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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
閑話 その三

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第17話「見つけた扉、通れない扉」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

朝、アーカイブに寄ることになった。


「三層、そろそろ奥まで来てる。先の情報、確認しとくか」


カインが言うと、誰も反対しなかった。


---


アーカイブの資料室は、朝から静かだった。


司書が、古びた記録帳を何冊か出してくる。


「三層、四層のことですね」


「はい」


カインが頷く。


「三層と四層の境目には、ボス部屋があります。倒せば、四層への道が開く仕組みです」


「倒せば開く、って。誰が倒してもいいのか」


カインが聞く。


「そこが、ちょっとややこしいんです」


司書が、記録帳のページをめくる。


---


「記録上、ボスを倒したパーティの構成員には、道が開いて見えるそうです」


「他のパーティには?」


ダダが聞く。


「開いて見えない、という証言があります。同じ部屋に、まだ扉が閉じたままだったと」


「なんだそれ」


ネリスが、眉を寄せる。


「わかりません。誰も、仕組みまでは解明していません」


司書の答えは、素っ気なかったが、誠実でもあった。


---


「つまり」


ミラが、静かに整理する。


「自分たちで倒さないと、道は開かない、ってこと」


「そういうことに、なると思います」


司書が頷く。


「先に誰かが倒してても、その恩恵には預かれない、と」


「厳しいな」


カインが、腕を組む。


「厳しいですが、迷宮の選別と同じで、理由まではわかっていません」


---


「そのボス、強いのか」


ダダが聞く。


「三層のボスは、比較的経験の浅いパーティでも、装備と連携次第で対応できる、という記録が残っています」


「比較的、ね」


「あくまで、記録上の話です」


司書の念押しに、カインは苦笑した。


「わかった。ありがとう」


---


門をくぐり、二層を抜けて、三層へ降りる。


分岐廊下は、もう見慣れた景色になりつつあった。


「今日は、奥まで行くぞ」


カインの声に、力がこもっていた。


---


進んでいくうちに、通路の先に人影が見えた。


「誰か、いる」


ネリスが、耳を伏せて足を止める。


「他のパーティか」


カインも、警戒しながら足を緩めた。


---


近づくと、四人組の冒険者が、壁際で装備を確認しているところだった。


「あ、どうも」


先方の一人が、先に声をかけてきた。


「どうも」


カインが、軽く手を挙げて返す。


「三層、奥まで来てるんですね」


「そちらも」


「一応。ボス部屋、探してるとこです」


その一言に、五人の目が揃って動いた。


---


「ボス部屋、見つけたんですか」


カインが、思わず聞く。


「見つけました。でも」


相手が、苦笑いを浮かべる。


「別のパーティが先に倒したあとだったみたいで。扉、開かなかったんですよ」


「やっぱり」


ダダが、低く呟く。


「やっぱり、って知ってたんですか」


「さっき、アーカイブで聞いてきたところで」


「ああ、なるほど。噂通りだ」


相手が、納得したように頷いた。


---


「教えてもらっても?ボス部屋の場所」


カインが聞く。


「いいですよ。どうせ、うちらは出直しなんで」


四人組が、簡単に道順を教えてくれる。


「ありがとうございます」


「お互い、頑張りましょう」


短いやり取りだったが、迷宮の中で他のパーティと顔を合わせるのは、五人にとって初めてのことだった。


---


「他のパーティと会うの、初めてだな」


歩きながら、カインが言う。


「浅瀬なら、もっと会うって聞くけど」


ネリスが答える。


「三層まで来ると、もう人数減るからな」


ダダが付け加えた。


「今日は、たまたまだったのかも」


ミラが、静かに言う。


たまたまなのか、それとも三層でも稀に起きることなのか、誰にも判断はつかなかった。


---


教えられた道を進むと、やがて大きな扉が見えてきた。


石造りの重い扉に、彫り込まれた紋様が浮かんでいる。


「これか」


カインが、扉に手を触れる。


冷たい石の感触が、指先に伝わった。


---


「開くのか、これ」


カインが、力を込めて押してみる。


扉は、わずかにも動かなかった。


「開かない」


「さっきの話、本当だったんだな」


ダダが、扉を見上げながら言う。


先に倒されたわけでもないのに、開かない。


まだ誰にも、この部屋の主が倒されていない証拠だった。


---


「じゃあ、今度は俺たちの番か」


カインが、剣の柄に手をかける。


「今日、行くのか」


ネリスが聞く。


「今日は、まず様子見でいいと思う」


ミラが、割って入った。


「様子見?」


「扉の向こう、何がいるか分からないまま突っ込むのは、危ない」


ミラの言葉に、迷いはなかった。


---


「準備、してから来た方がいい」


ダダも、頷く。


「装備は、この間新調したばかりだけど」


「装備の話じゃない。情報の話」


ミラが、続ける。


「アーカイブに、ボスの詳しい記録、あるかもしれない」


「戻って、調べるか」


カインが言う。


「調べよう」


五人の意見が、珍しく迷いなく揃った。


---


扉の前を離れる前に、カインがもう一度、石の紋様を見上げた。


「次は、ここ開けような」


誰に言うでもない一言だったが、隣でダダが小さく頷いた。


「開ける」


短い返事に、確かな覚悟がにじんでいた。


---


帰り道、五人の足取りは軽かった。


「今日、収穫あったよな」


カインが言う。


「あった」


ダダが頷く。


「ボス部屋、見つけたし」


「他のパーティにも、会えたし」


ネリスが続ける。


「開かなかったけど」


ミラが、静かに付け足した。


「開かなかったのも、収穫のうちだろ」


カインが、笑いながら言う。


開かない扉を見て安心する、というのは妙な話だったが、少なくとも、まだ誰にも先を越されていないことは、確かめられた。


---


門を抜けて、外に出る。


日は、まだ十分に高いところにあった。


「アーカイブ、もう一回寄るか」


カインが言う。


「寄ろう」


ダダが頷く。


「ボスの情報、あるだけ集めた方がいい」


ミラの言葉に、誰も異論はなかった。


四層への扉は、まだ固く閉じたままだった。


だが、それを開ける鍵は、もう五人の手の中にあるように思えた。


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

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