第25話「開いた先」
マランの世界、毎日投稿中です。
当面、数話を連続投稿の予定です。
四層攻略です。
行きます!!
お楽しみいただけましたら幸いです。
四層の入り口に立つと、以前と同じ、うっすらと紋様の浮いた石壁が五人を迎えた。
「今日は、前とは違う」
カインが、剣の柄に手をかける。
「違う。今日は、こっちに武器がある」
ノリアが、静かに、だが確かな声で言った。
---
奥から、羽音が響いてくる。
「来た」
ダダが、盾を構える。
蛾の群れが、以前と同じように、通路いっぱいに広がって現れた。
「数、前より多い気がするけど」
ネリスが、目を細める。
「多くても、今日は問題ない」
カインの声に、迷いはなかった。
---
「ノリア、頼む」
「うん」
ノリアが、両手をかざす。
群れ全体を、視界に収めるように。
「業火弾」
大きな炎が、通路いっぱいに広がった。
蛾の群れが、一斉に炎に包まれる。
「うわっ」
ネリスが、思わず声を上げるほどの爆発だった。
---
炎が収まると、群れの半数以上が、地に落ちていた。
「これが、業火弾……」
ノリアが、自分の手を見つめる。
「一回で、こんなに」
残った数体が、怯んだように距離を取っていた。
---
「ダダ、押し込め!」
カインが叫ぶ。
「了解!」
ダダの盾が、怯んだ群れに突っ込んでいく。
ネリスの爪が、逃げ遅れた一体を仕留めた。
数分と経たず、蛾の群れは、全て地に落ちていた。
---
「終わった……あっけないな」
カインが、拍子抜けしたように呟く。
「あっけなくない。準備した分の結果だ」
ダダが、静かに訂正する。
「地道にやってきた、その成果」
ミラの言葉に、五人は、それぞれ頷いた。
---
さらに奥へ進むと、通路の様子が変わり始めた。
壁の紋様が、より複雑に、密になっていく。
「この先、何かありそうだな」
カインが、警戒しながら言う。
「ボス部屋の気配、かもしれない」
ダダが、慎重に周囲を見渡した。
---
進んだ先に、見覚えのある、重い石扉があった。
「あった」
カインが、扉に手をかける。
「今回も、全員で、だな」
五人が、扉に手を触れていく。
「せーの」
力を込めると、扉が、ゆっくりと開いていった。
---
部屋の中、天井近くに、ひときわ大きな影が浮かんでいた。
翅の模様が、これまでの蛾よりも、鮮やかに輝いている。
「あれが、ボスか」
カインが、剣を構える。
大きな翅を持つ、女王のような姿の魔物が、ゆっくりと舞い降りてきた。
---
「アーカイブに、名前あったか」
ダダが聞く。
「なかった。四層のボス、まだ記録がないってことだった」
カインが、答える。
「じゃあ、俺たちが最初か」
「かもしれない」
未知の相手だという緊張が、五人の間に走った。
---
女王が、翅を大きく広げる。
翅の紋様が、一斉に輝いた。
「来る!」
ミラが叫ぶ。
無数の光の矢が、五人に向かって降り注いだ。
「散れ!」
ダダの声に、全員が散開する。
---
矢が、地面に突き刺さり、次々と爆ぜた。
「威力、前の蛾より上だ」
カインが、爆風を避けながら言う。
「一体でこれか」
ネリスが、警戒を強める。
---
「静黙、使うか」
カインが、ノリアに聞く。
「使う」
ノリアが、手をかざす。
「静黙」
光が、女王を包む。
だが、女王の輝きは、わずかに鈍っただけだった。
「効いてる、けど、完全には止まらない」
「格が違う、ってことか」
カインが、苦い顔をする。
---
「なら、こっちも本気で行く」
カインが、剣を構え直す。
女王が急降下し、鋭い爪を振るう。
ダダが、盾で受け止めた。
「重い!」
盾が、大きく軋んだ。
「耐えろ!」
カインが、横から斬りかかる。
---
刃が、女王の翅をかすめる。
「浅い」
「翅、狙いにくい」
ネリスが、爪を構えながら舌打ちする。
女王は、地上の敵から距離を取るように、再び舞い上がった。
「また上か」
カインが、悔しそうに見上げる。
---
「ノリア、また撃てるか」
「まだ。チャージ、戻ってない」
ノリアが、悔しそうに答える。
「わかった。他の手を考える」
カインが、周囲を見回す。
「眠霧、試してみる」
「眠霧?」
ダダが、驚いた声を出す。
---
カインが、女王に向けて手をかざす。
「眠霧」
淡い霧が、女王の周囲に立ち込めた。
女王の動きが、一瞬、明確に鈍った。
「効いてる!」
カインが、驚きと確信の入り混じった声を上げる。
「今のうちに!」
---
ダダが、隙を突いて盾ごと突進する。
