第16話「五人分の呼吸」
マランの世界、毎日投稿中です。
当面、数話を連続投稿の予定です。
お楽しみいただけましたら幸いです。
フォージタウンの朝は、まだ槌の音が続いていた。
「盾、間に合ったか」
カインが、工房の前で聞く。
「間に合った。芯から組み直した分、前より重い」
ダダが、新しい盾を掲げてみせる。
「重いの、平気なのか」
「平気じゃないと、盾役やってない」
短い返事に、迷いはなかった。
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門の前で、五人が並ぶ。
「今日は、装備全部新しいな」
ネリスが、鋼の爪を軽く鳴らす。
「新しいのは道具だけにしとけよ」
カインが返す。
「気合いは元から十分」
「元からって言うわりに、今日は早起きだったな、珍しく」
「うるさい」
軽口を叩き合いながら、五人は門をくぐった。
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二層までは、迷わず進めた。
見慣れた通路、見慣れた分岐。
「ここまでは、体慣らしだな」
カインが言う。
「体慣らしで、もう息切れてたら困る」
ダダが釘を刺す。
石段を降りると、空気の温度が変わった。
分岐廊下特有の、ひやりとした重さが足元から上がってくる。
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「右奥、動きあり。三体」
ミラの声が、真っ先に飛んだ。
「三体、多いな」
カインが、剣の柄に手をかける。
「ダダ、正面。ネリス、右から回って。私は後ろで見る」
ミラの指示に、迷いがなかった。
「了解」
三人が、ほぼ同時に動いた。
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甲殻型が、通路の奥から一斉に現れる。
「引きつける」
ダダが、新しい盾を構えて前に出た。
体当たりが、正面から盾に当たる。
鈍い音がしたが、盾はびくともしなかった。
「軽い」
ダダが、驚いたように呟く。
「前のより、受けた衝撃が小さい」
「補強、効いてるな」
カインが、横から斬りかかる。
新しい剣が、甲殻の継ぎ目に食い込んだ。
「刃こぼれ、しない」
カインの声に、確かな手応えがにじんでいた。
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「上から!」
ネリスが跳ぶ。
鋼の爪が、関節の隙間を正確に捉えた。
一体が、崩れ落ちる。
「軽いのに、深く入る」
ネリスが、爪を見つめて呟く。
「褒めてる暇があったら、次」
ダダが、すぐに次の一体を押さえ込む。
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残る一体が、ダダに体当たりを重ねてきた。
「押される!」
カインが焦る。
「押されてない。押し込んでる」
ダダの声には、余裕があった。
盾ごと押し返すと、甲殻型がよろめく。
すかさず、ノリアの手がかざされた。
「ファイア」
小さな爆発が、よろめいた一体の側面を捉える。
砕けた甲殻の破片が、通路に散った。
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「今の、狙いすまして撃ったな」
カインが言う。
「無駄撃ちしたくないから」
ノリアが、短く答える。
以前のように、闇雲に広範囲を焼くのではない。
対象を絞って、確実に仕留める撃ち方に変わっていた。
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「みんな、怪我は?」
ミラが、すぐに確認に回る。
「ない」
「ない」
「大丈夫」
三人が、口々に答えた。
ミラの目が、一人ずつを見て、最後にようやく肩の力を抜いた。
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魔石を拾いながら、奥へ進む。
分岐が、また現れた。
「今日はどっち」
ネリスが聞く。
「地図見ると、右がまだ未踏」
ダダが、羊皮紙を指す。
「じゃあ右」
迷いのない声だった。
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右の通路の先で、擬態と遭遇した。
今度は、壁の一部が不自然に盛り上がっている。
「あれ」
ミラが、真っ先に気づいた。
「呼吸してる」
「また擬態か」
カインが、警戒の姿勢を取る。
「今回は、こっちが先に仕掛ける」
ダダが、盾で壁を強く叩いた。
盛り上がった部分が、悲鳴を上げるように弾ける。
牙を覗かせる前に、カインの一撃が沈めた。
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「先手、取れたな」
カインが、剣を鞘に戻しながら言う。
「前回の教訓、活きてる」
ダダが、頷く。
学んだことが、確かに次に繋がっていた。
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進むほどに、敵の数も密度も上がっていった。
甲殻型が四体、植物型が二体、同時に現れる場面もあった。
「多いな、今日」
カインが、息を切らしながら言う。
「多いけど、対応できてる」
ミラが、すぐに応じる。
「ダダ、正面二体引きつけて。ネリス、右の植物型から。ノリア、左の群れに一発」
指示が、戦況を追いかけて次々に飛ぶ。
「了解」
「了解」
「わかった」
三人の返事が、ほぼ重なった。
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蔓が、地面から突き出す。
「来る!」
ネリスが、既に跳んでいた。
爪が、蔓の根元を切り裂く。
「今回は引っかからない」
得意げな声だった。
「油断はするな」
ダダが、すかさず言う。
「してない」
言い返しながらも、視線は次の敵に向いていた。
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「ファイア」
