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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
閑話 その三

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第30話「積み上げた型」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

メンバーの呪文数が戻ったことを確認して迷宮に潜る。


再び、五人は、五層前室に立った。


「今日、行くぞ」


カインの声に、これまでにない、確かな落ち着きがあった。


「行こう」


ダダが、盾を構え直す。


篝火の傍らの男が、今日も、軽く手を挙げた。


「型、試すのか」


「試します」


「うまくいくといいな」


短いやり取りの中に、これまで積み重ねてきた日々の重みがあった。


---


大広間に踏み込む。


「狼の群れ、正面」


ネリスが、すぐに気配を捉える。


「数は」


「六。いつも通り」


「近くの気配は」


カインが、慎重に聞く。


「今のところ、遠い」


ダダが、周囲を見渡しながら答えた。


---


「型通りに行くぞ」


カインの合図で、五人が動く。


「静黙、先に」


ノリアが、手をかざす。


「静黙」


光が、群れの半数を包み込んだ。


続けて、カインが手をかざす。


「眠霧」


淡い霧が、残る半数を、静かに包んでいく。


---


群れ全体が、目に見えて動きを止めた。


「効いてる、両方とも」


カインが、驚きと確信を同時に滲ませる。


「今のうちに!」


ダダが、盾を構えて踏み込む。


動きを封じられた狼たちを、一体、また一体と、確実に仕留めていった。


---


「ファイア!」


ノリアの一撃が、残った群れの中心を捉える。


爆発とともに、さらに二体が崩れ落ちた。


「あと二体!」


カインが、剣を構え直す。


前回よりも、遥かに速いペースで、群れが数を減らしていた。


---


残り二体になったところで、ダダが、一体を確実に仕留める。


「あと一体!」


カインが、最後の一体に向かって踏み込もうとした、その時。


ネリスの耳が、鋭く動いた。


「来る……別の気配、それも近い!」


---


「甲殻か!」


ダダが、盾を構え直しながら聞く。


「違う。甲虫型、たぶん」


ネリスが、視線を巡らせる。


通路の奥から、硬い羽音を立てて、複数の影が、こちらに向かってきていた。


「数、多い!」


---


一瞬、五人の間に、緊張が走った。


前回と同じ状況——最後の一体を前に、別の群れが迫る。


だが、今日の五人は、前回とは違っていた。


「ノリア!」


カインが、鋭く叫ぶ。


「業火弾、まだ残ってるよな!」


---


「残ってる、一発だけ!」


ノリアが、即座に応じる。


「それを、迫ってくる甲虫型に叩き込め!」


カインの指示に、迷いはなかった。


「同時に、俺が眠霧をかける。狼の方だ!」


---


「わかった!」


ノリアが、両手を、迫りくる甲虫型の群れに向けてかざす。


「業火弾!」


大きな炎が、通路いっぱいに広がった。


甲虫型の群れが、先頭から次々と炎に包まれる。


同時に、カインの手から、淡い霧が、最後の狼へと放たれた。


「眠霧!」


---


狼が、糸が切れたように、その場に崩れ落ちる。


「今だ、ダダ!」


カインが叫ぶ。


「もらった!」


ダダの盾が、動かなくなった狼へと、正確に叩き込まれた。


狼の群れが、完全に沈黙する。


---


「ネリス、ミラ、甲虫型は!」


カインが、振り返りながら叫ぶ。


「任せて!」


ネリスが、業火弾で怯んだ甲虫型の群れに、跳びかかる。


爪が、次々と、甲殻の隙間を正確に捉えていった。


---


「浄光は、後回し!今は攻めに回る!」


ミラが、フレイルを構えて前に出る。


鎖が唸りを上げ、動きの鈍った甲虫型を、確実に打ち据えていく。


回復役でありながら、前衛としての力も、今日は惜しみなく発揮されていた。


---


「まだ、いるか!」


カインが、剣を構えて加勢に入る。


業火弾で焼かれた甲虫型は、既に統率を失っていた。


一体、また一体と、五人の攻撃に、崩れ落ちていく。


---


最後の一体が、ダダの盾によって、地に伏した。


しばらく、誰も動かなかった。


荒い息だけが、通路に響いていた。


「終わった……のか」


カインが、剣を支えに、呟く。


「終わった」


ダダが、盾を下ろしながら、静かに頷いた。


