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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
閑話 その三

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第12話「見つけた階段、降りない選択」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

翌朝、クロスロードの前に、五人が集まった。


「揃ったな」


カインが言う。


「揃った」


ダダが頷く。


ミラは、いつものフレイルを肩に担いでいた。


昨日より、少しだけ緊張した顔をしている。


---


門の前に立つと、誰も何も言わなくなった。


「行くよ」


カインが、先頭を切って足を踏み出す。


門は、何の抵抗もなく、五人を通した。


「……通れた」


ミラが、小さく声を漏らす。


「通れたな」


カインが、努めて軽く言う。


「よかった」


ネリスが、あっさり言う。


拍子抜けするくらい、あっさりしていた。


---


「拍子抜けした?」


カインが聞く。


「ちょっと」


ミラが認める。


「もっと身構えてた」


「身構えるようなことでもないだろ」


「そうだけど」


そうだけど、という言葉の奥に、何かがまだ残っているようだった。


誰もそれ以上は踏み込まなかった。


---


一層は、いつも通りだった。


スライムが一体、ゴブリンが二体。


「ファイア」


ノリアの一撃が、群れをまとめて片付ける。


「あ」


ミラが、目を丸くする。


「今の、初級魔術だよね」


「初級魔術」


「初級魔術のはずなんだけど」


言葉を濁したミラに、カインが笑った。


「みんな最初、そういう反応する」


---


ミラの出番は、思ったより早く来た。


ダダが、罠の反動で足を軽く挫いた。


「大丈夫だ、これくらい」


ダダが強がる。


「大丈夫かどうかは、私が決める」


ミラが、有無を言わさず前に出る。


フレイルを地面に置き、両手を足首にかざした。


淡い光が、じわりと広がる。


「……効いてる」


ダダが、驚いた声を出す。


「効いてるように、作ってあるから」


ミラの返しは、素っ気なかったが、どこか誇らしげでもあった。


---


二層に入ると、勝手知ったる区画が広がっていた。


ミラのフレイルが、初めて本領を発揮する場面がやってきた。


ゴブリンの群れに囲まれかけたとき、横から割り込んだのはミラだった。


鎖を軽く振るうと、鈍い音が響く。


一体、また一体と、力任せではなく的確に打ち倒していく。


「思ったより、戦える」


ダダが、素直に評価する。


「思ったより、って何」


ミラが、少し不服そうに返した。


だが、口元はわずかに緩んでいた。


---


「回復役なのに、前衛もできるってすごいですよね」


カインが、感心する。


「前衛「も」できる。回復が本業」


ミラが訂正する。


「本業は忘れないでほしい」


「忘れない忘れない」


軽い調子で流したカインに、ミラは小さく息を吐いた。


---


その日、五人は二層の奥、まだ回っていなかった区画を目指した。


以前は見つからなかった道が、今日は不思議と開けていた。


「あれ、ここ通れるようになってないか」


カインが、壁の隙間を指す。


「前は塞がってた気がする」


ネリスが首を傾げる。


「気のせいじゃなくて?」


「気のせいじゃない。前も来た」


ダダが、地図を確認しながら断言する。


理由はわからなかったが、道は確かに続いていた。


---


奥へ進むと、空気が変わった。


湿った石の匂いに、かすかな冷気が混じっている。


「これ」


ネリスが、足を止めた。


先に、下りの階段が見えていた。


これまでの二層のどこにもなかった、初めて見る形の階段だった。


「三層への、階段か」


カインの声が、震えた。


---


誰も、すぐには近づかなかった。


「本当に、これか」


ダダが確認する。


「たぶん」


ノリアが答える。


「たぶんじゃなくて、確認しないと」


カインが、慎重に階段へ近づく。


覗き込むと、下へ続く暗がりが伸びていた。


冷たい空気が、下からゆっくり上ってくる。


「見つけたな、やっと」


カインが、階段の縁に手をついたまま言った。


---


「行くの?」


ミラが、少し不安そうに聞く。


「行きたい、けど」


カインが、階段から目を離さないまま答える。


「けど?」


「今日、もう結構潜ってる」


ダダが言う。


「ミラも、今日が初日だ」


「私は大丈夫」


ミラが即座に言う。


「大丈夫かどうかは、私が決める」


カインが、さっきのミラの台詞をそのまま返した。


ミラが、一瞬、言葉に詰まる。


---


「三層、初めて見る場所だ」


ダダが、階段を見下ろしながら言う。


「五層越えが節目だって聞くけど、三層の時点で何があるかもわからない」


「わからないまま突っ込むのは、危ない」


ノリアが、静かに言う。


「危ないな」


カインが、素直に頷いた。


---


しばらく、誰も動かなかった。


階段の暗がりだけが、静かにそこにあった。


「今日は、引き返そう」


カインが、先に口を開いた。


「引き返す?」


ネリスが、少し驚いた顔をする。


「せっかく見つけたのに」


「見つけたからこそ、だ」


カインが続ける。


「準備なしで降りて、痛い目見るよりいい。場所がわかったんだから、次は準備して来られる」


その言い方に、誰も反対しなかった。


---


「ミラの初日に、無茶させるのも嫌だしな」


ダダが付け加える。


「無茶なんて」


ミラが言いかけて、途中でやめた。


「……そうだね。今日はやめとく」


素直な返事だった。


---


階段に背を向けて、五人は来た道を戻り始めた。


「絶対、ここまた来るからな」


カインが、階段のほうを振り返って言う。


「来るに決まってる」


ダダが答える。


「決まってるよな」


決まっている、という確信だけが、その日の収穫だった。


---


二層の入り口を抜けて、外に出る頃には、日が傾いていた。


「今日、収穫あったな」


カインが言う。


「収穫って、階段のこと?」


ネリスが聞く。


「階段のことと、ミラのこと」


「両方って言えばいいのに」


ネリスが茶化す。


「両方だよ」


カインが、笑って答えた。


---


ミラは、フレイルを担ぎ直しながら、少し離れたところを歩いていた。


「どうだった、今日」


カインが、追いついて聞く。


「悪くなかった」


ミラが答える。


短い言葉だったが、嘘ではなさそうだった。


「また明日も、来る?」


「来る」


即答だった。


---


三層への階段は、もう見つかった。


あとは、いつ降りるか、という話だけが残っている。


五人になった一行は、それぞれの足取りで、ヘクサインへの道を歩いていった。


いかがでしょうか?

書き溜めたので、毎日4話投稿します。


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

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