第187話「二つ目の証、退いた刃」
マランの世界、一日一話、連日投稿してます。
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クロスロードで報告を済ませ、六人はフォージタウンへ向かった。
工房の戸口に、ダダが待っていた。
「戻ったか」
「戻った。今日も、無事に」
カインが、軽く手を上げる。
「ワング、これ」
ダダが、布に包んだ長柄のものを、差し出した。
包みを開くと、鞘に収まった氷姫が、姿を現した。
「直った……のか」
ワングが、柄に指を這わせる。
「直った、というのとは、少し違う」
ダダが、正直に言う。
「根元から折れた分は、もう継げない。だから、同じ鋼を溶かして、一から打ち直した」
「打ち直した……」
ワングが、鞘から、そっと刃を覗かせる。
研ぎ澄まされた刃が、鈍い光を放っていた。
「同じ姿だが、同じ刀ではない、ということでござるな」
「そういうことに、なる」
ダダが、頷く。
「かたじけない」
ワングが、深く頭を下げた。
氷姫を鞘ごと持ち上げ、しばらく、その重さを確かめる。
「村雨は、そのままでいいのか」
ダダが、聞く。
「村雨は、村雨でござる。氷姫は、氷姫」
ワングが、静かに答えた。
「どちらか一方、というものでも、ないでござろう」
言いながら、氷姫をマジックバッグへ、丁寧に収めた。
「新しい呪文の話、聞いたぞ」
ダダが、話を変える。
「封癒、だったか」
「まだ、試す機会は、なかったでござるが」
ワングが、答えた。
「試す機会は、きっとすぐに来る」
カインが、苦笑しながら言う。
「五層は、そういう場所らしいからな」
「アーカイブの方は、どうだった」
ダダが、聞く。
「ティリーさん、案の定、困った顔してた」
ネリスが、少し楽しそうに答える。
「『再生を無効化する魔法』って書くだけの記録帳、じゃ足りない、って」
「足りない、って」
ダダが、首を傾げた。
「効果は書けても、なぜ授かったのか、条件は書けない。それが、困る理由らしい」
ミラが、補足するように言う。
「相変わらずでござるな、あの人も」
ワングが、小さく笑った。
その夜は、ヘクサインで一晩、ゆっくりと体を休めた。
呪文の使用回数は、これで、元通りになるはずだった。
窓の外は、いつも通りの街の灯りだった。
明日、何が待っているのかは、誰にもわからない。
それでも、休めるうちに休んでおく。
それも、六人が積み重ねてきたやり方のひとつだった。
呪文の使用回数が戻るのを待ち、翌日、六人は再びエアの門をくぐった。
五層への白い道を抜け、見慣れた扉の前に立つ。
扉には、前日と同じ文字が刻まれていた。
「七つの試練。ひとつにつき、ひとつの恩恵あり」
だが、その続きに、新しい一行が加わっていた。
「得た加護を、さらに磨くことが次の道となる」
「加護を、磨く……?」
ノリアが、文字をなぞりながら、首を傾げる。
「意味が、よくわからないでござるな」
ワングも、同じところで、目を細めた。
「一つ目は、封じる呪文を授かった」
ミラが、静かに言う。
「じゃあ、今日も、何かもらえるってこと?」
「もらえる、とは、書いてないでござるが」
ワングが、慎重に言葉を選ぶ。
「磨く、であって、増える、ではないでござろう」
「ますます、わからない」
ネリスが、耳を伏せた。
「わからないなりに、開けるしかない」
カインが、扉に手をかけた。
六人が身構える中、音もなく、扉が開いていく。
その先に立っていたのは、六人の剣士だった。
一人はロングソード、一人はレイピア、一人はバスタード・ソード。
もう一人は大斧、もう一人は長槍を提げている。
そして最後の一人だけが、両手にそれぞれ剣を握っていた。
「六人分、ってことか」
カインが、低く呟く。
「ゴーレム!」
光の中から、ゴーレムが現れる。
「頼む」
スルが、盾を構えたまま、前へ出た。
「かかってこい」
低い声が、部屋に響く。
挑発に、六人の剣士の何体かが、わずかに反応した。
「封癒」
カインが、片手を掲げる。
「守りの聖歌」
ミラの声とともに、淡い光が、六人を包んだ。
戦いは、すぐに始まった。
大斧の一撃が、真正面からゴーレムの腕を打つ。
石の腕に、深い亀裂が入った。
「硬いだけじゃ、ないでござるぞ、あれは」
ワングが、目の端でそれを捉えながら言う。
バスタード・ソードの剣士が、スルの盾へ、続けざまに斬りかかる。
