第147話「仕上がった器、選んだ二層」
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数日後、フォージタウンの工房で、ダダが小さな布包みを差し出した。
開くと、果物ほどの大きさの、丸い銀の器が現れる。
「できたのか……!」
カインが目を見開く。
「一応な」
ダダが短く頷いた。
滑らかな曲面に、細かな紋様が刻まれている。
「ミスリル製の魔道具、でござるか」
ワングが手に取り、光にかざした。
「軽い……のに、重みを感じるでござるな」
「触ってみていい?」
ノリアが手を伸ばす。
「落とすなよ」
ダダが少し慌てた声を出した。
「落とさない」
ノリアが軽く睨んだ。
「中に魔石を入れて、そこに魔法を封じる」
ダダが淡々と説明する。
「そうか」
カインが頷いた。
「ただ、魔法を封じておく時間が短い」
ダダが続けた。
「相手が現れてから、魔法を込める必要がある」
「その場で撃つのと、何が違うんだ?」
ネリスが首をかしげる。
「口の中に、投げ込める」
ダダが答えた。
「投げてから詠唱じゃ、間に合わない」
「なるほど、先に仕込んでおけるでござるな」
ワングが得心したように頷く。
「魔石が良ければ、かなりの回数は封じ込められるはずだ」
「一回きりじゃないのか」
カインが目を丸くする。
「ブロムさんは、そう言ってる」
ダダが器を陽に透かしながら答えた。
「試しに、見せてくれないか」
カインが身を乗り出す。
「魔石は」
「これでいいか」
ノリアが懐から小粒の魔石を取り出した。
「粗末な代わりに、遠慮なく試せる」
ダダが器の蓋を開け、魔石を収める。
「頼む」
カインが印を組み、火花炎を器へ向けて放った。
器が淡く光る。
「入った……のか?」
「たぶん」
ダダが器を軽く振る。
中で、何かが確かに息づいているような感触があった。
だが、光はほどなく弱まっていく。
「もう、消えるのか」
カインが驚いたように言う。
「言っただろう、短いって」
ダダが淡々と答えた。
やがて、光は完全に消えた。
器の中には、何も残っていない。
「実戦で試すしかない、ってことでござるな」
ワングが得心したように頷く。
「今日は、標的がないから仕方ない」
ミラが苦笑した。
「そうか。まずは魔石集めだな」
カインが頷いた。
「二層なら、心当たりがある」
ミラが微笑んだ。
「拙者たちも、久しぶりでござるな」
ワングが呟いた。
「浅瀬に毛が生えたくらい、だったよな」
カインが懐かしそうに笑う。
「あの頃より、皆強くなった」
ミラが続けた。
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板を覗くと、三層の印は、色を失ったままだった。
数の少なさも、変わらない。
「三層は、まだ早いでござるな」
ワングが板を懐に戻す。
「ドラゴンと鉢合わせしたら、元も子もない」
カインが頷いた。
「二層は、もう分かってる場所だ」
ダダが盾を担ぎ直す。
「六色とも、とっくに踏破済みだしね」
ミラが微笑んだ。
六人は、二層の門をくぐった。
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水音の響く区画で、鱗を持つ魚型の群れが行く手を塞いだ。
「連携型でござるな」
ワングが太刀を構える。
一体が前へ出て、他を庇うように動く。
「それ、知ってる型だ」
ネリスが姿勢を低くした。
「囮なら、後ろから」
姿がぶれ、庇い役の背後へ回り込む。
爪の一撃が急所を貫いた。
残る群れに、ダダが盾を構えて突っ込む。
「そこは、俺が受ける」
ミラのロングソードが横から切り込んだ。
「息、合ってるでござるな」
ワングが太刀で一体を仕留めながら言う。
「二層は、勝手が違うな」
カインが肩をすくめた。
「三層に比べれば、な」
ダダが短く答える。
魔石がいくつも転がり落ちた。
「今のは、質が良さそうだね」
ミラが拾い上げながら言った。
「本当だ。色が濃い」
ノリアが覗き込んだ。
「持ち帰る分、選ばないとでござるな」
ワングが袋の口を広げる。
「良いのだけ、選んでいこう」
カインが魔石を一つずつ確かめながら言った。
「これは、微妙」
ネリスが小さいのを弾く。
「もったいなくないか」
「質が大事なんだろ、今日は」
ネリスがそっけなく答えた。
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さらに進むと、天井近くに白い糸が張り巡らされていた。
「罠でござるな」
ワングが足を止める。
「わかってる」
