↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
第六部 迷宮エア編 五層

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

193/237

第188話「二つ目の証、蘇る二刀」

マランの世界、一日一話、連日投稿してます。


よろしくお願いいたします。


その夜、ヘクサインの食堂で、六人は額を突き合わせていた。

退いてきたばかりの気配が、まだ誰の顔にも残っている。

湯気の立つ皿には、ほとんど手がつけられていなかった。

退いた、という選択自体は、誰も間違っていたとは思っていない。

それでも、悔しさは、皆の胸の奥に残っていた。

守りの聖歌を二重に重ねても、業炎獄を二連発しても、焦げ跡しか残せなかった相手だ。

生半可な策では、また同じ結果になる。

「二つ目の部屋、どう崩すか、だよな」

カインが、水の入った杯を回しながら切り出す。

「防御だけは、六体そろって、堅かったでござるな」

ワングが、頬杖をついたまま言った。

「あれ、多分、個々の腕じゃない。何か共通の仕掛けがある」

ミラが、静かに付け加える。

「仕掛けが何であれ、力で押し切るしかないでござろう」

ワングが、腕を組む。

「押し切るって言っても、今日と同じ手じゃ、また空振りだよ」

ネリスが、尻尾を揺らしながら口を挟んだ。

「だから、加護と言っても、な」

カインが、話を戻す。

「私たちの持ち札、あらためて並べてみる?」

ミラが、指を折りながら続けた。

「スルは、その時いなかったし」

「拙者は、まだ何も」

スルが、静かに答える。

その声に、皮肉げな響きはなかった。

「カインは召喚、ミラは治癒力、ネリスは道案内」

ノリアが、順に指を折っていく。

「残るのは……」

「ノリアの魔力と、ワングの右手、ってことになるでござるか」

ワングが、後を引き取った。

「ノリアの魔力って、さらに磨きをかけることが出来るの?」

ネリスが、耳を傾けながら聞く。

「わかんない。試したこと、ないから」

ノリアが、正直に答えた。

「魔力強化、って加護、そういえば、ずっとファイア止まりの頃から一緒だったよね」

ミラが、思い出すように言う。

「うん。ずっと、それだけだと思ってた」

ノリアが、小さく頷いた。

しばらく、誰も口を開かなかった。

「拙者の右手でござるが」

ワングが、静かに切り出す。

「今は、いつ使えるかもわからぬでござる。ちょっと、意識してみようと思うでござる」

「私も、意識して詠唱してみる。どうなるかは、わかんないけど」

ノリアが、掌をじっと見つめながら言った。

「賛成」

スルが、短く応じた。

「まあ、行ってみて、駄目だったら、また出直すか」

カインが、軽く笑って締めくくった。

その夜は、いつもより早く、それぞれの部屋へ引き上げた。

明日への構えを、言葉ではなく、眠りで整えるように。

翌朝、六人は身支度を終え、フォージタウンを抜けてエアへ向かった。

これまでの道のりが、いつになく静かに感じられた。

クロスロードに立ち寄ると、リゼットが短く声をかけてくる。

「行ってらっしゃい」

いつも通りの、事務的な一言だった。

その素っ気なさに、今日は少しだけ、背中を押された気がした。

門をくぐり、四層の通路を抜け、視界が白く染まる。

瞬きひとつのあいだに、五層の景色が広がった。

白い道を抜け、見慣れた扉の前に立つ。

刻まれた文字は、前回と同じだった。

「七つの試練。ひとつにつき、ひとつの恩恵あり」

そして、その続き。

「得た加護を、さらに磨くことが次の道となる」

前回と、変わらぬ文言。

だが、それを読む六人の顔つきは、昨日とは違っていた。

「今度こそ」

カインが、扉に手をかけた。

音もなく、扉が開いていく。

その先には、前回と同じ六人の剣士が、静かに立っていた。

ロングソード、レイピア、バスタード・ソード、大斧、長槍、そして両手にそれぞれ剣を握る一人。

並ぶ姿も、構えの角度さえも、前回とまったく同じに見える。

部屋の空気は、変わらず冷たく、静まり返っていた。

「来るでござるな」

「封癒!」

カインが、片手を掲げる。

前回は空振りに終わった備えだが、使わない理由もなかった。

「守りの聖歌!」

ミラの声とともに、淡い光が六人を包んだ。

「ゴーレム!」

光の中から、ゴーレムが現れる。

「頼む」

スルが、盾を構え、前へ出た。

ゴーレムとスルが、六体の出足を正面から受け止める。

大斧の一撃が、ゴーレムの肩を打ち、石の破片が飛んだ。

バスタード・ソードの剣士が、続けてスルの盾へ斬りかかる。

「まだ、まだ持つ」

スルが、歯を食いしばりながら踏みとどまった。

長槍の穂先が、隙間を縫って伸びてくる。

「そっちは、こっち!」

ネリスが、素早く回り込み、爪でその軌道を弾いた。

「助かる」

スルが、短く応じる。

前衛の三人が、崩れることなく踏ん張り続けていた。

その隙に、ワングは籠手に手をかけていた。

右の手首の先、いつもは何も括りつけていないそこに、籠手を締め直す。

(想うでござる)

