第2話「一層、火花ひとつ」
マランの世界、投稿開始です。
最初は連続投稿の予定です。
お楽しみいただけましたら幸いです。
ノアの入り口は、遠くから見るより大きかった。
石造りの門が、地面からいきなり生えている。
「行くぞ」
ダダが先頭に立った。
「弾かれたらどうする、って話、昨日したよな」
カインが愚痴りながら門をくぐる。
「したな」
「今、思い出さなくていい話だったんだよなあ、それ」
何も起こらなかった。
「あっさり」
「もっと粘ってくれてもいいのに、迷宮も」
ノリアとネリスも、愚痴る。
「贅沢言うな」
ダダが即座に切る。
四人とも、すんなり通れた。
拒まれる者もいると聞いていたから、拍子抜けなくらいでちょうどいい。
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内部は、思ったより明るい。
魔石らしき光が、壁の高いところからぼんやり漏れている。
通路は広くて、真っ直ぐ。
碁盤目みたいに続く、という話は本当らしい。
「これ、迷わなくない?」
カインが聞く。
「浅瀬はな」
短い答えが、いかにもダダらしい。
前を、ネリスがすでに小走りで進んでいた。
「先行きすぎるなよ」
「別に」
別に、と言いながら十歩は先にいる。
ダダが黙って歩幅を広げ、間を詰めた。
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最初のモンスターは、あっさり出てきた。
通路の奥から、緑色の塊がのそのそやってくる。
スライムだ。
「本で見たやつじゃん」
ネリスが、耳をぴくりとさせた。
「子供の頃読んだ冒険譚に出てたやつ。本物、もっと間抜けな動きするね」
その通り、間抜けだった。
跳ねるでもなく、床を這うようにただ寄ってくる。
「ノリア」
カインが呼ぶ。
「うん」
短く応えて、手をかざす。
(これくらいなら――)
ノリアの中で、いつもの確信が動いた。
「ファイア」
一言のあとに来たのは、火球というより爆発だった。
スライムがいた場所に、何も残っていない。
「うわ、消えた」
ネリスが目を丸くする。
「消えるでしょ」
事実そうなったので、反論の余地がない。
床がちょっと焦げている以外、何もない。
「一発だな」
ダダは、にやっと笑う。
「一発でいい」
得意げでもなく、驚いてもいない。
いつも通りのノリアだった。
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「魔石、拾わないと」
カインが屈んで、焦げた床の隅を探る。
小さな石が、灰の中に転がっていた。
親指の先くらいの大きさで、うっすら緑に光っている。
「浅層のは質、低いんだよね」
ぶつぶつ言いながら拾う。
「低くても金にはなるだろ」
ノリアが返す。
現実的なのが彼女らしいところだった。
「なるけど、少ない」
袋にしまう。
一個じゃ大した額にならない。
『チリも積もれば話は変わる』、と受付の職員も言っていた。
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分岐に差し掛かる。
「左」
ネリスが即答する。
「なんで左」
カインが聞く。
「勘」
勘かい、と誰もが思ったが、口には出さなかった。
説明はそれ以上出てこない。
いつものネリスだ。
ダダが黙って左に進む。
反対の理由は特にない。
ネリスの勘、あんまり外れないから。
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左の先で、二体目に遭遇した。
小型の獣型。
ゴブリンっぽい見た目で、錆びた短剣を振り回している。
「これもファイアでいい?」
ノリアが手をかざしかけた。
「待って」
カインが手で制した。
「なんで」
「これくらいなら俺とダダで削れる。ファイアは節約な」
ノリアが、ちょっと不満げな顔になる。
「もう。節約って、なに」
「いいから。お前の場合、足りてる足りてないの話じゃないだろ。数打てないんだから」
彼女は"図星"という顔で黙った。
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剣を抜いて、カインが前へ出る。
ダダが盾を構えて隣に並ぶ。
魔物が襲いかかって来る。
錆びた短剣を、ダダの盾が受ける。
がちん、と鈍い音。
「浅い」
一言、ダダ。
カインが、横から一撃を入れる。
ゴブリンが崩れる。
魔素の塊だったものが、灰みたいに散った。
