第148話「決めた段取り、現れた影」
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朝、ヘクサインの食堂に、七人が顔を揃えていた。
「今日、話しておきたいことがある」
カインが皆を見渡す。
「討伐の、段取りか」
ダダが銀の器を布の上に置いた。
「ああ」
「器は、仕上がった。あとは、こっちの動き方だ」
ダダが器を指で撫でる。
「行き当たりばったりじゃ、一度きりの機会を無駄にするでござるからな」
ワングが腕を組んだ。
「そこで、なんだが」
カインが少し言いにくそうに切り出す。
「俺は、行くつもりでいたが」
ダダが言葉を切る。
「ドラゴンの直接攻撃を受けるなら、盾で耐えるより」
「避ける方が、向いてる」
ワングが後を引き取った。
「拙者たちも、そう思うでござる」
「前のブレスで、盾がどこまで持つか、皆も見たでござろう」
「悔しいが、その通りだ」
ダダが静かに頷いた。
「俺が行く」
窓辺で、スルが立ち上がる。
「頼めるか」
「もとより、そのつもりだった」
「盾がいなくても、大丈夫なのか」
ダダが心配そうに聞く。
「避けることに関しては、俺の方が向いてる」
スルが淡々と答えた。
「それは、否定しない」
ダダが小さく笑った。
「代わりに、器を頼む」
「頼まれた」
スルが短く頷く。
「段取りを決めよう」
ミラが皆を見渡す。
「まず、器に氷を注ぎ込む」
ワングが器を手に取った。
「拙者が氷棘を、ララ殿が氷結界を、それぞれ四発ずつでござる」
「わかった」
ララが静かに頷く。
「合わせて八発、器に封じ込める」
ダダが補足する。
「一気に、でござるか」
ワングが器を陽に透かした。
「短時間で、詰め込む必要がある」
ダダが静かに頷いた。
「その間、俺は?」
カインが聞く。
「ドラゴンへ、直接撃ち込んでほしい」
ワングが続けた。
「氷棘を、三連発でござる」
「ちょうど、俺の持ち分だ」
カインが肩をすくめた。
「押さえつつ、時間を稼いでほしい」
「わかった」
「その間、ネリスが器を持つ」
ミラが続ける。
「一番速いのは、私だから」
ネリスが軽く手を挙げた。
「タイミングを見て、口の中に放り込む」
「ブレスを吐く、瞬間に」
ワングが頷いた。
「早すぎても、遅すぎても、駄目なんだよね」
ネリスが器を握る仕草をしながら言う。
「一度きり、ということでござるな」
「一度きりでいい」
ダダが静かに言った。
「私と、ノリアは?」
ミラが自分を指す。
「ミラは回復に専念でござる。ノリアは横から来る雑魚を頼む」
「業火弾なら、任せて」
ノリアが素っ気なく答えた。
「本命に、当てるなよ」
カインが茶化す。
「当てない。たぶん」
「たぶんは、やめてくれ」
「俺は」
スルが皆を見る。
「前に出て、注意を引く。避けながら」
「無理はするなよ」
ダダが低く言った。
「頼まれてる」
スルが短く答えた。
「タイミングは、私が声を出す」
ネリスが続ける。
「合図、決めておこう」
「短い方がいい」
ワングが頷いた。
「じゃあ、これで」
ネリスが小さく片手を上げた。
「わかりやすいでござるな」
「二度、投げ損なうことは、ないようにする」
ネリスが静かに言った。
「頼りにしてる」
カインが頷く。
「一つ、聞いていいか」
「器が外れたら」
「そのときは」
ワングが太刀の柄に手をかけた。
「もう一度、隙を待つでござる」
「二度目があるといいけどね」
ミラが苦笑した。
「ないものとして、動く方がいい」
ダダが静かに言う。
「一発で、決めるつもりで組んだ段取りだ」
「わかった」
カインが頷いた。
「もう一つ」
ミラが手を挙げる。
「ノリアの業火弾、氷の近くで使って大丈夫?」
「離れてれば、平気」
ノリアが素っ気なく答えた。
「近すぎたら、教える」
「その時は、頼む」
「他に、聞いておきたいことは」
ミラが皆を見渡す。
誰も、何も言わなかった。
「なら、これでいこう」
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ダダが器を布ごとネリスへ手渡す。
「軽くて、驚くだろう」
「重い」
ネリスが受け取り、目を丸くした。
「気持ちの話だ」
ダダが少し照れくさそうに言う。
「任せて」
ネリスが器を懐に収めた。
「頼んだぞ」
「工房で、待ってる」
ダダが皆を見送った。
門へ向かう道すがら、誰も、あまり口を開かなかった。
