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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
第六部 迷宮エア編 五層

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第187話「二つ目の証、退いた刃」

マランの世界、一日一話、連日投稿してます。


よろしくお願いいたします。


クロスロードで報告を済ませ、六人はフォージタウンへ向かった。

工房の戸口に、ダダが待っていた。

「戻ったか」

「戻った。今日も、無事に」

カインが、軽く手を上げる。

「ワング、これ」

ダダが、布に包んだ長柄のものを、差し出した。

包みを開くと、鞘に収まった氷姫が、姿を現した。

「直った……のか」

ワングが、柄に指を這わせる。

「直った、というのとは、少し違う」

ダダが、正直に言う。

「根元から折れた分は、もう継げない。だから、同じ鋼を溶かして、一から打ち直した」

「打ち直した……」

ワングが、鞘から、そっと刃を覗かせる。

研ぎ澄まされた刃が、鈍い光を放っていた。

「同じ姿だが、同じ刀ではない、ということでござるな」

「そういうことに、なる」

ダダが、頷く。

「かたじけない」

ワングが、深く頭を下げた。

氷姫を鞘ごと持ち上げ、しばらく、その重さを確かめる。

「村雨は、そのままでいいのか」

ダダが、聞く。

「村雨は、村雨でござる。氷姫は、氷姫」

ワングが、静かに答えた。

「どちらか一方、というものでも、ないでござろう」

言いながら、氷姫をマジックバッグへ、丁寧に収めた。

「新しい呪文の話、聞いたぞ」

ダダが、話を変える。

「封癒、だったか」

「まだ、試す機会は、なかったでござるが」

ワングが、答えた。

「試す機会は、きっとすぐに来る」

カインが、苦笑しながら言う。

「五層は、そういう場所らしいからな」

「アーカイブの方は、どうだった」

ダダが、聞く。

「ティリーさん、案の定、困った顔してた」

ネリスが、少し楽しそうに答える。

「『再生を無効化する魔法』って書くだけの記録帳、じゃ足りない、って」

「足りない、って」

ダダが、首を傾げた。

「効果は書けても、なぜ授かったのか、条件は書けない。それが、困る理由らしい」

ミラが、補足するように言う。

「相変わらずでござるな、あの人も」

ワングが、小さく笑った。

その夜は、ヘクサインで一晩、ゆっくりと体を休めた。

呪文の使用回数は、これで、元通りになるはずだった。

窓の外は、いつも通りの街の灯りだった。

明日、何が待っているのかは、誰にもわからない。

それでも、休めるうちに休んでおく。

それも、六人が積み重ねてきたやり方のひとつだった。

呪文の使用回数が戻るのを待ち、翌日、六人は再びエアの門をくぐった。

五層への白い道を抜け、見慣れた扉の前に立つ。

扉には、前日と同じ文字が刻まれていた。

「七つの試練。ひとつにつき、ひとつの恩恵あり」

だが、その続きに、新しい一行が加わっていた。

「得た加護を、さらに磨くことが次の道となる」

「加護を、磨く……?」

ノリアが、文字をなぞりながら、首を傾げる。

「意味が、よくわからないでござるな」

ワングも、同じところで、目を細めた。

「一つ目は、封じる呪文を授かった」

ミラが、静かに言う。

「じゃあ、今日も、何かもらえるってこと?」

「もらえる、とは、書いてないでござるが」

ワングが、慎重に言葉を選ぶ。

「磨く、であって、増える、ではないでござろう」

「ますます、わからない」

ネリスが、耳を伏せた。

「わからないなりに、開けるしかない」

カインが、扉に手をかけた。

六人が身構える中、音もなく、扉が開いていく。

その先に立っていたのは、六人の剣士だった。

一人はロングソード、一人はレイピア、一人はバスタード・ソード。

もう一人は大斧、もう一人は長槍を提げている。

そして最後の一人だけが、両手にそれぞれ剣を握っていた。

「六人分、ってことか」

カインが、低く呟く。

「ゴーレム!」

光の中から、ゴーレムが現れる。

「頼む」

スルが、盾を構えたまま、前へ出た。

「かかってこい」

低い声が、部屋に響く。

挑発に、六人の剣士の何体かが、わずかに反応した。

「封癒」

カインが、片手を掲げる。

「守りの聖歌」

ミラの声とともに、淡い光が、六人を包んだ。

戦いは、すぐに始まった。

大斧の一撃が、真正面からゴーレムの腕を打つ。

石の腕に、深い亀裂が入った。

