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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
第四部 迷宮エア編 三層

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第132話「止まった手、覚えのある型」

マランの世界、連日投稿してます。

毎日2話投稿中です。


クロスロードを抜け、六人はまっすぐヘクサインへ向かった。


誰も口を開かなかった。


部屋に入り、扉を閉めた瞬間、ようやく息を吐く音がいくつか重なった。


「さっきの、六人組」


先に切り出したのは、ダダだった。


「本物だと思うか」


「わからない」


カインが、椅子に腰を下ろしながら答える。


「幻でも、本物でも、模倣でも。今夜、答えは出ない」


「それは、そうだけど」


ミラが、静かに手帳を閉じた。


「あっちが拾った金色のもの、私たちの分と、同じだったのかな」


「わからない」


ノリアが、繰り返す。


「わからないことを、わからないまま並べても仕方ない」


「今日のことは、記録だけしておく」


「向こうも、同じこと考えてたりして」


ネリスが、ふと呟く。


「考えたくないな、それは」


カインが、苦笑いを浮かべた。


その一言で、話は、ひとまず区切りがついた。


---


「なあ」


カインが、皆を見渡す。


「今夜、フラグメンツ、寄らないか」


「珍しいでござるな。今日みたいな日に」


ワングが、意外そうに言う。


「ガラントさんに、聞きたいことがあるんだ」


カインが、続ける。


「カイザーの太刀筋のこと、前から気になってた。あの人なら、昔の型とか、詳しいかもしれない」


ワングの肩が、わずかに強張った。


「拙者は……」


言いかけて、ワングは口をつぐんだ。


「無理にとは言わない」


カインが、静かに続ける。


「でも、一人で抱えるより、いいと思う」


「私も、そう思う」


ミラが、静かに付け加えた。


「ずっと、抱えてたでしょう、それ」


「気づいてたのか」


ワングが、驚いたように、ミラを見る。


「気づかないわけ、ないでしょう」


ネリスが、耳をぴくりと動かした。


「白の点の後から、ずっと目を逸らしてたし」


「拙者は、そんなに、分かりやすいでござるか」


ワングが、少し照れくさそうに言う。


「分かりやすい」


六人の声が、久しぶりに、揃った。


しばらくの沈黙のあと、ワングが、小さく頷いた。


「そう、でござるな」


---


夜、フラグメンツは、いつも通りの賑わいだった。


奥の席に、六人は腰を下ろす。


「今日は、静かだな、お前ら」


ガラントが、酒を運びながら声をかけてくる。


「今日は、たくさん飲むかもしれません」


カインが、軽く返す。


「珍しいこと言うじゃないか」


ガラントが、笑いながら、酒を置いた。


その笑顔が、いつもより少しだけ長く続いた気がした。


「エア三層、まだ続けてるのか」


ガラントが、それとなく尋ねる。


「はい」


カインが、短く答えた。


「無理は、するなよ」


ガラントの声に、いつもの軽さの底に、小さな重さが混じっていた。


「ガラントさん」


カインが、切り出した。


「剣のことで、聞きたいことがあって」


「剣?」


ガラントが、片眉を上げる。


「拙者が」


ワングが、意を決したように口を開いた。


「最近、ある太刀筋に覚えがある気がしてならぬでござる」


ワングが、慎重に言葉を選びながら続ける。


「円を描くように、切っ先を返す型」


グラスを拭いていたガラントの手が、止まった。


一瞬だけ、店の喧騒が遠くなったように感じられた。


「……右足を軸に、半歩下がりながらか」


ガラントが、低く聞き返す。


「その通りでござる」


ワングが、目を見開く。


「何故、それを」


ガラントは、答えなかった。


グラスを、ゆっくりとまた拭き始める。


その手が、かすかに震えているのを、ダダが見逃さなかった。


「昔」


しばらくして、ガラントが、ぽつりと言った。


「似たような型を遣う奴を、知っていた。それだけだ」


「それだけ、ですか」


カインが、慎重に重ねて聞く。


「それだけだ」


ガラントの声は、いつもより低かった。


「悪いな。今日は、この辺で」


ガラントが、グラスを置き、奥へ引っ込んでいく。


その背中は、いつもより少し小さく見えた。


誰も、呼び止めなかった。


---


