第138話「滲んだ色、増えた顔」
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スルが前衛を務めた翌日、今度はダダが前衛に入った。
カイン、ネリス、ノリア、ミラ、ワング、そしてダダ。
いつもの六人で、エアへ潜る。
デーモンとの戦闘が、何度かあった。
だが、それだけだった。
もう一組の姿も、判別不能なことも、何も起きなかった。
夕方、六人は、魔石といくつかの金塊を手に、ヘクサインへ戻った。
「今日は、拍子抜けするくらい、普通だったな」
ダダが、盾を壁に立てかけながら、呟く。
「それは、それで、いいことでござるよ」
ワングが、頷く。
「毎回、何か起きられても、身が持たないでござる」
「もう一組は?」
ミラが、そっと聞く。
「見なかった」
ダダが、答える。
「今日は、姿すら、見せなかったな」
「気まぐれなのか、何か理由があるのか」
カインが、腕を組む。
「そこも、わからないままだな」
「明日は、また、スルの番だ」
ダダが、荷を下ろしながら言う。
「うん」
窓辺で、スルが、静かに頷いた。
「頼んだぞ」
「任せて」
「無理は、するなよ」
「うん。ありがとう」
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翌日、板を頼りに、六人は三層の奥へ進んだ。
カイン、ネリス、ノリア、ミラ、ワング、そしてスル。
「あれ」
ミラが、板を覗き込み、首を傾げる。
「点、見えにくくない?」
「本当だ」
カインも、覗き込む。
色つきの印のはずが、輪郭が滲み、どの色か判別できない。
「昨日までは、ちゃんと、見えてたでござるよ」
ワングが、眉を寄せる。
「今日に限って、なぜ」
「前に、似たようなことがあったよね」
ネリスが、思い出すように言う。
「判別できない点。あの、色のない部屋に、繋がってたやつ」
「ベーダー殿と、出会った時でござるな」
ワングが、頷く。
「あの時は、はっきり色がない、という現れ方だったでござる。今回は、なんというか」
「あるはずの色が、見えなくなってる、って感じ」
ミラが、続ける。
「三層自体が、変わってきてるのかもね」
「ティリー殿に、報告した方がいいかもしれないでござるな」
ワングが、腕を組む。
「戻ったら、伝えよう」
カインが、頷く。
「今は、進むしかない」
「進もう」
スルが、短く言った。
先頭に立ち、通路を、静かに進んでいく。
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分岐を抜けた先、開けた部屋に、影が並んでいた。
デーモン、四体。
その奥に、杖を構えた人影が、二体。
「魔法使いらしき奴も、いるでござるな」
ワングが、太刀を抜く。
「ゴーレム、出す」
カインが、印を組む。
巨躯のゴーレムが、光とともに現れた。
「スル、頼む」
「うん」
スルが、前へ出た。
「こっちだ」
挑発の声に、デーモンの視線が集まる。
ゴーレムが、その正面へ回り込み、太い腕を振るう。
スルは、隙間を縫うように動き、デーモンの側面へ、次々と回り込んだ。
「翻弄、うまいでござるな」
ワングが、太刀で一体を斬り伏せながら、感心する。
「静黙、行くよ」
ノリアが、短く唱える。
「拙者も」
ワングが、続けて重ねる。
二重の沈黙が、魔法使い二体の詠唱を、同時に封じた。
「詠唱、させないでござるよ」
「今のうちに」
ネリスが、爪を振るい、残るデーモンを仕留めていく。
「こっちも、片付いた」
ミラが、浄光を唱えながら、周囲を確認する。
「私の出番、なさそうだね」
ノリアが、詠唱を準備したまま、様子を見ている。
「温存、温存」
カインが、笑いながら答える。
「切り札は、切り札のままで、いい」
前衛のデーモン、四体、すべて沈黙した。
「業火弾」
カインが、詠唱を放つ。
炎の塊が、魔法使いの一体を、真っ直ぐ捉えた。
一体は、そのまま崩れ落ちる。
もう一体は、片膝をついたまま、動けずにいた。
「まだ、息がある」
カインが、印を組み直す。
その手が、かすかに震えていた。
「試して、いいか」
「やってみろ」
誰かが、短く言う。
カインは、迷わず、手をかざした。
引き込まれる感覚が、掌に走る。
「……取り込んだ」
カインが、呆然と呟く。
膝をついていた魔法使いの姿が、光の粒に変わり、掌の紋様へと、吸い込まれていった。
「カイザーの時と、同じでござるな」
ワングが、静かに言う。
