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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
第四部 迷宮エア編 三層

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第139話「二つの盾、届いた報せ」

マランの世界、連日投稿してます。

毎日2話投稿中です。


翌朝、ヘクサインの食堂でカインは掌の紋様にそっと触れた。

「呼んでみるか」

印を組む。

光とともに、杖を持つエルフの女が現れた。

見覚えのある、片膝をついていた姿と同じ顔立ちだった。

「名前、聞いてもいいか」

「ララ」

短く答えが返る。

「エルフのララ」

「よろしく、ララ」

カインが微笑む。

その名は意外なほどすんなりと口から出てきた。

「何か聞きたいことは?」

「ない」

ララはそれ以上何も言わなかった。

聞けば答える。だが自分からは話さない。

「無口な奴が、また増えたでござるな」

ワングが苦笑する。

「カイザーとは違うタイプでござるが」

「うん。話せば答えてくれるだけ、まだわかりやすい」

カインが頷いた。

「どこの出身なんですか」

ミラがそっと聞いてみる。

「わからない」

ララが答える。

「気づいたら、あそこにいた」

「そう……」

ミラが少し目を伏せる。

「無理には聞かないね」

「ありがとう」

ララの声は相変わらず平坦なままだった。

「戦うのはどうだ」

ダダが聞く。

「悪くない」

「杖、自分で選んだやつか」

ダダが続けて聞く。

「わからない」

ララが首を振る。

「気づいたら持ってた」

「そうか」

ダダはそれ以上聞かなかった。

「短い言葉でも、ちゃんと答えてくれるでござるな」

ワングが少し笑う。

「カイザー殿の時は、これすらなかったでござるから」

「これから、よろしくな」

カインが掌に軽く触れる。

「うん」

ララは短く頷き、光の粒になって、掌の紋様へと戻っていった。

---

その日、前衛はスルだった。

三層の通路、色つきの印はあの日を境に一度も戻っていない。

「今日も真っ白でござるな」

ワングが板を一瞥する。

「気にしてても始まらない」

カインが板を懐に戻す。

「潰しながら進もう」

「賛成」

ネリスが爪を鳴らす。

「止まってても、何もわからないままだし」

分岐の先、獣型の魔物が数体現れた。

「ゴーレム、出す」

カインが印を組む。

巨躯の姿が光とともに現れた。

「行くよ」

スルが前へ出る。

「こっちだ」

挑発の声に魔物の一体が食いついた。

その隙にスルは体を沈め、横に流れる。

ゴーレムが正面から太い腕で別の一体を弾き飛ばす。

「受けと躱し、両方が揃うと、こうも安定するでござるな」

ワングが太刀を振るいながら感心する。

「私はいつでも出せる」

ノリアが詠唱を準備したまま様子を見ている。

「出す場面がなければ、それでいい」

「今日も出番なしか」

カインが笑う。

ネリスも隙を見て、爪で一体を仕留める。

「兄貴と連携するの、悪くないね」

「うん」

スルが短く応じた。

ミラが浄光でスルの掠り傷を癒しながら微笑む。

「無理はしてないみたいで良かった」

「うん。慣れてきた」

戦闘は大きな乱れもなく片付いた。

---

翌日、前衛はダダだった。

「ゴーレム、出す」

カインが同じように印を組む。

巨躯の姿が再び現れた。

「見とけ」

ダダが盾を構え、正面から魔物の一撃を受け止める。

ゴーレムも隣で同じように押し返す。

「二枚の盾でござるな、これは」

ワングが感心する。

「受けきる分には頼もしいでござる」

ゴーレムの巨体が続けざまの一撃を涼しい顔で受け止めていく。

「向こうも負けてない」

隙をついて、ネリスの爪が魔物の背を裂いた。

「スルの日とまるで色が違う」

ミラが浄光を唱えながら微笑む。

「同じ相手でも削り方が違うんだね」

「どっちも悪くないでござるよ」

ワングが頷いた。

「色つきの印、今日も戻ってないな」

ダダが板を一瞥する。

「戻る気配、なさそうだね」

ミラが答える。

「なら、待つだけ無駄か」

ダダが呟く。

「無駄とまでは言わないでござるが」

ワングが続ける。

「進みながら様子を見る。それでいいでござろう」

「ティリーさんへの報告、そういえばまだだったね」

ミラが思い出したように言う。

