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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
閑話 その三

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第19話「レベル3の便利屋」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

翌朝、五人は迷わずアプレイザルへ向かった。


「今日は、絶対確認する」


カインが、いつもより早足で言う。


「今日じゃなくても、逃げないだろ、レベルは」


ダダが、苦笑しながら続く。


「逃げないけど、今日は確認したい気分」


理由になっていない理由だったが、誰も止めなかった。


---


窓口には、見慣れた鑑定士が座っていた。


「また、皆さんで」


「また皆さんで、です」


カインが、いつもの台詞を返す。


「今日は、期待できそうな顔をしてますね」


「わかります?」


「わかります」


鑑定士が、珍しく口元を緩めた。


---


まず、ダダから。


台に手を乗せると、光が灯る。


「盾役、レベル4ですね」


「4、か」


ダダが、静かに頷く。


「三層のボス、効いてるみたいだな」


カインが言う。


「効いてる、と思いたい」


素っ気ない答えだったが、肩の力の抜け方が、いつもより大きかった。


---


次はネリス。


軽く手を触れると、すぐに光が収まる。


「斥候、レベル4」


「4だ!」


ネリスが、飛び跳ねかける。


「跳ねなくていい」


ダダが、すかさず釘を刺す。


「跳ねたくもなるでしょ、これは」


反論しながらも、足はもう軽く弾んでいた。


---


「魔術師、ノリアさん」


呼ばれて、ノリアが台の前に立つ。


手を乗せると、光が、いつもより長く灯った。


「レベル4です」


「4」


短く繰り返す。


だが、鑑定士は、まだ紙をめくっている。


「それと」


「まだ、何か?」


カインが、思わず身を乗り出す。


---


「習得呪文の状況ですが」


鑑定士が、慎重に読み上げる。


「第一階梯、火花炎。使用回数、5回」


「5回!」


カインが声を上げる。


「それだけじゃありません」


鑑定士が、続きを読む。


「第二階梯、静黙。新規習得。使用回数、1回」


一瞬、誰も声を出さなかった。


---


「第二階梯……」


ノリアが、自分の手のひらを見つめる。


「本当に?」


「本当です。記録に、確かに」


鑑定士が、紙を差し出す。


そこには確かに「静黙」の文字があった。


---


「ついに来たか」


カインが、興奮気味に言う。


「ついに、って」


ノリアが、まだ実感の湧かない顔で呟く。


「ずっと第一階梯だけだったから、なんか」


言葉が、途中で止まる。


「なんか?」


「実感が、追いついてない」


正直な答えだった。


だが、その目は、いつもよりわずかに潤んでいるように見えた。


---


「静黙って、どんな効果なんですか」


ダダが、鑑定士に聞く。


「敵集団の魔法使用を封じる呪文です。攻撃系ではありませんが、うまく使えば戦況を大きく変えられます」


「攻撃じゃない呪文、初めてだな」


カインが言う。


「そうなる。今までは、ファイア一本だったから」


ノリアが、続ける。


「選択肢が、増えた」


その言い方には、以前の「それだけでいい」という諦めに似た響きはなかった。


---


「次、ミラさん」


呼ばれて、ミラが台に手を乗せる。


光が、いつもより明るく灯った。


「レベル6ですね」


「6……」


ミラが、少し驚いた声を出す。


「予想より、上がってます?」


「予想より、少し」


「三層のボス、規模の大きな相手だったので。経験としては、それなりに重かったんだと思います」


鑑定士の説明に、ミラは静かに頷いた。


---


「第二階梯の呪文、使用回数が増えています」


鑑定士が続ける。


「癒しの波、これまで3回だったのが、5回に」


「5回」


ミラが、自分の手を見つめる。


「あの時、ぎりぎりだったから」


小さく呟いた言葉には、カインの負傷時の記憶が滲んでいた。


「次は、もう少し余裕を持てる」


誰にともなく、そう付け加えた。


---


「最後、カインさん」


呼ばれて、カインが台の前に立つ。


心なしか、手が震えていた。


「大丈夫か」


ダダが、横から聞く。


「大丈夫。大丈夫なはず」


「はず、って」


「はずでいいだろ、今は」


強がりながら、手を乗せる。


光が、灯った。


---


しばらく、鑑定士が黙って紙を見つめていた。


その沈黙が、いつもより長く感じられた。


「あの」


カインが、耐えかねたように口を開く。


