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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
閑話 その三

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第10話「窓口の向こうにいた人」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

ギルドの受付窓口は、朝からそれなりに混んでいた。


「回復役の件、相談したいんですけど」


カインが切り出す。


受付のリゼットが、書類を捲る手を止めた。


「相談って、どういった?」


「うちのパーティ、前衛が薄くて。回復ができる人、いないかなと」


「なるほど」


リゼットが、記録簿らしきものを引き寄せる。


しばらくページをめくったあと、顔を上げた。


「一人、心当たりがあります」


---


「心当たり、って誰?」


ネリスが横から覗き込む。


「登録名はミラ。ヒューマンとノームのハーフの子です」


「ハーフ」


ダダが呟く。


「ノームって、あの、僧侶系に強いっていう」


「そうです。ミラは母方がノームで、僧侶系魔法の適性を受け継いでいます」


リゼットが、淡々と続ける。


「レベルは5。ノストス系の第二階梯まで届いてます」


「レベル5?」


カインが聞き返す。


「俺たちまだ2なのに」


「珍しいことじゃありません。適性が合えば、レベルの伸びには個人差が出ます」


言われてみれば、そうかもしれなかった。


---


「戦闘のほうは?」


ダダが聞く。


「回復専任だと、正直きついときもある」


「その点は、心配いりません」


リゼットが、記録簿の別のページを指す。


「ミラは武器も使います。フレイル」


「フレイル?」


ネリスが目を丸くする。


「刃物じゃなくて、あの、鎖のついた棍棒みたいなやつ」


「そうです。ノームの伝統だそうで。刃物を避けて、鈍器を使う」


「治療する人が、刃物持たないってことか」


カインが納得したように言う。


「そう解釈されることが多いですね。実際のところは、私も詳しくは」


リゼットも、そこまでは知らないらしかった。


---


「戦闘力も高いって聞きましたけど」


カインが確認する。


「高いです。回復もできて、前にも出られる。バランス型と言えると思います」


「バランス型」


ダダが繰り返す。


「うちに、ちょうど足りない部分だな」


「足りない部分、って盾は俺がいるだろ」


「盾はいる。だが、回復と、もう一枚の壁が足りない」


ダダの言い分に、カインは黙るしかなかった。


---


「会うことは、できますか」


ネリスが聞く。


「できます。ただ」


リゼットが、少し声を落とした。


「ミラは、以前は別のパーティで活動していました。今は、事情があってどこにも所属していない状態です」


「事情、ってどんな」


カインが聞く。


「本人に何かあった、ってことですか」


「詳しいことは私の口からは言えません。本人から聞いたほうがいいと思います」


言葉を濁されると、かえって気になった。


「会ってみないと、わからないってことだな」


カインが言う。


「わからない」


ダダが頷く。


---


「連絡、取ってもらえますか」


カインが頼む。


「取ります。ただ、返事は本人次第です」


「それはそうですよね」


「明日には、返事が来ると思います」


リゼットが、そう言って記録簿を閉じた。


四人は、窓口を離れる。


---


「レベル5の僧侶、か」


カインが呟く。


「僧侶っていうか、フレイル持ちの回復役」


ネリスが訂正する。


「どっちでもいい。強いは強い」


「強いだけならいいけど」


ダダが、少し慎重な声を出す。


「以前のパーティを離れて今フリー、っていうのが引っかかる」


「引っかかるけど、聞くしかないだろ」


カインが言う。


「聞くしかない」


ダダが同意した。


---


「五人目、か」


ネリスが、ぽつりと言う。


自分で言い出した話のはずなのに、少し実感が湧いていない顔をしていた。


「五人目、いいと思う」


ノリアが、静かに言う。


「回数が増えるだけの私と違って、ちゃんと二階梯まで使える人がいるなら、心強い」


「別に、ノリアの回数増加も十分助かってる」


カインが、フォローするように言う。


「フォロー、いらない」


ノリアが素っ気なく返したが、その口調に、いつもより柔らかさが混じっていた。


---


その日は、二層に潜る予定を後回しにして、ギルドの近くで軽く時間を潰すことにした。


「明日、返事来るんだよな」


カインが確認する。


「来るはず」


ダダが答える。


「来なかったら?」


「来なかったら、また相談する」


シンプルな答えだったが、それで十分だった。


---


夕方、フラグメンツに顔を出すと、ガラントが四人の様子にすぐ気づいた。


「今日、二層行ってないな」


「今日はギルドで相談してきた」


カインが答える。


「相談?」


「回復役、探してる。ノームのハーフの子がいるらしい」


「ミラのことか」


ガラントが、意外そうな声を出す。


「知ってるんですか」


「知ってる。ここにも、たまに顔を出す」


ガラントが、カウンターの奥をちらりと見た。


「フレイル振り回して、しかも回復もできる。器用な子だ」


「知り合いなら、色々聞けますか」


カインが身を乗り出す。


「聞けるが、本人の話は本人から聞くのが筋だろう」


ガラントの答えは、リゼットと同じだった。


「筋、通ってますね」


ネリスが、苦笑する。


「通ってるだろ」


ガラントが、笑って皿を置いた。


---


その夜、明日の返事を待つ間、四人の間には、いつもと違う空気が流れていた。


新しい誰かが加わるかもしれない、という予感。


それは、期待でもあり、少しの緊張でもあった。


「うまくいくといいけど」


ネリスが呟く。


「うまくいく」


カインが、根拠もなく言い切った。


根拠がなくても、言い切ったほうがいい夜もあった。


---


明日、返事が来る。


それだけが決まっていて、あとは何もわからないまま、四人はそれぞれの部屋に戻った。


いかがでしょうか?


ついに4人から5人になりそうです。


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

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