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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
閑話 その三

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第29話「見えてきた勝ち筋」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


五層の大広間、さてさて・・・


お楽しみいただけましたら幸いです。

五層前室に、五人は、再び立っていた。


「今日は、様子見じゃない」


カインが、静かに言う。


「今日は、攻める」


ダダが、盾を構え直す。


篝火の傍らで、あの獣人族の男が、軽く頷いて見送った。


「無理だけは、するなよ」


「わかってます」


---


大広間に踏み込む。


「狼の群れ、右手前」


ネリスが、すぐに気配を読む。


「数は」


「六。前と同じくらい」


「近くに、他の群れは」


カインが、慎重に確認する。


「今のところ、見えない」


ダダが、周囲を見渡しながら答えた。


---


「行くぞ」


カインの合図で、五人が動き出す。


「静黙、先に」


ノリアが、手をかざす。


「静黙」


光が、群れの半数を包んだ。


動きの鈍った数体が、その場で立ち尽くす。


「効いてる」


カインが、確信を込めて言う。


---


「ダダ、正面!」


「了解!」


ダダの盾が、動きの鈍った一体を、正確に受け止める。


「ネリス、右から!」


「わかってる!」


ネリスが跳び、混乱した群れの一体を、確実に仕留める。


前回とは、明らかに違う、統率の取れた動きだった。


---


「ファイア!」


ノリアの一撃が、群れの中心で爆ぜる。


「今の、狙い澄ましてたな」


カインが、驚きながらも言う。


「静黙で動き止めてるから、狙いやすい」


ノリアが、冷静に答える。


戦況を、しっかりと読んだ上での一撃だった。


---


残り三体になった群れが、それでも、なお抵抗を続ける。


「ミラ、そっちは」


カインが、確認する。


「大丈夫。まだ、誰も怪我してない」


ミラの声に、余裕があった。


「今日は、いい流れだ」


カインが、剣を構え直す。


---


「あと少しで、全滅させられる」


ダダが、盾越しに言う。


「詰めよう」


カインが、踏み込む。


残る三体のうち、二体を、確実に討ち取った。


最後の一体が、傷を負いながらも、じりじりと後退していく。


---


「逃がすな!」


カインが、追撃しようとする。


その時、ネリスの耳が、ぴくりと動いた。


「待って」


「どうした」


「別の気配。左奥から、近づいてきてる」


ネリスの声に、緊張が走った。


---


「甲殻型か」


ダダが、低く聞く。


「たぶん。数は、まだわからない」


カインは、逃げていく最後の一体と、迫りくる別の気配との間で、一瞬、判断に迷った。


「追うか、それとも」


---


「深追いするな」


ダダが、はっきりと言う。


「一体逃したところで、大した損じゃない。二正面は、前にやっただろ」


その一言に、カインは、はっと我に返った。


「そうだな……追わない」


決断は、早かった。


---


「退くぞ!」


カインの声に、迷いはなかった。


五人は、来た道を、落ち着いて後退していく。


前回のような、慌てた撤退ではなかった。


一体一体、周囲を確認しながらの、統制の取れた後退だった。


---


前室の光が見えてくる頃には、追ってくる気配は、既になくなっていた。


五人は、篝火の傍らに、腰を下ろした。


「今日は、いい戦いだった」


カインが、息を整えながら言う。


「いい戦いだった。けど、詰めきれなかった」


ダダが、正直に言う。


---


「五体は、確実に倒せた」


ミラが、静かに言う。


「一体、逃がしただけ」


「逃がしただけ、で済ませていいのか」


カインが、少し悔しそうに言う。


「あの最後の一体、追いかけてたら、どうなってた」


---


「甲殻の群れと、鉢合わせしてただろうな」


ダダが、静かに答える。


「そうなったら」


「前と同じだ」


ダダの一言に、皆、それぞれ、あの日のことを思い出していた。


---


「今日の判断は、正しかった」


ミラが、はっきりと言う。


「深追いしなかったから、今、こうして無事にいられる」


その言葉に、カインは、少し落ち着きを取り戻した。


「そうだな……今日は、それでいい」


---


「ただ」


カインが、改めて皆を見回す。


「このままだと、毎回、詰めの一歩手前で退くことになる」


「それじゃ、いつまでも壁に挑めない」


ネリスが、続けた。


「何か、変えないと」


---


「一度、整理しよう」


ミラが、提案する。


「私たちの強みと、五層の敵の弱み、両方」


「賛成」


カインが、頷く。


五人は、篝火を囲むように、車座になった。


---


「まず、俺たちの強み」


カインが、指を折りながら言う。


「静黙で動きを止めて、そこにファイアを当てる。今日、これがよく効いた」


「効いた」


ダダが、頷く。


「連携も、前より格段に良くなってる。誰がどこを見るか、迷わなくなった」


---


「弱みは」


ネリスが、続ける。


「詰めが甘い。最後の一押しが、いつも足りない」


「それと」


ミラが、付け加える。


「戦闘が長引くと、他の群れを呼び寄せる。今日も、そうだった」


「時間をかけすぎるのが、そもそもの問題ってことか」


カインが、腕を組む。