「硬いだけじゃ、ないでござるぞ、あれは」

ワングが、目の端でそれを捉えながら言う。

バスタード・ソードの剣士が、スルの盾へ、続けざまに斬りかかる。

スルとゴーレムが、正面から押し寄せる剣士を受け止める。

さばききれない一撃が、盾の端をかすめていく。

レイピアの剣士が、二人の隙間を、するりと抜けようとした。

「そっちは、通さない」

ネリスが、素早く回り込み、爪で押し返す。

だが、その隙を突くように、長槍の穂先が、二人の間をすり抜けた。

「後ろ、来る!」

ネリスの声が、鋭く飛ぶ。

穂先は、まっすぐノリアの喉元へと伸びていた。

「させない」

ネリスの爪が、間一髪、槍の軌道を弾く。

「ありがと……!」

ノリアが、息を呑みながら答えた。

ワングは、双剣の剣士と、一人で向き合っていた。

村雨と、相手の二刀が、幾度も打ち合う。

「なかなか、譲らぬでござるな」

ワングが、押し合ったまま、低く呟く。

答えるように、相手の剣が、さらに鋭さを増した。

ミラの剣が、ロングソードの剣士と噛み合う。

受け流し、切り返し、また受け流す。

いつもの、いなす動きだった。

だが、相手も同じように、いなしてくる。

「これは……」

ミラが、小さく息を吐いた。

カインの剣は、バスタード・ソードの剣士と、鍔迫り合いを続けていた。

力比べでは、分が悪い。

「ちょっと、重いな、これは」

カインが、歯を食いしばりながら呟く。

ミラとカインも、それぞれの剣士と斬り結んでいく。

だが、決定打には、なかなか届かない。

一進一退のまま、時間だけが過ぎていった。

「ノリア、動けない」

カインが、叫ぶ。

前線の剣士と、直接渡り合う手段を持たないノリアを、誰かが守り続けなければならない。

その分、他の五人の手が、どうしても後手に回っていた。

「ミラ、守りの聖歌、重ねて!」

ノリアが、叫ぶ。

「わかった」

ミラが、頷き、剣を返しながら唱える。

「守りの聖歌!」

淡い光が、もう一重、六人を包んだ。

ミラの詠唱が終わるのを、ノリアは確かに見届けていた。

「業炎獄!」

「業炎獄!」

二重の炎が、六体の剣士を、まとめて呑み込む。

すさまじい熱が、部屋いっぱいに広がった。

――消えた。

そう思ったのは、一瞬だけだった。

炎が晴れると、六体はまだ、そこに立っていた。

装備には、確かな焦げ跡が刻まれている。

だが、崩れてはいない。

「防御魔法、か……」

カインが、剣を構え直しながら、低く呟いた。

「一旦、引く!」

短く、そう告げる。

「「「了解」」」

ゴーレムが、最後尾に立ち、六人を庇いながら扉へと向かう。

一人また一人、扉をくぐっていった。

最後にカインが、後ろ手に、扉を閉じる。

重い音とともに、部屋の気配が、断たれた。

しばらく、誰も口を開かなかった。

「……手強い、でござるな」

ワングが、肩で息をしながら、ようやく言う。

「守りの聖歌、二重にしても、焦げ跡までしか、いかなかった」

ミラが、剣を鞘に納めながら、静かに言う。

「業炎獄、二連発でも、駄目だったのは、初めてかもね」

ノリアが、汗を拭いながら答えた。

「あの防御、呪文だとしたら、どこから来てるんだろう」

カインが、閉じた扉を、じっと見つめる。

「六体、それぞれ、武器も動きも、違ってたでござる」

ワングが、思い出すように言う。

「でも、あの防御だけは、全員、共通してた」

「加護を磨く、って言葉の意味、まだわからないままだけど」

ノリアが、続けた。

「一つだけ、はっきりしたことがある」

「なに」

ネリスが、聞く。

「今日の私たちじゃ、まだ、足りないってこと」

ノリアの声に、誰も、すぐには言い返さなかった。

「封癒、使ったけど」

カインが、ぽつりと言う。

「あいつら、再生、してなかったな」

「してなかった、でござるな」

ワングも、頷く。

「念のため、だったんだけどな」

カインが、苦笑する。

「無駄には、ならない。次も、備えとして使う」

ミラが、静かに言った。

「備え、か」

ネリスが、腕を組む。

「今日は、空振りだったけど、いつか、当たる日が来るかもしれない」

「来ないに、越したことはないでござるが」

ワングが、苦笑した。

「足りないなら」

カインが、静かに言う。

「わかるまで、何度でも、挑むしかない」

「賛成」

スルが、短く応じた。

その一言に、誰からともなく、小さく笑いが漏れる。

閉ざされた扉の向こうに、六つの影は、まだ静かに立っているはずだった。


いかがでしょうか?


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