第136話「五つの光、還っていく仲間」
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朝、ヘクサインの一室に、六人が集まっていた。
ミラが、手帳を開く。
「鎧の魔物、白の点で六体。カイザーと、ダインさんで、二人。残りが、四人」
「それは、もう聞いた話でござる」
ワングが、静かに言う。
「ええ、でも」
ミラが、続ける。
「緑のコインの記憶、覚えてますか。あの時、五人の冒険者と、スルさんが、一緒に歩いてました」
「六人、でござったな」
ワングが、思い出すように言う。
「五人が、目の前で。スルさんは、最後まで、残ってました」
「でも、あの後、スルさんも、魔物になった」
カインが、静かに引き取る。
「つまり、六人とも、あそこで、命を落としてる」
「鎧の魔物、六体のうち、ダインさんが、一体」
ミラが、指を折る。
「残り五体のうち、四体が、まだ、正体不明」
「五体……?」
ネリスが、聞き返す。
「カイザーを、数に入れたら」
ミラが、静かに言う。
「五体、でしょう」
その一言に、誰も、すぐには答えなかった。
「まさか」
カインの声が、掠れる。
「カイザーも」
「わからない」
ミラが、首を振る。
「でも、数だけは、綺麗に、揃う」
「本人に、聞くしかないでござるな」
ワングが、静かに続ける。
「もし、本当に、カイザーだったら」
ダダが、低く言う。
「あいつ、いなくなるのか。実戦で、一番、頼りにしてる奴が」
「わからない」
カインが、静かに答える。
「でも、確かめないまま、使い続けるのは、違う気がする」
「拙者も、同じ気持ちでござる」
ワングが、頷く。
「戦力の話じゃ、ないでござるからな、これは」
誰も、それ以上、言葉を継げなかった。
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その足で、六人はスルの部屋へ向かった。
窓辺で、スルは、静かに座っていた。
「スル」
ネリスが、そっと呼びかける。
「エアの三層に、仲間かもしれない魔物が、何体か、いる」
ネリスが、言葉を選びながら続ける。
「その中に、もしかしたら」
「カイザーも、いるかもしれない」
スルの目が、大きく見開かれた。
「賢者が……?」
「まだ、わからない。でも、確かめたい」
ネリスが、スルの手を、そっと握る。
「無理は、しなくていい」
「行く」
スルが、迷わず、立ち上がった。
「今度こそ、ちゃんと、確かめる」
「六人プラス、スルさんで、七人でござる」
ワングが、指を折る。
「六人の壁、引っかかるかもな」
ダダが、腕を組む。
「私、残る」
ノリアが、あっさり言う。
「今回、殴り合いには、ならないと思うし」
「いいのか」
カインが、聞く。
「いいよ」
ノリアが、素っ気なく答える。
「こういうのは、あんたたちの方が、向いてる」
「ありがとう、ノリア」
ミラが、静かに言う。
「行ってらっしゃい」
ノリアの声は、いつもより、少しだけ、優しかった。
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クロスロードを抜け、エアへ向かう。
カインは、今日も、先に、カイザーを呼び出した。
いつもと変わらない、無言の佇まい。
だが、カインは、その姿を、これまでとは違う目で見ている自分に気づいていた。
「久しぶりでござるな、エアは」
ワングが、スルの隣を歩きながら、静かに声をかける。
「うん」
スルが、短く答える。
その横顔に、緊張と、それだけではない何かが、滲んでいた。
「怖かったら、いつでも、言ってくれ」
ダダが、盾を持ち直しながら、静かに言う。
「うん。ありがとう」
板の示す、通路の先。
見覚えのある部屋に、四つの人影が、並んでいた。
「あ……」
スルの声が、震えた。
「兄貴」「隊長」「姉御」「坊主」
スルが、たどたどしく、当時の呼び名を、口にする。
四つの人影が、同時に、こちらを向いた。
剣を、構えなかった。
その時だった。
隣に控えていたカイザーが、命令もないまま、一歩、前へ出た。
「カイザー……?」
カインが、驚いて、声を上げる。
カイザーは、止まらなかった。
四体の輪に、静かに加わっていく。
「賢者」
スルが、震える声で、その名を呼んだ。
カイザーが、ゆっくりと、スルの方を向く。
これまで、誰も見たことのない仕草だった。
「やっぱり……」
ネリスが、口元を押さえる。
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五体が、同時に、片膝をついた。
剣を、鞘ごと、地面に横たえる。
足元に、五つの光が、灯った。
色のない、五枚のコイン。
スルが、震える手で、一枚ずつ、拾い上げる。
触れた瞬間、映像が流れ込んだ。
今度は、六人で、笑いながら、通路を歩いている。
賢者と呼ばれた者が、杖を振って、皆を笑わせている。
隊長らしき男が、その頭を、軽く小突いた。
姉御と呼ばれた女が、地図を広げ、皆に指図している。
坊主と呼ばれた若者が、荷物を担ぎ直し、駆け足で追いつく。
戦いの前、円陣を組んで、誰かが冗談を言っている。
スルが、その輪の中心で、照れくさそうに笑っていた。
最後に、ミノタウロスの影が、大きく差し込む。
賢者が、真っ先に、結界の呪文を唱えた。
だが、間に合わなかった。
そこで、光景は途切れた。
「みんな、守ろうとしてたんだ」
スルの目から、涙が、こぼれた。
「最後まで」
五体の輪郭が、揺らぎ始める。
光の粒に、ほどけていく。
