第127話「変わらぬ色、牙は三つ」
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板を懐から取り出し、カインはその表面を覗き込んだ。
淡い光の中に、見慣れた六色の点がいくつも浮かんでいる。
「一層、二層と、変わらない感じだな」
「三層って言うから、何か違うのかと思ったでござるが」
ワングが、隣から板を覗き込む。
「拍子抜け、でござるな」
「油断は、しない方がいいと思う」
ミラが、静かに釘を刺した。
「うん。ベーダーさんの言葉も、まだ残ってるし」
ノリアが、腕を組んで頷く。
「同じようなものに、心当たりはないか。ノアの深層とか」
あの問いかけが六人の頭の隅に、まだ引っかかったままだった。
「とりあえず、近いところから」
カインが、板の上を指でなぞる。
最寄りの点は黄色だった。
「よし。黄、行こう」
「「「了解」」」
四人分の声が揃って返る。
ダダとワングだけは無言のまま、先に歩き出していた。
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黄の点までの道のりは拍子抜けするほど短かった。
石造りの通路が緩やかに下っていく。
「これも、二層と同じ造りでござるな」
ワングが、壁に触れながら呟く。
「そういえば」
カインが、ふと足を止めた。
「さっきの曲がり角、どこかで見た気がするんだよな」
「気のせいでしょ」
ネリスが、振り返らずに言う。
「エアなんだから、似たような通路くらい、いくらでもあるって」
「だよな」
軽く笑って、カインも歩みを再開する。
引っかかりはそのまま、胸の奥にしまわれた。
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黄の点に着いたのは、それから間もなくのことだった。
広い部屋の中央に三つの影が並んで立っている。
鎧を纏った、巨大なオークだった。
一体一体がダダの倍近い体高を持つ。
「でかいな」
ダダが、低く唸る。
「うん。三体とも、かなりの重装備」
ミラが、油断なく剣を構えた。
「役割、決めよう」
カインが、素早く指示を出す。
「ワングとミラは、左。ネリスとノリアは、右。俺とダダで、真ん中を」
「「「了解」」」
カインが印を組む。
淡い光とともに、ゴーレムが現れた。
「守り、頼む」
石の巨体がカインの前に立ち、静かに構える。
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先に動いたのは、ワングだった。
氷姫を抜き、左のオークへ迷いなく踏み込む。
「参る」
一閃。
鎧の継ぎ目を正確に狙った一撃だった。
オークが怒りの咆哮をあげる。
「ワング、右から庇う」
ミラが丸盾でオークの反撃をいなし、剣を返す。
受け流し、切り込み、また受け流す。
二人の呼吸は驚くほど揃っていた。
「決める」
ワングの刀が鎧の隙間へ吸い込まれる。
オークがゆっくりと崩れ落ちた。
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右ではネリスが跳んでいた。
オークの視界を右へ左へと乱す。
「こっち、こっち」
爪が脚の関節を浅く裂く。
オークが体勢を崩した、その瞬間。
「そこ」
ノリアの手のひらから業火弾が放たれる。
爆発がオークの巨体を包んだ。
煙の中から、崩れ落ちる音だけが響いた。
「決まった」
ノリアが、小さく息を吐く。
「まだ、あと一体」
ネリスが、爪を構え直した。
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真ん中のオークはなかなか崩れなかった。
ゴーレムの一撃を受けても、なお立ち続ける。
「硬いな、こいつ」
ダダが盾で攻撃を受け止めながら、歯を食いしばる。
「もう一押し」
カインが、剣を振るう。
浅い傷がいくつも重なっていく。
決定打には程遠かった。
「ダダ、隙を作れるか」
「やってみる」
ダダが盾ごと、オークへ体当たりを仕掛ける。
巨体がわずかによろめいた。
その一瞬をカインは見逃さなかった。
「そこ」
剣が鎧の隙間へ深く食い込む。
オークが膝から崩れる。
なんとか、というほかない決着だった。
「はぁ……硬かった」
カインが、肩で息をする。
「よくやった」
ダダが、短く言った。
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三体を倒した跡地にドロップが残っていた。
その中に、銀色に近い光沢を持つ金塊があった。
「これ……」
ダダが拾い上げ、じっと見つめる。
「見覚えある?」
カインが、覗き込んだ。
「わからない。でも、なんか……気になる色だ」
ダダの目が細くなる。
その脇に、小さな宝箱が静かに姿を現していた。
「宝箱だ」
ノリアが、駆け寄る。
蓋を開けると、中には正体のわからない布袋が一つ入っていた。
「これは……何?」
ミラが、袋を持ち上げる。
見た目より、ずっと軽かった。
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その時だった。
低い唸り声が三方向から同時に響いた。
「来る」
ワングが真っ先に、氷姫を構え直す。
現れたのは、三つの首を持つ一頭の獣だった。
それぞれの首が別々の方向を睨んでいる。
「ケルベロス、でござるか」
「厄介そう」
ネリスが、爪を握り直した。
「油断するな」
カインの声に、皆が身構える。
三つの牙が同時に六人へ襲いかかってきた。
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戦いはこれまでで一番の消耗を強いた。
一つの首を抑えても、残りの二つが容赦なく牙を向けてくる。
「群癒」
ミラの呪文が傷ついた仲間を次々と癒していく。
「まとめて、いくよ」
ノリアが、業火弾を連続で撃ち込む。
炎が三つの首のうち一つを大きく怯ませた。
「今のうち」
ダダが隙を作り、ワングが斬り込む。
なんとか一つの首を沈黙させることに成功した。
だが、残る二つはまだ健在だった。
「これ以上は……」
カインが肩で息をしながら、皆を見渡す。
深追いする余力は、もう誰にも残っていなかった。
「退くぞ」
短く、そう告げる。
「「「了解」」」
六人は傷ついたケルベロスを押し戻しながら、後退を始めた。
牙がそれ以上追ってくることはなかった。
そのまま六人はクロスロードへの帰路についた。
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アプレイザルの鑑定台に金塊と布袋が並べて置かれた。
鑑定士が金塊を手に取り、目を細める。
「これは……ミスリルですね」
「やっぱり」
ダダが、小さく頷いた。
「見たことある気がしたんだ、この色」
「かなり純度が高い。重さも、規格外です」
鑑定士が天秤に乗せながら、感心したように言う。
「フォージタウンなら、喜んで買い取るでしょうね」
「こっちの袋は?」
ミラが、布袋を差し出す。
鑑定士が中を覗き込み、目を見開いた。
「マジックバッグです。しかも、かなりの上物」
「マジックバッグ……?」
ノリアが、首をかしげる。
「見た目の大きさと中身の重さが釣り合わない魔道具です」
鑑定士が袋の口をそっと広げて見せる。
「入り口から入るものなら、かなりの量を収納できる。持ち運びの負担が劇的に減りますよ」
「それは、便利でござるな」
ワングが、感心したように呟く。
「三層、初日にしては、上出来かも」
カインが皆を見渡し、笑った。
「うん」
ミラが、静かに頷く。
疲労の色は隠せなかったが、誰の顔にも確かな手応えが浮かんでいた。
いかがでしょうか?
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