第33話「アーカイブと隻腕」
マランの世界、毎日投稿中です。
当面、数話を連続投稿の予定です。
お楽しみいただけましたら幸いです。
翌日、五人は、深廊で拾った金属の欠片を持って、ギルド本部へ向かった。
「アプレイザルじゃなくて、アーカイブでいいのか」
ダダが、歩きながら聞く。
「用途とか、正体を知りたいなら、アーカイブの方が詳しいはず」
カインが、欠片を懐から出して確かめる。
「値段は、二の次でいい」
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アーカイブの扉をくぐると、紙とインクの匂いが、鼻先を掠めた。
天井まで届く棚が、迷路のように並んでいる。
「こんな奥まで来たの、初めてだな」
カインが、物珍しそうに見回す。
「依頼で、何度か来たことある」
ダダが、慣れた様子で歩く。
「迷子になりそう」
ネリスが、棚の隙間を覗き込みながら呟いた。
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奥の方から、紙をめくる音がしていた。
近づくと、小柄な人影が、山積みの本に埋もれるようにして座っている。
「あの、すみません」
カインが、声をかける。
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受付らしき小さな机に、小人族の女性が座っていた。
分厚い本から顔を上げ、眼鏡を押し上げる。
「鑑定物?それとも調べ物?」
「両方、お願いしたくて」
カインが、懐から金属の欠片を取り出す。
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「ティリーです。ここの司書」
女性が、名乗りながら、欠片を受け取る。
「深廊で拾った?」
「はい。何か、わかりますか」
カインの声に、期待が滲んでいた。
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ティリーが、欠片を光にかざす。
指先で、表面をなぞる。
「うーん……素材は、たぶん、消滅した世界のどれか」
「たぶん?」
「断定はできない。似た質感の記録は、過去にもあるけど」
「過去の記録、見せてもらえます?」
ノリアが、身を乗り出す。
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ティリーが、棚の一角から、古びた台帳を引っ張り出す。
ぱらぱらとめくると、似たような歯車状の欠片の絵が、何点か描かれていた。
「これ、全部、出所不明」
「全部?」
「全部。持ち込んだ人も、みんな、深層で拾ったとしか言えなかった」
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「用途は」
ダダが、横から覗き込む。
「わからない」
ティリーが、正直に答える。
「歯車みたいな形はしてる。でも、何の一部なのかまでは」
「わからないままか」
「わからないままだよ、これは」
その答えに、五人は、不思議と慣れた様子で頷いた。
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「記録には、残しておくね」
ティリーが、欠片を紙に包みながら言う。
「同じような品が、また持ち込まれたら、繋がりが見えるかもしれない」
「お願いします」
カインが、頭を下げる。
「持ち帰りたい場合は」
「いつでも。ここは、逃げないから」
ティリーが、初めて、少し笑った。
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「他に、何か?」
ティリーが、眼鏡の奥から、五人を見る。
「六層より先の、罠と、ドロップのことも、聞きたくて」
ミラが、続けて切り出した。
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「六層からは、罠、質が悪くなっていくよ」
ティリーが、棚から一冊、薄い記録帳を抜き出す。
「深廊に入ってすぐは、まだ避けられれば平気な程度。でも、層を追うごとに、見抜きにくく、痛い罠が増える」
「知ってます、それは、身をもって」
ネリスが、苦笑いする。
「今の欠片も、罠を避けた先の窪みで見つけました」
カインが、補足する。
「典型的だね、それ」
ティリーが、記録帳に何かを書き足しながら頷いた。
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「ドロップも、六層から変わる」
ティリーが、記録帳をめくりながら続ける。
「五層までは、ついでに拾えるものだった。六層からは、それ自体が目当てになる」
「宝箱も、出るって聞きました」
カインが、確認するように言う。
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「出る。でも、毎回じゃない。時おり、って程度」
「中身は」
「階層ごとに変わる。七層と六層でも、系統が違う」
「詳しくは」
「わからない」
ティリーが、あっさりと答える。
「まだ、記録が薄い層だから。潜ってる人自体、少ないし」
「俺たちが、記録を増やす側になるかもしれないんですね」
ダダが、少し面白そうに言う。
「そういうこと。期待してる」
ティリーが、初めてまっすぐに、五人を見た。
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「ありがとうございます、助かりました」
カインが、深く頭を下げる。
「また、何か拾ったら、持ってきて」
ティリーが、軽く手を振った。
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アーカイブを出て、クロスロードへ向かう。
日は、少し傾き始めていた。
「六人目のこと、今日、聞いてみるか」
カインが、皆を見回しながら言う。
「聞くだけなら」
ノリアが、頷く。
「決めるのは、また別だもんな」
ダダの言葉に、誰も異論はなかった。
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受付の窓口に、リゼットが座っていた。
書類を整理する手を止め、五人を見る。
「今日は、何の用件です?」
「相談があって」
カインが、少し言いにくそうに切り出す。
「六人目、探してます」
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リゼットの手が、書類の上で、一瞬止まった。
「珍しいですね、五人であれだけ潜っておいて」
「深廊、正直、五人だと厳しくなってきて」
ダダが、率直に言う。
「無理して、誰かが大怪我する前に」
ミラが、静かに付け加えた。
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「心当たり、ありますか」
ミラが、聞く。
リゼットは、しばらく黙っていた。
「本人から聞いた方がいいことも、多いんですが」
「それは、わかってます」
カインが、頷く。
「でも、まず、知ることから始めたくて」
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「一人、います」
リゼットが、名簿をめくりながら言う。
「レベル13、侍の登録をしている人です」
「侍?」
ネリスが、聞き慣れない響きに首を傾げる。
「剣士系の、少し特殊な型らしいです。詳しくは、本人に聞いた方が」
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「かつては、双剣使いだったそうですが」
リゼットが、続ける。
「そうですが?」
カインが、先を促す。
リゼットは、一拍おいてから、静かに言った。
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「利き腕の、右手首から先を、失っています」
リゼットの声が、少し、低くなった。
「一時、冒険者を、引退していました」
その言葉に、五人は、顔を見合わせた。
「怪我、迷宮で?」
ネリスが、思わず聞く。
「そこまでは、私からは」
リゼットが、静かに首を振った。
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「今は?」
ネリスが、聞く。
「登録は、まだ生きてます。でも、パーティは組んでない」
リゼットが、静かに答える。
「名前は、ワング。ドラゴニートの男性です」
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「会わせてもらうこと、できますか」
カインが、思い切って聞く。
「連絡は、してみます。ただ、来るかどうかは、本人次第です」
リゼットが、事務的に、だが確かに頷いた。
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クロスロードを出て、五人は、しばらく無言で歩いた。
「侍で、双剣使いで、右手首を失ってる、か」
ダダが、低く呟く。
「今は、どうやって戦ってるんだろう」
ミラが、ぽつりと言う。
「片手で、侍って、成立するのかな」
ネリスが、首を傾げる。
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「わからない」
カインが、正直に答える。
「でも、それは、会ってみないとわからないことだよな」
「わからないままか」
ダダが、少し笑う。
「わからないままだ」
その繰り返しに、五人は、いつものように、不思議と落ち着いた気持ちになった。
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「引退してた人が、また潜る気になるかな」
ノリアが、静かに聞く。
「なるかどうかも、わからない」
カインが、答える。
「ただ、リゼットさんが名前を出したってことは」
「それだけの、何かがある人なんだろうな」
ダダが、頷いた。
窓の外、夕暮れが、近づいていた。
いかがでしょうか?
6人目です。
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