「あれから、初めてだ」
カインが、掌を見つめる。
新しい紋様が、うっすらと、皮膚に浮かんでいた。
「またか……」
スルが、複雑な表情で、その様子を見ていた。
「新しい仲間か、それとも」
「わからない」
カインが、静かに答える。
「今度は、ちゃんと、話ができる相手だといいけど」
「無言のまま、いなくなるのは、もう十分でござるよ」
ワングが、静かに付け加える。
「うん」
ネリスが、スルの肩に、そっと手を置いた。
「今度は、還す時、一人にしないから」
スルが、小さく頷いた。
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いつも通り、魔石を拾い集め、通路を引き返し始めたところで、ネリスが、足を止めた。
「待って」
前方に、六人分の人影が、立っている。
「また、あいつらか」
ワングが、太刀に手をかけながら、呟く。
自分たちと、瓜二つの一団。
だが、今回は、様子が違った。
「隊列……崩れてないか?」
カインが、目を凝らす。
盾を構えた、大柄な人影。
見覚えのある、構え方だった。
「あれ……ダダの、型でござる」
ワングの声が、掠れる。
「ダダそっくり、じゃない?」
ミラが、震える声で言う。
「今まで、いつも、全員、瓜二つだったのに」
向こうの一団の前衛に、盾を構えた影が立っている。
だが、今日、こちら側の前衛にいるのは、スルだった。
「なんで、スルじゃなくてダダなんだ?」
カインが、呟く。
「今日、潜ってるのは、スルのはずなのに」
ネリスが、兄の方を、ちらりと見る。
「向こうにいるのは、ダダに、似た誰か」
「合わせて、真似してる、って感じでも、なさそうでござるな」
ワングが、首を振る。
「今までの、そっくりさとは、違う理由がある、ということでござろうが」
「理由は、わからない」
スルが、静かに言う。
「でも、俺じゃない誰かが、あそこにいる。それだけは、確かだ」
「戻ろう」
ミラが、静かに言う。
「今日は、これ以上、近づかない方がいい」
「そうだね」
カインが、頷く。
一団は、動かなかった。
六人も、静かに、その場を離れていく。
板の上、丸い印だけが、静かに、向こうの一団の方角を、示し続けていた。
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夕方、ヘクサインの一室で、ミラが手帳を開いた。
「今日の分、記録するね」
「色の判別不能、それから」
カインが、指を折る。
「新しい取り込み、それから、もう一組の前衛が、盾役だったこと」
「一日で、三つも」
ミラが、苦笑しながら、ペンを走らせる。
「多い日でござるな」
扉が開き、工房から戻ったダダが、顔を出す。
「どうだった」
「聞いて驚くなよ」
カインが、掌の紋様を、そっと見せる。
「新しい仲間が、増えた」
「またか」
ダダが、目を丸くする。
「それと」
ネリスが、続ける。
「向こうのパーティ、今日は、そっくりじゃなかった。前衛に、あんたみたいな、盾役がいた」
「俺の……?」
ダダが、眉を寄せる。
「今日、俺は、行ってないのに」
「うん」
カインが、頷く。
「今日、潜ってたのは、スルなのに。向こうは、お前だった」
「なんで、俺なんだ」
ダダが、腕を組む。
「わからない。でも、今までの、綺麗な瓜二つとは、違ってた」
「そこが、気味悪いんだよね」
ミラが、手帳を閉じる。
「三層に入る前は、もっと単純な場所だと思ってたでござる」
ワングが、ぽつりと言う。
「潜るたびに、謎が増えていく」
「怖くない、って言ったら、嘘になるね」
ミラが、正直に言う。
「でも、知らないまま進むよりは、少しずつでも、わかっていきたい」
「新しい仲間、何て呼ぶでござるか」
ワングが、話を変えるように、カインへ聞く。
「まだ、決めてない」
カインが、少し笑う。
「カイザーの時も、咄嗟に、出てきた名前だったし。焦らなくていい」
「明日は」
カインが、皆を見渡す。
「ダダの、番だな」
「頼んだぞ」
ダダが、短く応じる。
「向こうの、盾役のことも、頭に入れて、潜る」
「うん。気をつけて」
その一言に、部屋の空気が、少しだけ引き締まった。
窓の外は、すっかり暗くなっていた。
板の上に浮かんだ、滲んだ色と、増えた顔。
答えの出ないまま、また一日が、静かに終わろうとしていた。
いかがでしょうか?
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