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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
第五部 迷宮エア編 四層

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第159話「届いた裁き、守り抜いた盾」

マランの世界、連日投稿してます。

毎日2話投稿中です。


翌朝、ヘクサインの食堂に、六人はまた集まっていた。

「整理しよう」

カインが羊皮紙の端に、昨日の顛末を書き出していく。

「剣も爪も、たぶん効かない」

「拙者たちの得物は封じられたまま、ということでござろうな」

ワングが氷姫の鞘を軽く指で叩く。

「頼れるのは術だけだ」

カインが頷いた。

「あとは、どの術で、どう攻めるか」

「リッチには」

ミラが静かに切り出す。

「終末の裁きが効くと思う」

「聖属性でござるな」

ワングが目を細めた。

「アンデッド相手には理屈に合うでござろう」

「あれは、めったに使わない切り札だけど」

ミラが少し緊張した面持ちで続ける。

「今回は出し惜しみしない」

「神域と、同じ枠を使う呪文でござったな」

ワングが思い出したように言う。

「第七階梯は、二つとも、同じ回数の中から使う」

ミラが頷いた。

「今日は、両方、使うことになると思う」

「足りるのか」

カインが心配そうに聞く。

「九回まで溜まってる。二つ使っても、まだ余裕はある」

「なら、心配いらないでござるな」

ワングが軽く笑った。

「魔女の方は」

ノリアが杖の先で机を軽く叩く。

「あたしとワングで、雷殺を一体ずつ」

「個別に確実に削るでござるな」

「弱い呪文が弾かれたなら」

カインが腕を組む。

「今度は力で押し切る」

「あたしと、スルは」

ネリスが自分とスルを指差した。

「今回も、丸腰?」

「前で見張りを頼む」

カインが頷く。

「跳ね返りが、どこから来るかわからない。気づいたら、すぐ声を出してくれ」

「俺は、盾で受ける」

スルが静かに応じた。

「僕は、二人に庇護陣をかけておく」

カインが印を確かめるように指を組む。

「攻めは三人に任せて、俺たちは守りに回る」

誰も異を唱えなかった。

「本当に、これで、いけるでござろうか」

ワングが少し不安げに、机の上の羊皮紙を見つめた。

「わからない」

カインが正直に答える。

「でも、やってみないことには、わからないことばかりだ」

「違いない」

ワングが笑って立ち上がった。

「行くか」

エアへ向かい、一部屋目、二部屋目を迷いなく抜ける。

一部屋目の広間は静まり返ったままで、二部屋目にはまだ、あのサーベルタイガーの爪痕らしき傷が壁に残っていた。

三部屋目の扉の前、六人は一度だけ顔を見合わせた。

「行くぞ」

カインの声で扉が開く。

石の広間には、あの日と同じ、リッチ二体と魔女二体が待っていた。

冷たい空気も、紫の光も、記憶のままだった。

「庇護陣」

カインの詠唱がスルの体を淡い光で包む。

「もう一度、庇護陣」

続けて、同じ光がネリスの体を覆った。

「これで、多少はマシなはずだ」

「予定通り」

カインが叫ぶ。

「ミラ、頼む」

「終末の裁き」

ミラの詠唱が広間全体を白い光で満たす。

光は、二体のリッチを真っ先に貫いた。

骨の体が軋むような音を立てて崩れかける。

「効いてる!」

ネリスが声を上げた。

「ワング、あたし、右!」

「拙者は左でござる」

「雷殺!」

二筋の雷が、それぞれ魔女の一体へ吸い込まれるように落ちる。

黒いローブが稲光に一瞬だけ照らし出された。

魔女の一体が膝から崩れるように、その場に沈んだ。

もう一体は、まだ立っている。

「もう一発!」

ノリアが叫んだ。

「雷殺!」

二度目の雷が残る魔女へ落ちる。

悲鳴のような声が、初めて上がった。

かなりの手応えがあった。

だが、それと同時に、四体の輪郭が揺らめくように歪む。

「来る、上!」

ネリスの声が響いた。

弾かれた光の欠片が六人の頭上から降り注ぐ。

「守護の盾!」

ワングの詠唱が強固な障壁を六人の周囲に張る。

「神域!」

続けて、ミラの光が六人の体を淡く包んだ。

スルが盾を掲げ、崩れかけた障壁の隙間を身をもって塞ぐ。

「そっちも!」

ネリスがまた別の方向を指差した。

「左!」

