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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
第四部 迷宮エア編 三層

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第147話「仕上がった器、選んだ二層」

マランの世界、連日投稿してます。

毎日2話投稿中です。


数日後、フォージタウンの工房で、ダダが小さな布包みを差し出した。

開くと、果物ほどの大きさの、丸い銀の器が現れる。

「できたのか……!」

カインが目を見開く。

「一応な」

ダダが短く頷いた。

滑らかな曲面に、細かな紋様が刻まれている。

「ミスリル製の魔道具、でござるか」

ワングが手に取り、光にかざした。

「軽い……のに、重みを感じるでござるな」

「触ってみていい?」

ノリアが手を伸ばす。

「落とすなよ」

ダダが少し慌てた声を出した。

「落とさない」

ノリアが軽く睨んだ。

「中に魔石を入れて、そこに魔法を封じる」

ダダが淡々と説明する。

「そうか」

カインが頷いた。

「ただ、魔法を封じておく時間が短い」

ダダが続けた。

「相手が現れてから、魔法を込める必要がある」

「その場で撃つのと、何が違うんだ?」

ネリスが首をかしげる。

「口の中に、投げ込める」

ダダが答えた。

「投げてから詠唱じゃ、間に合わない」

「なるほど、先に仕込んでおけるでござるな」

ワングが得心したように頷く。

「魔石が良ければ、かなりの回数は封じ込められるはずだ」

「一回きりじゃないのか」

カインが目を丸くする。

「ブロムさんは、そう言ってる」

ダダが器を陽に透かしながら答えた。

「試しに、見せてくれないか」

カインが身を乗り出す。

「魔石は」

「これでいいか」

ノリアが懐から小粒の魔石を取り出した。

「粗末な代わりに、遠慮なく試せる」

ダダが器の蓋を開け、魔石を収める。

「頼む」

カインが印を組み、火花炎を器へ向けて放った。

器が淡く光る。

「入った……のか?」

「たぶん」

ダダが器を軽く振る。

中で、何かが確かに息づいているような感触があった。

だが、光はほどなく弱まっていく。

「もう、消えるのか」

カインが驚いたように言う。

「言っただろう、短いって」

ダダが淡々と答えた。

やがて、光は完全に消えた。

器の中には、何も残っていない。

「実戦で試すしかない、ってことでござるな」

ワングが得心したように頷く。

「今日は、標的がないから仕方ない」

ミラが苦笑した。

「そうか。まずは魔石集めだな」

カインが頷いた。

「二層なら、心当たりがある」

ミラが微笑んだ。

「拙者たちも、久しぶりでござるな」

ワングが呟いた。

「浅瀬に毛が生えたくらい、だったよな」

カインが懐かしそうに笑う。

「あの頃より、皆強くなった」

ミラが続けた。

---

板を覗くと、三層の印は、色を失ったままだった。

数の少なさも、変わらない。

「三層は、まだ早いでござるな」

ワングが板を懐に戻す。

「ドラゴンと鉢合わせしたら、元も子もない」

カインが頷いた。

「二層は、もう分かってる場所だ」

ダダが盾を担ぎ直す。

「六色とも、とっくに踏破済みだしね」

ミラが微笑んだ。

六人は、二層の門をくぐった。

---

水音の響く区画で、鱗を持つ魚型の群れが行く手を塞いだ。

「連携型でござるな」

ワングが太刀を構える。

一体が前へ出て、他を庇うように動く。

「それ、知ってる型だ」

ネリスが姿勢を低くした。

「囮なら、後ろから」

姿がぶれ、庇い役の背後へ回り込む。

爪の一撃が急所を貫いた。

残る群れに、ダダが盾を構えて突っ込む。

「そこは、俺が受ける」

ミラのロングソードが横から切り込んだ。

「息、合ってるでござるな」

ワングが太刀で一体を仕留めながら言う。

「二層は、勝手が違うな」

カインが肩をすくめた。

「三層に比べれば、な」

ダダが短く答える。

魔石がいくつも転がり落ちた。

「今のは、質が良さそうだね」

ミラが拾い上げながら言った。

「本当だ。色が濃い」

ノリアが覗き込んだ。

「持ち帰る分、選ばないとでござるな」

ワングが袋の口を広げる。

「良いのだけ、選んでいこう」

カインが魔石を一つずつ確かめながら言った。

「これは、微妙」

ネリスが小さいのを弾く。

「もったいなくないか」

「質が大事なんだろ、今日は」

