↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
第五部 迷宮エア編 四層

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

165/237

第161話「守られた盾、放たれた終焉」

マランの世界、連日投稿してます。

毎日2話投稿中です。


朝、フォージタウンの工房に、六人は顔を揃えていた。

「盾は、まだ途中だ」

ダダが図面を広げたまま、渋い顔をする。

「粘りのある芯材を、探しているところでな」

「普通の鉄じゃ、駄目なのか」

ネリスが工房の棚を覗き込む。

「厚くすれば重くなる、薄くすれば割れる」

ダダが渋面のまま腕を組んだ。

「今のところ、いい落としどころが見つからない」

「今の盾で、いい」

スルが自分の得物を軽く叩いた。

「待ってる時間の方が、もったいない」

「無理はするな、とは言わないでおく、と言ったばかりだぞ」

ダダが渋い顔のまま、スルを見た。

「聞かない性分だ」

スルが短く笑う。

「なら、行かせてやろう」

カインが息を吐いた。

「本人の意向だ」

「まずは、任せよう」

誰も、これ以上は止めなかった。

ダダが、仕上げかけの盾の縁に、簡単な当て金だけを打ちつける。

「気休めだが、ないよりはましだ」

「充分だ」

スルがそれを受け取り、腕に通した。

「ありがとう」

エアへ入り、一部屋目、二部屋目、三部屋目を抜ける。

もう何度も通った道のりだった。

やがて、四つ目の扉の前に立つ。

「行ってくる」

スルが盾を構え、扉をくぐった。

五人は前室に残り、耳を澄ませた。

しばらくは、何の音もしなかった。

「様子は」

カインが扉に耳を寄せる。

「まだ、動きはないみたいでござる」

ワングが扉に手を添えたまま、低く応じた。

不意に、重い金属音が、扉の向こうから響いてくる。

一度。

二度。

三度。

「押されてる」

ネリスが扉に耳をつけたまま、顔をしかめた。

「音の重さが、こっちの武器のそれとは違う」

「拙者たちが束になっても、危ういでござる」

ワングが、剣の柄を強く握りしめた。

四度。

五度。

音の間隔が、次第に短くなっていく。

カインは、拳を握ったまま、ただ祈ることしかできなかった。

「スル、無事か!」

カインが扉に向かって叫んだ。

返事はなかった。

かわりに、悲鳴に近い呻き声が届いた。

「まずい」

ミラが顔色を変える。

「戻れ、スル! 今すぐ戻れ!」

ワングが声を張り上げた。

長い沈黙のあと、扉が内側から押し開けられる。

スルが、片膝をついたまま、転がるように前室へ戻ってきた。

肩から胸にかけて、深い一撃の跡があった。

「スル!」

ネリスが真っ先に駆け寄る。

「完全治癒」

ミラの詠唱が、白い光となってスルを包んだ。

傷が、見る間に塞がっていく。

「間に合った……」

ミラが額の汗を拭う。

「あと、少し遅れてたら」

「わかってる」

カインが唇を噛んだ。

「俺も、行った方がいいんじゃないか」

「駄目でござる」

ワングが即座に遮った。

「一人という条件、それ自体は崩せないでござろう」

「わかってる、わかってるけど」

カインが拳を握る。

「見てるだけなのが、一番きつい」

ネリスは、スルの手をずっと握ったままだった。

「もう、いなくなるところだった」

「悪い」

スルが、ネリスの頭に軽く手を置く。

「心配、かけた」

「次はない」

ネリスが、涙目のまま睨みつけた。

「わかってる」

スルが小さく頷いた。

「今ので、わかったこともある」

スルが荒い息のまま、身を起こした。

「盾で受けても、削り切れない」

「一撃、一撃が重すぎる」

「一人で削るには、時間が足りない」

「向こうは、疲れないのか」

ネリスが唇を噛む。

「休む素振りすら、なかった」

スルが力なく首を振った。

「充分だ」

ワングがスルの肩に手を置いた。

「もう、無理をしなくていい」

「悔しいが、その通りだ」

スルが小さく頷いた。

そのとき、ノリアが立ち上がった。

その顔に、いつもの余裕はなかった。

「じゃあ、私が行ってくる」

「え」

カインが振り向く。

「ノリア」

「待って」

ネリスが引き止めようとした時には、もう遅かった。

ノリアは杖を握り直し、さっさと扉へ歩き出していた。

「おい、待て!」

「ノリア殿、せめて策を!」

二人の声も、彼女の足を止めなかった。

「庇護陣!」

カインが慌てて詠唱する。

淡い光が、ノリアの背中に重なった。

