第130話「積んだ力、映る背中」
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翌日、六人は改めてクロスロードに集まった。
朝の受付は、いつも通り混み合っていた。
「今日も、三層でよろしいですか」
リゼットが、書類を確認しながら尋ねる。
「はい。よろしくお願いします」
カインが、丁寧に頭を下げた。
「気をつけて、行ってらしてください」
リゼットの口調は、いつもと変わらない。
だが、二日続けて同じ層へ向かう六人を見る目に、わずかな気遣いが滲んでいた。
「何かあったら、無理せず戻ってくださいね」
「はい、分かってます」
カインが、軽く笑って答える。
受付を離れる六人の背中を、リゼットはしばらく見送っていた。
「今日も、行くぞ」
カインの声に、いつも通りの明るさが戻っている。
「昨日の分も、しっかり試そう」
ワングが、氷姫の柄を軽く握り直した。
三層の通路を進みながら、六人は小さな敵の群れと行き会った。
小柄な影が、三体。
「試す、なら今でござるな」
ワングが、刀ではなく、指先を敵へ向ける。
「魂縛」
淡い光の輪が、敵の一体を縛った。
動きが、ぴたりと止まる。
「効いてる、効いてる」
カインが、頷きながら前へ出た。
「雷殺」
指の先から放たれた雷が、もう一体を貫く。
崩れ落ちるまで、瞬きふたつ分もかからなかった。
「悪くない、でござるな」
ワングが、満足そうに刀の柄から手を離す。
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「残りは、私が」
ノリアが、気だるげに手をかざす。
「火花炎」
その一言だけだった。
放たれた炎が、残る敵をまとめて呑み込む。
轟音が通路に響き、土煙が収まるまで、誰も口をきかなかった。
壁の一部が、うっすらと焦げているのが見えた。
「……今の、第一階梯だよな?」
カインが、恐る恐る確認する。
「そう。ファイア」
ノリアが、事も無げに答えた。
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「拙者の魂縛、七階梯でこれでござるぞ」
ワングが、苦笑いを浮かべる。
「俺の雷殺も、四階梯だし……」
カインが、自分の手のひらを見つめた。
「別格ってこと、だよね」
ミラが、静かに言葉にする。
「ノリアの呪文は、階梯とか関係ないんでござるな」
「昔から、そうだったよ」
ダダが、腕を組んで頷いた。
「初めて見た時から、変わってない」
「変わりようがないから」
ノリアが、涼しい顔で言い返す。
「だから、いつも取っておくんだ」
ネリスが、爪の先で虚空をなぞる。
「切り札、として」
「そういうこと」
カインが、六人を見渡した。
「普段は俺たちの手数で片づける。ノリアは、ここぞって時だけ」
「「「了解」」」
改めて、そう確かめ合った。
その言葉には、これまで積み重ねてきた実感が、しっかりと乗っていた。
「拙者の魂縛も、無駄ではなかったでござるよ」
ワングが、少し拗ねたように付け加える。
「うん、ちゃんと縛れてた」
カインが、笑いながらフォローした。
「一発で消し炭にされると、それはそれで、ちょっと寂しいでござるな」
「贅沢な悩みだね、それ」
ノリアが、素っ気なく返す。
六人の間に、久しぶりに軽い笑いが戻った。
昨日から続いていた重い空気が、少しだけ和らいだ気がした。
「よし、次、行こう」
カインが、皆を促す。
その声には、いつもの調子が戻っていた。
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次のポイントに近づいたところで、通路の奥に気配が動いた。
牙を持つ獣型の魔物が、四体。
低い唸り声が、石壁に反響していた。
四つの影が、じりじりと間合いを詰めてくる。
「数は、いつも通りか」
ダダが、盾を構えながら呟く。
「油断は、しないでござるよ」
ワングが、静かに刀を抜いた。
「カイザー、頼む」