---


「五層の敵について、わかったこと」


ダダが、話を進める。


「群れは、統率されてる。数を減らしても、簡単には崩れない」


「崩れないから、最後の詰めに時間がかかる」


カインが、頷く。


「時間がかかるから、他の群れが寄ってくる」


---


「悪循環だな」


ネリスが、ため息をつく。


「悪循環だけど、断ち切る方法はあるはずだ」


カインが、前向きに言う。


「業火弾、使えないか」


「業火弾……」


ノリアが、自分の手を見つめる。


---


「今日、使わなかったよな」


カインが、確認する。


「使わなかった。出す間もなかった」


ノリアが、正直に答える。


「静黙とファイアの後、業火弾まで持っていければ」


「一気に、畳みかけられる」


ダダが、目を見開く。


---


「順番、考えよう」


カインが、地面に、指で簡単な図を描き始める。


「まず、静黙で動きを止める。ここまでは、今日と同じ」


「うん」


ノリアが、頷く。


「次に、業火弾。群れがまとまって動けない状態なら、範囲攻撃が無駄なく当たる」


---


「一発で、大半を仕留められるかもしれない」


ミラが、期待を込めて言う。


「まとめて畳みかければ、時間をかけずに済む」


「時間をかけなければ」


ダダが、続ける。


「他の群れを、呼び寄せずに済む」


悪循環を断ち切る道筋が、少しずつ見え始めていた。


---


「静黙、私だけじゃなく、カインも使えるよな」


ノリアが、ふと気づいたように言う。


「使える」


カインが、頷く。


「二人で、続けて眠霧をかけたら、動きを止める時間、伸ばせないか」


「眠霧……静黙とは、また別だけど」


ノリアが、少し考える。


---


「静黙は魔法を封じる。眠霧は、眠らせる」


カインが、整理する。


「別々の効果だけど、両方使えば、動きを止める手段が、二重になる」


「静黙が効かない相手にも、眠霧なら効くかもしれない」


ミラが、付け加えた。


---


「二人で眠霧、その後、業火弾。それが、今考えられる一番の型かもしれない」


カインが、まとめるように言う。


「型、って言葉、しっくりくるな」


ダダが、静かに笑う。


「型があれば、迷わず動ける」


---


「試すのは、次でいいか」


カインが、皆を見回す。


「次で試そう」


ダダが、頷く。


「今日は、もう十分やった」


ネリスも、頷いた。


---


「業火弾のチャージ、戻ってるといいけど」


ノリアが、自分の手を見つめながら呟く。


「戻ってなくても、型は変わらない」


カインが、静かに言う。


「戻るまで、待てばいい。焦る必要はない」


その言葉に、以前の、無理をしていた自分との違いを、カイン自身、感じているようだった。


---


篝火の火が、静かに揺れていた。


「今日は、収穫のある一日だったな」


カインが、改めて言う。


「収穫、あった」


ダダが、頷く。


「勝てなかったけど、負けたわけでもない」


「勝てなかった、けど」


ミラが、静かに続けた。


「次に繋がる負け方だった」


---


獣人族の男が、話を聞いていたのか、ふと口を挟んできた。


「型を見つけたのか」


「見つけました、たぶん」


カインが、少し照れくさそうに答える。


「たぶん、で十分だ」


男が、静かに笑う。


「型なんてものは、試してみるまで、本当に効くかどうかわからない。それでも、何も持たずに突っ込むよりは、ずっといい」


---


「あなたたちは、型、持ってるんですか」


カインが、思わず聞く。


「あるにはある。だが、俺たちの型は、六層の壁には、まだ届いてない」


男の声に、いつもの飄々とした調子とは違う、静かな重みがあった。


「届く型を、探し続けてる。何年もな」


「何年も……」


「焦るな、とは言わない。だが、型は、育てるものだ。一日でできあがるものじゃない」


---


その言葉を胸に、五人は、篝火を離れ、来た道を、ゆっくりと戻っていった。


四層、三層、二層、一層と、灯りの落ち着いた通路を、静かに歩く。


「次は、静黙、眠霧の重ね掛け、そして業火弾」


カインが、確認するように呟く。


「型、決まったな」


ダダが、静かに言う。


---


門を抜けて、外に出る頃には、日はもう傾き始めていた。


エクスチェンジで、今日の稼ぎを換金し、フラグメンツへ向かう。


「今日は、どうだった」


ガラントが、いつも通り、静かに聞いてくる。


「勝てなかったです。でも」


カインが、少し考えてから、続ける。


「次に繋がる負け方でした」


---


「いい顔してるな、その割に」


ガラントが、目を細める。


「型が見えたので」


「型、か」


ガラントが、何かを懐かしむような目をした。


「型を見つけた日の顔は、皆、似てるもんだ」


その一言に、五人は、少しだけ、誇らしい気持ちになった。


---


夜、五人分の丼を前に、カインが、改めて皆を見回した。


「次、業火弾のチャージが戻り次第、また五層前室から挑もう」


「賛成」


ダダが、即座に頷く。


「賛成」


ネリス、ノリア、ミラも、揃って続いた。


---


窓の外、夜が更けていく。


まだ勝てていない。


まだ壁の向こうは見えていない。


だが、五人の中には、確かな手応えが、静かに積み上がっていた。


次の一手は、もう、見えていた。


いかがでしょうか?


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よろしくお願いいたします。

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