「……触れちゃいけない話、だったかも」


ネリスが、小さく呟く。


「かもな」


ダダが、静かに頷いた。


「手、震えてたな。グラス、拭きながら」


ダダが、続ける。


「あの人が、ああなるの、初めて見た」


「ベーダーさんの話をした時も、表情、変わってたよね」


ミラが、静かに思い出す。


「あの時とは、また違う変わり方だった気がする」


「違う、というと」


カインが、聞き返す。


「ベーダーさんの話は、悲しみだった。今のは、もっと」


ミラが、言葉を選ぶ。


「怖がってるみたいだった」


「でも」


ワングが、続ける。


「拙者の中の、この既視感。少しだけ、輪郭が近づいた気がするでござる」


「ベーダーさんにも、聞いてみる?」


カインが、ふと言う。


「あの人も、当時のことを知ってるはずだし」


「今は、まだ、やめておこう」


ミラが、静かに首を振った。


「ガラントさんが、話す気になるまで、待った方がいい」


「そうだな」


カインが、頷いた。


その横で、ワングは、静かに拳を握っていた。


「無理に、追いかけなくていいよ」


ミラが、静かに言う。


「向こうが、話したくなった時でいい」


「かたじけない」


ワングが、小さく頭を下げた。


その夜、六人は、それ以上何も話さなかった。


---


翌朝、六人はアプレイザルの窓口に立った。


カインが、布に包んだ短剣を差し出す。


鑑定士が、刃を光にかざし、紋様をじっと見つめた。


「……由来は、分かりません」


しばらくして、鑑定士が正直に言う。


「ただ、形状と重心から見て、斥候か盗賊系統の職に向けて作られた品だと思います」


「もっと詳しく分かる方法は」


ミラが尋ねる。


「本部より上位の鑑定士に、預けることはできます」


鑑定士が続ける。


「日数と、それなりの費用は、かかりますが」


「お願いします」


カインが、頷いた。


「知らないままより、いいと思う」


「では、お預かりします」


鑑定士が、短剣を丁寧に布ごと受け取った。


「金塊の方は、どうしますか」


鑑定士が、続けて尋ねる。


「今日は、いいです」


ミラが、静かに首を振った。


「昨日、確かめたばかりなので」


「また今度、お願いします」


「かしこまりました」


「結果が出るまで、しばらくかかります」


「よろしくお願いします」


六人は、深く頭を下げた。


---


その足で、六人はエアへ向かった。


板の示す、次のポイント。


昨日の一件のせいか、通路を進む六人の足取りは、いつもより慎重だった。


「大丈夫か、お前」


ダダが、隣を歩くワングに、小さく声をかける。


「大丈夫でござる」


答える声に、いつもの張りが、まだ完全には戻っていなかった。


ネリスが、先行して、曲がり角の先を何度も確かめる。


「今のところ、変わった気配はない」


「それも、いつまでかわからないけどな」


ダダが、盾を持ち直した。


板の上、丸い印が、ゆっくりと奥へ進んでいく。


やがて、通路の奥に、五つの人影が立っているのが見えた。


「……嘘だろ」


カインの声が掠れる。


全身鎧、ロングソード、盾。


カイザーと、寸分違わぬ姿が、五体並んでいた。


「五体……」


ダダが、盾を構え直す。


「白の点にいたのは、六体だった」


ワングが、静かに言う。


「一体は、拙者たちのもとにいる。残りが、これでござるか」


その言葉に、カインの手が、わずかに震えた。


「カイザー、頼む」


カインが印を組む。


光の中から、無言の鎧の魔物が姿を現した。


いつも通りの、静かな佇まい。


だが、目の前に並ぶ五体と、見分けがつかなかった。


「あの太刀筋、まさか」


ワングが、刀の柄を強く握り直す。


その声には、これまでにない緊張が滲んでいた。


「六人と、一体」


ワングが、続ける。


「向こうは、五体」


通路を挟んで、両者が向き合う。


誰も動かなかった。


カイザーは、いつも通り、微動だにしない。


だが、向かいの五体のうち一体だけが、わずかに剣の切っ先を上げた。


その動きは、ワングが語った型と、同じ弧を描いていた。


「今の」


ワングの声が、かすかに掠れる。


「見たでござるか、今の」


「見た」


カインが、短く答えた。


誰も、その先を言葉にしなかった。


ミラが、そっと、ワングの背に手を添える。


風の音さえ聞こえない静けさの中、六人と一体は、五つの影を見据え続けた。


いかがでしょうか?


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