↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
閑話 その三

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/237

第28話「積み上げ直す」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

ネリスの傷が塞がるまで、三日かかった。


「もう平気だってば」


宿の一室で、ネリスが、包帯の上から脇腹をさすりながら言う。


「平気でも、あと一日」


ミラが、きっぱりと言う。


「ミラが言うなら、しょうがない」


ネリスが、渋々、布団に戻った。


---


三日後、五人は、ようやく門の前に立った。


「今日から、また四層だ」


カインが、いつもより静かな声で言う。


「五層じゃなくて?」


ネリスが、少し意外そうに聞く。


「五層は、まだ早い」


カインが、はっきりと言う。


「今の俺たちじゃ、また同じことになる」


---


「賛成」


ダダが、即座に頷く。


「地力、もう一段上げてからだ」


「賛成」


ミラも続く。


「賛成」


ノリアが、静かに頷いた。


五人の意見は、迷いなく揃っていた。


---


門をくぐり、二層、三層を抜けて、四層へ向かう。


「今日は、慎重にな」


カインが、念を押すように言う。


「わかってる」


ダダが、盾を構え直す。


以前より、その動きに、慎重さが増していた。


---


四層の蛾の群れと遭遇する。


「数、確認」


カインが、まず言う。


「五体。前より少ない」


ネリスが、耳を伏せて答える。


「対処できる範囲だな」


「業火弾、使うか」


ノリアが聞く。


「もったいない。ファイアで十分」


カインが、冷静に判断する。


---


「ファイア」


ノリアの一撃が、群れの一部を捉える。


「ダダ、押し込め」


「了解」


ダダの盾が、怯んだ群れに突っ込む。


ネリスの爪が、確実に一体を仕留める。


戦闘は、以前よりずっと、落ち着いていた。


---


「終わった」


カインが、剣を鞘に収めながら言う。


「あっさりだったな」


「あっさりに見えるのは、慎重にやってるからだ」


ダダが、静かに訂正する。


「無理して押し込まない。今日は、それだけを守った」


その言葉に、五人は、それぞれ頷いた。


---


魔石を拾い集めながら、奥へ進む。


「今日は、ここまでにしよう」


カインが、早めに切り上げる判断をする。


「五層前室までは、行かないのか」


ネリスが聞く。


「行かない。今日は、四層で稼ぐだけ」


「賛成」


ダダが、即座に頷いた。


---


それから、数日間、同じ調子で四層に潜った。


慎重に、無理をせず、確実に。


「今日も、綺麗に終わったな」


カインが、帰り道、呟くように言う。


「綺麗に終わるのが、当たり前になってきた」


ダダが、静かに答える。


---


ある晩、宿の食堂で、ノリアが、ふと口を開いた。


「あの日のこと、まだ、たまに思い出す」


誰も、聞き返さなかった。


言わなくても、皆、同じ日のことだとわかっていた。


「あの人たちの、悲鳴」


ノリアの声が、わずかに震える。


---


「私も」


ミラが、静かに言う。


「忘れられない。たぶん、しばらくは」


「忘れなくていいと思う」


カインが、静かに言う。


「忘れたら、今日みたいな慎重さも、なくなる気がする」


その言葉に、皆、それぞれ頷いた。


---


「怖いままでいい、ってことか」


ネリスが、確認するように聞く。


「怖いままで、でも、前には進む」


カインが、答える。


「その両方を、抱えたままでいい」


言葉にするのは簡単ではなかったが、それが、今の五人にとって、一番正直な答えだった。


---


数日分の稼ぎがまとまった頃、五人は、アプレイザルへ向かった。


「また皆さんで」


鑑定士が、いつもの調子で迎える。


「また皆さんで、です」


カインが、いつもの台詞を返す。


その声に、以前より落ち着いた響きがあった。


---


まず、ダダから。


「盾役、レベル6ですね」


「6、か」


ダダが、静かに頷く。


「慎重にやってても、ちゃんと上がるもんだな」


「慎重にやったからこそ、かもしれません」


鑑定士が、静かに付け加えた。


---


次、ネリス。


「斥候、レベル6」


「6……傷、負ったのに」


ネリスが、少し驚いた顔をする。


「無駄な戦闘を避けて、確実な討伐を積み重ねた結果だと思います」


鑑定士の言葉に、ネリスは、少し照れくさそうに笑った。


「怪我した甲斐、あったってことにしとく」


---


「魔術師、ノリアさん」


呼ばれて、ノリアが台の前に立つ。


「レベルは、5のままですね」


「変わらず、か」


ノリアが、少し落胆する。


「ただ」


鑑定士が、続ける。


---


「習得呪文の状況に、変化があります」


「変化?」