その声に、ワングが半歩だけ体をずらす。

跳ね返りが障壁と光と盾に、次々と当たった。

鈍い音が幾度も響いた。

誰も後ろへ下がらなかった。

「まだ、いける」

カインが拳を握る。

「ノリア!」

「業炎獄!」

炎の塊が、四体まとめて飲み込むように広がる。

一回。

二回。

三回。

炎が間断なく押し寄せた。

跳ね返りは、その都度あった。

だが、盾と神域と、スルの構えがそのすべてを受け止め続けた。

「あと少し……!」

ミラが額に汗をにじませながら声を絞り出す。

三度目の業炎獄が着弾した瞬間、四体の輪郭がいっせいに崩れ始めた。

骨が砂のように崩れていく。

黒いローブが煙のように薄れて消える。

広間に静けさが戻った。

「消えた……」

ネリスが辺りを見回す。

「終わった、のか」

「終わった」

カインが肩の力を抜く。

「怪我は」

「ない」

ミラが自分の体を確かめるように両手を見つめる。

「盾と神域が、最後まで保ってくれた」

「拙者の分も、まだ余力があるでござる」

ワングが少し得意げに、氷姫の柄に手を添えてみせた。

「弱い術が駄目だっただけ、だったんだな」

ノリアが杖を胸に抱えて息を吐く。

「たぶん」

カインが慎重に言葉を選ぶ。

「跳ね返り自体は、まだあった。完全に消えたわけじゃない」

「決めつけるのは、まだ早い、でござるな」

ワングが軽く笑った。

「その通り」

カインもつられて笑う。

「ネリスの声掛け、助かった」

ミラがネリスの方を見た。

「あれがなかったら、盾も、間に合ってなかったかもしれない」

「見張るくらいしか、できなかったから」

ネリスが少し照れくさそうに、耳の後ろを掻く。

「見張るのも、立派な仕事でござる」

ワングが頷いた。

「俺も、次は、もう少し広く受けられるように、構えを見直す」

スルが盾を軽く叩きながら言った。

板に刻まれた三行目の文言は、光を帯びたまま、そこに残り続けていた。

四行目は、まだどこにも現れていない。

「次の部屋に着くまでは、何も浮かばないみたいだね」

ミラが板を覗き込む。

「今度は、どんな部屋だろうね」

ネリスが呟いた。

誰も、すぐには答えなかった。

六人は来た道を戻り、二部屋目、一部屋目を抜けて、外へ出た。

外はまだ、日が高いままだった。

エアの中で過ごした時間の割に、街の空気はいつも通り騒がしい。

「腹、減った」

ネリスが大きく伸びをした。

「同感でござる」

ワングが氷姫を鞘ごと肩に担ぎ直した。

その日の夕方、ヘクサインに戻った六人を、工房から出てきたダダが出迎えた。

「今日は、顔つきが違うな」

「三部屋目、抜けた」

カインが疲れの滲む笑みを浮かべる。

「本当か」

ダダが目を見開いた。

「終末の裁きまで、使ったんだよ」

ミラが少し照れたように言う。

「あたしの業炎獄も、ちゃんと届いた」

ノリアが胸を張った。

「跳ね返りは、まだあったでござるがな」

ワングが付け加える。

「盾と神域で、なんとか凌いだ、というところでござる」

「力があれば、それだけ、道は開けるってことか」

ダダが腕を組んで、感心したように頷いた。

「にしても、切り札まで使うとは、思わなかったな」

「あたしも、まさか使う日が来るとは、思ってなかった」

ミラが苦笑する。

「でも、使ってよかった」

「次も、使うのか」

ダダが聞いた。

「わからない」

ミラが首を振る。

「四層の先が、どんな部屋になるかで、変わると思う」

「充電には、宿での休息が要るんだったな」

ダダが確かめるように言う。

「今夜、ゆっくり休んでおけよ」

「そうする」

カインが頷いた。

「今日の分は、寝れば、ちゃんと積み上がるはずだ」

「四体まとめて、だったからな」

ワングが少し楽しみそうに言う。

「明日の朝が、待ち遠しいでござる」

「次の部屋が、また、何を試してくるかは、わからないけどな」

カインが肩をすくめながら笑った。

わからないことは、まだ、たくさん残っている。

それでも六人は、確かな手応えを胸に、まだ見ぬ四つ目の扉へと、気持ちを向けていた。

夜が更けても、ミラはしばらく剣の柄から手を離さなかった。

明日にはまた、その腕に新しい謎が試されるかもしれない。

それでも今夜だけは、静かに休むことにした。

いかがでしょうか?


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