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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
第四部 迷宮エア編 三層

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第145話「見切った純度、託した背中」

マランの世界、連日投稿してます。

毎日2話投稿中です。


朝、ヘクサインの食堂で、ダダが布包みを広げていた。

中から、二つの金塊が転がり出る。

「また、それ、眺めてるのか」

カインがパンを片手に覗き込む。

「思い出してた」

ダダが金塊を指でつまみ上げる。

「これ、ただのミスリルじゃないって、前に鑑定士が言ってた」

「純度が高すぎて、他の金属と混ぜようとしても、弾かれるって」

「弾かれる……?」

ミラが首を傾げる。

「合金にできない、ってことか」

ワングが眉を寄せた。

「そうらしい」

ダダが頷く。

「だから、使い道がないと思ってた」

「ティリーの本にあった話、覚えてるか」

ダダが続ける。

「呪文を閉じ込める魔道具には、特別な鍛え方がいる、って」

「量も、大量のミスリルが必要だ、とも言ってたでござるな」

ワングが記憶をたどるように言う。

「これが、その答えかもしれない」

ダダが金塊を握りしめた。

「純粋な素材だけで、作れってことか」

カインが目を見開く。

「これなら、逆に都合がいいのかもしれない」

「二つだけで、足りるのか」

カインが金塊を覗き込みながら聞く。

「わからん」

ダダが正直に答えた。

「足りないなら、また潜って、探すしかない」

「行ってみよう」

---

フォージタウンの工房で、ブロムが金塊を手に取り、しばらく黙り込んだ。

「弾かれるってのは、聞いたことがある」

やがて、ブロムが口を開く。

「だが、これほどの純度は、俺も初めて見た」

「作れそうですか」

ダダが身を乗り出す。

「わからん」

ブロムが正直に答える。

「だが、混ぜ物がいらないなら、話は早い」

「これだけで、いけるかもしれん」

「弾かれる、ってのは、裏を返せば」

ブロムが続ける。

「混ぜ物のせいで、魔力が漏れる心配がいらない、ってことでもある」

「それは、都合がいいでござるな」

ワングが感心したように言う。

「一色鍛え、ってやつでござるか」

ワングが聞き覚えのある言葉を口にする。

「試したことは」

「ない」

ブロムが短く答えた。

「話には聞いたことがあるだけだ。俺自身、やるのは初めてになる」

「危ない橋、渡らせちまうことになるが、いいか」

「かまいません」

ダダが迷わず答えた。

「時間、かかりますか」

「かかる」

ブロムが金塊を天秤に乗せた。

「量も、足りるかどうか、微妙なとこだ」

「見つけたら、また持ってきます」

カインが言う。

「頼む」

「今日は、俺はここに残る」

ダダが皆を見渡した。

「ブロムさんと、詰めることがある」

「わかった」

カインが頷く。

「無理は、するなよ」

「そっちもな」

---

「俺が行く」

窓辺で、スルが立ち上がった。

「今日は、俺の番だから」

ダダが少し驚いたように見る。

「頼んでいいか」

「頼まれてる」

スルが静かに答えた。

板を懐に、五人とスルはエアの門をくぐった。

---

三層の通路は、今日も色つきの印が滲んだままだった。

分岐を抜けると、氷を纏った小型の魔物が数体、姿を見せる。

「凍える前に、片付けるでござる」

ワングが太刀を一閃した。

一体、また一体と、氷の欠片になって砕けていく。

さらに進んだ先、小柄なデーモンが数体、通路を塞いだ。

「行く」

ネリスが姿勢を低くした。

一瞬でぶれ、次の瞬間には敵の背後にいる。

爪の一撃が急所を正確に捉えた。

「今のも、入ったな」

ワングが太刀を構えたまま言う。

「たぶん」

ネリスが淡々と答えた。

残る数体は、スルとワングが危なげなく片付けていく。

戦闘は、大きな乱れもなく終わった。

「兄貴、動き、いつもより、鋭くないか」

ネリスが魔石を拾いながら聞く。

「そうか?」

スルが首を傾げる。

「気のせいだと思う」

「気のせいで、片付くなら、それでいい」

ミラが笑いながら言った。

---

さらに奥、地面が唐突に隆起した。

土と岩が寄り集まり、巨躯を形作っていく。

「ゴーレムか……!」

カインが息を呑む。

一体だけではなかった。

二体、三体と、次々に立ち上がる。

「囲まれるでござるぞ!」

ワングが叫び、太刀を構え直す。

一体の拳が、地面を叩き割った。