「結果、教えてもらえますか」


「失礼しました」


鑑定士が、顔を上げる。


「未選択、レベル3です」


---


一瞬、誰も声を出さなかった。


「……3?」


カインが、聞き返す。


「3です。前回から、一段階上がっています」


「本当に?」


「本当です」


鑑定士が、紙を差し出す。


そこには確かに「レベル3」の文字があった。


---


「上がった」


カインの声が、震えていた。


「上がった、よな、これ」


「上がった」


ダダが、力強く頷く。


「やったな、カイン」


ネリスが、飛びつくように言う。


「やった……やった!」


カインが、両手を突き上げる。


その顔は、これまで見たどの表情よりも、素直に喜んでいた。


---


「よかった」


ミラが、静かに微笑む。


「本当に、よかった」


ノリアも、珍しく口元を緩めていた。


「置いてかれなくて済んだな」


カインが、涙ぐみながら笑う。


「置いてくつもりなんて、なかった」


ダダが、あっさり返す。


「なかったけど、俺は勝手に焦ってた」


正直な吐露に、誰も茶化さなかった。


---


「実は」


鑑定士が、少し声のトーンを変えた。


「もう一点、お伝えしたいことがあります」


「まだ何か?」


カインが、警戒と期待の入り混じった顔をする。


「未選択のまま一定のレベルに達した冒険者には、稀に、通常の職業選択とは別の道が開ける可能性がある、という記録があります」


「別の道?」


カインが、思わず聞き返す。


---


「詳しいことは、私の口からは何とも。ただ、記録上、未選択のままレベル3に達した方に、この案内をするよう定められています」


鑑定士が、一枚の紙を差し出す。


そこには、ミラージュへの案内と、簡単な走り書きのような一文だけが記されていた。


「ミラージュで、確認してみてください」


---


「新しい職業、ってことですか」


カインが聞く。


「そうとも、違うとも言えません。私に分かるのは、そういう可能性がある、ということだけです」


鑑定士の答えは、いつも通り正直だったが、今日はいつも以上に曖昧だった。


---


窓口を離れて、外に出る。


「新しい道、か」


カインが、案内の紙を見つめながら呟く。


「行くのか」


ダダが聞く。


「行く。行かないと、気になって夜も寝れない」


「大袈裟な」


ネリスが茶化す。


「大袈裟じゃない。本当に気になる」


---


「一緒に行こうか」


ミラが、提案する。


「いや」


カインが、少し考えてから答える。


「一人で行く」


「なんで」


ネリスが、意外そうな顔をする。


「なんとなく。これは、俺一人の話な気がする」


理由になっていない理由だったが、誰も引き止めなかった。


---


「無理はするなよ」


ダダが、短く言う。


「しない。……たぶん」


「たぶんかよ」


「たぶんでいいだろ、こういうのは」


軽口で締めくくって、カインは案内の紙を握りしめた。


---


ミラージュの入り口は、いつもと変わらない静けさだった。


受付の小人族の職員が、カインの顔を見て、少し驚いた顔をする。


「これは……珍しいですね。この案内が出るのは」


「珍しいんですか」


「かなり。……少々、お待ちください」


職員が、奥へ引っ込んでいく。


---


しばらくして、初めて見る顔の職員が現れた。


年配の、落ち着いた雰囲気のドワーフだった。


「未選択のまま、レベル3まで来た方ですね」


「そうです」


「珍しい。本当に、珍しい」


その言葉の重みが、カインの背筋を、少しだけ緊張させた。


---


「これから、少し特殊な適性確認を行います」


職員が、静かに言う。


「普通の職業選択とは、何が違うんですか」


カインが聞く。


「それは、始めてみないと、私にも」


「あなたにも、わからないんですか」


「わかりません。この確認自体、私も何度も立ち会ったことがあるわけではないので」


正直な答えに、カインは思わず苦笑した。


---


「わからないことだらけだな、今日は」


呟くように言う。


「わからないまま、始めますか」


職員が、静かに聞く。


「始めます」


カインの声に、迷いはなかった。


---


模擬迷宮の奥、いつもと違う扉の前に、カインは一人で立っていた。


扉の向こうから、これまで感じたことのない、かすかな気配がしていた。


「未選択のまま、ここまで来た」


小さく、自分に言い聞かせるように呟く。


「その先に、何があるのか」


答えは、まだ誰も知らない。


扉に、手をかける。


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

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