ネリスが糸の隙間を読み取った。
「あそこと、あそこ。踏んじゃいけない」
「頼りになるでござるな、その目」
ワングが感心したように言う。
赤い甲殻の蜘蛛型が糸の奥から姿を見せる。
「絡め取る気でござるか」
ワングが太刀を構え直す。
「先に、絡めてやる」
ネリスが跳び、糸をかいくぐって懐へ飛び込む。
爪の一撃が急所を正確に捉えた。
蜘蛛が崩れ落ち、上質な魔石を残す。
「罠看破、便利だね」
ノリアが感心したように言う。
「レベル上がった分、伸びてる」
ネリスが素っ気なく答えた。
「もう一匹、いるでござるぞ」
ワングが叫び、糸の奥から現れた二匹目を斬り伏せる。
「今日は、当たりが多いな」
カインが魔石を拾いながら笑った。
「二層、侮れないでござるな」
ワングが糸の残骸を払いながら言う。
「昔は、この糸だけで往生してたのにな」
カインが懐かしそうに笑った。
「昔の話、しないでよ」
ネリスが軽く睨む。
「あの頃は、あの頃で必死だったんだから」
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開けた場所で、小柄なデーモンの群れが待ち構えていた。
「数は多いが、勝手知ったる相手でござるな」
ワングが太刀を抜く。
「三層のに比べれば、可愛いもんだ」
カインが笑いながら剣を構えた。
ダダが盾で先頭を受け止め、ワングとカインが左右から仕留めていく。
「ネリス、上から来るぞ」
ダダが叫んだ。
「見えてる」
ネリスが跳び上がり、天井近くの一体を爪で払い落とす。
ミラが後方から浄光を飛ばし、傷を癒しながら前衛を支えた。
戦闘は、大きな乱れもなく終わった。
「今日は、拾い放題でござるな」
ワングが魔石を集めながら笑う。
「集めた分だけ、器の出番も増える」
ダダが袋に魔石を詰めた。
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奥の行き止まりで、分厚い甲殻に覆われた大型の魔物が待ち構えていた。
「甲殻型でござるか。厄介な相手でござるな」
ワングが太刀を構え直す。
「硬そうだ」
カインが顔をしかめた。
「表面じゃなくて、関節を狙おう」
ミラが冷静に指示を出す。
「わかった」
ダダが盾で正面から受け止め、動きを止める。
「今だ」
ネリスが跳び、脚の付け根へ爪を突き立てた。
甲殻の隙間から、確かな手応えが返る。
「そこでござるな」
ワングが同じ場所を狙って太刀を叩き込んだ。
甲殻に、亀裂が走る。
魔物が体勢を崩し、大きく後ずさった。
「もう一押しだ」
カインが踏み込み、渾身の一撃を振り下ろす。
魔物が光の粒となって崩れていく。
残された魔石は、これまでで一番の大きさだった。
「これは、上物でござるな」
ワングが目を見開く。
「今日一番の収穫だ」
ダダが慎重に袋へしまった。
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エクスチェンジで魔石を並べると、鑑定士が目を丸くした。
「今日は、質が揃ってますね」
「二層で、集めてきた」
ダダが答える。
「これだけあれば、十分試せるかもしれません」
鑑定士が魔石を選り分けながら言った。
「三層のものより、粒が揃ってるでござるな」
ワングが覗き込む。
「安定した場所の分、質も安定するんです」
鑑定士が微笑んだ。
「一番粒が大きいの、これだね」
ノリアが一つを摘み上げる。
「それは、蜘蛛のやつだ」
ネリスが横から言った。
「腕、上がったな」
カインが笑いながらネリスの肩を叩く。
「別に、褒められるようなことじゃない」
ネリスが目をそらしながら答えた。
「照れてるでござるな」
ワングがにやりと笑う。
「照れてない」
ネリスの耳がほんの少し伏せられていた。
夕方、工房に戻ると、ダダが銀の器に魔石を収めた。
「あとは、実戦で試すだけだ」
「次、ドラゴンが出たら」
カインが呟く。
「その時だ」
ダダが短く答えた。
「失敗しても、責めるなよ」
「誰も、責めない」
ミラが優しく言った。
「頼りにしてる」
カインが続けた。
「期待は、そこそこにしといてくれ」
ダダが照れくさそうに言う。
「無理な相談だ」
カインが笑った。
「三層は、また明日以降でござるな」
ワングが言う。
「焦らなくていい」
ダダが器を布で丁寧に包んだ。
「今日拾った分だけでも、まだ余裕がある」
炉の火が静かに揺れていた。
懐の板の上、三層の印だけが、色を失ったまま数を減らしていた。
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