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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
第四部 迷宮エア編 三層

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第137話「積み上げた数字、託された最前線」

マランの世界、連日投稿してます。

毎日2話投稿中です。


朝、六人はアプレイザルへ向かった。


鑑定具に触れるたび、ドワーフの鑑定士が数字を読み上げていく。


「カインさん、18です」


「おっ」


カインが、軽く拳を握る。


「じわじわ、伸びてるな」


「地味に、いい伸び方でござるよ」


ワングが、横から覗き込む。


「派手さより、堅実さでござる」


「褒められてる気がしない」


カインが、苦笑する。


「ダダさんと、ネリスさん。お二人とも、24です」


「順調だな」


ダダが、短く応じる。


「私も」


ネリスが、爪を軽く鳴らす。


「言うことなし」


「二人とも、伸び方、似てきたね」


ミラが、微笑む。


「前衛は、地に足つけて積む方が、性に合ってる」


ダダが、答える。


「ノリアさん、18に。それと」


鑑定士が、数値を指差す。


「全部の階梯、使用回数が9に届いてます」


「そう」


ノリアが、素っ気なく答える。


「まあ、順当」


「順当って言うには、化け物じみてる数字だと思うでござるが」


ワングが、横目で見る。


「褒めてくれても、いいのに」


「褒めてる」


ワングが、真顔で答える。


「ミラさん……」


鑑定士が、少し間を置く。


「19から、21です」


「え」


ミラの声が、裏返った。


「二段、上がってる……?」


「珍しい伸び方です。それと、7階梯に新しい呪文。終末の裁き、習得済みです」


「終末の……」


ミラの顔が、ぱっと明るくなる。


「回数は?」


「変わらず、7回のままですね」


「それでも」


ミラが、両手を合わせる。


「嬉しい」


その笑顔に、ネリスがそっと拍手した。


「良かったね、ミラ」


「うん。地道に、積んできた甲斐が、あった気がする」


「ワングさん、24。7階梯の呪文、全部9回になってます」


「かたじけない」


ワングが、深く頭を下げる。


「これで、切り札も、揃うでござるな」


「終焉に、終末の裁き、魂縛」


カインが、指を折る。


「六人分の切り札、並べると、壮観だな」


「使う場面が、少ない方がいいんだけどね」


ミラが、苦笑する。


「それは、そうでござるな」


---


その夜、フラグメンツの隅の卓で、六人とスルが向き合っていた。


「スルの、パーティ加入の話」


カインが、切り出す。


「みんなの気持ちも、聞いておきたい」


「おれは、まだ」


スルが、少し目を伏せる。


「決めきれてない。みんなの、迷惑にもなりたくない」


「迷惑とは、思わないでござるよ」


ワングが、静かに言う。


「ただ、六人の壁は、現に、あるでござる」


「うちの話も、しといていいか」


ダダが、低く言う。


「工房の親父に、そろそろ、跡取りの話を詰めろと言われてる」


「ダダ……」


ミラが、目を見開く。


「辞めるって、話じゃない」


ダダが、首を振る。


「ただ、いつまでも、先送りにはできない」


「工房、継ぎたい気持ちも、あるんだよね」


ネリスが、そっと聞く。


「ある」


ダダが、短く認める。


「盾を、置きたいわけじゃない。両方、欲しいだけだ」


「贅沢な悩みでござるな」


ワングが、少し笑う。


「羨ましいとも、言えるでござる」


「跡取りの話か」


酒の追加を運んできたガラントが、横から口を挟む。


「懐かしいな。うちも、昔は同じようなこと、言われたもんだ」


「ガラントさんも?」


ミラが、目を丸くする。


「ああ。もっとも、俺は、店を継がずに、剣を選んだ口だがな」


ガラントが、軽く肩をすくめる。


「どっちが正解、なんて話じゃない。選んだ後、後悔しないかどうかだ」


「後悔、してないですか」


ダダが、静かに聞く。


「今のところは」


ガラントが、にやりと笑う。


「まあ、答えは、店に立ちながら見つかることもある。焦るな」


そう言い残し、ガラントは、他の卓へと去っていった。


沈黙が、卓を包んだ。


「今すぐ、決めなくていい」


カインが、静かに言う。


「どっちも、大事な話だ。焦って、間違えたくない」


「保留、でござるな」


ワングが、頷く。


「その代わり、明日のことは、決めよう」


カインが、続ける。


「六人の壁がある以上、俺たち六人と、スル、全員でとはいかない」


「だから」


ダダが、スルの方を見る。


「明日は、俺が休む。お前が、前衛に入れ」


「え」


スルが、顔を上げる。


「おれが……ダダさんの、代わりに?」


「代わりじゃない」


ダダが、首を振る。


「交代だ。次は、また俺が入る。そうやって、様子を見よう」