「第一階梯、火花炎。使用回数、7回に増えています」


「7回……」


ノリアが、自分の手を見つめる。


「第二階梯、静黙も、4回に増えています」


「両方とも……」


「それだけでは、ありません」


鑑定士が、続ける。


「第三階梯、業火弾。使用回数も、2回に増えています」


「業火弾まで……」


ノリアが、言葉を失う。


一階梯ずつ、確かに、全部が底上げされていた。


---


「それと、もう一つ」


鑑定士が、続ける。


「第一階梯で、新しい呪文を習得しています。眠霧です」


一瞬、ノリアが、言葉を失った。


「眠霧……私が?」


「そうです。カインさんに続いて、パーティ内で二人目の習得者になります」


「使用回数は、火花炎と共有です。今の第一階梯の枠は7回なので、火花炎と眠霧、合わせて7回まで使えることになります」


「合わせて、7回……」


ノリアが、自分の手を見つめる。


「新しく覚えたのに、回数が増えるわけじゃないんだ」


「増えるわけではありません。枠を、二つの呪文で分け合う形になります」


鑑定士の説明に、ノリアは、少し考え込むような顔をした。


「それでも、選択肢が増えたのは、確かだ」


その一言に、以前とは違う、落ち着いた納得があった。


---


「本当に、私も覚えられたんだ」


ノリアが、震える声で呟く。


「よかったな、ノリア」


カインが、笑いながら言う。


「お前が使えるようになったら、俺、あんまり出番なくなるかもな」


「出番、取り合うことになったりして」


ノリアが、少しだけ、いたずらっぽく笑った。


---


「次、ミラさん」


呼ばれて、ミラが台に手を乗せる。


「レベル8ですね」


「8……また、上がった」


ミラが、静かに驚く。


「第三階梯の呪文、使用回数は?」


「群癒、2回に増えています」


「2回……ありがたい」


グラヴォル戦、そして先日の撤退戦の記憶が、まだ生々しく残っていた。


「あれが、もう一回使えるだけで、大分違う」


---


「最後、カインさん」


呼ばれて、カインが台の前に立つ。


しばらくして、鑑定士が、顔を上げた。


「レベルは、4のまま変わらずです」


「4のまま、か」


以前のような動揺は、なかった。


「万能士だからな。しょうがない」


カインが、あっさりと言う。


---


「気にしないんですか」


鑑定士が、少し意外そうに聞く。


「気にしないわけじゃないけど」


カインが、少し考えてから答える。


「レベルが全部じゃない、ってのは、もう知ってるから」


その言葉には、これまでの積み重ねに裏打ちされた、確かな落ち着きがあった。


---


「習得呪文の使用回数は、アルカナ系第一階梯(火花炎・眠霧共有)が2回、ノストス系第一階梯(浄光)も2回に増えています」


鑑定士が、続ける。


「2回か。着実だな」


「着実です」


鑑定士の答えに、カインは、満足そうに頷いた。


---


窓口を離れて、外に出る。


「全員、それぞれ伸びたな」


カインが、皆を見回す。


「伸びた」


ダダが頷く。


「ノリアが、眠霧まで」


「私も、驚いてる」


ノリアが、まだ信じられないような顔で言う。


---


「これで、五層、また挑めるかな」


ネリスが、ふと言う。


一瞬、空気が、静かになった。


「挑める」


カインが、はっきりと言う。


「怖いのは、変わらない。でも、今日までの積み上げは、無駄じゃない」


---


「今度は、もっと慎重に」


ダダが、付け加える。


「危ないと思ったら、すぐ退く。今日みたいに」


「賛成」


ミラが、静かに頷く。


「賛成」


ノリア、ネリスも、続いた。


---


フラグメンツに寄ると、ガラントが、五人の顔を見て、静かに聞いた。


「調子は、どうだ」


「レベル、また上がりました」


カインが、答える。


「五層、また挑むのか」


「挑みます。今度は、もっと慎重に」


カインの声に、以前とは違う、落ち着いた覚悟があった。


---


「そうか」


ガラントが、短く頷く。


「あの日のこと、忘れるな。だが、飲まれるな」


その言葉には、いつになく、重みがあった。


「忘れずに、飲まれずに、か」


カインが、静かに繰り返す。


「難しいですね、それ」


「難しいから、価値がある」


ガラントが、静かに笑った。


---


夜、五人分の丼を前に、カインが、改めて皆を見回した。


「次、五層前室まで行こう。大広間には、まだ挑まない」


「賛成」


ダダが頷く。


「様子を見ながら、少しずつ」


「賛成」


ネリス、ノリア、ミラも、揃って続いた。


---


窓の外、夜が更けていく。


あの日の恐怖は、まだ、五人の中に確かに残っていた。


だが、その恐怖に押し潰されるのではなく、抱えたまま、前に進む道を、五人は選んでいた。


積み上げてきた力は、確かに、また一段、厚みを増していた。


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。