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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
閑話 その三

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第14話「レベルの差」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

翌日も、五人で三層に潜った。


ミラが加わってから、パーティの動き方が明らかに変わっていた。


「右奥、動きあり。二体」


ミラの声が、戦闘の合間に短く飛ぶ。


「了解」


カインが、迷わず頷く。


以前は気配に気づくのがネリス頼みだったが、ミラが加わってからは、状況を言葉にして共有する係が増えた分、動きに迷いがなくなっていた。


---


「ダダ、左肩下がってる。無理しないで」


ミラが、戦闘中でも細かく声をかける。


「まだいける」


「まだいけるのと、大丈夫は違う」


短いやり取りだったが、ダダの構えが、わずかに立て直された。


「ミラ、地味に効くな、その一言」


カインが、感心したように言う。


「地味な仕事だから」


ミラが、あっさり答えた。


---


分岐廊下の奥、今日はさらに深い区画まで進んだ。


甲殻型に加えて、絡みつく蔓を伸ばす植物型のモンスターが現れ始めた。


「あれ、動きが遅いから楽そう」


ネリスが、油断気味に言う。


「油断するな」


ダダが、短く釘を刺す。


その直後、蔓が地面から突き出し、ネリスの足首に絡みついた。


「うわ!」


「言ったそばから」


ダダが、盾でネリスをかばいながら蔓を斬り払う。


---


「毒、ある?」


ミラが、すぐに確認する。


「ないと思う、たぶん」


ネリスが、足首をさすりながら答える。


「たぶんじゃ困る。見せて」


ミラが、有無を言わさず膝をつく。


淡い光が、足首を包んだ。


「大丈夫。痺れが残る程度」


「ミラの判断、早いな」


カインが言う。


「早くないと、間に合わないこともあるから」


短い返事の奥に、何か重みのある経験がにじんでいた。


---


進むほどに、敵の密度が上がっていった。


甲殻型二体と植物型一体が同時に現れた場面では、五人の連携がぎりぎりまで試された。


「ダダ、正面。ネリス、右から回って。ノリア、真ん中に一発」


ミラが、戦況を見ながら短く指示を出す。


「指示、慣れてるな」


カインが、驚いた声を上げる。


「前のパーティでも、似たようなことしてたから」


答える声が、一瞬だけ硬くなった。


だが、それ以上は誰も踏み込まなかった。


---


「ファイア」


ノリアの一撃が、群れの中心を吹き飛ばす。


爆風の余波で、植物型の蔓ごと甲殻が焼け落ちた。


「今の、ますます範囲広がってないか」


カインが言う。


「広がってる。感覚で調整できるようになってきた」


ノリアが、淡々と答える。


短いやり取りの裏で、確かな変化が積み重なっていた。


---


戦いが続くうちに、疲労が目に見える形で表れ始めた。


ダダの盾を受ける腕が、わずかに遅れるようになっていた。


カインの太刀筋にも、いつもよりキレがなくなっていた。


「今日、そろそろきついな」


カインが、息を切らしながら言う。


「きつい」


ダダも、素直に認めた。


「無理は禁物」


ミラが、すぐに割って入る。


「戻ろう。今日はここまで」


誰も反対しなかった。


---


ヘクサインへの帰り道、五人の足取りは重かったが、表情は悪くなかった。


「今日、結構進んだよな」


カインが言う。


「進んだ」


ダダが頷く。


「ミラが状況、逐一教えてくれるから、余計な混乱がない」


「余計な混乱、って前はあったんだ」


ミラが、少し面白そうに聞く。


「あった。ネリスが突っ込みすぎるやつとか」


「人のせいにするな」


ネリスが、すぐに言い返した。


---


翌朝、朝食を終えたところで、ダダが切り出した。


「そろそろ、レベルの確認、しないか」


「確認?」


カインが聞き返す。


「三層、結構潜った。反映されてるはずだ」


「そうだな」


カインも、頷いた。


五人は、アプレイザルへ向かった。


---


窓口には、以前と同じ鑑定士がいた。


「また、皆さんで」


「また皆さんで、です」


カインが、苦笑しながら答える。


一人ずつ、鑑定具に触れていく。


---


「盾役、レベル3ですね」


ダダの番で、鑑定士が言う。


「3、上がったか」


ダダが、静かに頷く。


顔には出さなかったが、肩の力の抜け方に、満足がにじんでいた。


---


「斥候、レベル3」


ネリスの番でも、同じ結果が出た。


「私も!」


ネリスが、飛び跳ねそうな声を上げる。


「跳ねなくていい」


ダダが、すかさず釘を刺した。


---


「魔術師、レベル3」


ノリアの番になると、鑑定士が続けて紙を確認する。


「習得呪文の状況ですが」


「第一階梯、火花炎。使用回数、4回」


「4回?」


カインが、思わず声を上げる。


「3回から、また増えたのか」


「増えた」


ノリアが、短く答える。


その声には、以前の「それだけ」というような曇りはなかった。


淡々としていたが、確かな手応えが滲んでいるように聞こえた。


---


「第二階梯の兆しは、まだですね」


鑑定士が、付け加える。


「まだ、いいの」


ノリアが、あっさり返す。


「回数が増えるだけでも、十分すぎる」


その言葉に、以前のような無理をした響きはなかった。


---


「便利屋さん、どうぞ」


呼ばれて、カインが台の前に立つ。


手を乗せると、光が灯る。


しばらくして、鑑定士が顔を上げた。


「レベル2のままですね」


「……2」


カインの声が、一瞬だけ低くなった。


---


「変わってない、ってことですか」


カインが、確認するように聞く。


「変わっていません。前回の数値と、同じです」


淡々とした答えに、カインは何も言い返せなかった。


「そういうことも、あります。積み上げ方に、個人差が出るので」


鑑定士の言葉は、慰めにはなったが、疑問を消しはしなかった。


---


窓口を離れて、外に出る。


「カイン、大丈夫?」


ネリスが、様子を窺うように聞く。


「大丈夫、大丈夫」


カインが、いつもの調子で答える。


だが、その声は、いつもより一段階、軽さを装っているように聞こえた。


---


「便利屋のレベルって、何に効くんだ、そもそも」


カインが、独り言のように呟く。


「未選択のままだから、伸びにくいのかもしれない」


ダダが、慎重に言葉を選ぶ。


「かもな」


カインが、あっさり流したが、その視線は、しばらく地面から離れなかった。


---


「みんなが上がってくのは、いいことだろ」


カインが、努めて明るく言う。


「俺が足を引っ張るわけにはいかないし」


「引っ張ってない」


ダダが、すぐに否定する。


「引っ張ってないよ」


ネリスも続く。


「わかってる」


カインが、笑って返した。


その笑い方が、いつもより少しだけ、無理をしているように見えた。


---


ミラだけが、少し離れたところで、カインの様子を静かに見ていた。


何かを言いかけて、やめる。


今はまだ、その時ではないと判断したようだった。


---


その日は、三層には潜らず、フォージタウンでダダの盾を修理に出すことになった。


「今日は、休みってことで」


カインが言う。


「休み、って言うわりに、元気なさそうだけど」


ネリスが、軽くつつく。


「元気だよ」


カインが、繰り返した。


繰り返すことで、自分に言い聞かせているようにも見えた。


---


レベルの差は、まだ小さい。


けれど、確かにそこにあった。


三層はまだ奥へと続いている。


そして、五人の足並みには、初めてわずかな不揃いが生まれていた。


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

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