失った右手の感覚を、そこに描く。

『失った右手を、再び』

ふっと、右の手首の先に、確かな感覚が戻った。

左に佩いた村雨を、すらりと抜く。

続けて、右に佩いた氷姫も抜いた。

村雨は、左の掌に。

氷姫は、幻の右の掌に。

かつての、双剣のワングが、そこに立っていた。

村雨と氷姫、二つの刃の重みを、一度だけ確かめる。

「行くでござる」

低く、そう呟いた。

一方、ノリアは、静かに詠唱を練っていた。

目を閉じ、自分の内にある魔力を、じっと意識する。

「あ……これだ」

小さく呟き、そのまま杖を振った。

「雷殺!」

すさまじい雷が、一直線に敵の一人を貫く。

音もなく、その体が消え去った。

「今の、威力……」

ミラが、思わず息を呑む。

これまでの雷殺とは、明らかに手応えが違っていた。

だが、感心している暇はなかった。

ワングが、地を蹴っていた。

左の村雨と、幻の右の氷姫が、同時に振るわれる。

二体の剣士が、なすすべもなく崩れ落ちた。

残るは、三体。

「嘘……」

ネリスが、思わず声を漏らす。

「ワング殿が、二刀で戦うところ、初めて見た」

カインも、剣を構え直しながら、驚きを隠せずにいた。

「まだ、いける」

ノリアが、再び魔力を練り上げる。

「業炎獄!」

すさまじい炎が、二体をまとめて呑み込んだ。

その二体は、そのまま崩れ、消えていく。

だが、最後の一体――双剣の騎士だけが、剣の腹で炎を薙ぎ払っていた。

焼け跡ひとつ残さず、平然と立っている。

「剣で、火を払った……?」

ネリスが、目を見開く。

「剣技で、あそこまで出来るのか」

カインも、低く呟いた。

「下がっていろ」

ワングが、静かに、だが強く言った。

誰も、異を唱えなかった。

それぞれが、一歩ずつ下がっていく。

ワングは、その双剣の騎士と、正面から向き合っていた。

間合いを図りながら、互いに一歩も引かない。

(この太刀筋、やはり)

かつて、若き日に目標としていた、誰かの型に似ている。

その既視感を、ワングはまだ、誰にも話していない。

答えの出ない問いは、いつも、この手合わせの中で蘇る。

だが、今はそれを追う時ではなかった。

「拙者が、超えるでござる」

低く、そう告げる。

周囲では、ゴーレムとスルが残りの気配を警戒しながら、ワングの間合いを崩さぬよう位置を保っていた。

ノリアも、次の詠唱に備え、杖を握り直す。

だが、誰も、割って入ろうとはしなかった。

これは、ワング一人の間合いだと、全員がわかっていた。

騎士の二刀が、同時に振り下ろされた。

重い一撃が、二方向から迫る。

左の村雨が、一本を跳ね上げる。

右の氷姫が、もう一本を受け止め、そのまま押さえ込んだ。

鋼と鋼がぶつかる音が、部屋いっぱいに響いた。

騎士の腕が、なおも力を込めてくる。

だが、幻の右手は、疲れを知らなかった。

押し合いは、一瞬にも、永遠にも感じられた。

騎士が、体勢を立て直そうと、わずかに剣を引く。

そのほんのわずかな隙を、ワングは見逃さなかった。

幻の右手が、氷姫で相手の剣を封じたまま、籠手の内側に隠していた小太刀を握った。

人の手では、決してできない動きだった。

小太刀が、相手の胸へと、まっすぐに走る。

誰にも、真似のできない動きだった。

騎士の体が、大きく揺れた。

驚愕に、大きく見開かれた、その双眸。

幻の右手は、なおも氷姫をしっかりと支え続けている。

手首から先のない、その右腕だけが、確かに、相手の左胸へと突き立てられていた。


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。

下記の「評価」も、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。