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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
閑話 その三

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第2話「一層、火花ひとつ」

マランの世界、投稿開始です。

最初は連続投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

ノアの入り口は、遠くから見るより大きかった。


石造りの門が、地面からいきなり生えている。


「行くぞ」


ダダが先頭に立った。


「弾かれたらどうする、って話、昨日したよな」


カインが愚痴りながら門をくぐる。


「したな」


「今、思い出さなくていい話だったんだよなあ、それ」


何も起こらなかった。


「あっさり」


「もっと粘ってくれてもいいのに、迷宮も」


ノリアとネリスも、愚痴る。


「贅沢言うな」


ダダが即座に切る。


四人とも、すんなり通れた。


拒まれる者もいると聞いていたから、拍子抜けなくらいでちょうどいい。


---


内部は、思ったより明るい。


魔石らしき光が、壁の高いところからぼんやり漏れている。


通路は広くて、真っ直ぐ。


碁盤目みたいに続く、という話は本当らしい。


「これ、迷わなくない?」


カインが聞く。


「浅瀬はな」


短い答えが、いかにもダダらしい。


前を、ネリスがすでに小走りで進んでいた。


「先行きすぎるなよ」


「別に」


別に、と言いながら十歩は先にいる。


ダダが黙って歩幅を広げ、間を詰めた。


---


最初のモンスターは、あっさり出てきた。


通路の奥から、緑色の塊がのそのそやってくる。


スライムだ。


「本で見たやつじゃん」


ネリスが、耳をぴくりとさせた。


「子供の頃読んだ冒険譚に出てたやつ。本物、もっと間抜けな動きするね」


その通り、間抜けだった。


跳ねるでもなく、床を這うようにただ寄ってくる。


「ノリア」


カインが呼ぶ。


「うん」


短く応えて、手をかざす。


(これくらいなら――)