女王が、地面近くまで引きずり下ろされた。
「ネリス!」
「わかってる!」
ネリスが跳び、翅の付け根に爪を突き立てる。
女王が、初めて、苦しむような声を上げた。
---
「もう一押し!」
カインが、剣を構える。
女王が、朦朧としながらも、最後の抵抗で光の矢を放とうとした。
「浄光!」
だが、その前に、ミラの光がダダとネリスを包み、二人の踏ん張りを支えた。
「今だ!」
カインの剣が、無防備になった女王の核へ、深く突き刺さった。
---
女王の体が、大きく痙攣し、やがて力を失った。
しばらく、誰も動かなかった。
「終わった……のか」
カインが、剣を支えに、荒い息をつく。
「終わった」
ダダが、盾を下ろしながら頷く。
---
「みんな、怪我は」
ミラが、すぐに確認に回る。
「大丈夫」
「大丈夫」
「なんとか」
三人が、口々に答えた。
「群癒、使っておく」
ミラが、両手を広げる。
「群癒」
優しい光が、五人全体を包んだ。
「これが、全体回復……」
カインが、体の軽さに驚いたように呟く。
---
崩れた女王の体が、次第に灰のように消えていく。
後には、これまでで一番大きな、輝く魔石が残されていた。
「でかいな、これも」
ネリスが、目を丸くする。
「今度は、名前つけてもらえるんだろうな、この魔物」
カインが、拾い上げながら言う。
---
部屋の奥、壁の一部が、音を立てて開き始めた。
「開いた」
ダダが、指差す。
石壁の奥から、下へ続く、新しい階段が現れていた。
「五層への、階段……」
カインが、覗き込みながら呟く。
これまでとは違う、広々とした空間の気配が、階段の下から漂ってきていた。
---
「本当に、五層まで来たんだな」
カインが、感慨深げに言う。
「来た」
ダダが、静かに頷く。
「あの退却から、ここまで」
ネリスが、階段を見つめながら呟く。
地道な稼ぎの日々が、確かに、ここに繋がっていた。
---
「今日は、ここまでにしよう」
カインが、階段から視線を上げる。
「五層は、また今度、万全の状態で」
「賛成」
ダダが、即座に頷く。
「賛成」
ネリス、ノリア、ミラも、揃って続いた。
---
魔石を回収し、部屋を後にする。
扉の前で、カインが一度、振り返った。
「四層、クリアか」
呟くように言う。
「クリア、って言葉、なんかしっくりくるな、今日は」
ダダが、珍しく笑いながら言う。
---
帰り道、五人の足取りは、以前より確かに軽かった。
「業火弾、静黙、眠霧、群癒」
カインが、指を折りながら数える。
「今日、全部使ったな」
「全部、意味があった」
ノリアが、静かに言う。
「一つも、無駄じゃなかった」
---
門を抜けて、外に出る。
日は、まだ高いところにあった。
「五層、大広間だっけ」
ネリスが、思い出したように言う。
「アーカイブで、確認しておくか」
カインが、頷く。
「五層の壁、ってのもあるらしいしな」
ダダが、ふと付け加えた。
「壁、また出てくるのか」
カインが、少し身構える。
「わからない。でも、備えておくに越したことはない」
ダダの言葉に、誰も異論はなかった。
---
エクスチェンジで、大きな魔石を換金し、フラグメンツへ向かう。
ガラントが、五人の顔を見て、すぐに気づいた。
「今日は、えらく晴れやかな顔してるな」
「四層、突破しました」
カインが、誇らしげに言う。
「四層を……」
ガラントが、一瞬、驚いたように目を見開いた。
「それは、大したもんだ」
その声には、いつもより、少し重みがあった。
---
「五層、もうすぐです」
カインが、続ける。
「五層、か」
ガラントが、何かを思い出すような顔をした。
「気をつけろよ。あそこから先は、ちょっと勝手が違う」
「勝手が違う、って?」
「詳しくは、言わないでおく。自分の目で確かめた方がいい」
はぐらかされるような言い方だったが、そこには、経験した者だけが持つ重みがあった。
---
夜、五人分の丼を前に、カインが、改めて皆を見回した。
「四層、突破した。次は、五層だ」
「五層」
ダダが、静かに繰り返す。
「大広間、か」
ネリスが、少し緊張した声で言う。
「壁があるかもしれないし、ないかもしれない」
ミラが、静かに言う。
「でも、今日みたいに、備えていけば、きっと大丈夫」
その言葉に、五人は、それぞれ頷いた。
四層の先に、五層への道が、確かに開かれていた。
いかがでしょうか?
感想、フォロー 頂けましたら喜びます。
よろしくお願いいたします。




