第137話「積み上げた数字、託された最前線」
マランの世界、連日投稿してます。
毎日2話投稿中です。
朝、六人はアプレイザルへ向かった。
鑑定具に触れるたび、ドワーフの鑑定士が数字を読み上げていく。
「カインさん、18です」
「おっ」
カインが、軽く拳を握る。
「じわじわ、伸びてるな」
「地味に、いい伸び方でござるよ」
ワングが、横から覗き込む。
「派手さより、堅実さでござる」
「褒められてる気がしない」
カインが、苦笑する。
「ダダさんと、ネリスさん。お二人とも、24です」
「順調だな」
ダダが、短く応じる。
「私も」
ネリスが、爪を軽く鳴らす。
「言うことなし」
「二人とも、伸び方、似てきたね」
ミラが、微笑む。
「前衛は、地に足つけて積む方が、性に合ってる」
ダダが、答える。
「ノリアさん、18に。それと」
鑑定士が、数値を指差す。
「全部の階梯、使用回数が9に届いてます」
「そう」
ノリアが、素っ気なく答える。
「まあ、順当」
「順当って言うには、化け物じみてる数字だと思うでござるが」
ワングが、横目で見る。
「褒めてくれても、いいのに」
「褒めてる」
ワングが、真顔で答える。
「ミラさん……」
鑑定士が、少し間を置く。
「19から、21です」
「え」
ミラの声が、裏返った。
「二段、上がってる……?」
「珍しい伸び方です。それと、7階梯に新しい呪文。終末の裁き、習得済みです」
「終末の……」
ミラの顔が、ぱっと明るくなる。
「回数は?」
「変わらず、7回のままですね」
「それでも」
ミラが、両手を合わせる。
「嬉しい」
その笑顔に、ネリスがそっと拍手した。
「良かったね、ミラ」
「うん。地道に、積んできた甲斐が、あった気がする」
「ワングさん、24。7階梯の呪文、全部9回になってます」
「かたじけない」
ワングが、深く頭を下げる。
「これで、切り札も、揃うでござるな」
「終焉に、終末の裁き、魂縛」
カインが、指を折る。
「六人分の切り札、並べると、壮観だな」
「使う場面が、少ない方がいいんだけどね」
ミラが、苦笑する。
「それは、そうでござるな」
---
その夜、フラグメンツの隅の卓で、六人とスルが向き合っていた。
「スルの、パーティ加入の話」
カインが、切り出す。
「みんなの気持ちも、聞いておきたい」
「おれは、まだ」
スルが、少し目を伏せる。
「決めきれてない。みんなの、迷惑にもなりたくない」
「迷惑とは、思わないでござるよ」
ワングが、静かに言う。
「ただ、六人の壁は、現に、あるでござる」
「うちの話も、しといていいか」
ダダが、低く言う。
「工房の親父に、そろそろ、跡取りの話を詰めろと言われてる」
「ダダ……」
ミラが、目を見開く。
「辞めるって、話じゃない」
ダダが、首を振る。
「ただ、いつまでも、先送りにはできない」
「工房、継ぎたい気持ちも、あるんだよね」
ネリスが、そっと聞く。
「ある」
ダダが、短く認める。
「盾を、置きたいわけじゃない。両方、欲しいだけだ」
「贅沢な悩みでござるな」
ワングが、少し笑う。
「羨ましいとも、言えるでござる」
「跡取りの話か」
酒の追加を運んできたガラントが、横から口を挟む。
「懐かしいな。うちも、昔は同じようなこと、言われたもんだ」
「ガラントさんも?」
ミラが、目を丸くする。
「ああ。もっとも、俺は、店を継がずに、剣を選んだ口だがな」
ガラントが、軽く肩をすくめる。
「どっちが正解、なんて話じゃない。選んだ後、後悔しないかどうかだ」
「後悔、してないですか」
ダダが、静かに聞く。
「今のところは」
ガラントが、にやりと笑う。
「まあ、答えは、店に立ちながら見つかることもある。焦るな」
そう言い残し、ガラントは、他の卓へと去っていった。
沈黙が、卓を包んだ。
「今すぐ、決めなくていい」
カインが、静かに言う。
「どっちも、大事な話だ。焦って、間違えたくない」
「保留、でござるな」
ワングが、頷く。
「その代わり、明日のことは、決めよう」
カインが、続ける。
「六人の壁がある以上、俺たち六人と、スル、全員でとはいかない」
「だから」
ダダが、スルの方を見る。
「明日は、俺が休む。お前が、前衛に入れ」
「え」
スルが、顔を上げる。
「おれが……ダダさんの、代わりに?」
「代わりじゃない」
ダダが、首を振る。
「交代だ。次は、また俺が入る。そうやって、様子を見よう」
「腕は、鑑定済みだ」
ワングが、付け加える。
「レベル31。挑発と、超加速。回避型のタンクとしては、かなりの水準だと、鑑定士も驚いてたでござるよ」