ノリアの中で、いつもの確信が動いた。


「ファイア」


一言のあとに来たのは、火球というより爆発だった。


スライムがいた場所に、何も残っていない。


「うわ、消えた」


ネリスが目を丸くする。


「消えるでしょ」


事実そうなったので、反論の余地がない。


床がちょっと焦げている以外、何もない。


「一発だな」


ダダは、にやっと笑う。


「一発でいい」


得意げでもなく、驚いてもいない。


いつも通りのノリアだった。


---


「魔石、拾わないと」


カインが屈んで、焦げた床の隅を探る。


小さな石が、灰の中に転がっていた。


親指の先くらいの大きさで、うっすら緑に光っている。


「浅層のは質、低いんだよね」


ぶつぶつ言いながら拾う。


「低くても金にはなるだろ」


ノリアが返す。


現実的なのが彼女らしいところだった。


「なるけど、少ない」


袋にしまう。


一個じゃ大した額にならない。


『チリも積もれば話は変わる』、と受付の職員も言っていた。


---


分岐に差し掛かる。


「左」


ネリスが即答する。


「なんで左」


カインが聞く。


「勘」


勘かい、と誰もが思ったが、口には出さなかった。


説明はそれ以上出てこない。


いつものネリスだ。


ダダが黙って左に進む。


反対の理由は特にない。


ネリスの勘、あんまり外れないから。


---


左の先で、二体目に遭遇した。


小型の獣型。


ゴブリンっぽい見た目で、錆びた短剣を振り回している。


「これもファイアでいい?」


ノリアが手をかざしかけた。


「待って」


カインが手で制した。


「なんで」


「これくらいなら俺とダダで削れる。ファイアは節約な」


ノリアが、ちょっと不満げな顔になる。


「もう。節約って、なに」


「いいから。お前の場合、足りてる足りてないの話じゃないだろ。数打てないんだから」


彼女は"図星"という顔で黙った。


---


剣を抜いて、カインが前へ出る。


ダダが盾を構えて隣に並ぶ。


魔物が襲いかかって来る。


錆びた短剣を、ダダの盾が受ける。


がちん、と鈍い音。


「浅い」


一言、ダダ。


カインが、横から一撃を入れる。


ゴブリンが崩れる。


魔素の塊だったものが、灰みたいに散った。


跡に、また親指の先くらいの魔石。


「よし」


「よしって顔じゃないな、それ。息切れてるぞ」


ダダが指摘する。


「してない」


やせ我慢していたことを見抜かれている。


肩が、いつもより上下していた。


---


「三体目」


ネリスの声に、全員が構える。


今度はコウモリ型が二体、天井近くをひらひら飛んでいる。


「うわ、面倒なやつ」


ネリスがぼやく。


「飛んでるから?」


カインが聞く。


「飛んでるし、速い。噛みつかれると地味に痛いんだよね、あれ」


経験談らしい。


誰も、深くは聞かなかった。


ネリスが壁を蹴って跳ぶ。


一体の羽根を、爪でひっかく。


落ちてきたところに、ダダの盾が叩き込まれた。


もう一体は、まだ飛んでいる。


「ノリア、頼む」


カインが言う。


「これはいいの?」


「これはいい!」


理由の一貫性が無いけど、誰も突っ込まなかった。


「ファイア!!」


天井近くで、小さな爆発。


コウモリだったものが、焦げた欠片になって落ちてくる。


---


「ファイア、これで何回目?」


ダダが聞いた。


「二回目」


ノリアが、自分の両手を見ながら答えた。


(あと少し――)


指先に残る熱が、彼女にだけ分かる。


「もう一回いける?」


カインが聞く。


「多分。でも、あと一回で今日はもう無理」


「なんで」


「制御できなくなるから。前も言ったでしょ」


言われた気はする。


正確に覚えていたかは怪しい。


「そもそも、なんで二回か三回なんだ?」


「知らない」


ノリアは、冷静に答える。


「知らないのかよ」


「大きすぎるものは、大きすぎるとしか言えない。それでいいでしょ」


雑な説明だったが、それ以上聞いても出てこなさそうな空気があった。


「まあ、いいか」


「うん、いいでしょ、それで」


適当に流された気がしたが、誰も気にしなかった。


---


四体目は、また獣型だった。


「三回目、いい?」


ノリアが答えを待たずに手を上げていた。


「駄目」


カインが遮る。


「はやいね、その駄目出し」


「戦闘中だから」


「大丈夫なのに」


大丈夫ではなかった。


腕が、微かに震えている。


「ダダ」


カインが呼ぶ。


「はい」


短い返事で、前に出る。


盾で受け、カインが斬る。


二人の呼吸に、無駄がない。


ゴブリンが崩れて、また親指の先くらいの魔石。


---


拾いながら、数える。


「五個」


カインが呟いた。


「浅層でこれだけあれば、上々」


ネリスが笑っている。


「上々だろう。終わりにしよう」


ダダが言う。


「もう?」


食い足りない顔のネリスに、ダダが短く返す。


「限界近いのがいる」


視線の先には、両手をじっと見ているノリア。


「俺もダダも、そろそろ膝が笑ってる」


カインが言った。


「笑ってない」


そういうネリスも膝が笑っていた。


四人とも、多かれ少なかれ、限界が来ていた。


---


帰り道は、来た道をそのまま戻るだけだった。


ノアの浅層は、迷うほどややこしくない。


「帰りも弾かれたりする?」


ネリスが聞いた。


「聞いたことないな」


ダダが答える。


「じゃあ安心していい?」


「知らない」


分からないことは分からないままにしておく。


昨日、誰かに言われた言葉が、また頭を過ぎった。


---


門をくぐって、外に出る。


日はまだ高い。


思ったより早く済んだ、というのが四人の共通の感想だった。


「初日にしては」


カインが言う。


「上出来だろ」


「自分で言うんだ、それ」


ネリスが茶化す。


「言っていいと思う」


四人が順に同じような事を言い合った。


袋の中で、魔石が小さく擦れる音。


たった五個。


それでも、確かな重みがあった。


「エクスチェンジ、寄る?」


ノリアが聞いた。


「「「寄る」」」


「「「その前に飯」」」


腹が、四人分同時に鳴った。


言うまでもなかった。


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

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