カインが、印を組む。
光の中から、無言の鎧の魔物が現れた。
「前衛、三人で」
ダダの声に、ワングとカイザーが同時に踏み込む。
「合わせるでござる」
三方向からの攻撃が、獣の動きを封じ込めた。
牙が届く寸前で、盾が確実に受け止める。
カイザーの一撃が、もう一体の脚を斬り払った。
「今」
ネリスが、隙間を縫って爪を突き立てる。
牙が、空を切る。
「浄光」
ミラの光が、削られた傷をすぐに塞いだ。
息の合った連携で、四体はあっという間に崩れ落ちていった。
「今日は、まだ本気の呪文、使ってないな」
カインが、額の汗を拭いながら言う。
「その分、体は動かしたでござるな」
ワングが、刀を軽く振って血を払った。
「無理に使わなくても、これくらいなら十分、ってことだよ」
ダダが、盾についた傷を確かめながら言う。
「切り札は、切り札のままで」
ネリスが、爪の汚れを軽く払った。
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跡地に、木箱がひとつ残っていた。
「待って」
ネリスが、蓋に手を伸ばしかけたカインを止める。
「罠、ある」
指先で、蓋の縁をなぞる。
「細い糸……ここと、ここ」
慎重に、二本の糸を順に切っていく。
指先がわずかに触れただけで、糸はぴんと張り詰めていた。
小さく、金具の外れる音がした。
「よし」
短く息を吐き、ネリスが額の汗を拭う。
「開ける」
蓋を持ち上げると、中には見たことのない意匠の短剣と、小さな金塊がひとつ収まっていた。
「これは……アプレイザル行きだな」
カインが、短剣を手に取り、光にかざす。
刃には、見覚えのない紋様が細かく刻まれていた。
「金塊も、また例のやつか」
ダダが、眉を寄せた。
「今度は、ちゃんと私たちが見つけた分、ってことにしよう」
ミラが、静かに言った。
「重さ、前のと同じくらいかな」
ノリアが、手のひらの上でそれを転がす。
「アプレイザルで、聞けば分かる」
カインが、短剣と金塊を丁寧に布で包んだ。
「今度も、同じ数字だったら……」
ネリスが、そこで言葉を止める。
誰も、その先を続けなかった。
短剣を包んだ布の結び目を、カインがもう一度確かめる。
中身が、途中でこぼれ落ちないように、しっかりと締め直した。
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戦利品を懐にしまい、六人は元来た道を戻り始めた。
しばらく歩いたところで、カインはふと足を止め、後ろを振り返った。
通路の奥、さっきの跡地のあたりに、六つの人影がいた。
自分たちと、よく似た六人組だった。
何かを囲んで、騒いでいる。
「空じゃん、これ」
「本当に、何も入ってない」
くぐもった声が、遠く響いてくる。
やがて、そのうちの一人がしゃがみ込み、箱の底から何かをつまみ上げた。
小さく、鈍い金色に光るもの。
「……嘘、だろ」
カインの声が、かすれた。
隣で、ミラが息を呑む音がした。
誰も、それ以上は言葉にできなかった。
六人は、そのまま無言で、来た道を歩き続けた。
背後の人影は、いつの間にか見えなくなっていた。
「あれって、俺たちが今日、拾ったのと……」
カインが、ようやく声を絞り出す。
「同じ、だったのかな」
「わからない」
ミラが、静かに首を振る。
「でも、色も、大きさも、似てた気がする」
「気がする、じゃ困るんだけど」
ノリアが、苦い顔で呟いた。
懐の中の金塊が、いつもより重く感じられた。
「今日のことも、記録に残しておこう」
ミラが、手帳を取り出す。
淡々と、そのページにペンを走らせていく。
その手は、いつもよりわずかに震えていた。
クロスロードへ戻る道のりは、いつもより長く感じられた。
誰も、それ以上は口を開かなかった。
クロスロードの明かりが見えてきた頃、ようやく六人の肩から、わずかに力が抜けていった。
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