↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
第五部 迷宮エア編 四層

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

160/237

第156話「拒まれた刃、押し戻された一歩」

マランの世界、連日投稿してます。

毎日2話投稿中です。


朝、ヘクサインの食堂で、ダダが六人を見送った。

「今日も、工房か」

カインが、椅子を立ちながら聞く。

「ああ。ブロムの奴が、また新しい図面を寄越してきた」

ダダが、軽く肩を回す。

「気をつけてな。四層は、まだ、勝手がわからない」

「わかってるって」

ネリスが、扉を押しながら答えた。

六人は、そのままアプレイザルへ向かった。

鑑定具の光が、順に、六人の掌を照らしていく。

ドワーフの鑑定士が、記録紙をめくりながら、数字を読み上げた。

「カインさん、19ですね」

「上がったか」

カインが、掌を握り直す。

「それと、新しい呪文が二つ、増えています」

「え、二つ?」

「アルカナ系、第五階梯に幻影。ノストス系、第五階梯に加護の盾です」

「加護の盾……」

カインが、その響きを、噛みしめるように繰り返す。

「使用回数は、第四階梯が3回、第五階梯が2回に、それぞれ増えていますね」

「地味に、着実だな」

「地味で悪いか」

「悪くない」

ノリアが、横から口を挟む。

「地味なのが、あんたらしい」

「褒めてるのか、それ」

「褒めてる」

「続いて、ネリスさん。21です」

「順調」

ネリスが、爪を軽く鳴らす。

「他は?」

「変化なしですね。習得済みの構成のままです」

「地味な数字が、二人続いたでござるな」

ワングが、面白そうに言う。

「うるさい」

ネリスが、軽く睨む。

「ノリアさん、20です」

「そう」

ノリアが、素っ気なく答える。

「呪文の変化は?」

「ありません。使用回数も、全階梯、9回のままです」

「まあ、順当」

「順当って言うには、十分すぎる数字だと思うでござるが」

ワングが、横から呟く。

「ミラさん」

鑑定士が、記録紙に目を落とす。

「23です。それと、第七階梯、全ての呪文が9回、上限に達しています」

「上限……!」

ミラの声が、弾んだ。

「神域も、終末の裁きも?」

「はい、両方とも」

「やった……」

ミラが、両手を握りしめる。

「ずっと、7回のままだったから」

「積み上げてきた甲斐が、あったでござるな」

ワングが、静かに頷く。

「ワングさん、26です。呪文は変化なし、既に全階梯、上限まで届いています」

「かたじけない」

ワングが、頭を下げる。

「拙者は、当分、この数字と付き合うでござるな」

「最後に、スルさん。31のまま、変化ありません」

「うん」

スルが、短く頷く。

「それと、これは……」

鑑定士が、少し、目を見開いた。

「新しく、盾のスキルが加わっています。挑発、超加速に加えて、盾術の適性です」

「ダダの、盾を継いでからか」

カインが、聞き返す。

「たぶん」

スルが、静かに言う。

「構えてるうちに、体が、覚えたんだと思う」

「回避に、盾まで乗るのか」

ワングが、感心したように、腕を組んだ。

「厄介な前衛が、また一段、厄介になったでござるな」

「兄さんらしい、といえば、らしいけど」

ネリスが、腕を組みながら、どこか誇らしげに言う。

「厄介で、悪いか」

スルが、微かに笑った。

「悪くない。むしろ、頼もしい」

カインが、笑いながら言う。

「明日から、しばらくは、盾も剣も、両方試す形になりそうだな」

「望むところだ」

スルが、静かに頷いた。

---

翌日、六人はエアへ向かった。

四層への扉をくぐり、まず、一つ目の部屋――去る者は追わず、来たれり者とは相対する、と刻まれた広間へ足を運ぶ。

壁の文字は、変わっていなかった。

「同じ、だね」

ミラが、壁を確かめながら言う。

「前と、寸分違わない」

「板の方も、見てみるか」

カインが、板を広げる。

一行目の文言は、そのままだった。

「ってことは」

ネリスが、部屋を見回す。

「四層は、階層の作り自体は、変わらないってことか」

「エアらしくない、話でござるな」

ワングが、腕を組む。

「三層までは、毎回、通路も部屋も、違って見えたでござるが」

「四層だけ、様子が違う」

ノリアが、首を傾げる。

「理由は」

「わからない」

カインが、素早く首を振る。

「でも、確かに、同じだ」

