第9話「足りないところ、見えないところ」
マランの世界、毎日投稿中です。
当面、数話を連続投稿の予定です。
お楽しみいただけましたら幸いです。
レベル2になってから、一層はほとんど作業になっていた。
半日ももたずに用が済んでしまう日が続いた。
四人は、自然と二層に潜る回数を増やしていった。
初めて大型ゴブリンに苦戦した日のことは、もう遠い記憶になりかけている。
「あのときのゴブリン、どこ行ったんだろうな」
カインがぼやく。
「別の個体だろ、いい加減」
ダダが即座に返す。
そうとわかっていても、つい探してしまう自分に、カインは少し呆れていた。
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二層の奥は、思っていたよりも広かった。
ダダが描いてきた簡単な図面に、また新しい線が足される。
字は雑だったが、迷わない程度には正確だった。
ノリアのファイアは三回使えるようになり、群れの中心で爆ぜるたびに、ダダの盾とカインの剣が後始末を引き受ける。
息の合った動きは、もう考えなくても回るところまで来ていた。
ネリスが跳んで一撃を入れる瞬間の滑らかさも、以前とは違っている。
それでも、三層への階段だけは、どれだけ歩いても見つからなかった。
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「三層への道、本当にこの階にあるのか」
カインが壁沿いを歩きながら言う。
「あるはずだ。ないなら三層自体が存在しないことになる」
ダダの理屈は、正しかったが慰めにはならなかった。
「正しいことと、見つかることは別問題だな」
「別問題だ」
あっさり同意されると、それはそれで少し腹が立った。
ネリスが行き止まりの壁を叩いてみる。
隠し扉でもないかと期待したが、ただの壁は最後までただの壁だった。
三度目に潜った日には、初めて足を踏み入れる区画に出た。
四人の足取りが、少し速くなる。
行き止まりの先にあったのは、小さな部屋と、空になった宝箱がひとつだった。
「空か」
カインが呟く。
「空だな」
ダダが頷く。
誰かに先を越されたのか、最初から空だったのか。
わからないことが、また一つ積み上がっただけだった。
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その日の帰り道は、いつもより口数が少なかった。
二層は、もう隅々まで回った気がする。
気がするだけかもしれない。
否定できないまま、四人はヘクサインへの道を歩いた。
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食堂で夕食をとりながら、カインがようやく切り出した。
「レベル、全然上がらないよな」
「上がらないな」
ダダが即座に頷く。
「2になってから、もうずいぶん潜ってる。なのに、まだ2のままだ」
ネリスが頬杖をついたまま口を挟む。
「2から3になるの、時間かかるものなのかな」
誰も答えを持っていなかった。
「一層の敵、もうほとんど脅威じゃない」
ノリアが静かに割って入る。
討伐してもレベルに効きにくくなっている、というのは筋の通った話だった。
二層中心にしているつもりでも、足りていないのかもしれない。
答えの出ない話が、また一つ積み上がる。
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「それより」
ダダが話を変えた。
「もっと根本的な問題がある。前衛が薄い」
短い一言に、テーブルが静かになる。
カインが反射的に自分を指したが、ダダはそれを遮るように続けた。
「俺が受けて、お前が斬る。それで回ってる部分がある。回ってるが、綱渡りだ。この間、二層のゴブリンに複数体囲まれたとき、正直きつかった」
「きつかった」
カインも素直に認めた。
あのとき、ネリスが横から入ってくれなかったら、もっと危なかった。
「入ったけど」
ネリスが眉を寄せる。
「私、本来は前衛じゃない」
誰も反論しなかった。
「回復役も、いない」
ノリアが付け加える。
今まで誰も口に出さなかった話だった。
怪我をすれば回復所で治してもらうしかなく、それは潜っている間はどうにもならないということだ。
無傷で切り抜ける、という前提そのものが、今更ながら危ういものに思えてきた。
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「僧侶系の職、あるんだよな」
カインが言う。
「ある。ノストス系だったか」
ダダが答える。
「誰か、覚える予定は」
「ない」
四人とも、職種を決めたばかりだった。
いまさら回復系に鞍替えする話ではない。
「五人目、探すべきなのかもな」
ネリスがぽつりと言った。
言った本人が、一番驚いた顔をしていた。
「五人目」
カインが繰り返す。
「回復できる誰かとか」
「そうなったら、心強い」
「心強いけど」
ネリスが慌てて付け足す。
「今のメンバーで、居心地が悪いって話じゃない」
「わかってる」
カインが軽く返す。
今のままでいいのかという話と、今のままだと危ないかもしれないという話は、別々にあっていい。
そう整理がついたところで、少し場の空気が落ち着いた。
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結局その夜、結論らしい結論は出なかった。
今すぐ誰かを入れる話ではないが、無理な突っ込み方はしない、ということだけは全員が確認した。
地味な結論だったが、地味だからこそ現実的だった。
三層への道も、まだ見つかっていない。
レベルが上がらないことと、前衛が薄いことと、道が見つからないこと。
「三つとも、繋がってる気がする」
ネリスが言う。
繋がっているのか、それともただ全部が同時に足りていないだけなのか、判断はつかなかった。
「回復役の件、ギルドに相談してみるのもありかもな」
カインが思いついたように言う。
「今度、聞いてみるか」
その一言で、その日の話は一旦区切りがついた。
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食堂の灯りが落ちる頃、四人はそれぞれの部屋に戻る支度を始める。
「足りないもの、多いな、俺たち」
カインが言う。
「多いな」
ダダがあっさり同意する。
「多いけど」
ネリスが続けた。
「足りないって、わかってるだけマシじゃない?」
わかっていないよりは、たしかにマシだった。
三層への階段は見つからず、レベル3は遠く、前衛は薄く、回復役はいない。
足りないものを一つひとつ数え上げた夜だったが、明日また二層に潜るという結論だけは、迷いなく出ていた。
いかがでしょうか?
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