土煙が視界を奪う。

「怯むな!」

カインの声が響いた。

「俺が、押さえる」

スルが前へ出て、拳を弾く。

「その隙に!」

ワングが横から斬りかかった。

だが、刃は硬い岩肌に浅く弾かれるだけだった。

「これは、手強いでござるな」

「ララ、頼む」

カインが印を組む。

光とともに、杖を持つ人影が現れた。

「呼んだか」

ララが静かに問う。

「頼む、数が多い」

「わかった」

杖から放たれた炎が二体の巨躯を一度に飲み込んだ。

砕けた岩の欠片が通路に散る。

「隙間は、私が拾う」

ネリスが跳び、崩れかけた一体の核へ爪を突き立てた。

一撃で、光の粒となって消えていく。

「クリティカル、また入ったでござるな」

ワングが目を丸くした。

「最近、当たる感覚が、わかってきた」

ネリスが爪を軽く振った。

土煙が晴れると、通路には、もう動くものがなかった。

「これだけの数、ララがいなかったら、危なかったでござるな」

ワングが太刀を鞘に収めながら言う。

「効いたなら、それでいい」

ミラが微笑んだ。

「ララも、ここまでで十分だ」

「わかった」

ララが静かに頷き、光の粒となって消えていく。

「兄貴、無事か」

ネリスがスルの拳を覗き込む。

「平気」

スルが短く答えた。

---

魔石を拾い集め、通路を戻り始めたところで、ネリスの耳が動いた。

「また、あいつら」

前方に、六人分の人影が立っている。

自分たちと瓜二つの一団だった。

だが、様子がいつもと違った。

向こうは、こちらを見ない。

視線を合わせることも、足を止めることもなく、斜めに通路を横切っていく。

「今日は……気づいてない、のか」

カインが小声で言う。

「鳥肌、立った」

ネリスが腕をさすりながら言う。

「いや」

ワングが目を凝らす。

「気づいていて、素通りしている風にも見えるでござる」

すれ違いざま、盾役の輪郭は、いつもと同じ、大柄な姿のままだった。

だが、確かめる間もなく、一団は暗がりの奥へ消えていった。

「今日の盾役、やっぱり」

ミラが震える声で聞く。

「今日も、あの体格でござる」

ワングが静かに言う。

「今日、ダダは、来てないのに」

カインが呟く。

「なのに、いつも通り、か」

ノリアが腕を組みながら言う。

「それも、わからない」

カインが静かに首を振った。

---

一団が消えた場所に、小さな木箱が残されていた。

蓋が、わずかに開いている。

「また、これか」

ネリスが慎重に覗き込む。

中には、鈍く光る金塊が一つ、収まっていた。

「三つ目、か」

カインがそれを拾い上げる。

「重さ、同じに見えるでござるな」

ワングが覗き込んだ。

「刻印も」

「今日は、置いていった、ってことなのか」

ミラが呟く。

「それとも、拾い忘れた、だけかもね」

ノリアが素っ気なく言った。

誰も、答えられなかった。

「戻ろう」

カインが皆を見渡した。

---

アーカイブに寄ると、ティリーが記録帳を広げて待っていた。

「三つ目の金塊、それに」

ネリスが、すれ違いの一団のことを話す。

「今日は、素通りされた、と」

ティリーがペンを止めた。

「これまでとは、違う動きですね」

「意味が、あるのかは」

「わかりません」

ティリーが静かに首を振る。

「でも、書いておきます」

「わからないことは、わからないまま」

カインが、その言葉を繰り返した。

「それが、一番正直でござるな」

ワングが頷いた。

---

夕方、フォージタウンに戻ると、ダダとブロムがまだ炉の前にいた。

「三つ目、見つかった」

カインが布包みを差し出す。

ブロムが三つの金塊を並べ、じっと見比べた。

「全部、寸分違わないな」

「量、足りそうですか」

ダダが聞く。

「これだけあれば、一度、試せる」

ブロムがゆっくりと頷いた。

「明日から、本腰入れるぞ」

「お願いします」

ダダが鎚だこの残る手を、炉の火に向けて開いた。

「今日、対の迷宮の連中、様子が変だったらしいな」

ブロムが炉の火を見つめたまま言う。

「聞いたのか」

ダダが聞き返す。

「アーカイブに寄ったら、ティリーが教えてくれた」

「素通り、されたんだ。今日は」

ダダが静かに言う。

「わからねえことばかりだが」

ブロムが金塊を布に包み直しながら言った。

「今、目の前でできることを、一つずつ、やるしかねえだろうよ」

「そうっすね」

ダダが頷いた。

外は、いつの間にか夜になっていた。

懐の板の上、色のない印だけが、今日も答えを映さないままだった。

いかがでしょうか?


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