ノリアの一撃が、群れの中心で爆ぜる。
範囲を絞った爆発が、狙った二体だけを正確に沈めた。
「無駄がないな、それ」
カインが言う。
「無駄がないように、撃ってる」
短い答えの中に、積み重ねてきたものの厚みがあった。
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戦いの合間、ダダの盾に、鈍い衝撃が続いていた。
「ダダ、まだいける?」
ミラが、戦闘の最中でも確認を怠らない。
「まだいける」
「まだいけると、大丈夫は違う。腕、下がってる」
指摘された瞬間、ダダの構えが、わずかに立て直された。
「悪い」
「悪いって言う暇あるなら、直して」
ミラの言葉は短かったが、的確だった。
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最後の一体を、五人で囲んだ。
「せーの」
カインの合図で、四方から攻撃が集中する。
剣、爪、フレイル、そして爆発。
甲殻が、一斉に砕けた。
通路に、静けさが戻る。
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「終わった、か」
カインが、剣を下ろしながら言う。
「終わった」
ダダも、盾を下ろす。
新しい盾には、まだ大きな傷はついていなかった。
「盾、無事だな」
「無事」
短い答えに、確かな満足がにじんでいた。
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魔石を拾い集める。
袋が、思ったより早く重くなっていく。
「これ、過去最高じゃないか」
カインが、袋を持ち上げて言う。
「過去最高」
ネリスが、頷く。
「数えてないけど」
「数えてないのに、断言するのか」
「断言できるくらい、拾った」
いい加減な理屈だったが、誰も訂正しなかった。
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疲労は、確かに全員の足に来ていた。
ダダの盾を持つ手が、わずかに遅れるようになっていた。
カインの太刀筋も、キレを失いつつあった。
「そろそろ、限界か」
カインが言う。
「限界」
ダダが、素直に認めた。
「戻ろう」
ミラの一言に、誰も反対しなかった。
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帰り道、五人の足取りは重かったが、口数は減っていなかった。
「今日、動き良かったよな、全員」
カインが言う。
「良かった」
ダダが頷く。
「ミラの指示、遅れがない」
「遅れないように、見てるから」
ミラが、あっさり答える。
「見てるだけじゃないだろ、フレイルも振ってたし」
「両方やるって、前に言った」
「言ってたな、それ」
短いやり取りの中に、積み重なった信頼があった。
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「ネリスの爪、いい仕事したな」
ダダが言う。
「でしょ。関節、面白いくらい狙える」
「面白いくらいって言うな、戦闘中に」
「本当のことだし」
「本当でも言うな」
軽口の応酬に、疲れた足取りが、少しだけ軽くなった。
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「ノリアの狙い撃ち、無駄がなくなったな」
カインが言う。
「無駄があると、疲れるだけだから」
ノリアが、素っ気なく答える。
「その言い方、成長したみたいで悔しくないのか」
「悔しくない。当然のことだから」
当然、という言葉に、以前の危うさはもうなかった。
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門を抜けて、外に出る。
日は、まだ高いところにあった。
「今日、早いな。終わるの」
カインが言う。
「早いのに、疲れてるのはなんでだろうな」
ダダが、腕を回しながら言う。
「濃かったから、たぶん」
ネリスが答える。
たぶん、という言葉が、今日はやけにしっくりきた。
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エクスチェンジの窓口に、袋ごと持ち込む。
職員が、魔石を量りにかけていく。
「今日は、量が違いますね」
職員が、驚いた声を出す。
「でしょうね」
カインが、得意げに言う。
「得意げになるところじゃないと思う」
ミラが、小さく突っ込んだ。
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換金を終えて、フラグメンツへ向かう。
ガラントが、扉を開けた瞬間に気づいた。
「お、今日はやけに機嫌よさそうだな」
「機嫌いいですよ。稼いだんで」
カインが答える。
「稼いだだけじゃないだろ、その顔」
図星だった。
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丼が五人分並ぶ。
「今日、五人でよく回ったよな」
カインが言う。
「回った」
ダダが頷く。
「ミラの声掛け、地味に効いてる」
「地味な仕事だから」
ミラが、いつもの調子で答える。
「地味じゃないだろ、今日の指示回し」
「地味でいい。目立つ仕事は、他の人に任せる」
短いやり取りに、ネリスが小さく笑った。
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「明日も、三層行くか」
カインが聞く。
「行く」
ダダが即答する。
「行くに決まってる」
ネリスも続く。
「行こう」
ノリアが、静かに頷く。
「行く」
ミラの声も、迷いなく重なった。
五人の声が、今日は綺麗に揃っていた。
道具は整い、連携も積み上がってきている。
あとは、それを持って、また奥へ進むだけだった。
いかがでしょうか?
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