↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
第五部 迷宮エア編 四層

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

177/237

第173話「消えぬ影、剣を持つ影」

マランの世界、連日投稿してます。

毎日2話投稿中です。


がら空きの喉元を突いたはずの手ごたえは、まだ腕に残っている。

だが、今はそれを噛み締めている暇もなかった。

部屋の奥まで、等間隔に並んだ松明の炎が、赤々と揺れていた。

丸盾とレイピアを構えた仮面の剣士が、静かに間合いを詰めてくる。

ワングが、へたり込んだままのカインをかばうように、村雨を構え直した。

「拙者が、まず様子を見るでござる」

「頼んだ」

カインが、短く返す。

「こいつの弱点は、影だったな」

カインが、肩で息をしながら呟く。

七番目の部屋で、一度は倒した相手だ。

だが、今日は勝手が違った。

部屋の壁という壁に、松明がびっしりと並んでいる。

前回の一本きりの灯りとは、まるで違う光量だった。

浮かぶ影は、幾つも、幾重にも重なっている。

濃いもの、薄いもの、輪郭のはっきりしないもの。

「どれが、本物の影なんだ」

ネリスが、目を凝らす。

それらしき影に爪を突き立てても、手応えはない。

「こっちも、駄目」

スルが、別の影を短剣で払った。

刃は、ただ壁を叩くだけだった。

「そっちも」

ミラも、近くの影を長剣で突く。

やはり、何も起こらない。

「拙者が見た影も、はずれでござった」

ワングが、舌打ちする。

「真贋の瞳は、道具にしか効かないでござる。今は、頼りにならないでござるな」

ワングが、首を振った。

「だよな」

カインが、頷いた。

「なら、こっちは」

カインも、剣先を近くの影へ突き込んだ。

無駄だった。

舌打ちが、また一つ、増えていった。

五人がかりで手当たり次第に影を狙っても、当たりは一つも出ない。

「数打ちゃ当たる、ってわけでもないらしい」

ノリアが、忌々しげに呟いた。

「なら、これならどう」

ノリアが、影の一つへ狙いを絞り、小さな火花炎を放つ。

これも、外れだった。

剣士のレイピアが、迷うことなく振り下ろされる。

「くっ……!」

ミラが、盾で受け止めた。

浅く、腕を裂かれる。

「大丈夫か!」

カインが、声を上げた。

「これくらい、平気」

ミラが、傷口を押さえながら、なおも立ち位置を保つ。

「今度は、私が」

ミラが、体勢を立て直し、長剣を突き出した。

切っ先は、あっさりと弾かれる。

「拙者も」

ワングが、村雨を横に薙いだ。

こちらも、同じく弾かれた。

物理は、通じない。

以前と、変わらない前提らしかった。

「守護の盾、お願い!」

ノリアが、ワングに叫ぶ。

「承知!」

ワングの唱えた光が、六人を包んだ。

ノリアが、大きく杖を振りかぶる。

「業炎獄!」

すさまじい炎が、剣士を丸ごと呑み込んだ。

熱気が、部屋の空気ごと揺らす。

炎が収まった後も、剣士は、そこに立っていた。

傷らしい傷は、どこにも見当たらない。

「嘘でしょ……」

ノリアが、杖を握る手を、震わせた。

「なら、これも試す」

ミラが、杖を掲げ、裁きの光を放つ。

前の相手には効いた光も、こちらには何の反応も引き起こさなかった。

「聖魔法も、駄目か」

ミラが、肩を落とす。

「連発できる回数も、そう残ってない」

ノリアが、小さく息を吐く。

「影しか、弱点はないのか」

カインが、歯を食いしばる。

松明の炎が揺れるたび、影の輪郭も揺れて、狙いを定めさせない。

無数の影の中から、正しい一つを選び当てることは、賭けに等しかった。

「もう一度、手当たり次第に……」

ネリスが、爪を構え直しかける。

足元で、ミーが、ひょうひょうと呟いた。

「無ければ、作ればいい」

「……作る?」

カインが、聞き返す。

「影を、作れって言うのか」

ワングが、松明の並ぶ壁を見渡した。

「そうか!」

ネリスが、真っ先に駆け出した。

「ネリス、危ない!」

ミラの声にも構わず、壁際の松明を、爪で次々と叩き消していく。

全部ではない。

片側の壁だけを、狙って。

剣士が、ネリスの動きを察知し、間合いを詰めようとした。

「行かせるかよ」

スルが、体を割り込ませて盾で塞ぐ。

「拙者も、加勢するでござる!」

ワングが、剣士の正面に立ち塞がった。

レイピアの切っ先が、スルの盾を掠める。

