人で潜っている、と」


「まだまだ、手探りですけどね」


カインが、苦笑いする。


---


「六人目を、探してるんですが・・・」


カインが、単刀直入に切り出す。


「承知いたした。リゼット殿から、おおよそのことは」


ワングが、頷く。


「拙者でよろしければ、話だけでも」


---


「まず、聞きたいんですが」


ダダが、身を乗り出す。


「今、どれくらい、戦えますか」


率直な問いに、ワングの表情が、わずかに曇った。


「単刀直入で、助かる」


ワングが、静かに答える。


「遠回しに聞かれるより、よほど、答えやすい」


---


「正直に、申し上げる」


ワングが、右の袖を、静かに持ち上げる。


手首から先のない腕が、露わになった。


「この通り。片手では、以前のようには」


卓が、一瞬、静かになった。


---


「双剣、だったんですよね」


ネリスが、そっと聞く。


「左様。二刀、それぞれに違う型を持たせるのが、拙者の戦い方であった」


ワングが、静かに答える。


「今は、左の一刀のみ。踏み込みも、間合いも、以前とは、違う」


「間合い、というのは」


ノリアが、聞き返す。


「二刀であれば、片方で受け、片方で斬れた。今は、受けと斬りを、同じ一本で、やりくりせねばならぬ」


ワングが、淡々と説明する。


---


「魔法は」


ノリアが、聞く。


「多少は、使える」


ワングが、頷く。


「第四階梯まで、覚えてはいる。ただ、チャージは、その階梯で二回分。覚えている術も、四つに留まる」


「四つとも、戦闘向き?」


カインが、聞く。


「攻めに使えるもの、身を守るもの、様々でござる。詳しくは、いずれ、お見せする機会もあろう」


---


「それでも、十分すごくないですか」


カインが、驚いたように言う。


「いや」


ワングが、首を振る。


「以前は、もっと、戦力になれた。この腕を失ってから、皆様の力になれるかどうか、正直、心許ない」


---


「申し訳なく、思っておる」


ワングが、俯く。


「誘っていただいたのに、この体たらくで」


「そんな」


ミラが、思わず声を上げる。


「まだ、何も始まってないのに」


「ミラの言う通りだ」


カインが、続ける。


「今の状態でどうか、を聞きたかっただけで、それを責めてるわけじゃない」


「かたじけない」


ワングが、短く、頭を下げた。


---


しばらく、卓に沈黙が落ちた。


それを破ったのは、ダダだった。


「片方、刀じゃなくていいんじゃないか」


「と、申されると?」


ワングが、顔を上げる。


---


「左手は、今まで通り、刀」


ダダが、指を二本立てる。


「右は、失った手の分、特殊な小ぶりの刀を、仕込む。二刀流、形は変えて、続ける」


---


「そのようなことが」


ワングが、目を見開く。


「フォージタウンなら、できるかもしれない」


ダダが、頷く。


「ドワーフの鍛冶屋、腕の代わりになる装備、作ってるところがある。相談だけでも、してみたらどうです」


---


「拙者の、この腕の形に、合わせた刀を?」


ワングが、自分の右腕を、まじまじと見つめる。


「そう。既製品じゃなくて、あんたの腕に合わせて、一から」


ダダが、静かに言う。


「俺の盾も、何度も直してもらってる。あそこの連中、無理も聞いてくれる」


「頼りに、なりそうでござるな」


ワングが、少し表情を緩めた。


---


「かたじけない、提案でござる」


ワングの声に、初めて、確かな熱が滲んだ。


「一度、諦めていた道が、あるいは」


言葉が、そこで途切れる。


しばらく、俯いたまま、動かなかった。


「無理に、期待させるつもりはないんです」


ミラが、静かに言う。


「できるかどうかは、鍛冶屋さん次第だし」


「承知の上でござる」


ワングが、顔を上げる。


その目に、先ほどまでとは違う光があった。


---


「まだ、できるかどうかは、わからない」


カインが、慎重に付け加える。


「わからないけど、聞いてみる価値は、あると思う」


「わからないままか」


ダダが、少し笑う。


「わからないままだ。でも、行動するだけの、価値はある」


---


「では」


ワングが、静かに、だが確かに頷いた。


「相分かった。フォージタウンへ、拙者も、同行いたす」


「一緒に、行きましょう」


カインが、頷き返す。


---


「ワングさん」


ネリスが、ふと聞く。


「一つ聞いていいですか」


「何なりと」


「二刀の型、また使えるようになったら、それって、嬉しいですか」


---


ワングが、一瞬、言葉に詰まった。


「正直に申せば……嬉しい、どころではない」


その声は、これまでで一番、揺れていた。


「諦めた道の先が、また見えるなら」


「見えるといいですね」


ネリスが、素直に微笑んだ。


---


奥のカウンターから、ガラントが、様子をじっと見ていた。


何かを言いかけて、やめる。


その表情には、これまで五人が見たことのない、深い色があった。


---


窓の外、夕暮れの光が、卓の上に長く伸びていた。


まだ、何も決まってはいない。


だが、五人と一人の間に、確かに、何かが動き始めていた。


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

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