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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
第五部 迷宮エア編 四層

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第179話「賭けた終焉、開かれた道」

マランの世界、連日投稿してます。

毎日2話投稿中です。


杖持ちの一体を仕留めきれないまま、乱戦はなおも続いていた。

数はまだ、六体のまま。

一体たりとも、減っていない。

疲労だけは、確実に積み重なっていた。

それでも、狙いはいつの間にか一人に絞られていた。

その狙いの正確さが、かえって不気味だった。

「またノリアか!」

カインが、舌打ちしながら叫ぶ。

四体の棍棒持ちが、示し合わせたように、揃ってノリアへ迫っていた。

巨躯が迫る地響きが、腹の底まで響いてくる。

一番、消耗している者から潰す気なのは、もう疑いようがなかった。

悪意すら感じる、迷いのない動きだった。

「二体は、私が引きつける」

ネリスが、低い姿勢のまま横合いへ回り込む。

爪が、迫る一体の太い足へ深く食い込んだ。

痛みに怯んだ巨躯が、わずかに標的から逸れる。

浅い傷では、動きは止まらない。

だが、残る二体の勢いまでは止められない。

「させない」

スルが、盾を構えたまま、ノリアの前へ滑り込む。

太い棍棒の一撃が、盾に叩きつけられた。

重い衝撃音が、部屋いっぱいに響き渡った。

腕全体が痺れるほどの衝撃だったが、スルは踏みとどまる。

足の裏が、床に深くめり込んでいた。

「大丈夫……?」

ノリアが、青ざめた顔で背中越しに聞いた。

「平気」

スルが、短く答える。

その一言だけで、押し込まれている実感までは隠せていなかった。

額に滲む汗が、それを何より物語っていた。

「加護の盾!」

ミラの声が飛んだ。

淡い光が、スルの体を包む。

「加護の盾!」

続けて、ノリアにも同じ光がかけられた。

「ありがとう……!」

ノリアが、掠れた声で答える。

安堵の色が、青白い顔にわずかに戻った。

二重の防御に守られ、ようやく息をつく間ができた。

それでも、油断はできなかった。

一方、右手にいた杖持ちは、まだ体勢を崩していなかった。

「拙者が、決めるでござる」

ワングが、掌に残った力を絞り出すように構える。

「滅却光!」

白く濁った光が、防御ごと巨躯を貫いた。

貫かれた敵の体が、大きく傾いていく。

よろめく敵の隙を、カインが逃さない。

踏み込んだ剣が、一閃。

首が、鈍い音とともに地に落ちた。

光の粒子となって、巨躯が崩れていく。

「青黒、あと一つ!」

カインの声に、わずかな安堵が混じる。

だが、まだ半分だった。

誰の顔にも、安堵より緊張の方が色濃く残っていた。

「もう一体は、私がやる」

ノリアが、乱れた息のまま杖を握り直す。

「雷殺!」

「雷殺!」

二つの雷が、間を置かず重なって落ちた。

青白い光が、部屋全体を一瞬照らし出す。

最後の杖持ちが、声もなく崩れ去る。

「残り4体!」

ネリスが、爪から滴る血を振り払いながら叫んだ。

戦いの熱が、その声ににじんでいた。

安堵する間もなく、棍棒持ちの一体が、体勢を立て直して踏み込んでくる。

「雷殺!」

ノリアの雷が、その膝を撃ち抜いた。

崩れ落ちる巨躯を、ワングが見逃さない。

「もらった!」

村雨が、深く突き立てられる。

手応えとともに、巨躯が崩れ落ちていった。

「残り3体!」

スルが、盾を構え直しながら短く数えた。

気を抜く暇は、どこにもなかった。

だが、残る三体は、これまでよりずっと頑強だった。

膝を折らせても、すぐにまた立ち上がってくる。

その頑強さに、誰もが息を呑んだ。

削っても削っても、埋まらない差のように思えた。

「回復も、もう底が見えてる」

ミラが、震える声で漏らす。

「攻めの手駒も、似たようなものでござる」

ワングが、荒い息のまま応じた。

疲労の色が、その声にも滲んでいた。

誰も、次の一手を軽々しく口にできる状態ではなかった。

重い沈黙が、束の間、六人を包んだ。

「もう出し惜しみしてる場合じゃない」

ノリアが、杖を両手で構える。

「業火弾!」

「業火弾!」

二重の炎が、三体をまとめて呑み込んだ。

「雷殺!」

「雷殺!」

ワングの雷が、炎の上から追い打ちをかける。

