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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
閑話 その三

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第24話「積み上げた力」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

翌朝、五人はまずアーカイブに向かった。


「昨日のこと、報告したくて」


カインが言うと、司書が、興味深そうに身を乗り出した。


「六人に達すると、それ以上は入れなくなる現象があったんです」


「詳しく聞かせてください」


司書が、急いで記録の準備を始めた。


---


カインが、昨日の出来事を、順を追って話す。


見えない壁に弾かれたこと、声と呪文だけは通ったこと、戦闘が終わると壁が消えたこと。


司書は、一つ一つ、丁寧に書き取っていった。


「これは、貴重な証言です」


「貴重、なんですか」


「ヘクサインの名の由来である『六人上限』が、迷宮そのものに強制される、という報告は、記録上、あまり多くありません」


---


「正式に記録しておきます。今後、同じ現象に出くわす冒険者の助けになるかもしれません」


司書が、丁寧に頭を下げる。


「役に立ったなら、よかったです」


カインが、少し照れくさそうに答えた。


---


報告を終え、五人は、その足で三層へ向かった。


「今日から、また地道な稼ぎだな」


カインが、門をくぐりながら言う。


「地道、慣れてきた」


ダダが、盾を構え直す。


---


それから、幾日かが過ぎた。


甲殻型を狩り、擬態を見破り、魔石を拾う。


同じ動きの繰り返しのようでいて、五人の連携は、日を追うごとに滑らかになっていった。


「今日の一体、綺麗に決まったな」


カインが、剣を鞘に収めながら言う。


「綺麗も何も、いつも通りだろ」


ダダが、素っ気なく返す。


「いつも通りが、綺麗になってきたって話だ」


---


「静黙、また使えた」


ノリアが、手のひらを見つめながら呟く。


「チャージ、増えてきてる感じか」


カインが聞く。


「うん。前より、早く戻ってる気がする」


小さな手応えが、日々の中で確実に積み上がっていた。


---


そんなある日、カインが、いつもの手癖で、傷ついた仲間に手をかざした。


「浄光」


光が、ダダのかすり傷を包む。


「治った……よな、今の」


ダダが、驚いた顔をする。


「治った。なんか、前よりスムーズに出た気がする」


カインも、自分の手を見つめながら、不思議そうに言う。


---


「そういえば」


ミラが、ふと気づいたように言う。


「最近、カインの呪文、安定してきてない?」


「安定、してるかな」


「してる。前は、たまに空振りしてたのに」


言われてみれば、確かにそうだった。


小さな積み重ねが、いつの間にか、形になり始めていた。


---


数日分の稼ぎを、そろそろ確認しようと、五人はアプレイザルへ向かった。


「また皆さんで」


鑑定士が、いつもの調子で迎える。


「また皆さんで、です」


カインが、いつもの台詞を返す。


---


まず、ダダから。


「盾役、レベル5ですね」


「5、か」


ダダが、静かに頷く。


「地道にやってきた甲斐、あったな」


---


次、ネリス。


「斥候、レベル5」


「5!」


ネリスが、軽く跳ねる。


「跳ねなくていい」


「跳ねたくもなる、これくらいは」


いつものやり取りに、五人の口元が緩んだ。


---


「魔術師、ノリアさん」


呼ばれて、ノリアが台の前に立つ。


手を乗せると、光が、いつもより長く灯った。


「レベル5です」


「5」


短く繰り返す。


だが、鑑定士は、まだ紙を見つめていた。


---


「習得呪文の状況ですが」


鑑定士が、慎重に読み上げる。


「第一階梯、火花炎。使用回数、6回」


「6回」


ノリアが、自分の手を見つめる。


「それと、第二階梯、静黙。使用回数、3回」


「増えてる」


「それだけでは、ありません」


鑑定士が、続きを読む。


---


「第三階梯、業火弾。新規習得。使用回数、1回」


一瞬、誰も声を出さなかった。


「業火弾……」


ノリアが、震える声で繰り返す。


「本当に?」


「本当です」


鑑定士が、紙を差し出す。


そこには確かに「業火弾」の文字があった。


---


「届いた」


ノリアが、両手で顔を覆う。


「届いた……本当に」


「おめでとう、ノリア」


カインが、思わず駆け寄る。


「これで、あの蛾の群れ、正面から焼けるじゃないか」


