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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
閑話 その三

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第9話「足りないところ、見えないところ」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

レベル2になってから、一層はほとんど作業になっていた。


半日ももたずに用が済んでしまう日が続いた。


四人は、自然と二層に潜る回数を増やしていった。


初めて大型ゴブリンに苦戦した日のことは、もう遠い記憶になりかけている。


「あのときのゴブリン、どこ行ったんだろうな」


カインがぼやく。


「別の個体だろ、いい加減」


ダダが即座に返す。


そうとわかっていても、つい探してしまう自分に、カインは少し呆れていた。


---


二層の奥は、思っていたよりも広かった。


ダダが描いてきた簡単な図面に、また新しい線が足される。


字は雑だったが、迷わない程度には正確だった。


ノリアのファイアは三回使えるようになり、群れの中心で爆ぜるたびに、ダダの盾とカインの剣が後始末を引き受ける。


息の合った動きは、もう考えなくても回るところまで来ていた。


ネリスが跳んで一撃を入れる瞬間の滑らかさも、以前とは違っている。


それでも、三層への階段だけは、どれだけ歩いても見つからなかった。


---


「三層への道、本当にこの階にあるのか」


カインが壁沿いを歩きながら言う。


「あるはずだ。ないなら三層自体が存在しないことになる」


ダダの理屈は、正しかったが慰めにはならなかった。


「正しいことと、見つかることは別問題だな」


「別問題だ」


あっさり同意されると、それはそれで少し腹が立った。


ネリスが行き止まりの壁を叩いてみる。


隠し扉でもないかと期待したが、ただの壁は最後までただの壁だった。


三度目に潜った日には、初めて足を踏み入れる区画に出た。


四人の足取りが、少し速くなる。


行き止まりの先にあったのは、小さな部屋と、空になった宝箱がひとつだった。


「空か」


カインが呟く。


「空だな」


ダダが頷く。


誰かに先を越されたのか、最初から空だったのか。


わからないことが、また一つ積み上がっただけだった。


---


その日の帰り道は、いつもより口数が少なかった。


二層は、もう隅々まで回った気がする。


気がするだけかもしれない。


否定できないまま、四人はヘクサインへの道を歩いた。


---


食堂で夕食をとりながら、カインがようやく切り出した。


「レベル、全然上がらないよな」


「上がらないな」


ダダが即座に頷く。


「2になってから、もうずいぶん潜ってる。なのに、まだ2のままだ」


ネリスが頬杖をついたまま口を挟む。


「2から3になるの、時間かかるものなのかな」


誰も答えを持っていなかった。


「一層の敵、もうほとんど脅威じゃない」


ノリアが静かに割って入る。


討伐してもレベルに効きにくくなっている、というのは筋の通った話だった。


二層中心にしているつもりでも、足りていないのかもしれない。


答えの出ない話が、また一つ積み上がる。


---


「それより」


ダダが話を変えた。


「もっと根本的な問題がある。前衛が薄い」


短い一言に、テーブルが静かになる。


カインが反射的に自分を指したが、ダダはそれを遮るように続けた。


「俺が受けて、お前が斬る。それで回ってる部分がある。回ってるが、綱渡りだ。この間、二層のゴブリンに複数体囲まれたとき、正直きつかった」


「きつかった」


カインも素直に認めた。


あのとき、ネリスが横から入ってくれなかったら、もっと危なかった。


「入ったけど」


ネリスが眉を寄せる。


「私、本来は前衛じゃない」


誰も反論しなかった。


「回復役も、いない」


ノリアが付け加える。


今まで誰も口に出さなかった話だった。


怪我をすれば回復所で治してもらうしかなく、それは潜っている間はどうにもならないということだ。


無傷で切り抜ける、という前提そのものが、今更ながら危ういものに思えてきた。


---


「僧侶系の職、あるんだよな」


カインが言う。


「ある。ノストス系だったか」


ダダが答える。


「誰か、覚える予定は」


「ない」


四人とも、職種を決めたばかりだった。


いまさら回復系に鞍替えする話ではない。


「五人目、探すべきなのかもな」


ネリスがぽつりと言った。


言った本人が、一番驚いた顔をしていた。


「五人目」


カインが繰り返す。


「回復できる誰かとか」


「そうなったら、心強い」


「心強いけど」


ネリスが慌てて付け足す。


「今のメンバーで、居心地が悪いって話じゃない」


「わかってる」


カインが軽く返す。


今のままでいいのかという話と、今のままだと危ないかもしれないという話は、別々にあっていい。


そう整理がついたところで、少し場の空気が落ち着いた。


---


結局その夜、結論らしい結論は出なかった。


今すぐ誰かを入れる話ではないが、無理な突っ込み方はしない、ということだけは全員が確認した。


地味な結論だったが、地味だからこそ現実的だった。


三層への道も、まだ見つかっていない。


レベルが上がらないことと、前衛が薄いことと、道が見つからないこと。


「三つとも、繋がってる気がする」


ネリスが言う。


繋がっているのか、それともただ全部が同時に足りていないだけなのか、判断はつかなかった。


「回復役の件、ギルドに相談してみるのもありかもな」


カインが思いついたように言う。


「今度、聞いてみるか」


その一言で、その日の話は一旦区切りがついた。


---


食堂の灯りが落ちる頃、四人はそれぞれの部屋に戻る支度を始める。


「足りないもの、多いな、俺たち」


カインが言う。


「多いな」


ダダがあっさり同意する。


「多いけど」


ネリスが続けた。


「足りないって、わかってるだけマシじゃない?」


わかっていないよりは、たしかにマシだった。


三層への階段は見つからず、レベル3は遠く、前衛は薄く、回復役はいない。


足りないものを一つひとつ数え上げた夜だったが、明日また二層に潜るという結論だけは、迷いなく出ていた。


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

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