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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
第五部 迷宮エア編 四層

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第171話「集いし影、重なる盾」

マランの世界、連日投稿してます。

毎日2話投稿中です。


十一行目をクリアした翌日、六人は再びエアへ向かった。

九行目、十行目、十一行目。

見慣れた三つの部屋を、迷わず抜ける。

「今日は、拙者たちも入れるでござるな」

ワングが、足元のミーに目をやった。

「前は、カイン殿とララ殿だけだったが」

「みんなで潜るのは、久しぶりって感じ」

ネリスが、伸びをする。

「怪我しても、みゃーは治せないぞ」

ミーが、そっけなく言った。

「わかってるって」

ネリスが、苦笑した。

十二行目の扉の前に立つ。

壁にも、扉にも、まだ何も浮かんでいない。

「今回は、遅いでござるな」

ワングが、怪訝そうに壁を見つめる。

「今までは、着いた時点で、何か浮かんでたのに」

ノリアが、首をかしげた。

「触ってみようか」

カインが、扉に手を伸ばす。

指先が、木の表面に触れた瞬間だった。

文字が、浮かび上がる。

「一つの手を払えても、集まりし手は如何。」

「……何?」

ネリスが、眉を寄せた。

「触らないと、読めなかった、ってことでござるか」

ワングが、扉から一歩離れ、また近づいてみる。

文字は、消えなかった。

近づくだけでは駄目で、手をかけて初めて浮かぶらしい。

「今までとは、違う。仕掛けが」

ミラが、静かに呟いた。

「集まりし手、って」

カインが、その一文を、繰り返す。

「意味は、わからないけど」

ノリアが、腕を組んだ。

「一人ずつ、じゃなさそうなのは、伝わってくる」

「開けてみるしかない」

「異論なし」

ネリスが、真っ先に頷く。

「今度は、六人揃って、でござるな」

ワングが、皆を見回した。

これまでの部屋は、いつも誰か一人が、扉の先へ消えていった。

今日は、違う。

「揃って、行こう」

カインの言葉に、皆が頷く。

足元で、ミーが、小さく伸びをした。

扉に、手をかけた。

---

開いた先、待っていたものに、六人は言葉を失った。

黒い甲冑の剣士。

九行目で、ワングが村雨を手に入れた、あの相手だった。

黒ずくめの、輪郭の掴めない人影。

十行目で、ネリスが手刀を叩き込んだ、あの相手だった。

四本腕の魔物と、顔の見えない男。

十一行目で、カインとララがようやく退けた、あの相手だった。

四体が、横一列に並んで、こちらを見ていた。

「……全員、揃ってるでござる」

ワングの声が、掠れる。

「一人ずつでも、きつかったのに」

ネリスが、爪を構え直した。

「今度は、まとめて」

カインが、足元を見た。

四本腕の魔物が、じりじりと間合いを詰めてくる。

その切っ先は、まっすぐミラへ向いていた。

「危ない!」

カインが、声を上げる。

「ミー、頼む」

「みゃっ」

小さな鳴き声とともに、淡い光が六人を包む。

温かい光が、体の芯まで届いた。

「守護の盾!」

ワングが、真っ先に唱えた。

一度、二度、三度。

光の壁が、三重に展開される。

黒甲冑の剣士が、真っ先に動いた。

袈裟懸けの一撃。

「スル!」

「任せろ」

スルが、盾で受け流す。

刃が、わずかに逸れた。

間一髪だった。

「ありがとう、スル」

ミラが、詰めていた息を吐く。

「次から、先に言ってくれ」

スルが、盾を構え直しながら、短く答えた。

同時に、黒ずくめの人影が、ネリスへ短刀を突き出す。

「見飽きたよ、その動き」

ネリスが、身をひねってかわす。

四本腕の魔物も、太い腕を振り上げていた。

「ララ、頼む」

カインが、印を組む。

淡い光とともに、ララが姿を現した。

「守護の盾!」

ララも、同じ呪文を重ねる。

光の壁が、さらに厚みを増した。

四体が、一斉に踏み込んでくる。

轟音が、部屋を満たした。

床が震え、六人は歯を食いしばって踏みとどまる。

「ノリア、終焉、いけるか?」

カインが、振り返って聞く。

「……まだ、やめとく」

ノリアが、杖を強く握りしめたまま、首を振った。

「バフがかかった今の終焉が、どれだけの威力か、自分でも読めない」

「読めない?」

「下手すれば、あんたたちごと、消し飛ばす」

その一言に、誰も、それ以上は促さなかった。

「良いかも」

ワングが、村雨を構え直しながら呟く。

「終焉!」

「終焉!」