カイザーも、同じように、光を纏い始めた。
「待って」
カインが、思わず、声を上げる。
「カイザー、お前……」
カイザーが、初めて、カインの方を、振り返った。
言葉は、なかった。
それでも、その一礼には、確かに、感謝のようなものが、滲んでいた。
「今まで、ありがとう」
カインが、声を絞り出す。
「ずっと、一緒に、戦ってくれて」
五体、揃って、深く、頭を下げる。
「ありがとう」
スルが、声を絞り出す。
「みんなのこと、忘れない」
答えは、なかった。
だが、光は、どこか、笑っているように見えた。
やがて、静かに、消えていった。
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通路に、静けさが戻る。
「カイザー、いなくなっちゃったね」
ミラが、静かに言う。
「うん」
カインが、頷く。
「寂しいけど……これで、良かったんだと思う」
「戦力、減るでござるな」
ワングが、静かに言う。
「それでも、正しい選択だったでござる」
「ああ」
ダダが、短く応じる。
「使い続けるより、還す方が、ずっと、いい」
「これから、前衛、三人でやることになるでござるな」
ワングが、静かに言う。
「拙者と、ダダ殿と……」
「なんとかなる」
ダダが、短く答える。
「なんとかしよう、じゃなくて、なんとかなる、なんだね」
ミラが、少し、笑った。
「そう言っておけば、大抵、そうなる」
ダダが、真顔で答える。
その一言に、重かった空気が、少しだけ、軽くなった。
スルが、五枚のコインを、そっと、両手で包む。
「これで、全員、揃った」
「うん」
ネリスが、スルの背を、そっとさする。
「よく、頑張ったね」
スルが、小さく、頷いた。
久しぶりに見る、穏やかな笑顔だった。
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夕方、六人とスルは、ヘクサインへ戻った。
ノリアが、扉を開けて、出迎える。
「どうだった」
「全員、還ったよ」
ネリスが、静かに答える。
「カイザーも」
「……そう」
ノリアが、目を見開いた。
「それは……大きいな」
「うん」
カインが、頷く。
「でも、後悔は、してない」
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翌朝、六人は、ギルド長室を訪ねた。
スルも、一緒だった。
ルーシェナが、静かに、話を聞く。
「六人パーティ、全員……」
ルーシェナが、目を伏せる。
「還っていったのね」
「はい」
カインが、頷く。
「カイザーも、その一人でした」
「取り込みの、正体……」
ルーシェナが、静かに、繰り返す。
「そういう、ことだったのね」
「白の点の六体、これで、全部わかりました」
ミラが、続ける。
「そう」
ルーシェナが、少し、微笑む。
「よく、やったわね」
「戦力は、減りました」
カインが、正直に言う。
「でも、後悔は、してません」
「その判断ができるなら」
ルーシェナが、静かに言う。
「大丈夫よ、あなたたちは」
六人とスルは、揃って、頭を下げた。
「スル、これから、どうする」
部屋を出たところで、カインが、そっと聞く。
「冒険者に、なろうと思う」
スルが、はっきりと、答えた。
「でも、みんなのパーティには、入らない」
「え……」
ネリスが、驚いたように、スルを見る。
「六人が、上限なんでしょう」
スルが、静かに続ける。
「ワングさんが、六人目になった時、もう埋まってる。おれが、割り込む場所じゃない」
「拙者が、六人目になった時のことを、思い出すでござるな」
ワングが、静かに言う。
「あの時も、リゼット殿に、はっきり言われたでござる。六人が、上限。七人目は、いない、と」
「規則は、変わらないんだね」
ミラが、静かに言う。
「変わらない」
カインが、頷く。
「それに」
スルが、少し、笑う。
「みんなの一員には、もう、なってる気がするんだ。パーティの名簿は、関係なく」
「スル……」
ネリスが、目を潤ませる。
「おれは、おれで、冒険者になる。いつか、六人の役に立てるように」
「一人で、大丈夫か」
ダダが、静かに聞く。
「一人じゃない」
スルが、首を振る。
「ネリスが、いる」
その一言に、誰も、それ以上、何も言えなかった。
「冒険者に、なるなら」
ダダが、静かに、続けて聞く。
「どんな、戦い方を、目指す」
「避けて、隙を作る。それと」
スルが、少し考えて、答える。
「敵の目を、引きつける。得意な、気がする」
「回避と、挑発、か」
ダダが、短く、繰り返す。
その横顔に、何かが過ぎった。
だが、それ以上は、何も言わなかった。
まだ、自分の中でも、形になっていないものだった。
「装備、要るな」
ダダが、ぽつりと、続ける。
「打ってやろうか、いずれ」
「え……」
スルが、驚いたように、ダダを見る。
「うちは、代々、鍛冶屋だ」
ダダが、初めて、明かすように言う。
「知らなかった、です」
「言ってなかったからな」
ダダが、短く、笑った。
「パーティの外にいたって」
カインが、静かに言う。
「家族でいられる」
「うん」
スルが、頷いた。
その目に、これまでとは違う光が、宿っていた。
ギルド長室を出ると、外は、すっかり明るくなっていた。
板の上には、もう、色のない印は、浮かんでいない。
白の点で始まった六体の謎は、静かに、幕を閉じた。
いかがでしょうか?
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