「31……?」
カインが、目を丸くする。
「俺たちより、上じゃないか」
「数字が、全部じゃない」
スルが、静かに言う。
「みんなと、動いたことが、まだない」
「なら、明日、確かめよう」
ダダが、短く言った。
「俺は、工房に、顔を出しておく」
---
翌日、エアの通路に、六人分の足音が響いていた。
カイン、ネリス、ノリア、ミラ、ワング、そしてスル。
ダダの盾は、今日はない。
スルが、先頭近くに立つ。
「行くよ」
短く言うと、身をかがめた。
「こっちだ」
スルの声が、通路に響く。
戦士型の魔物二体が、同時に、標的を変えた。
「挑発……」
ネリスが、目を見開く。
「本当に、引きつけてる」
魔物の一撃を、スルは受けなかった。
紙一重で、体を横に流す。
「速い……」
カインが、思わず声を上げる。
一拍の後、スルの姿がぶれた。
魔物の背後に、既に回り込んでいる。
「超加速、ってやつでござるな」
ワングが、太刀を構えたまま、感心したように言う。
「拙者の間合いより、速いでござる」
「うわ、マジか」
カインが、口元を緩める。
「あいつ、化け物じみてるな」
魔物の残り一体が、業を煮やしたように、スルへ突っ込んだ。
スルは、退かなかった。
体を沈め、爪の間合いを、ぎりぎりで潜り抜ける。
その隙に、ワングの太刀が、一閃した。
「連携、悪くないでござるな」
ワングが、刀を鞘へ収めながら、口の端を上げる。
「うん」
スルが、短く頷いた。
少し先の分岐で、ネリスが足を止めた。
「罠」
床の一角を、指差す。
「気づいたのか」
カインが、覗き込む。
「かすかに、光ってる。踏んだら、まずいやつ」
ネリスが、糸を二本、順に切っていく。
「解除、完了」
「速いでござるな」
ワングが、感心する。
「スル、こういう時は」
ネリスが、振り返る。
「先に、罠がないか、聞いてくれると助かる」
「わかった」
スルが、頷く。
「気づいたら、声、出す」
「よろしく」
ネリスの声が、少しだけ、柔らかくなった。
小休止を挟み、通路の奥から、二体目の群れが現れる。
今度も、スルが前へ出た。
盾はない。
代わりに、低く構え、間合いを測る。
「受けじゃなくて、避ける前衛か」
カインが、その動きを見ながら、呟く。
「ダダとは、まるで違うね」
ミラが、浄光の呪文を止め、目を細める。
「ダダがいたら、あの一撃、盾で止めてたところだろうし」
「今日は、今日のやり方でござるな」
ワングが、太刀を構え直す。
「どちらが上か、じゃなく、二つあるだけでござる」
スルが、最後の一体を、大きく避けて背後へ回る。
がら空きになった背に、ネリスの爪が、深く突き刺さった。
戦闘が終わり、通路に、静けさが戻る。
「大丈夫か」
ネリスが、スルに駆け寄る。
「うん」
スルが、少し息を整えながら、笑う。
「思ったより、体、動いた」
「思ったより、どころじゃないでござるよ」
ワングが、苦笑する。
「あの動き、伊達じゃないでござる」
「みんなの、役に立てた……?」
スルが、少し不安げに聞く。
「十分すぎるくらい」
カインが、答える。
「盾がなくても、なんとかなるもんだな」
その一言に、ネリスの表情が、少しだけ緩んだ。
複雑さと、誇らしさが、同時に滲む横顔だった。
板の上、丸い印が、次の通路へと、静かに動き出した。
---
夕方、六人とスルは、ヘクサインへ戻った。
先に戻っていたダダが、扉を開けて、出迎える。
「どうだった」
「スル、大活躍だったよ」
ミラが、笑顔で答える。
「挑発も、超加速も、想像以上だった」
「盾なしで、通ったのか」
ダダが、少し驚いたように聞く。
「うん」
ネリスが、頷く。
「あんたのやり方とは、違うけど。ちゃんと、通った」
「そうか」
ダダが、短く頷く。
その声に、安堵と、わずかな悔しさが、同時に滲んでいた。
「次は、俺の番だな」
「うん、頼むよ」
スルが、笑う。
「へえ」
ノリアが、スルを見る。
「レベル31の割に、地味な顔してるじゃん」
「褒めてる、のか?」
スルが、戸惑ったように聞く。
「褒めてる」
ノリアが、素っ気なく答える。
「加入の話も、鍛冶屋の話も」
カインが、皆を見渡す。
「まだ、答えは出てない」
「それでいい」
ダダが、短く言う。
「今日みたいに、交代しながら、少しずつ、確かめていけば」
「うん」
ネリスが、頷いた。
窓の外は、すっかり暗くなっていた。
明日も、板の示す道の先で、答えの欠片が待っている。
いかがでしょうか?
感想、フォロー 頂けましたら喜びます。
下記の「評価」も、よろしくお願いいたします。