ネリスがそっけなく答えた。

---

さらに進むと、天井近くに白い糸が張り巡らされていた。

「罠でござるな」

ワングが足を止める。

「わかってる」

ネリスが糸の隙間を読み取った。

「あそこと、あそこ。踏んじゃいけない」

「頼りになるでござるな、その目」

ワングが感心したように言う。

赤い甲殻の蜘蛛型が糸の奥から姿を見せる。

「絡め取る気でござるか」

ワングが太刀を構え直す。

「先に、絡めてやる」

ネリスが跳び、糸をかいくぐって懐へ飛び込む。

爪の一撃が急所を正確に捉えた。

蜘蛛が崩れ落ち、上質な魔石を残す。

「罠看破、便利だね」

ノリアが感心したように言う。

「レベル上がった分、伸びてる」

ネリスが素っ気なく答えた。

「もう一匹、いるでござるぞ」

ワングが叫び、糸の奥から現れた二匹目を斬り伏せる。

「今日は、当たりが多いな」

カインが魔石を拾いながら笑った。

「二層、侮れないでござるな」

ワングが糸の残骸を払いながら言う。

「昔は、この糸だけで往生してたのにな」

カインが懐かしそうに笑った。

「昔の話、しないでよ」

ネリスが軽く睨む。

「あの頃は、あの頃で必死だったんだから」

---

開けた場所で、小柄なデーモンの群れが待ち構えていた。

「数は多いが、勝手知ったる相手でござるな」

ワングが太刀を抜く。

「三層のに比べれば、可愛いもんだ」

カインが笑いながら剣を構えた。

ダダが盾で先頭を受け止め、ワングとカインが左右から仕留めていく。

「ネリス、上から来るぞ」

ダダが叫んだ。

「見えてる」

ネリスが跳び上がり、天井近くの一体を爪で払い落とす。

ミラが後方から浄光を飛ばし、傷を癒しながら前衛を支えた。

戦闘は、大きな乱れもなく終わった。

「今日は、拾い放題でござるな」

ワングが魔石を集めながら笑う。

「集めた分だけ、器の出番も増える」

ダダが袋に魔石を詰めた。

---

奥の行き止まりで、分厚い甲殻に覆われた大型の魔物が待ち構えていた。

「甲殻型でござるか。厄介な相手でござるな」

ワングが太刀を構え直す。

「硬そうだ」

カインが顔をしかめた。

「表面じゃなくて、関節を狙おう」

ミラが冷静に指示を出す。

「わかった」

ダダが盾で正面から受け止め、動きを止める。

「今だ」

ネリスが跳び、脚の付け根へ爪を突き立てた。

甲殻の隙間から、確かな手応えが返る。

「そこでござるな」

ワングが同じ場所を狙って太刀を叩き込んだ。

甲殻に、亀裂が走る。

魔物が体勢を崩し、大きく後ずさった。

「もう一押しだ」

カインが踏み込み、渾身の一撃を振り下ろす。

魔物が光の粒となって崩れていく。

残された魔石は、これまでで一番の大きさだった。

「これは、上物でござるな」

ワングが目を見開く。

「今日一番の収穫だ」

ダダが慎重に袋へしまった。

---

エクスチェンジで魔石を並べると、鑑定士が目を丸くした。

「今日は、質が揃ってますね」

「二層で、集めてきた」

ダダが答える。

「これだけあれば、十分試せるかもしれません」

鑑定士が魔石を選り分けながら言った。

「三層のものより、粒が揃ってるでござるな」

ワングが覗き込む。

「安定した場所の分、質も安定するんです」

鑑定士が微笑んだ。

「一番粒が大きいの、これだね」

ノリアが一つを摘み上げる。

「それは、蜘蛛のやつだ」

ネリスが横から言った。

「腕、上がったな」

カインが笑いながらネリスの肩を叩く。

「別に、褒められるようなことじゃない」

ネリスが目をそらしながら答えた。

「照れてるでござるな」

ワングがにやりと笑う。

「照れてない」

ネリスの耳がほんの少し伏せられていた。

夕方、工房に戻ると、ダダが銀の器に魔石を収めた。

「あとは、実戦で試すだけだ」

「次、ドラゴンが出たら」

カインが呟く。

「その時だ」

ダダが短く答えた。

「失敗しても、責めるなよ」

「誰も、責めない」

ミラが優しく言った。

「頼りにしてる」

カインが続けた。

「期待は、そこそこにしといてくれ」

ダダが照れくさそうに言う。

「無理な相談だ」

カインが笑った。

「三層は、また明日以降でござるな」

ワングが言う。

「焦らなくていい」

ダダが器を布で丁寧に包んだ。

「今日拾った分だけでも、まだ余裕がある」

炉の火が静かに揺れていた。

懐の板の上、三層の印だけが、色を失ったまま数を減らしていた。

いかがでしょうか?


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