ワングとララ、二つの声が重なった。

すさまじい光が、四体を呑み込む。

「決まった……」

誰かが、そう思った瞬間だった。

「守護の盾!」

顔の見えない男の声が、初めて響いた。

四体を守るように、透明な壁が展開される。

光が収まった後も、四体は、そこに立っていた。

「防がれた……!」

ノリアが、目を見開く。

「同じ、手を使ってきた」

カインが、唇を噛んだ。

味方の光の壁も、あちこちに亀裂が走っている。

三重だったはずの壁は、今や、辛うじて一枚残るだけだった。

「浄光!」

ミラが、素早くネリスの腕の傷を癒す。

「まだ、いける」

ネリスが、爪を握り直した。

黒甲冑の剣士が、間を置かず斬りかかる。

「今度は、拙者が」

ワングが、村雨で受け止めた。

刃と刃が、火花を散らす。

押し合ったまま、動かない。

「一人じゃ、押し切れないでござる。誰か!」

「わかってる」

カインが、剣を抜いて駆け出す。

二人がかりで、ようやく剣士の体勢を崩した。

崩れた隙に、ネリスが、黒ずくめの人影へ爪を叩き込む。

浅く、だが確かに、傷を負わせた。

「もう一枚、いく!」

ワングが、再び「守護の盾」を唱える。

「守りの聖歌!」

ミラの声が、続いた。

淡い光が、六人を包み直す。

「ノリア、頼めるか」

カインが、振り返った。

「言われなくても」

ノリアが、杖を掲げる。

「業炎獄!」

膨大な炎が、渦を巻いて放たれた。

先ほどの、ワングとララ二人がかりの終焉が、児戯に見えるほどの威力だった。

炎が、部屋いっぱいに荒れ狂った。

壁が軋み、床が焦げていく。

誰もが、腕で顔を庇いながら、その場に踏みとどまった。

光が収まった後、そこには、焦げた跡だけが残っていた。

四体は、跡形もなく消えている。

味方の防護魔法も、ぼろぼろだった。

かろうじて、形を保っているだけだった。

「……勝った、のか」

カインが、肩で息をしながら、辺りを見回す。

「勝った、みたいでござるな」

ワングも、村雨を鞘へ収めながら、大きく息を吐いた。

「みんな、怪我は?」

ミラが、慌てて六人を見回す。

「かすり傷程度」

ネリスが、腕を上げてみせた。

「拙者も、同じく」

「なら、良かった」

ミラが、胸を撫で下ろす。

「四本腕、ミラを狙ってたでござるな」

ワングが、額の汗を拭いながら、ミラを見る。

「たぶん、一番の回復役から、潰すつもりだったんだと思う」

カインが、重い声で言った。

「ぞっとしない狙い方でござるな」

「みゃー、次から、私が先に教えよう」

ミーが、そっけなく口を挟む。

「それ、早く言ってよ!」

ネリスが、思わず声を上げた。

「ミーのバフ、有効な時の魔法って、難しい……」

ノリアが、ぼそっと呟いた。

「難しい?」

カインが、聞き返す。

「威力が、いつもと違いすぎる」

ノリアが、杖に寄りかかりながら言った。

「加減がわからない。今のだって、危うく壁ごと巻き込むところだった」

「それは、それで、頼もしいでござるが」

ワングが、苦笑する。

「頼もしいけど、怖い」

ノリアが、正直に言った。

その言葉に、誰も、笑い返せなかった。

板に目を落とすと、十二行目の文言の下に、新しい一文が浮かんでいた。

「十三行目」

その先は、まだ、白紙のままだった。

足元で、ミーが、大きくあくびをする。

今日は、これで十分だ、と言わんばかりの顔だった。

---

その日の帰り、クロスロードに立ち寄った。

「十二行目、クリアです」

カインの報告に、リゼットが、書類から顔を上げる。

「今回は、六人まとめてでした」

「珍しいですね」

リゼットが、少し目を丸くする。

「これまでの部屋は、単独入場が多かったのに」

「相手も、まとめて出てきました」

カインが、苦笑気味に言う。

「九行目、十行目、十一行目。全部の相手が、一緒に」

「それは、災難でしたね」

リゼットが、静かにペンを走らせた。

「怪我人が出なかっただけ、良しとしましょう」

「本当に」

カインが、心底そう思いながら頷いた。

「文言も、扉に触れないと読めなかったんです」

「新しい仕掛けが、増えたということですね」

リゼットが、報告書に書き加える。

「ええ。十三行目が、どんな部屋になるのか」

カインが、板を見下ろした。

まだ、何も刻まれていない。

「みゃー」

足元で、ミーが、小さく鳴いた。

その声には、いつもと変わらない、そっけなさが滲んでいた。

それでも、今日ばかりは、少しだけ、労うような響きに聞こえた。

いかがでしょうか?


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