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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
閑話 その三

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第11話「フレイルを提げた人」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


ついに、5人目の登場です。

どんなキャラクタか、確認してくださいませ。


お楽しみいただけましたら幸いです。

翌日、クロスロードから連絡が来た。


「ミラさん、会ってくれるそうです」


リゼットが、窓口越しに言った。


「場所と時間は?」


カインが聞く。


「夕方、フラグメンツで。本人からの指定です」


「ガラントの店か」


「顔見知りの場所のほうが、話しやすいんでしょう」


リゼットの言葉に、四人は納得するしかなかった。


---


その日は、いつも通り二層に潜った。


だが、どこか気もそぞろだった。


「今日のファイア、いつもよりキレ悪くないか」


カインが茶化す。


「気のせい」


ノリアが素っ気なく返す。


気のせいではなかった。


四人とも、頭の片隅は夕方のことでいっぱいだった。


---


夕方、フラグメンツの扉を開けると、いつもより静かだった。


「奥の席にいる」


ガラントが、顎で示す。


見ると、小柄な女性が一人、大きな武器を膝の脇に立てかけて座っていた。


鎖のついた鈍器——フレイルだった。


華奢な体格に対して、明らかに不釣り合いな大きさをしている。


---


「あなたたちが、リゼットさんから聞いた人たち?」


女性のほうから、先に声をかけてきた。


「そう。カイン」


「ダダ」


「ネリス」


「ノリア」


四人が、順に名乗る。


「ミラ」


短く名乗り返して、彼女は軽く頭を下げた。


---


「その武器、フレイルって聞いたけど」


ネリスが、興味津々で覗き込む。


「そう。刃物は使わない」


ミラが答える。


「ノームの決まりごとなんだよね?」


「決まりごと、っていうか。習わし」


「習わし…」


ネリスが繰り返すと、ミラは小さく笑った。


「治す側が、切る道具持ってるのって、なんか変でしょ?」


言われてみれば、その通りだった。


---


「魔法のほうは、第二階梯までって聞いてます」


カインが確認する。


「うん。ノストス系、二階梯まで」


「回復魔法、実際どのくらいの規模でかけられるんですか?」


ダダが聞く。


具体的な質問に、ミラは少し目を見開いた。


「ちゃんと聞いてくれる人、久しぶり」


「そうなんですか?」


「大抵、レベルと階梯だけ聞いて、あとは雰囲気で判断されるから」


苦笑気味の言い方だった。


---


「軽い外傷なら、その場でほぼ完治。骨折くらいまでなら、応急でだいぶ楽になる」


ミラが、指を折りながら説明する。


「深い傷とか毒とかは、専門外。それは素直にリカバリーに運ぶ」


「線引き、ちゃんとしてるんですね」


カインが感心したように言う。


「無理すると、余計悪くする。それも習わしのうち」


言葉の端々に、ノームらしい実務的な感覚がにじんでいた。


---


しばらく、和やかにやり取りが続いた。


ガラントが差し入れた料理を、みんなでつつく。


「ここの飯、美味しいよね」


ミラが言う。


「ガラントの自慢料理だ」


カインが答える。


「常連なんですか?」


「昔からね」


短く答えたミラの目が、一瞬だけ遠くを見た。


誰も、その一瞬には気づかなかった。


---


「それで」


カインが、そろそろ本題に入る。


「一緒に組んでもらえたら、って話なんですけど」


「聞いてる」


ミラが頷く。


「一つ、確認したいことがある」


「なんでも聞いてください」


「今のパーティで、迷宮に入れなかったこと、ある?」


思いがけない質問に、四人は顔を見合わせた。


「ない、けど」


カインが答える。


「なんで、そんなこと聞くんですか?」


---


ミラが、少し間を置いた。


「前のパーティで、私が理由で入れなかったことがあった」


「ミラさんが、理由?」


「正確には、わからない。私単体の問題なのか、組む相手との組み合わせの問題なのか」


「組み合わせ?」


ダダが呟く。


「迷宮の選別って、そういうこともあるのか…」


「あるらしい。誰にもわからないまま」


ミラの声は、静かだった。


---


「だから」


ミラが続ける。


「一緒に組む前に、これだけは伝えておきたかった」


「弾かれるかもしれない、ってことですか?」


カインが確認する。


「かもしれない。可能性の話」


「可能性なら、やってみないとわからないですよね!」


カインが、あっさり言った。


ミラが、少し驚いた顔をする。


「そんな簡単に言っていいの」


「簡単に言うことじゃないと、逆に重くなる」


カインの答えに、ダダが小さく頷いた。


---


「私も、それでいいと思う」


ノリアが言う。


「行ってみて、だめならだめ。それだけの話」


「それだけの話、って」


ミラが、少し困ったように笑う。


「みんな、そういう感じなんだ」


「そういう感じです」


ネリスが胸を張って答える。


「深刻に考えすぎても、しょうがないので」


---


「一つだけ、聞いていい?」


ダダが、静かに言う。


「以前のパーティで、何があったのか?」


空気が、一瞬張り詰めた。


「それは」


ミラが、言葉を選ぶ。


「今は、まだ言えない」


「無理に聞かない」


ダダが、あっさり引いた。


「いつか話せるときに、話してくれればいい」


その一言に、ミラの肩から、わずかに力が抜けた。


---


「じゃあ」


カインが、話をまとめにかかる。


「明日、一緒に一層行きましょう。まずは軽いところから」


「一層? レベル5だけど」


ミラが、少し意外そうな顔をする。


「レベルの話じゃなくて、門をくぐれるかどうかの話です」


カインの言葉に、ミラは少し考えてから頷いた。


「たしかに」


「たしかに、でしょ」


---


「フレイル、ちゃんと見せてもらえます?」


ネリスが、身を乗り出す。


「見るだけ?」


「振り回すとこも見たい」


「明日、見せる」


ミラが、軽く笑って答えた。


その笑い方には、さっきまでの慎重さが、少しだけ薄れていた。


---


店を出る頃には、すっかり日が暮れていた。


「明日、うまくいくといいけど」


ネリスが呟く。


「うまくいく」


カインが、また根拠もなく言い切った。


「その台詞、二回目だけど」


「二回目でも、言い切ったほうがいい」


くだらないやり取りを交わしながら、五人になるかもしれない一行は、それぞれの帰り道についた。


---


門をくぐれるかどうかは、明日にならないとわからない。


わからないことを一つ抱えたまま、その夜は静かに更けていった。


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

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