「一回だけ、だけど」


「一回でも、あるとないとじゃ全然違う」


---


「一番悔しかったのが、これで報われたな」


ダダが、静かに言う。


ノリアは、しばらく、何も言えずにいた。


「ファイア一本だった私が、業火弾まで届くなんて」


顔を上げた時、その目には、確かな光があった。


---


「次、ミラさん」


呼ばれて、ミラが台に手を乗せる。


光が、いつもより明るく灯った。


「レベル7ですね」


「7……」


ミラが、驚いた声を出す。


「予想より、大きく上がってます」


---


「それと」


鑑定士が、続ける。


「第三階梯の呪文が使用可能になっています。群癒」


「群癒……」


ミラが、自分の手を見つめる。


「味方全体を、小回復させる呪文です」


「全体……」


これまでは、一人ずつしか癒せなかった。


その制約が、ここで一つ、外れた。


---


「これで、四層でみんなが一斉に傷ついても、対応できるかもしれない」


ミラが、静かに呟く。


「グラヴォルの時、一人ずつしか癒せなくて、ぎりぎりだった」


その記憶が、今も鮮明に残っていた。


「今度は、もう少し楽にできる」


---


「最後、カインさん」


呼ばれて、カインが台の前に立つ。


「レベル4ですね」


「4か」


以前ほどの動揺はなかった。


だが、確かな手応えがあった。


---


「習得呪文についてですが」


鑑定士が、紙をめくる。


「アルカナ系、第一階梯、火花炎と眠霧。ノストス系、第一階梯、浄光。両方とも、正式に習得済みとなっています」


「両方、正式に」


カインが、自分の手を見つめる。


「ミラージュで使えた時は、まぐれかと思ってた」


「まぐれではありません。万能士として、着実に力が根付いています」


---


「使用回数は?」


カインが聞く。


「アルカナ系第一階梯が1回。火花炎と眠霧は、この回数を共有する形になります。ノストス系第一階梯の浄光は、別枠でこちらも1回」


「共有、ってことは」


「どちらを使っても、同じ1回分を消費する形です。系統・階梯ごとに、使用回数の枠が決まっているので」


「なるほど、な」


「万能士の上限が3回なので、そこまでは伸びる余地があります」


「1回でも、確実に使えるってのは、でかいな」


カインが、拳を握る。


「便利屋の頃は、応急手当しかできなかったのに」


その一言に、これまでの歩みの重みが、確かに滲んでいた。


---


窓口を離れて、外に出る。


「全員、レベル上がったな」


カインが、皆を見回す。


「上がった」


ダダが頷く。


「業火弾まで、届いた」


ノリアが、まだ信じられないような顔で言う。


「群癒も、覚えた」


ミラが、静かに続ける。


---


「これなら」


カインが、期待を込めて言う。


「四層、もう一回挑めるんじゃないか」


「挑める」


ダダが、力強く頷く。


「業火弾があれば、あの蛾の群れも」


ノリアが、拳を握る。


「一回しか撃てないけど、それでも」


「一回で、流れを変えられれば十分だ」


カインの言葉に、迷いはなかった。


---


「スクロール、買わなくて済んだな」


ネリスが、ふと言う。


「地道にやってきた甲斐、あったってことだろ」


ダダが、静かに答える。


「急がば回れ」


カインが、呟くように言う。


「便利屋時代の座右の銘、また出たな」


「これからも、たぶん、何度も出る」


---


フラグメンツに寄ると、ガラントが、五人の顔を見て、すぐに気づいた。


「今日は、いい顔してるな」


「全員、レベル上がりました。それに」


カインが、続ける。


「ノリアが、業火弾まで覚えました」


「業火弾……ノリアが」


ガラントが、少し驚いた顔をする。


「そりゃ、祝わないとな」


---


いつもより豪華な料理が、五人分並ぶ。


「明日から、また四層、行くか」


カインが、丼を前に、改めて言う。


「行こう」


ダダが即答する。


「行く」


ネリスも続く。


「行く」


ノリアが、はっきりと頷く。


「行こう」


ミラも、静かに続いた。


---


夜、宿に戻る道すがら、ノリアが、ふと立ち止まった。


「私、ずっと、ファイアしかないのが、コンプレックスだった」


誰にともなく、そう呟く。


「今は?」


カインが聞く。


「今は、少し、前を向ける気がする」


短い答えだったが、その声には、確かな強さが宿っていた。


四層への道は、今度こそ、もう少し確かなものになっていた。


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

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