---


「みんな、怪我は」


ミラが、すぐに確認に回る。


「大丈夫」


「大丈夫」


「かすり傷程度」


三人が、口々に答えた。


「今日は、一人も、深手を負ってない」


ミラの声に、安堵がにじんでいた。


---


「やった……やったぞ!」


カインが、両手を突き上げる。


「型が、うまくいった」


ダダが、静かに、だが確かな声で言う。


「うまくいった、な」


「うまくいった」


---


「二正面、今日は乗り越えたな」


ネリスが、興奮気味に言う。


「乗り越えた」


ミラが、頷く。


「前は、あそこで退くしかなかったのに」


「今日は、退かなくて済んだ」


その違いを、五人は、それぞれの実感として噛みしめていた。


---


魔石を拾い集めながら、五人は、さらに奥へと進んだ。


これまで、退却するしかなかった領域の、その先。


大広間の奥に、これまで見えなかった、大きな扉のような輪郭が、うっすらと見え始めていた。


「あれは……」


カインが、目を凝らす。


---


「六層への、入り口かもしれない」


ダダが、静かに言う。


「本当に、ここまで来たんだな」


カインの声が、震えていた。


これまでの日々——退却、反省、レベル上げ、型の構築——その全てが、今、確かに、ここに繋がっていた。


---


「今日は、ここまでにしよう」


カインが、努めて冷静に言う。


「あの扉、今日はまだ、近づかない」


「賛成」


ダダが、即座に頷く。


「万全の状態で、次、あそこに向かう」


「賛成」


ネリス、ノリア、ミラも、揃って続いた。


---


五人は、来た道を、ゆっくりと戻っていった。


前室に着くと、獣人族の男が、五人の顔を見て、すぐに気づいたようだった。


「その顔、うまくいったんだな」


「うまくいきました」


カインが、誇らしげに答える。


「型、機能したか」


「機能しました。二正面、今日は乗り越えられました」


---


男が、しばらく、黙って五人を見つめた。


「……そうか」


短い言葉だったが、そこには、様々な感情が込められているようだった。


「羨ましい、とは言わない。だが、お前たちの積み上げ方は、間違ってなかったってことだ」


その言葉に、五人は、深く頭を下げた。


---


「奥に、扉が見えました」


カインが、報告する。


「六層への入り口だと、思います」


「見えたのか」


男の表情が、わずかに動く。


「五層の壁は、まだこれからだぞ。気を抜くな」


「わかってます」


カインの声に、迷いはなかった。


---


門を抜けて、外に出る。


日は、まだ高いところにあった。


「今日は、大きな一歩だったな」


カインが、空を見上げながら言う。


「大きな一歩」


ダダが、頷く。


「次は、いよいよ、壁か」


ネリスが、少し緊張した声で言う。


---


「壁がどんなものかは、わからない」


ミラが、静かに言う。


「でも、今日みたいに、積み上げてきたものを信じて、挑めばいい」


その言葉に、五人は、それぞれ頷いた。


---


エクスチェンジで魔石を換金し、フラグメンツへ向かう。


ガラントが、五人の顔を見て、何かを察したように、静かに聞いた。


「五層、突破したのか」


「突破しました。二つの群れ、同時に相手して」


カインが、答える。


「そうか」


ガラントの声に、いつになく、重みがあった。


---


「よくやった」


短い一言だったが、その響きには、確かな重みがあった。


「次は、壁だな」


「はい」


「壁のことは、俺からは、何も言わない。自分の目で、確かめてこい」


その言葉に、五人は、静かに頷いた。


---


夜、五人分の丼を前に、カインが、改めて皆を見回した。


「今日、五層、突破した」


「突破した」


ダダが、静かに繰り返す。


「次は、六層の壁だ」


ネリスの声に、緊張と期待が、同時ににじんでいた。


「壁が、俺たちを、どう選ぶかは、わからない」


カインが、静かに言う。


「でも、今日までの積み上げは、確かに、本物だった」


---


窓の外、夜が更けていく。


長い道のりだった。


退却の悔しさも、失った命への無力感も、地道な稼ぎの日々も、全てが、今日という日に繋がっていた。


五層は、今、確かに、五人の後ろにあった。


そして、その先には、まだ見ぬ壁が、静かに待っていた。


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

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