「拙者もでござる、庇護陣!」

ワングも続けて唱える。

光が、もう一段、重ねて輝いた。

ノリアが、扉の向こうへ踏み込む。

黒い両角の魔物が、緩慢にこちらへ向き直るのが見えた。

血の跡が、大剣の刃にまだ残っている。

スルを追い詰めた、その剣だった。

「ええい、めんどくさい」

ノリアが杖の先を突きつける。

「終焉!!」

極大の光が、視界を白く塗りつぶした。

「終焉!!」

間を置かず、二発目が重ねて放たれる。

前室にいた五人は、思わず腕で顔を庇った。

だが、衝撃も熱も、扉の外までは届かなかった。

しばらくして、白い光が引いていく。

「消えた……」

ネリスが恐る恐る覗き込む。

扉の奥には、もう何も立っていなかった。

「クリア、なのか」

カインが呆然と呟いた。

(俺の加護は、これで一つ、近づいたんだろうか)

そう思ったが、口には出さなかった。

「らしい、でござるな」

ワングも、まだ信じられない様子だった。

ノリアが、杖を肩に担いで戻ってくる。

足取りは、思ったよりしっかりしていた。

「ローブが、ちょっと熱かった」

そう言って、袖口を軽く払った。

「庇護陣、二重にかけてなかったら」

ミラが青ざめる。

「危なかったかもしれない」

「反動を、全部その身で受けてたら、ってことでござるな」

ワングが額の汗を拭った。

「考えたくもないでござる」

「あたしの魔力を、ダダのローブが逃がしてくれてる」

ノリアが涼しい顔で答えた。

「それでも、余裕はなかったけどね」

腕には、うっすらと火傷の痕が残っていた。

「二連発なんて、正気か」

カインが額に手をやる。

「スルが、あそこまでやられてるの見たら」

ノリアが肩をすくめた。

「悠長に、様子見てる気分じゃなかった」

「無事なら、なによりでござる」

ワングが胸を撫で下ろす。

「無茶を叱る元気も、今は出てこないでござるよ」

「黒いドラゴンより、格上かもしれないでござるな」

ワングが扉の奥を振り返る。

「氷も炎も通じなかった、あの時とは、また違う怖さでござった」

「今度は、術そのものが通じるだけ、まだましだったのかもね」

ミラが静かに言葉を継いだ。

「終わったなら、いい」

スルが息を整えながら言う。

「悔しくは、あるけどな」

「悔しがるのは、次の盾ができてからにしろ」

カインが軽く肩を叩く。

「俺の分まで、片づけてくれたわけだ」

「借りは、また今度返して」

ノリアが軽く笑った。

「利子付きで、待っててやる」

スルも、つられて笑った。

板に刻まれた四行目の文言は、光を帯びたまま、そこに残り続けていた。

五行目は、まだどこにも現れていない。

「次の部屋に着くまでは、何も浮かばないでござるか」

ワングが板を覗き込む。

「今度は、どんな文句が待ってるんだか」

ネリスが呟いた。

「今日みたいなのは、もう懲り懲りだ」

カインが天井を仰いだ。

誰も、すぐには答えなかった。

六人は顔を見合わせ、それから、どちらからともなく笑った。

一人で挑んで、危うく命を落としかけた部屋を、もう一人が待たずに終わらせてしまった。

その日の夕方、六人はフォージタウンの工房に立ち寄った。

「盾は、間に合わなかったな」

ダダが図面をしまいながら、苦笑する。

「間に合わなくて、良かったのかもしれない」

スルが自分の腕を軽く回した。

「向こうが、先に片づいた」

「片づけたのは、あたしだけどね」

ノリアが胸を張る。

「そこは、素直に感謝しておく」

スルが頭を下げた。

「珍しいでござるな、スルが頭を下げるとは」

ワングが目を丸くする。

「借りは、借りだからな」

スルが真面目な顔で言った。

「ローブの調子は」

ダダが興味深そうに尋ねた。

「まだ着られる」

ノリアが袖をつまんで見せる。

「次は、もう少し、頑丈にしてくれると助かる」

「善処する」

ダダが小さく笑った。

四行目の文言が刻まれたままの板には、五行目にあたる新しい一行は、まだ影も形もなかった。

「次は、あたしの番じゃなくてもいいけどね」

ノリアが伸びをしながら笑う。

「贅沢言うな」

カインも、つられて笑った。

工房の窓の外は、もう橙色の夕焼けに染まっていた。

わからないことばかりの迷宮で、今日もまた一つだけ増えて、一つだけ減っていた。

いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。

下記の「評価」も、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。