第10話「窓口の向こうにいた人」
マランの世界、毎日投稿中です。
当面、数話を連続投稿の予定です。
お楽しみいただけましたら幸いです。
ギルドの受付窓口は、朝からそれなりに混んでいた。
「回復役の件、相談したいんですけど」
カインが切り出す。
受付のリゼットが、書類を捲る手を止めた。
「相談って、どういった?」
「うちのパーティ、前衛が薄くて。回復ができる人、いないかなと」
「なるほど」
リゼットが、記録簿らしきものを引き寄せる。
しばらくページをめくったあと、顔を上げた。
「一人、心当たりがあります」
---
「心当たり、って誰?」
ネリスが横から覗き込む。
「登録名はミラ。ヒューマンとノームのハーフの子です」
「ハーフ」
ダダが呟く。
「ノームって、あの、僧侶系に強いっていう」
「そうです。ミラは母方がノームで、僧侶系魔法の適性を受け継いでいます」
リゼットが、淡々と続ける。
「レベルは5。ノストス系の第二階梯まで届いてます」
「レベル5?」
カインが聞き返す。
「俺たちまだ2なのに」
「珍しいことじゃありません。適性が合えば、レベルの伸びには個人差が出ます」
言われてみれば、そうかもしれなかった。
---
「戦闘のほうは?」
ダダが聞く。
「回復専任だと、正直きついときもある」
「その点は、心配いりません」
リゼットが、記録簿の別のページを指す。
「ミラは武器も使います。フレイル」
「フレイル?」
ネリスが目を丸くする。
「刃物じゃなくて、あの、鎖のついた棍棒みたいなやつ」
「そうです。ノームの伝統だそうで。刃物を避けて、鈍器を使う」
「治療する人が、刃物持たないってことか」
カインが納得したように言う。
「そう解釈されることが多いですね。実際のところは、私も詳しくは」
リゼットも、そこまでは知らないらしかった。
---
「戦闘力も高いって聞きましたけど」
カインが確認する。
「高いです。回復もできて、前にも出られる。バランス型と言えると思います」
「バランス型」
ダダが繰り返す。
「うちに、ちょうど足りない部分だな」
「足りない部分、って盾は俺がいるだろ」
「盾はいる。だが、回復と、もう一枚の壁が足りない」
ダダの言い分に、カインは黙るしかなかった。
---
「会うことは、できますか」
ネリスが聞く。
「できます。ただ」
リゼットが、少し声を落とした。
「ミラは、以前は別のパーティで活動していました。今は、事情があってどこにも所属していない状態です」
「事情、ってどんな」
カインが聞く。
「本人に何かあった、ってことですか」
「詳しいことは私の口からは言えません。本人から聞いたほうがいいと思います」
言葉を濁されると、かえって気になった。
「会ってみないと、わからないってことだな」
カインが言う。
「わからない」
ダダが頷く。
---
「連絡、取ってもらえますか」
カインが頼む。
「取ります。ただ、返事は本人次第です」
「それはそうですよね」
「明日には、返事が来ると思います」
リゼットが、そう言って記録簿を閉じた。
四人は、窓口を離れる。
---
「レベル5の僧侶、か」
カインが呟く。
「僧侶っていうか、フレイル持ちの回復役」
ネリスが訂正する。
「どっちでもいい。強いは強い」
「強いだけならいいけど」
ダダが、少し慎重な声を出す。
「以前のパーティを離れて今フリー、っていうのが引っかかる」
「引っかかるけど、聞くしかないだろ」
カインが言う。
「聞くしかない」
ダダが同意した。
---
「五人目、か」
ネリスが、ぽつりと言う。
自分で言い出した話のはずなのに、少し実感が湧いていない顔をしていた。
「五人目、いいと思う」
ノリアが、静かに言う。
「回数が増えるだけの私と違って、ちゃんと二階梯まで使える人がいるなら、心強い」
「別に、ノリアの回数増加も十分助かってる」
カインが、フォローするように言う。
「フォロー、いらない」
ノリアが素っ気なく返したが、その口調に、いつもより柔らかさが混じっていた。
---
その日は、二層に潜る予定を後回しにして、ギルドの近くで軽く時間を潰すことにした。
「明日、返事来るんだよな」
カインが確認する。
「来るはず」
ダダが答える。
「来なかったら?」
「来なかったら、また相談する」
シンプルな答えだったが、それで十分だった。
---
夕方、フラグメンツに顔を出すと、ガラントが四人の様子にすぐ気づいた。
「今日、二層行ってないな」
「今日はギルドで相談してきた」
カインが答える。
「相談?」
「回復役、探してる。ノームのハーフの子がいるらしい」
「ミラのことか」
ガラントが、意外そうな声を出す。
「知ってるんですか」
「知ってる。ここにも、たまに顔を出す」
ガラントが、カウンターの奥をちらりと見た。
「フレイル振り回して、しかも回復もできる。器用な子だ」
「知り合いなら、色々聞けますか」
カインが身を乗り出す。
「聞けるが、本人の話は本人から聞くのが筋だろう」
ガラントの答えは、リゼットと同じだった。
「筋、通ってますね」
ネリスが、苦笑する。
「通ってるだろ」
ガラントが、笑って皿を置いた。
---
その夜、明日の返事を待つ間、四人の間には、いつもと違う空気が流れていた。
新しい誰かが加わるかもしれない、という予感。
それは、期待でもあり、少しの緊張でもあった。
「うまくいくといいけど」
ネリスが呟く。
「うまくいく」
カインが、根拠もなく言い切った。
根拠がなくても、言い切ったほうがいい夜もあった。
---
明日、返事が来る。
それだけが決まっていて、あとは何もわからないまま、四人はそれぞれの部屋に戻った。
いかがでしょうか?
ついに4人から5人になりそうです。
感想、フォロー 頂けましたら喜びます。
よろしくお願いいたします。