「業炎獄!」

カインの炎が、さらに重なった。

三つの攻撃が、同時に敵を襲っていた。

轟音とともに、三体の巨躯が大きく揺らぐ。

視界が、濃い土煙に覆われていく。

土煙が晴れた後も、三体は、まだそこに立っていた。

深く傷つきながらも、倒れない。

焦りの色が、六人の表情に濃く滲んでいた。

「まだ、こんなに耐えるのか……」

ミラが、掠れた声で呟く。

誰の顔にも、これ以上の手駒があるようには見えなかった。

重い沈黙が、その場を支配していた。

三体の巨眼が、なおも六人を見据えていた。

削られても削られても、目の光だけは衰えない。

「仕方ない。いちかばちか……」

ノリアが、震える声で呟く。

その声には、覚悟の重みがにじんでいた。

杖を握る手に、力がこもった。

指先が、白くなるほどだった。

「ノリア、無理は……!」

カインが、止めようと声を上げかけた。

「他に、手が無い」

ノリアが、短く遮る。

これ以上、時間をかければ、こちらの体力が先に尽きる。

誰もが、それをわかっていながら、口には出せずにいた。

せめてもの備えにと、カインが、掌をノリアへ向ける。

「まだ、一回だけ……!」

「加護の盾!」

ミラがかけていた光の上に、もう一枚、薄い盾が重なった。

淡い光が、二重に折り重なって輝いていた。

だが、言い終わるより早く、ノリアはすっくと立ち上がっていた。

「終焉!」

声を張り上げた瞬間、これまでとは違う何かが、荒れ狂いながら三体を包み込む。

空気そのものが、軋むように震えた。

視界を白く染める光が、部屋中に満ちる。

三体が、跡形もなく崩れ落ちる。

長かった戦いに、ようやく終止符が打たれた。

だが、同時に、猛烈な跳ね返りが六人を襲った。

「うぐっ……!」

全員が、その場に膝をつく。

耳の奥まで、鈍い痛みが響いていた。

中でも、ノリアの様子が明らかにおかしかった。

加護の盾を二重にかけられていたはずなのに、糸が切れたように倒れ込む。

誰もが、その異変にすぐ気づいた。

「ノリア!」

ミラが、駆け寄りながら悲鳴を上げた。

抱き起こしても、息がほとんど感じられない。

ミラの手が、小刻みに震えていた。

「完全治癒!」

残り僅かな光が、ノリアの体に注ぎ込まれる。

祈るような手つきで、ミラが光を送り込んでいく。

長い一瞬の後、かろうじて息が戻った。

その場にいた全員が、安堵の息を漏らした。

「次は、スル……!」

ノリアを庇って盾ごと弾き飛ばされていたスルも、深い傷を負っていた。

ミラが、震える手で最後の完全治癒を重ねる。

手の震えが、消耗の深さを物語っていた。

「みんなにも……!」

カインが、残った力を振り絞って両の掌を掲げる。

「群癒!」

淡い光が、六人全体を柔らかく包んだ。

強張っていた指先に、わずかな温もりが戻る。

ミラも、癒しの波を絞り出すように唱え続ける。

最後の力を振り絞るような詠唱だった。

強張っていた六人の体から、少しずつ力が戻ってくる。

肩を大きく上下させるワング、村雨を杖代わりにして立つカイン、盾に寄りかかったまま動かないスル。

満身創痍という言葉が、これほど似合う場面もなかった。

ネリスも、爪を握ったまま、その場にへたり込んでいた。

誰も、口を開く元気すら残っていなかった。

荒い呼吸だけが、部屋に響いていた。

六人が、ようやく体を起こせるようになった頃。

いつの間にか、背後の扉が、音もなく開いていた。

「勝ったのか? 終わったのか?」

カインが、掠れた声で呟く。

誰も、すぐには答えられなかった。

実感の伴わない表情が、六人の間に広がっていた。

答える代わりに、六人はしばらく、その場に座り込んだままでいた。

崩れ去った巨躯の跡には、灰と粉塵だけが静かに積もっている。

音一つない静けさが、部屋全体を包んでいた。

これまでの部屋のボスたちが、代わる代わる立ちはだかり続けた、あの長い一続きの戦いだった。

それが今、ようやく途切れている。

その事実が、まだ実感として追いついていなかった。

「終わった、んだよな……?」

ネリスが、確かめるように呟いた。

誰も、すぐには頷けなかった。

確かに、何かが終わったのだと体が知っていた。

それでも、開いた扉の先から、これまでとは違う静かな空気が流れ込んでくる。

苦労の連続だった戦いが、ようやく終わっていた。

いかがでしょうか?


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