「腕は、鑑定済みだ」


ワングが、付け加える。


「レベル31。挑発と、超加速。回避型のタンクとしては、かなりの水準だと、鑑定士も驚いてたでござるよ」


「31……?」


カインが、目を丸くする。


「俺たちより、上じゃないか」


「数字が、全部じゃない」


スルが、静かに言う。


「みんなと、動いたことが、まだない」


「なら、明日、確かめよう」


ダダが、短く言った。


「俺は、工房に、顔を出しておく」


---


翌日、エアの通路に、六人分の足音が響いていた。


カイン、ネリス、ノリア、ミラ、ワング、そしてスル。


ダダの盾は、今日はない。


スルが、先頭近くに立つ。


「行くよ」


短く言うと、身をかがめた。


「こっちだ」


スルの声が、通路に響く。


戦士型の魔物二体が、同時に、標的を変えた。


「挑発……」


ネリスが、目を見開く。


「本当に、引きつけてる」


魔物の一撃を、スルは受けなかった。


紙一重で、体を横に流す。


「速い……」


カインが、思わず声を上げる。


一拍の後、スルの姿がぶれた。


魔物の背後に、既に回り込んでいる。


「超加速、ってやつでござるな」


ワングが、太刀を構えたまま、感心したように言う。


「拙者の間合いより、速いでござる」


「うわ、マジか」


カインが、口元を緩める。


「あいつ、化け物じみてるな」


魔物の残り一体が、業を煮やしたように、スルへ突っ込んだ。


スルは、退かなかった。


体を沈め、爪の間合いを、ぎりぎりで潜り抜ける。


その隙に、ワングの太刀が、一閃した。


「連携、悪くないでござるな」


ワングが、刀を鞘へ収めながら、口の端を上げる。


「うん」


スルが、短く頷いた。


少し先の分岐で、ネリスが足を止めた。


「罠」


床の一角を、指差す。


「気づいたのか」


カインが、覗き込む。


「かすかに、光ってる。踏んだら、まずいやつ」


ネリスが、糸を二本、順に切っていく。


「解除、完了」


「速いでござるな」


ワングが、感心する。


「スル、こういう時は」


ネリスが、振り返る。


「先に、罠がないか、聞いてくれると助かる」


「わかった」


スルが、頷く。


「気づいたら、声、出す」


「よろしく」


ネリスの声が、少しだけ、柔らかくなった。


小休止を挟み、通路の奥から、二体目の群れが現れる。


今度も、スルが前へ出た。


盾はない。


代わりに、低く構え、間合いを測る。


「受けじゃなくて、避ける前衛か」


カインが、その動きを見ながら、呟く。


「ダダとは、まるで違うね」


ミラが、浄光の呪文を止め、目を細める。


「ダダがいたら、あの一撃、盾で止めてたところだろうし」


「今日は、今日のやり方でござるな」


ワングが、太刀を構え直す。


「どちらが上か、じゃなく、二つあるだけでござる」


スルが、最後の一体を、大きく避けて背後へ回る。


がら空きになった背に、ネリスの爪が、深く突き刺さった。


戦闘が終わり、通路に、静けさが戻る。


「大丈夫か」


ネリスが、スルに駆け寄る。


「うん」


スルが、少し息を整えながら、笑う。


「思ったより、体、動いた」


「思ったより、どころじゃないでござるよ」


ワングが、苦笑する。


「あの動き、伊達じゃないでござる」


「みんなの、役に立てた……?」


スルが、少し不安げに聞く。


「十分すぎるくらい」


カインが、答える。


「盾がなくても、なんとかなるもんだな」


その一言に、ネリスの表情が、少しだけ緩んだ。


複雑さと、誇らしさが、同時に滲む横顔だった。


板の上、丸い印が、次の通路へと、静かに動き出した。


---


夕方、六人とスルは、ヘクサインへ戻った。


先に戻っていたダダが、扉を開けて、出迎える。


「どうだった」


「スル、大活躍だったよ」


ミラが、笑顔で答える。


「挑発も、超加速も、想像以上だった」


「盾なしで、通ったのか」


ダダが、少し驚いたように聞く。


「うん」


ネリスが、頷く。


「あんたのやり方とは、違うけど。ちゃんと、通った」


「そうか」


ダダが、短く頷く。


その声に、安堵と、わずかな悔しさが、同時に滲んでいた。


「次は、俺の番だな」


「うん、頼むよ」


スルが、笑う。


「へえ」


ノリアが、スルを見る。


「レベル31の割に、地味な顔してるじゃん」


「褒めてる、のか?」


スルが、戸惑ったように聞く。


「褒めてる」


ノリアが、素っ気なく答える。


「加入の話も、鍛冶屋の話も」


カインが、皆を見渡す。


「まだ、答えは出てない」


「それでいい」


ダダが、短く言う。


「今日みたいに、交代しながら、少しずつ、確かめていけば」


「うん」


ネリスが、頷いた。


窓の外は、すっかり暗くなっていた。


明日も、板の示す道の先で、答えの欠片が待っている。


いかがでしょうか?


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