「浄光!」

ミラが、走りながらスルへ光を飛ばした。

松明が、一つ、また一つと消えていく。

三つ目、四つ目。

壁の陰影が、少しずつ形を変えていく。

「まだ、足りない?」

ネリスが、汗を拭いながら振り返る。

「もう少し!」

カインが、答えた。

「五つ目、いくよ!」

ネリスが、残る力を振り絞って、また一つ叩き落とした。

明かりが半分ほど減った途端、剣士の向かい側の壁に、くっきりとした影が浮かび上がった。

これまでの、薄く重なった影とは、まるで違う。

一つだけ、はっきりと。

「見えた……!」

「そこだ!」

スルが、腰の短剣を影の中心めがけて投げる。

刃は、迷わず吸い込まれていった。

「うぐぅ……」

剣士が、低く唸る。

その体が、光の粒子となって崩れていった。

消えた後、床に短剣だけが転がっていた。

スルが、拾い上げて鞘に収める。

部屋には、束の間の静けさが戻る。

ネリスが潰した松明が、何事もなかったかのように、ひとりでに灯った。

「怪我は」

カインが、皆を見回す。

「浅手だけ」

ミラが、自分の腕を見せた。

「拙者も、かすり傷程度でござる」

「ネリスは?」

カインが、振り返る。

「息が切れただけ」

ネリスが、膝に手をついたまま、笑ってみせた。

「村雨に、目立った刃こぼれはなさそうでござるな」

ワングが、刃を検めながら、ほっと息をついた。

「カインは」

ミラが、気遣わしげに聞く。

「まだ、本調子じゃないけど、動ける」

カインが、剣を握り直しながら、無理に笑ってみせた。

「今度こそ、終わり……」

ノリアが、そう呟いた矢先だった。

同時に、新たな気配が二つ、いや四つ、立ち上る。

鎧の騎士が二体。

ローブの老人が二体。

「……騎士が、剣を持ってる」

ワングが、目を細めた。

五番目の部屋の騎士は、大盾しか持っていなかったはずだ。

反撃をしてこない、大人しい相手だったはずだった。

今、目の前の二体は、大盾に加えて、抜き身の剣まで携えている。

かたや、ローブの老人たちも、以前より心なしか、纏う空気が張り詰めて見えた。

「今度は違う、ってことでござるか」

「ということは」

カインの声が、緊張を帯びる。

「あの老人たちが、ただ突っ立ってるだけの相手だとは、思わないほうがいい」

「魔法も、来るってことか」

ネリスが、爪を構え直した。

「たぶん」

カインが、頷く。

「六番目の部屋では、一撃の格が物を言った、はず」

ノリアが、記憶をたどるように呟く。

「今度も、それが通じるとは、限らないでござるな」

ワングが、釘を刺した。

「物理と魔法、両方来る。今度は」

「なら、役割を分けるでござるな」

ワングが、村雨を構えた。

「拙者とスル殿が、騎士を」

「うむ」

スルが、頷いた。

「私とノリアで、老人たちを引き受ける」

ミラが、頷く。

「俺とネリスは、隙を見て動く」

カインが、皆を見回した。

「隙を見て、っていうのが、いちばん難しいでござるな」

ワングが、苦笑した。

「文句言うなよ。適材適所だろ」

カインが、肩をすくめる。

「異論なし」

ネリスが、爪を鳴らす。

「ララは、呼べないのか」

ネリスが、ふと聞いた。

「試してみる」

カインが、印を組もうとするが、何も反応がない。

「駄目だ、印すら組めない」

「ここでは、召喚も封じられてる、ってことか」

ワングが、唸った。

「私たちの詠唱、老人たちに弾かれないといいけど」

ノリアが、不安そうに漏らす。

「弾かれたら、その時考えるでござる」

ワングが、あっさりと言った。

「休む暇も、なさそうだね」

ノリアが、疲れの滲む声で、杖を掲げ直した。

足元のミーが、小さく鳴いて、六人を見上げる。

「まだ、続くらしいぞ」

その声には、からかうような、それでいて労うような響きが混じっていた。

ミーは、六人から少し離れた物陰へ、するりと身を寄せる。

いつもの、定位置だった。

鎧の騎士たちが、剣を抜き放つ音が、部屋に低く響いた。

二体の騎士が、じり、と半歩前に出る。

ローブの老人たちは、まだ動かない。

老人たちの目だけが、静かに六人を捉えていた。

その静けさが、かえって不気味だった。

六人は、四体を前に、じりじりと身構えた。

いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。

下記の「評価」も、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。