誰も、それ以上は、深追いしなかった。

わからないことは、わからないままにしておく。

それが、六人のやり方だった。

部屋の奥、来た時にはなかった扉が、静かに開いていた。

板に、新しい点が、淡く浮かんでいる。

「行ってみるしかない」

ワングが、頷いた。

扉を押すと、抵抗なく開いた。

中に広がっていたのは、先ほどと同じ造りの、石の広間だった。

かがり火もなく、ただ、天井の高さだけが、やけに際立っている。

壁に、文字が刻まれていた。

「刃を提げし者は拒み、刃を収めし者は迎える。」

「今度は……」

ミラが、文字を目で追う。

「刃を、収める方が、良さそうな話だね」

言い終わらないうちに、奥の闇から、低い唸り声が響いた。

二対の目が、闇の中で、光る。

牙をむき出しにした、二頭のサーベルタイガーが、姿を現した。

体長は、ダダの背丈をゆうに超えている。

低い姿勢のまま、じりじりと、間合いを詰めてくる。

「来た!」

ワングが、反射的に、氷姫の柄へ手をかける。

「私も!」

ミラが、対の剣を引き抜く。

「まかせろ!」

スルが、腰の剣を、抜き放った。

カインも、剣の柄に手をかけたが、抜くより先に、体が固まった。

三人の刃が、同時に、灯りを弾いた。

その瞬間だった。

視界が、ぶれる。

気づけば、六人は、元の部屋――去る者は追わず、来たれり者とは相対する、と刻まれた広間に、立っていた。

サーベルタイガーの姿は、どこにもない。

「な……」

カインが、言葉を失う。

「戻された……?」

ネリスが、辺りを見回す。

「今、確かに、刃を抜いた」

ワングが、まだ抜き身のままの氷姫を、呆然と見つめる。

「その、瞬間に……」

「壁の文字、そのままじゃないか」

ノリアが、掠れた声で言う。

「刃を提げし者は拒み、刃を収めし者は迎える」

「つまり」

ミラが、剣を握ったまま、固まる。

「抜いたから、拒まれた……ってこと?」

「待って」

ネリスが、自分の手を見下ろす。

「あたし、抜いてない」

「僕も、まだ、剣に触れてもいなかった」

カインが、手のひらを開いて見せる。

「なのに、戻された」

「誰か一人が、抜けば」

ミラが、静かに続ける。

「全員が、拒まれる……ってこと?」

「六人の壁と、同じ理屈でござるか」

ワングが、氷姫を、ゆっくりと鞘へ収めた。

「誰か一人の行いが、六人全員の、結果になる」

「だとしたら」

ノリアが、腕を組む。

「次は、誰も抜かずに、入ってみるしかない」

「サーベルタイガーが、それで、大人しくしてるとは、思えないけど」

ネリスが、唸るように言う。

「爪は、どうなんだろうな」

カインが、ふと、呟いた。

「ネリスの爪も、刃のうちに入るのか」

「入ったら、困る」

ネリスが、自分の爪を、じっと見つめる。

「入らなかったら?」

「その時は、あたしが、囮を引き受ける」

「頼もしいでござるな」

「かもな」

カインが、小さく息を吐く。

「でも、試すしかない」

誰も、それに、異を唱えなかった。

板の上、新しい点は、まだ、消えずに残っていた。

六人は、しばらく、無言のまま、それを見つめていた。

その日は、そのまま、ヘクサインへ引き返すことにした。

夕方、工房から戻ったダダが、六人の顔ぶれを見て、片眉を上げる。

「浮かない顔だな」

「拒まれた」

カインが、短く答える。

「拒まれた?」

「刃を抜いたら、部屋ごと、押し戻された」

ネリスが、補足するように言う。

「刃を、収めろってことか」

ダダが、腕を組む。

「たぶん。でも、獣が、大人しく待っててくれるとは、思えない」

「厄介な部屋だな」

「今までで、一番、厄介かもしれない」

カインが、苦笑した。

「あたしの爪が、刃に入るかどうかも、まだわからない」

ネリスが、爪先を、軽く鳴らす。

「明日、試すのか」

「試すしかない」

ワングが、静かに言う。

「わからないことは、わからないまま、進むしかないでござるからな」

「それが、あんたらのやり方なんだろ」

ダダが、少し、笑った。

「なら、待ってる。装備、いつでも、直すからな」

「頼りにしてる」

スルが、短く答えた。

答えは、また明日、確かめればいい。

わからないことだらけの四層が、今日も、静かに、次の一歩を待っていた。

いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。

下記の「評価」も、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。