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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
閑話 その三

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第32話「深廊、五人の意味」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


物語も動きます。


お楽しみいただけましたら幸いです。

一層の隠し部屋に、五人が立っていた。


石板に、順に手を触れていく。


「行くぞ」


カインの声とともに、視界が白く染まった。


---


気づけば、六層前室だった。


篝火が、静かに燃えている。


「毎回、これは慣れないな」


ダダが、額を押さえながら呟く。


「めまい、まだする?」


ミラが、すぐに顔を覗き込む。


「もう、平気」


---


前室の奥、六層へと続く通路が、口を開けていた。


これまでのどの階層より、光が届いていない。


「暗いな」


カインが、魔石灯を掲げる。


灯りの届く範囲が、いつもより狭かった。


---


「足元、気をつけて」


ネリスが、先頭に立つ。


耳が、ぴくりと動いた。


「止まって」


「どうした」


「今、何か、踏みかけた」


ネリスが、しゃがみ込み、床の一部を指す。


石畳に、細い溝が、ほとんど見分けがつかない形で走っていた。


---


「罠か」


ダダが、覗き込む。


「踏んだら、たぶん、槍が出る」


ネリスが、慎重に、溝の脇を指でなぞる。


「避けて通れる。ここ」


一人ずつ、ネリスの示した場所を踏んで進んだ。


「深廊、罠の密度が増すって、アーカイブに書いてあったの、これか」


カインが、低く呟く。


---


通路は、細く、曲がりくねっていた。


音の反響が、これまでと違う。


自分の足音すら、どこか遠くから聞こえるようだった。


「静かすぎないか」


ミラが、周囲を見回す。


「静かすぎる、な」


ダダの声にも、緊張が滲んでいた。


---


不意に、通路の先で、何かが動いた。


「来た」


ネリスが、身構える。


灯りの端に、大きな影が、ゆっくりと浮かび上がった。


石でできた、人の形をしたもの。


拳が、両腕とも、通常の倍近い大きさをしている。


---


「石の巨人……ゴーレム系か」


ダダが、盾を構え直す。


「大きさ、今までと違うぞ」


カインの声に、初めて、はっきりとした緊張があった。


---


ゴーレムが、拳を振り上げる。


「散れ!」


カインの叫びに、五人が左右に分かれた。


拳が石畳に叩きつけられ、破片が飛び散る。


「威力、洒落にならないな」


ダダが、盾の陰から、低く呟いた。


---


「ファイア!」


ノリアの一撃が、ゴーレムの側面で爆ぜる。


石の表面が、わずかに欠けただけだった。


「効いてない、ほとんど」


ノリアが、珍しく、声に焦りを滲ませる。


「関節、狙えるか!」


カインが、叫ぶ。


---


ネリスが、跳躍する。


ゴーレムの腕の付け根、継ぎ目のような場所に、爪を突き立てた。


「そこ、少し柔らかい!」


「よし!」


カインが、剣を構えて踏み込む。


継ぎ目を、正確に狙って斬りつけた。


石の破片とともに、鈍い音が響く。


---


だが、ゴーレムの拳が、カインを捉えた。


「カイン!」


ミラの声が、悲鳴に近かった。


カインの体が、通路の壁に叩きつけられる。


「大丈夫……まだ、動ける」


立ち上がる声に、痛みが滲んでいた。


---


「浄光!」


ミラの手から、淡い光が広がる。


カインの体から、こわばりが、少しずつ抜けていった。


「ありがとう……助かった」


「まだ、終わってない」


ミラが、フレイルを構え直しながら答える。


回復と前衛、両方を、同時に担っていた。


---


「継ぎ目、もう一箇所ある!」


ネリスが、反対側の肩を指す。


「そこ、俺が!」


ダダが、盾を捨てて踏み込むように、体当たりを仕掛けた。


継ぎ目に、確かな衝撃が伝わる。


石の巨人の動きが、わずかに鈍った。


---


「今だ、ノリア!」


カインが叫ぶ。


「業火弾!」


ノリアの声とともに、大きな炎が、継ぎ目の隙間に叩き込まれた。


石の体に、大きな亀裂が走る。


「もう一押し!」


カインが、亀裂目掛けて、剣を突き立てた。


---


ゴーレムが、大きく傾いだ。


そのまま、崩れ落ちるように、動きを止めた。


しばらく、誰も動かなかった。


荒い息だけが、狭い通路に響いていた。


「終わった……のか」


カインが、剣を支えに、呟く。


「終わった」