跡に、また親指の先くらいの魔石。
「よし」
「よしって顔じゃないな、それ。息切れてるぞ」
ダダが指摘する。
「してない」
やせ我慢していたことを見抜かれている。
肩が、いつもより上下していた。
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「三体目」
ネリスの声に、全員が構える。
今度はコウモリ型が二体、天井近くをひらひら飛んでいる。
「うわ、面倒なやつ」
ネリスがぼやく。
「飛んでるから?」
カインが聞く。
「飛んでるし、速い。噛みつかれると地味に痛いんだよね、あれ」
経験談らしい。
誰も、深くは聞かなかった。
ネリスが壁を蹴って跳ぶ。
一体の羽根を、爪でひっかく。
落ちてきたところに、ダダの盾が叩き込まれた。
もう一体は、まだ飛んでいる。
「ノリア、頼む」
カインが言う。
「これはいいの?」
「これはいい!」
理由の一貫性が無いけど、誰も突っ込まなかった。
「ファイア!!」
天井近くで、小さな爆発。
コウモリだったものが、焦げた欠片になって落ちてくる。
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「ファイア、これで何回目?」
ダダが聞いた。
「二回目」
ノリアが、自分の両手を見ながら答えた。
(あと少し――)
指先に残る熱が、彼女にだけ分かる。
「もう一回いける?」
カインが聞く。
「多分。でも、あと一回で今日はもう無理」
「なんで」
「制御できなくなるから。前も言ったでしょ」
言われた気はする。
正確に覚えていたかは怪しい。
「そもそも、なんで二回か三回なんだ?」
「知らない」
ノリアは、冷静に答える。
「知らないのかよ」
「大きすぎるものは、大きすぎるとしか言えない。それでいいでしょ」
雑な説明だったが、それ以上聞いても出てこなさそうな空気があった。
「まあ、いいか」
「うん、いいでしょ、それで」
適当に流された気がしたが、誰も気にしなかった。
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四体目は、また獣型だった。
「三回目、いい?」
ノリアが答えを待たずに手を上げていた。
「駄目」
カインが遮る。
「はやいね、その駄目出し」
「戦闘中だから」
「大丈夫なのに」
大丈夫ではなかった。
腕が、微かに震えている。
「ダダ」
カインが呼ぶ。
「はい」
短い返事で、前に出る。
盾で受け、カインが斬る。
二人の呼吸に、無駄がない。
ゴブリンが崩れて、また親指の先くらいの魔石。
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拾いながら、数える。
「五個」
カインが呟いた。
「浅層でこれだけあれば、上々」
ネリスが笑っている。
「上々だろう。終わりにしよう」
ダダが言う。
「もう?」
食い足りない顔のネリスに、ダダが短く返す。
「限界近いのがいる」
視線の先には、両手をじっと見ているノリア。
「俺もダダも、そろそろ膝が笑ってる」
カインが言った。
「笑ってない」
そういうネリスも膝が笑っていた。
四人とも、多かれ少なかれ、限界が来ていた。
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帰り道は、来た道をそのまま戻るだけだった。
ノアの浅層は、迷うほどややこしくない。
「帰りも弾かれたりする?」
ネリスが聞いた。
「聞いたことないな」
ダダが答える。
「じゃあ安心していい?」
「知らない」
分からないことは分からないままにしておく。
昨日、誰かに言われた言葉が、また頭を過ぎった。
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門をくぐって、外に出る。
日はまだ高い。
思ったより早く済んだ、というのが四人の共通の感想だった。
「初日にしては」
カインが言う。
「上出来だろ」
「自分で言うんだ、それ」
ネリスが茶化す。
「言っていいと思う」
四人が順に同じような事を言い合った。
袋の中で、魔石が小さく擦れる音。
たった五個。
それでも、確かな重みがあった。
「エクスチェンジ、寄る?」
ノリアが聞いた。
「「「寄る」」」
「「「その前に飯」」」
腹が、四人分同時に鳴った。
言うまでもなかった。
いかがでしょうか?
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