「緊張してるでござるか」
ワングがカインに聞く。
「少しはな」
カインが苦笑する。
「拙者もでござる」
「意外だな」
「意外でもないでござるよ」
ワングが太刀の柄を軽く叩いた。
板を懐に、六人はエアの門をくぐった。
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三層の印は、今日も色を失ったままだった。
数は、両手に収まるほどまで減っている。
最初の一つを潰すと、氷を纏った小型の魔物が現れた。
「肩慣らしでござるな」
ワングの太刀が一閃し、氷の欠片が砕け散る。
大きな乱れもなく片付いた。
二つ目では、連携型の一団が待ち構えていた。
一体が下がりながら、他の盾になる位置へ回り込む。
「その手は、知ってる」
スルが低く唸り、囮役の拳を正面から受け止めた。
その隙に、ワングが横から斬り込む。
「息、合ってきたでござるな」
「毎日じゃなくても、な」
スルが短く答えた。
残りの二体は、ネリスとミラが挟み撃ちで仕留めた。
三つ目は、小柄なデーモンの群れだった。
数は多いが、目新しさはない。
ミラの浄光が飛び交い、傷を癒しながら着実に押し切っていく。
「今日は、皆、動きに迷いがないでござるな」
ワングが感心したように言う。
「段取りが頭に入ってるからだと思う」
ミラが微笑んだ。
「それでも、いつもより硬い気がする」
ネリスが器の重みを確かめるように懐を押さえる。
「無理もない」
ワングが太刀を鞘に収めながら言った。
四つ目の印では、氷を纏った一団が再び現れた。
「さっきと、同じ顔ぶれか」
カインが苦笑しながら剣を振るう。
慣れた手順で、あっさりと片付く。
五つ目の印は、開けた岩場だった。
甲殻に覆われた大型の魔物がゆっくりと立ち上がる。
「先日の、親戚でござるか」
ワングが太刀を構え直した。
「関節、狙えばいいんだよね」
ミラが冷静に前へ出る。
ダダの穴を埋めるように、スルが正面から拳を叩き込んだ。
魔物が体勢を崩し、そこへネリスの爪が突き刺さる。
大きな怪我もなく、片付いた。
「息、悪くないでござるな、この面子」
ワングが額の汗を拭う。
「ダダとは、また違うけどな」
カインが呟いた。
その後もいくつか、印を潰していく。
だが、ドラゴンは現れなかった。
「今日は、いないのか」
カインが呟く。
「わからない」
ミラが静かに首を振った。
「無駄足なら、それはそれで、悪くないでござる」
ワングが器を懐に確かめながら言う。
「拍子抜けだけど」
ネリスが肩の力を抜いた。
「気が抜けたところに来る、ってこともある」
スルが静かに言う。
「縁起でもないこと、言うなよ」
カインが顔をしかめた。
「言っただけだ」
スルが小さく笑った。
やがて、最後の一つに辿り着いた。
小柄なデーモンの群れを片付け終えても、それきりだった。
広間には、静けさだけが残っていた。
「今日は……」
カインが肩を落としかける。
「明日、また来ればいい」
ノリアが素っ気なく言った。
「そうだね」
ミラが器の入った懐へ、そっと目をやる。
「一度、戻ろうか」
「賛成」
ネリスが伸びをした。
六人が踵を返そうとした、その時だった。
暗がりの奥から、低い唸り声が響いた。
空気が一瞬で張り詰める。
六人の足が揃って止まった。
「まさか……」
カインが息を呑む。
地面がかすかに震えていた。
黒い影が、ゆっくりと姿を現した。
例のドラゴンだった。
赤い瞳が六人を順に見渡す。
まるで、待っていたかのようだった。
誰も、口を開かなかった。
風の音さえ、止んでいるように感じられた。
「来た……!」
ネリスが器を強く握りしめる。
「今日は、いないと思ったでござるが」
ワングが太刀を構え直した。
「言った側から、これだ」
カインがスルを横目で見る。
「悪かった」
スルが小さく肩をすくめた。
「謝ってる場合か」
ネリスが器を握る手に力を込める。
「悪い」
「それも、今は要らない」
ミラが静かに一歩前へ出た。
「段取り通りに、いくでござるぞ」
カインが印を組んだ。
光とともに、ララが姿を現す。
「呼んだか」
ララが静かに杖を構えた。
ワングも太刀を鞘に収め、印を組み始める。
スルが静かに前へ出た。
ドラゴンが大きく咆哮を上げた。
いかがでしょうか?
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