第29話「見えてきた勝ち筋」
マランの世界、毎日投稿中です。
当面、数話を連続投稿の予定です。
五層の大広間、さてさて・・・
お楽しみいただけましたら幸いです。
五層前室に、五人は、再び立っていた。
「今日は、様子見じゃない」
カインが、静かに言う。
「今日は、攻める」
ダダが、盾を構え直す。
篝火の傍らで、あの獣人族の男が、軽く頷いて見送った。
「無理だけは、するなよ」
「わかってます」
---
大広間に踏み込む。
「狼の群れ、右手前」
ネリスが、すぐに気配を読む。
「数は」
「六。前と同じくらい」
「近くに、他の群れは」
カインが、慎重に確認する。
「今のところ、見えない」
ダダが、周囲を見渡しながら答えた。
---
「行くぞ」
カインの合図で、五人が動き出す。
「静黙、先に」
ノリアが、手をかざす。
「静黙」
光が、群れの半数を包んだ。
動きの鈍った数体が、その場で立ち尽くす。
「効いてる」
カインが、確信を込めて言う。
---
「ダダ、正面!」
「了解!」
ダダの盾が、動きの鈍った一体を、正確に受け止める。
「ネリス、右から!」
「わかってる!」
ネリスが跳び、混乱した群れの一体を、確実に仕留める。
前回とは、明らかに違う、統率の取れた動きだった。
---
「ファイア!」
ノリアの一撃が、群れの中心で爆ぜる。
「今の、狙い澄ましてたな」
カインが、驚きながらも言う。
「静黙で動き止めてるから、狙いやすい」
ノリアが、冷静に答える。
戦況を、しっかりと読んだ上での一撃だった。
---
残り三体になった群れが、それでも、なお抵抗を続ける。
「ミラ、そっちは」
カインが、確認する。
「大丈夫。まだ、誰も怪我してない」
ミラの声に、余裕があった。
「今日は、いい流れだ」
カインが、剣を構え直す。
---
「あと少しで、全滅させられる」
ダダが、盾越しに言う。
「詰めよう」
カインが、踏み込む。
残る三体のうち、二体を、確実に討ち取った。
最後の一体が、傷を負いながらも、じりじりと後退していく。
---
「逃がすな!」
カインが、追撃しようとする。
その時、ネリスの耳が、ぴくりと動いた。
「待って」
「どうした」
「別の気配。左奥から、近づいてきてる」
ネリスの声に、緊張が走った。
---
「甲殻型か」
ダダが、低く聞く。
「たぶん。数は、まだわからない」
カインは、逃げていく最後の一体と、迫りくる別の気配との間で、一瞬、判断に迷った。
「追うか、それとも」
---
「深追いするな」
ダダが、はっきりと言う。
「一体逃したところで、大した損じゃない。二正面は、前にやっただろ」
その一言に、カインは、はっと我に返った。
「そうだな……追わない」
決断は、早かった。
---
「退くぞ!」
カインの声に、迷いはなかった。
五人は、来た道を、落ち着いて後退していく。
前回のような、慌てた撤退ではなかった。
一体一体、周囲を確認しながらの、統制の取れた後退だった。
---
前室の光が見えてくる頃には、追ってくる気配は、既になくなっていた。
五人は、篝火の傍らに、腰を下ろした。
「今日は、いい戦いだった」
カインが、息を整えながら言う。
「いい戦いだった。けど、詰めきれなかった」
ダダが、正直に言う。
---
「五体は、確実に倒せた」
ミラが、静かに言う。
「一体、逃がしただけ」
「逃がしただけ、で済ませていいのか」
カインが、少し悔しそうに言う。
「あの最後の一体、追いかけてたら、どうなってた」
---
「甲殻の群れと、鉢合わせしてただろうな」
ダダが、静かに答える。
「そうなったら」
「前と同じだ」
ダダの一言に、皆、それぞれ、あの日のことを思い出していた。
---
「今日の判断は、正しかった」
ミラが、はっきりと言う。
「深追いしなかったから、今、こうして無事にいられる」
その言葉に、カインは、少し落ち着きを取り戻した。
「そうだな……今日は、それでいい」
---
「ただ」
カインが、改めて皆を見回す。
「このままだと、毎回、詰めの一歩手前で退くことになる」
「それじゃ、いつまでも壁に挑めない」
ネリスが、続けた。
「何か、変えないと」
---
「一度、整理しよう」
ミラが、提案する。
「私たちの強みと、五層の敵の弱み、両方」
「賛成」
カインが、頷く。
五人は、篝火を囲むように、車座になった。
---
「まず、俺たちの強み」
カインが、指を折りながら言う。
「静黙で動きを止めて、そこにファイアを当てる。今日、これがよく効いた」
「効いた」
ダダが、頷く。
「連携も、前より格段に良くなってる。誰がどこを見るか、迷わなくなった」
---
「弱みは」
ネリスが、続ける。
「詰めが甘い。最後の一押しが、いつも足りない」
「それと」
ミラが、付け加える。
「戦闘が長引くと、他の群れを呼び寄せる。今日も、そうだった」
「時間をかけすぎるのが、そもそもの問題ってことか」
カインが、腕を組む。
---
「五層の敵について、わかったこと」
ダダが、話を進める。
「群れは、統率されてる。数を減らしても、簡単には崩れない」