「今日戻ったら寄っていこう」

カインが頷く。

「色が戻らない、ってだけの話でも記録にはなるはずだ」

戦闘を終え、六人はいつも通り魔石と素材を手に入れた。

---

さらに数日後、通路の奥で大きな影の群れに六人は足を止めた。

「数が多いでござるな」

ワングが太刀を構え直す。

「今日はララを頼む」

カインが掌の紋様を見つめ、印を組む。

光とともに杖を持つララが現れる。

「お願いできるか」

「わかった」

ララが短く答え、杖を構えた。

詠唱が静かに通路に響く。

「あれは……七階梯の詠唱?」

ミラが目を見開く。

杖の先に灯った光は、ノリアのファイアとも、ワングの魂縛とも違う、深く澄んだ色をしていた。

炎の奔流が群れの中心を真っ直ぐ貫いた。

一撃で半数近くが崩れ落ちる。

「凄まじいでござるな」

ワングが言葉を失う。

「本当に七階梯まで全部使えるのか」

カインが呆然と呟く。

「うん」

ララが短く頷いた。

「疲れは?」

カインが心配そうに聞く。

「平気」

それ以上は何も語らなかった。

残る数体は、その日の前衛だったダダとワングたちが着実に押し返していく。

「一撃で半分でござるからな」

ワングが太刀を振るいながら苦笑する。

「拙者たちの出番、あまりないでござるよ」

戦闘が終わり静けさが戻る。

「ララ、助かった」

カインが礼を言う。

「うん」

ララは頷くだけで、また静かに佇んだ。

「同じエルフとして聞いていい?」

ノリアがそっと近づく。

「その力、疲れない?」

「疲れる」

「でも、頼まれたから」

その一言にノリアは少し複雑な顔をした。

「私と似てるような、似てないような」

ノリアが小さく呟く。

「私は頼まれなくても、勝手に撃つけどね」

---

数日後、ヘクサインにギルドからの伝令が届いた。

「アプレイザルから鑑定結果が出たそうです」

「短剣のことか」

ネリスが顔を上げる。

以前、エア三層の宝箱の罠を解除した際に見つけた、見覚えのない意匠の短剣だった。

その足で、六人はアプレイザルへ向かった。

「お待たせしました」

鑑定士が短剣をそっと差し出す。

「この短剣、斥候か盗賊の職に就いている者が扱うと、忍者へ転職できる代物のようです」

「忍者……?」

ネリスが目を丸くする。

「聞かない職業でござるな」

ワングが興味深そうに覗き込む。

「マランでは珍しい部類の特殊職だそうです」

鑑定士が続ける。

「気配を消す技、分身のような技、記録にはそういった系統の力が伝わっています」

「ネリスにぴったりだね」

ミラが微笑む。

「ミラさんが僧侶からロードになった時と、似た仕組みですね」

鑑定士が続ける。

「力を開放する形の、特殊な転職です」

「ネリス、まさにお前の得物じゃないか」

カインが目を輝かせる。

「私が……忍者に?」

ネリスが短剣をそっと受け取る。

「悪い話じゃないでござるよ」

ワングが頷く。

「斥候としての今の腕を、捨てるわけじゃないでござろうし」

「今すぐ決めなくていい」

ダダが静かに言う。

「スルの加入と、俺の鍛冶屋の話、まだ二つ保留にしてる。三つ目が増えても慌てなくていい」

「そうだね」

ミラが微笑む。

「装備なら、いつでも打ってやる」

ダダが付け加える。

「うん」

ネリスが短剣を両手で包んだ。

爪とは違う、冷たい刃の感触にしばらく見入っていた。

「保留が三つになったでござるな」

ワングが指を折る。

「スルのパーティ加入、ダダの鍛冶屋の跡継ぎ、そして、ネリスの忍者転職」

「みんな、それぞれのタイミングがあるってことだよ」

ミラが優しく言う。

「焦らなくていい」

「うん」

ネリスが短剣をそっと腰の道具袋にしまった。

その表情には戸惑いと、わずかな期待が同居していた。

忍者という響きに、自分でもまだ実感が湧かないらしい。

「決める時は、ちゃんとみんなに話すから」

「待ってる」

カインが笑う。

「ゴーレムに、スルに、ダダに、ララ」

ワングが指を折りながら呟く。

「気づけば随分と賑やかになったでござるな」

「そうだね」

ミラが微笑む。

「一人ずつ増えていくの、悪くないよ」

「保留も、三つ抱えたままでござるがな」

ワングが苦笑する。

「それも、含めての賑やかさだよ、きっと」

ミラが笑った。

板の上、色のない印が今日も静かに次の通路を示していた。

いかがでしょうか?


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