第132話「止まった手、覚えのある型」
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クロスロードを抜け、六人はまっすぐヘクサインへ向かった。
誰も口を開かなかった。
部屋に入り、扉を閉めた瞬間、ようやく息を吐く音がいくつか重なった。
「さっきの、六人組」
先に切り出したのは、ダダだった。
「本物だと思うか」
「わからない」
カインが、椅子に腰を下ろしながら答える。
「幻でも、本物でも、模倣でも。今夜、答えは出ない」
「それは、そうだけど」
ミラが、静かに手帳を閉じた。
「あっちが拾った金色のもの、私たちの分と、同じだったのかな」
「わからない」
ノリアが、繰り返す。
「わからないことを、わからないまま並べても仕方ない」
「今日のことは、記録だけしておく」
「向こうも、同じこと考えてたりして」
ネリスが、ふと呟く。
「考えたくないな、それは」
カインが、苦笑いを浮かべた。
その一言で、話は、ひとまず区切りがついた。
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「なあ」
カインが、皆を見渡す。
「今夜、フラグメンツ、寄らないか」
「珍しいでござるな。今日みたいな日に」
ワングが、意外そうに言う。
「ガラントさんに、聞きたいことがあるんだ」
カインが、続ける。
「カイザーの太刀筋のこと、前から気になってた。あの人なら、昔の型とか、詳しいかもしれない」
ワングの肩が、わずかに強張った。
「拙者は……」
言いかけて、ワングは口をつぐんだ。
「無理にとは言わない」
カインが、静かに続ける。
「でも、一人で抱えるより、いいと思う」
「私も、そう思う」
ミラが、静かに付け加えた。
「ずっと、抱えてたでしょう、それ」
「気づいてたのか」
ワングが、驚いたように、ミラを見る。
「気づかないわけ、ないでしょう」
ネリスが、耳をぴくりと動かした。
「白の点の後から、ずっと目を逸らしてたし」
「拙者は、そんなに、分かりやすいでござるか」
ワングが、少し照れくさそうに言う。
「分かりやすい」
六人の声が、久しぶりに、揃った。
しばらくの沈黙のあと、ワングが、小さく頷いた。
「そう、でござるな」
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夜、フラグメンツは、いつも通りの賑わいだった。
奥の席に、六人は腰を下ろす。
「今日は、静かだな、お前ら」
ガラントが、酒を運びながら声をかけてくる。
「今日は、たくさん飲むかもしれません」
カインが、軽く返す。
「珍しいこと言うじゃないか」
ガラントが、笑いながら、酒を置いた。
その笑顔が、いつもより少しだけ長く続いた気がした。
「エア三層、まだ続けてるのか」
ガラントが、それとなく尋ねる。
「はい」
カインが、短く答えた。
「無理は、するなよ」
ガラントの声に、いつもの軽さの底に、小さな重さが混じっていた。
「ガラントさん」
カインが、切り出した。
「剣のことで、聞きたいことがあって」
「剣?」
ガラントが、片眉を上げる。
「拙者が」
ワングが、意を決したように口を開いた。
「最近、ある太刀筋に覚えがある気がしてならぬでござる」
ワングが、慎重に言葉を選びながら続ける。
「円を描くように、切っ先を返す型」
グラスを拭いていたガラントの手が、止まった。
一瞬だけ、店の喧騒が遠くなったように感じられた。
「……右足を軸に、半歩下がりながらか」
ガラントが、低く聞き返す。
「その通りでござる」
ワングが、目を見開く。
「何故、それを」
ガラントは、答えなかった。
グラスを、ゆっくりとまた拭き始める。
その手が、かすかに震えているのを、ダダが見逃さなかった。
「昔」
しばらくして、ガラントが、ぽつりと言った。
「似たような型を遣う奴を、知っていた。それだけだ」
「それだけ、ですか」
カインが、慎重に重ねて聞く。
「それだけだ」
ガラントの声は、いつもより低かった。
「悪いな。今日は、この辺で」
ガラントが、グラスを置き、奥へ引っ込んでいく。
その背中は、いつもより少し小さく見えた。
誰も、呼び止めなかった。
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「……触れちゃいけない話、だったかも」
ネリスが、小さく呟く。
「かもな」
ダダが、静かに頷いた。