スルとゴーレムが、正面から押し寄せる剣士を受け止める。
さばききれない一撃が、盾の端をかすめていく。
レイピアの剣士が、二人の隙間を、するりと抜けようとした。
「そっちは、通さない」
ネリスが、素早く回り込み、爪で押し返す。
だが、その隙を突くように、長槍の穂先が、二人の間をすり抜けた。
「後ろ、来る!」
ネリスの声が、鋭く飛ぶ。
穂先は、まっすぐノリアの喉元へと伸びていた。
「させない」
ネリスの爪が、間一髪、槍の軌道を弾く。
「ありがと……!」
ノリアが、息を呑みながら答えた。
ワングは、双剣の剣士と、一人で向き合っていた。
村雨と、相手の二刀が、幾度も打ち合う。
「なかなか、譲らぬでござるな」
ワングが、押し合ったまま、低く呟く。
答えるように、相手の剣が、さらに鋭さを増した。
ミラの剣が、ロングソードの剣士と噛み合う。
受け流し、切り返し、また受け流す。
いつもの、いなす動きだった。
だが、相手も同じように、いなしてくる。
「これは……」
ミラが、小さく息を吐いた。
カインの剣は、バスタード・ソードの剣士と、鍔迫り合いを続けていた。
力比べでは、分が悪い。
「ちょっと、重いな、これは」
カインが、歯を食いしばりながら呟く。
ミラとカインも、それぞれの剣士と斬り結んでいく。
だが、決定打には、なかなか届かない。
一進一退のまま、時間だけが過ぎていった。
「ノリア、動けない」
カインが、叫ぶ。
前線の剣士と、直接渡り合う手段を持たないノリアを、誰かが守り続けなければならない。
その分、他の五人の手が、どうしても後手に回っていた。
「ミラ、守りの聖歌、重ねて!」
ノリアが、叫ぶ。
「わかった」
ミラが、頷き、剣を返しながら唱える。
「守りの聖歌!」
淡い光が、もう一重、六人を包んだ。
ミラの詠唱が終わるのを、ノリアは確かに見届けていた。
「業炎獄!」
「業炎獄!」
二重の炎が、六体の剣士を、まとめて呑み込む。
すさまじい熱が、部屋いっぱいに広がった。
――消えた。
そう思ったのは、一瞬だけだった。
炎が晴れると、六体はまだ、そこに立っていた。
装備には、確かな焦げ跡が刻まれている。
だが、崩れてはいない。
「防御魔法、か……」
カインが、剣を構え直しながら、低く呟いた。
「一旦、引く!」
短く、そう告げる。
「「「了解」」」
ゴーレムが、最後尾に立ち、六人を庇いながら扉へと向かう。
一人また一人、扉をくぐっていった。
最後にカインが、後ろ手に、扉を閉じる。
重い音とともに、部屋の気配が、断たれた。
しばらく、誰も口を開かなかった。
「……手強い、でござるな」
ワングが、肩で息をしながら、ようやく言う。
「守りの聖歌、二重にしても、焦げ跡までしか、いかなかった」
ミラが、剣を鞘に納めながら、静かに言う。
「業炎獄、二連発でも、駄目だったのは、初めてかもね」
ノリアが、汗を拭いながら答えた。
「あの防御、呪文だとしたら、どこから来てるんだろう」
カインが、閉じた扉を、じっと見つめる。
「六体、それぞれ、武器も動きも、違ってたでござる」
ワングが、思い出すように言う。
「でも、あの防御だけは、全員、共通してた」
「加護を磨く、って言葉の意味、まだわからないままだけど」
ノリアが、続けた。
「一つだけ、はっきりしたことがある」
「なに」
ネリスが、聞く。
「今日の私たちじゃ、まだ、足りないってこと」
ノリアの声に、誰も、すぐには言い返さなかった。
「封癒、使ったけど」
カインが、ぽつりと言う。
「あいつら、再生、してなかったな」
「してなかった、でござるな」
ワングも、頷く。
「念のため、だったんだけどな」
カインが、苦笑する。
「無駄には、ならない。次も、備えとして使う」
ミラが、静かに言った。
「備え、か」
ネリスが、腕を組む。
「今日は、空振りだったけど、いつか、当たる日が来るかもしれない」
「来ないに、越したことはないでござるが」
ワングが、苦笑した。
「足りないなら」
カインが、静かに言う。
「わかるまで、何度でも、挑むしかない」
「賛成」
スルが、短く応じた。
その一言に、誰からともなく、小さく笑いが漏れる。
閉ざされた扉の向こうに、六つの影は、まだ静かに立っているはずだった。
いかがでしょうか?
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