ダダが、盾を拾い上げながら、静かに頷いた。


---


「みんな、怪我は」


ミラが、すぐに確認に回る。


「肩、少し痛いだけ」


カインが、正直に答える。


「他は」


「かすり傷程度」


三人が、口々に答えた。


「今日は、これ以上は無理しない」


カインの声に、誰も異論を挟まなかった。


---


魔石を拾い上げると、これまでのどれよりも、大きく、密度の濃いものだった。


「質、違うな、これ」


ダダが、手のひらの魔石を見つめながら言う。


「深廊、って呼ばれるだけのことは、あるんだな」


カインが、静かに答えた。


---


少し先まで、様子だけ見ておくことにした。


通路が、二手に分かれている。


「どっちも、同じくらい、暗いな」


カインが、魔石灯を、両方の道に向ける。


「今日は、無理しない」


ダダの声に、迷いはなかった。


---


分かれ道の手前に、小さな窪みがあった。


「これ、何か埋まってる」


ネリスが、指先で、土を払う。


出てきたのは、古びた金属の欠片だった。


用途は、わからない。


「持ち帰って、アプレイザルで見てもらおう」


カインが、欠片を懐にしまう。


---


石板の前まで戻り、順に手を触れていく。


視界が白く染まり、気づけば、六層前室だった。


篝火の暖かさが、体に染み込んでくるようだった。


「今日は、ここまでにしよう」


カインの声に、五人が頷いた。


---


一層の隠し部屋を抜け、門をくぐる。


日は、まだ高いところにあった。


フラグメンツに寄ると、ガラントが、包帯を巻いたカインの肩を見て、目を細めた。


「今日も、派手にやったみたいだな」


「派手に、やられました」


カインが、苦笑いする。


---


奥の卓に落ち着くと、ミラが、ふと切り出した。


「さっきの戦い、ぎりぎりだった」


「ぎりぎりだった」


ダダが、認める。


「あと一人、前衛がいれば」


ネリスが、ぽつりと言う。


その一言に、卓が静かになった。


---


「六人目、って、考えたことある?」


ノリアが、皆の顔を見回しながら聞く。


「ある。何度か」


カインが、正直に答える。


「でも、踏み切れなかった」


---


「なんで?」


ミラが、静かに聞く。


「五人でここまで来た。それが、なんていうか」


カインが、言葉を選ぶ。


「五人だから、うまくいったことも、多い気がして」


「わかる」


ダダが、短く応じた。


---


「けど、さっきみたいな戦いが、これから増えるなら」


ネリスが、続ける。


「五人のままじゃ、いつか、足りなくなるかもしれない」


その言葉に、誰も、すぐには答えなかった。


---


「六人の壁、って設定があるんだよな」


ダダが、低く言う。


「上限は六人。俺たちは今、五人」


「一人、増やせる余地は、ある」


カインが、頷く。


「でも、誰でもいい話じゃない」


---


「今すぐ決めなくても、いいんじゃないか」


ミラが、静かに言う。


「六層、まだ始まったばかり。まずは、潜りながら、考えていけば」


「そうだな」


カインが、少し、ほっとしたように頷いた。


「焦って決めて、後悔するより」


---


「もし、誰か一人を迎えるなら」


ノリアが、ぽつりと言う。


「私たちと同じくらい、わからなさに、慣れてる人がいい」


「わからなさに、慣れてる人、か」


カインが、繰り返す。


「うまいこと言うな、それ」


---


「今すぐ誰かを、って話じゃないもんな」


ダダが、腕を組む。


「うん。ただ、心のどこかに、置いとくだけ」


カインが、頷く。


「置いとくのと、決めつけて探すのは、違うから」


---


「もし、増えたら」


ネリスが、ぽつりと呟く。


「五人でしか、通じなかった間合いとか、崩れないかな」


「崩れるかもしれない」


カインが、正直に答える。


「でも、それも、やってみないとわからない」


---


「わからないままか」


ダダが、少し笑う。


「わからないままだ」


カインが、笑い返す。


その答えに、不思議と、誰も苛立たなかった。


---


「今日のところは」


カインが、皆を見回す。


「六人目のことは、頭の隅に置いとくくらいで」


「賛成」


ダダが頷く。


「賛成」


ネリス、ノリア、ミラも、揃って続いた。


窓の外、夜が近づいていた。


五人の輪は、まだ、五人のままだった。


だが、その輪の形も、少しずつ、変わっていくのかもしれなかった。


いかがでしょうか?


6人目、どうなるでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

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