第12話「見つけた階段、降りない選択」
マランの世界、毎日投稿中です。
当面、数話を連続投稿の予定です。
お楽しみいただけましたら幸いです。
翌朝、クロスロードの前に、五人が集まった。
「揃ったな」
カインが言う。
「揃った」
ダダが頷く。
ミラは、いつものフレイルを肩に担いでいた。
昨日より、少しだけ緊張した顔をしている。
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門の前に立つと、誰も何も言わなくなった。
「行くよ」
カインが、先頭を切って足を踏み出す。
門は、何の抵抗もなく、五人を通した。
「……通れた」
ミラが、小さく声を漏らす。
「通れたな」
カインが、努めて軽く言う。
「よかった」
ネリスが、あっさり言う。
拍子抜けするくらい、あっさりしていた。
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「拍子抜けした?」
カインが聞く。
「ちょっと」
ミラが認める。
「もっと身構えてた」
「身構えるようなことでもないだろ」
「そうだけど」
そうだけど、という言葉の奥に、何かがまだ残っているようだった。
誰もそれ以上は踏み込まなかった。
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一層は、いつも通りだった。
スライムが一体、ゴブリンが二体。
「ファイア」
ノリアの一撃が、群れをまとめて片付ける。
「あ」
ミラが、目を丸くする。
「今の、初級魔術だよね」
「初級魔術」
「初級魔術のはずなんだけど」
言葉を濁したミラに、カインが笑った。
「みんな最初、そういう反応する」
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ミラの出番は、思ったより早く来た。
ダダが、罠の反動で足を軽く挫いた。
「大丈夫だ、これくらい」
ダダが強がる。
「大丈夫かどうかは、私が決める」
ミラが、有無を言わさず前に出る。
フレイルを地面に置き、両手を足首にかざした。
淡い光が、じわりと広がる。
「……効いてる」
ダダが、驚いた声を出す。
「効いてるように、作ってあるから」
ミラの返しは、素っ気なかったが、どこか誇らしげでもあった。
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二層に入ると、勝手知ったる区画が広がっていた。
ミラのフレイルが、初めて本領を発揮する場面がやってきた。
ゴブリンの群れに囲まれかけたとき、横から割り込んだのはミラだった。
鎖を軽く振るうと、鈍い音が響く。
一体、また一体と、力任せではなく的確に打ち倒していく。
「思ったより、戦える」
ダダが、素直に評価する。
「思ったより、って何」
ミラが、少し不服そうに返した。
だが、口元はわずかに緩んでいた。
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「回復役なのに、前衛もできるってすごいですよね」
カインが、感心する。
「前衛「も」できる。回復が本業」
ミラが訂正する。
「本業は忘れないでほしい」
「忘れない忘れない」
軽い調子で流したカインに、ミラは小さく息を吐いた。
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その日、五人は二層の奥、まだ回っていなかった区画を目指した。
以前は見つからなかった道が、今日は不思議と開けていた。
「あれ、ここ通れるようになってないか」
カインが、壁の隙間を指す。
「前は塞がってた気がする」
ネリスが首を傾げる。
「気のせいじゃなくて?」
「気のせいじゃない。前も来た」
ダダが、地図を確認しながら断言する。
理由はわからなかったが、道は確かに続いていた。
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奥へ進むと、空気が変わった。
湿った石の匂いに、かすかな冷気が混じっている。
「これ」
ネリスが、足を止めた。
先に、下りの階段が見えていた。
これまでの二層のどこにもなかった、初めて見る形の階段だった。
「三層への、階段か」
カインの声が、震えた。
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誰も、すぐには近づかなかった。
「本当に、これか」
ダダが確認する。
「たぶん」
ノリアが答える。
「たぶんじゃなくて、確認しないと」
カインが、慎重に階段へ近づく。
覗き込むと、下へ続く暗がりが伸びていた。
冷たい空気が、下からゆっくり上ってくる。
「見つけたな、やっと」
カインが、階段の縁に手をついたまま言った。
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「行くの?」
ミラが、少し不安そうに聞く。
「行きたい、けど」
カインが、階段から目を離さないまま答える。
「けど?」
「今日、もう結構潜ってる」
ダダが言う。
「ミラも、今日が初日だ」
「私は大丈夫」
ミラが即座に言う。
「大丈夫かどうかは、私が決める」
カインが、さっきのミラの台詞をそのまま返した。
ミラが、一瞬、言葉に詰まる。
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「三層、初めて見る場所だ」
ダダが、階段を見下ろしながら言う。
「五層越えが節目だって聞くけど、三層の時点で何があるかもわからない」
「わからないまま突っ込むのは、危ない」
ノリアが、静かに言う。
「危ないな」
カインが、素直に頷いた。
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しばらく、誰も動かなかった。
階段の暗がりだけが、静かにそこにあった。
「今日は、引き返そう」
カインが、先に口を開いた。
「引き返す?」
ネリスが、少し驚いた顔をする。
「せっかく見つけたのに」
「見つけたからこそ、だ」
カインが続ける。
「準備なしで降りて、痛い目見るよりいい。場所がわかったんだから、次は準備して来られる」
その言い方に、誰も反対しなかった。
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「ミラの初日に、無茶させるのも嫌だしな」
ダダが付け加える。
「無茶なんて」
ミラが言いかけて、途中でやめた。
「……そうだね。今日はやめとく」
素直な返事だった。
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階段に背を向けて、五人は来た道を戻り始めた。
「絶対、ここまた来るからな」
カインが、階段のほうを振り返って言う。
「来るに決まってる」
ダダが答える。
「決まってるよな」
決まっている、という確信だけが、その日の収穫だった。
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二層の入り口を抜けて、外に出る頃には、日が傾いていた。
「今日、収穫あったな」
カインが言う。
「収穫って、階段のこと?」
ネリスが聞く。
「階段のことと、ミラのこと」
「両方って言えばいいのに」
ネリスが茶化す。
「両方だよ」
カインが、笑って答えた。
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ミラは、フレイルを担ぎ直しながら、少し離れたところを歩いていた。
「どうだった、今日」
カインが、追いついて聞く。
「悪くなかった」
ミラが答える。
短い言葉だったが、嘘ではなさそうだった。
「また明日も、来る?」
「来る」
即答だった。
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三層への階段は、もう見つかった。
あとは、いつ降りるか、という話だけが残っている。
五人になった一行は、それぞれの足取りで、ヘクサインへの道を歩いていった。
いかがでしょうか?
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