「手、震えてたな。グラス、拭きながら」
ダダが、続ける。
「あの人が、ああなるの、初めて見た」
「ベーダーさんの話をした時も、表情、変わってたよね」
ミラが、静かに思い出す。
「あの時とは、また違う変わり方だった気がする」
「違う、というと」
カインが、聞き返す。
「ベーダーさんの話は、悲しみだった。今のは、もっと」
ミラが、言葉を選ぶ。
「怖がってるみたいだった」
「でも」
ワングが、続ける。
「拙者の中の、この既視感。少しだけ、輪郭が近づいた気がするでござる」
「ベーダーさんにも、聞いてみる?」
カインが、ふと言う。
「あの人も、当時のことを知ってるはずだし」
「今は、まだ、やめておこう」
ミラが、静かに首を振った。
「ガラントさんが、話す気になるまで、待った方がいい」
「そうだな」
カインが、頷いた。
その横で、ワングは、静かに拳を握っていた。
「無理に、追いかけなくていいよ」
ミラが、静かに言う。
「向こうが、話したくなった時でいい」
「かたじけない」
ワングが、小さく頭を下げた。
その夜、六人は、それ以上何も話さなかった。
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翌朝、六人はアプレイザルの窓口に立った。
カインが、布に包んだ短剣を差し出す。
鑑定士が、刃を光にかざし、紋様をじっと見つめた。
「……由来は、分かりません」
しばらくして、鑑定士が正直に言う。
「ただ、形状と重心から見て、斥候か盗賊系統の職に向けて作られた品だと思います」
「もっと詳しく分かる方法は」
ミラが尋ねる。
「本部より上位の鑑定士に、預けることはできます」
鑑定士が続ける。
「日数と、それなりの費用は、かかりますが」
「お願いします」
カインが、頷いた。
「知らないままより、いいと思う」
「では、お預かりします」
鑑定士が、短剣を丁寧に布ごと受け取った。
「金塊の方は、どうしますか」
鑑定士が、続けて尋ねる。
「今日は、いいです」
ミラが、静かに首を振った。
「昨日、確かめたばかりなので」
「また今度、お願いします」
「かしこまりました」
「結果が出るまで、しばらくかかります」
「よろしくお願いします」
六人は、深く頭を下げた。
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その足で、六人はエアへ向かった。
板の示す、次のポイント。
昨日の一件のせいか、通路を進む六人の足取りは、いつもより慎重だった。
「大丈夫か、お前」
ダダが、隣を歩くワングに、小さく声をかける。
「大丈夫でござる」
答える声に、いつもの張りが、まだ完全には戻っていなかった。
ネリスが、先行して、曲がり角の先を何度も確かめる。
「今のところ、変わった気配はない」
「それも、いつまでかわからないけどな」
ダダが、盾を持ち直した。
板の上、丸い印が、ゆっくりと奥へ進んでいく。
やがて、通路の奥に、五つの人影が立っているのが見えた。
「……嘘だろ」
カインの声が掠れる。
全身鎧、ロングソード、盾。
カイザーと、寸分違わぬ姿が、五体並んでいた。
「五体……」
ダダが、盾を構え直す。
「白の点にいたのは、六体だった」
ワングが、静かに言う。
「一体は、拙者たちのもとにいる。残りが、これでござるか」
その言葉に、カインの手が、わずかに震えた。
「カイザー、頼む」
カインが印を組む。
光の中から、無言の鎧の魔物が姿を現した。
いつも通りの、静かな佇まい。
だが、目の前に並ぶ五体と、見分けがつかなかった。
「あの太刀筋、まさか」
ワングが、刀の柄を強く握り直す。
その声には、これまでにない緊張が滲んでいた。
「六人と、一体」
ワングが、続ける。
「向こうは、五体」
通路を挟んで、両者が向き合う。
誰も動かなかった。
カイザーは、いつも通り、微動だにしない。
だが、向かいの五体のうち一体だけが、わずかに剣の切っ先を上げた。
その動きは、ワングが語った型と、同じ弧を描いていた。
「今の」
ワングの声が、かすかに掠れる。
「見たでござるか、今の」
「見た」
カインが、短く答えた。
誰も、その先を言葉にしなかった。
ミラが、そっと、ワングの背に手を添える。
風の音さえ聞こえない静けさの中、六人と一体は、五つの影を見据え続けた。
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