「崩れないから、最後の詰めに時間がかかる」
カインが、頷く。
「時間がかかるから、他の群れが寄ってくる」
---
「悪循環だな」
ネリスが、ため息をつく。
「悪循環だけど、断ち切る方法はあるはずだ」
カインが、前向きに言う。
「業火弾、使えないか」
「業火弾……」
ノリアが、自分の手を見つめる。
---
「今日、使わなかったよな」
カインが、確認する。
「使わなかった。出す間もなかった」
ノリアが、正直に答える。
「静黙とファイアの後、業火弾まで持っていければ」
「一気に、畳みかけられる」
ダダが、目を見開く。
---
「順番、考えよう」
カインが、地面に、指で簡単な図を描き始める。
「まず、静黙で動きを止める。ここまでは、今日と同じ」
「うん」
ノリアが、頷く。
「次に、業火弾。群れがまとまって動けない状態なら、範囲攻撃が無駄なく当たる」
---
「一発で、大半を仕留められるかもしれない」
ミラが、期待を込めて言う。
「まとめて畳みかければ、時間をかけずに済む」
「時間をかけなければ」
ダダが、続ける。
「他の群れを、呼び寄せずに済む」
悪循環を断ち切る道筋が、少しずつ見え始めていた。
---
「静黙、私だけじゃなく、カインも使えるよな」
ノリアが、ふと気づいたように言う。
「使える」
カインが、頷く。
「二人で、続けて眠霧をかけたら、動きを止める時間、伸ばせないか」
「眠霧……静黙とは、また別だけど」
ノリアが、少し考える。
---
「静黙は魔法を封じる。眠霧は、眠らせる」
カインが、整理する。
「別々の効果だけど、両方使えば、動きを止める手段が、二重になる」
「静黙が効かない相手にも、眠霧なら効くかもしれない」
ミラが、付け加えた。
---
「二人で眠霧、その後、業火弾。それが、今考えられる一番の型かもしれない」
カインが、まとめるように言う。
「型、って言葉、しっくりくるな」
ダダが、静かに笑う。
「型があれば、迷わず動ける」
---
「試すのは、次でいいか」
カインが、皆を見回す。
「次で試そう」
ダダが、頷く。
「今日は、もう十分やった」
ネリスも、頷いた。
---
「業火弾のチャージ、戻ってるといいけど」
ノリアが、自分の手を見つめながら呟く。
「戻ってなくても、型は変わらない」
カインが、静かに言う。
「戻るまで、待てばいい。焦る必要はない」
その言葉に、以前の、無理をしていた自分との違いを、カイン自身、感じているようだった。
---
篝火の火が、静かに揺れていた。
「今日は、収穫のある一日だったな」
カインが、改めて言う。
「収穫、あった」
ダダが、頷く。
「勝てなかったけど、負けたわけでもない」
「勝てなかった、けど」
ミラが、静かに続けた。
「次に繋がる負け方だった」
---
獣人族の男が、話を聞いていたのか、ふと口を挟んできた。
「型を見つけたのか」
「見つけました、たぶん」
カインが、少し照れくさそうに答える。
「たぶん、で十分だ」
男が、静かに笑う。
「型なんてものは、試してみるまで、本当に効くかどうかわからない。それでも、何も持たずに突っ込むよりは、ずっといい」
---
「あなたたちは、型、持ってるんですか」
カインが、思わず聞く。
「あるにはある。だが、俺たちの型は、六層の壁には、まだ届いてない」
男の声に、いつもの飄々とした調子とは違う、静かな重みがあった。
「届く型を、探し続けてる。何年もな」
「何年も……」
「焦るな、とは言わない。だが、型は、育てるものだ。一日でできあがるものじゃない」
---
その言葉を胸に、五人は、篝火を離れ、来た道を、ゆっくりと戻っていった。
四層、三層、二層、一層と、灯りの落ち着いた通路を、静かに歩く。
「次は、静黙、眠霧の重ね掛け、そして業火弾」
カインが、確認するように呟く。
「型、決まったな」
ダダが、静かに言う。
---
門を抜けて、外に出る頃には、日はもう傾き始めていた。
エクスチェンジで、今日の稼ぎを換金し、フラグメンツへ向かう。
「今日は、どうだった」
ガラントが、いつも通り、静かに聞いてくる。
「勝てなかったです。でも」
カインが、少し考えてから、続ける。
「次に繋がる負け方でした」
---
「いい顔してるな、その割に」
ガラントが、目を細める。
「型が見えたので」
「型、か」
ガラントが、何かを懐かしむような目をした。
「型を見つけた日の顔は、皆、似てるもんだ」
その一言に、五人は、少しだけ、誇らしい気持ちになった。
---
夜、五人分の丼を前に、カインが、改めて皆を見回した。
「次、業火弾のチャージが戻り次第、また五層前室から挑もう」
「賛成」
ダダが、即座に頷く。
「賛成」
ネリス、ノリア、ミラも、揃って続いた。
---
窓の外、夜が更けていく。
まだ勝てていない。
まだ壁の向こうは見えていない。
だが、五人の中には、確かな手応えが、静かに積み上がっていた。
次の一手は、もう、見えていた。
いかがでしょうか?
感想、フォロー 頂けましたら喜びます。
よろしくお願いいたします。




