第125話 閑話「凪いだ声、燻る影」カイン・ダダ・ネリス・ノリア・ミラ・ワング
マランの世界、連日投稿中です。
当面、毎日2話投稿の予定です。
お楽しみいただけましたら幸いです。
**カイン**
コインが消えたあとも、しばらく、手のひらに、感触が残っていた気がした。
俺たちだけが、今、エアの深いところに潜っている。
そう聞かされた時、誇らしさより先に、重さが来た。
万能士になった時も、こんな感覚だった気がする。
できることが増えるたびに、背負うものも、増えていく。
三層への板は、まだ、懐に入れたままだ。
開けば、また、何か始まる。
そんな予感だけが、やけにはっきりしている。
カイザーは、今日も、何も語らない。
あいつが何者なのか、俺自身、まだ、うまく言葉にできない。
召喚レベルが上がれば、また何か変わるのだろうか。
そんなことを、ぼんやり考える時間が、増えた。
「ご存じの存在とも」
ベーダーが、最後に残したあの一言も、頭の隅に、ずっと引っかかっている。
エランドか、エカチェリーナか。
それとも、まだ、会ったことのない誰かか。
心当たりは、今のところ、ない。
だが、いつか、繋がる気がしていた。
ゴーレムも、スルも、カイザーも、最初は、皆、謎だらけだった。
わからないまま、共に戦って、少しずつ、輪郭が見えてきた。
召喚も、きっと、そういうものなのだろう。
皆は、俺のことを、頼りにしてくれている。
正直、怖くなる時もある。
判断を誤れば、誰かが、傷つく。
それでも、迷っている暇はない。
先のことは、わからない。
それでも、俺は、皆を、ここまで連れてきた。
これからも、そうするだけだ。
窓の外を見ながら、そう、自分に、言い聞かせる。
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**ダダ**
盾の焦げ跡を、指でなぞる。
あの六体との戦いで、どうにか、削り取れた跡だった。
正面から受け止める。
それが、俺のやり方だった。
昔は、それだけで、十分だった。
デカい図体で、真正面に立つ。
殴られても、耐える。
味方が、その隙に、動ける。
単純だが、間違ってはいないと、思ってきた。
だが、ここ最近、その受け止め方が、通用しない相手が増えてきている。
魔法まで飛んでくるようになると、盾一枚じゃ、追いつかない瞬間がある。
囲まれて、複数から同時に来られると、受け止めきれない時もある。
力任せだけじゃ、いずれ、限界が来る。
そんな気がして、ここ最近、夜、あまり眠れない日がある。
考えても、答えは出ない。
だから、代わりに、手を動かすことにしていた。
フォージタウンのブロムの工房に、暇を見つけては、通っている。
自分の盾を、自分で、直したかった。
最初は、それだけのつもりだった。
だが、金槌を握って、鉄と向き合っている時間は、不思議と、頭が静かになる。
思えば、ワングの腕のことを考えついたのも、俺だった。
あの時は、ただ、必死だった。
仲間を、諦めさせたくない。
それだけだった。
でも、あれが、案外、悪くない発想だったと、ブロムに褒められたことを、今でも覚えている。
「お前、向いてるかもしれんぞ」
そう言われた時、素直に、嬉しかった。
戦うことしか、取り柄がないと思っていた。
だから、余計に、心に残っている。
盾の重心を、少し変えてみたら、どうなるだろう。
受け止めるだけじゃなく、もっと、上手く受け流せる形は、作れないだろうか。
ウォーハンマーの柄も、もう少し短くしたら、取り回しが変わる気がする。
考え出すと、止まらなくなる。
まだ、誰にも、話していない。
タンクとして、まだまだだと思われるかもしれない。
戦うだけが、俺の役目じゃないのかもしれない、と思うことも、正直、ある。
盾役をやめたいわけじゃない。
ただ、盾役のまま、何かもう一つ、持っていたい。
そんな気がしている。
それでも、いつか、自分の手で、自分の得物を、鍛えてみたい。
そんな考えが、最近、頭から離れない。
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**ネリス**
兄さんは、今日も、静かに眠っている。
まだ、パーティに戻る話は、していない。
急かすつもりは、ない。
戻ってきてくれた、それだけで、十分だった。
小さい頃、兄さんの後ろを、いつも、追いかけていた。
足が速くて、木登りも、得意な人だった。
魔物になっていた間の記憶は、まだ、あまり話してくれない。
無理に聞くつもりは、ない。
思い出せる時が来たら、それでいい。
爪の装具は、まだ、使い分けたままだ。
いつか、どちらか一つに決める日が、来るのかもしれない。
今は、それでいい。
エアは、まだ、わからないことばかりだ。
ベーダーという人も、名乗った理由も、まだ、飲み込みきれていない。
兄さんも、あの人と、少し似ている。
普通の人と、少し違う何かを、抱えている。
そんな気がする。
それでも、前より、少しだけ、怖くなくなった気がする。
知らないことが、ただ怖いだけじゃないと、少しずつ、わかってきたからかもしれない。
蘇生してから、兄さんは、前よりも、よく眠るようになった。
体を、取り戻している途中なのかもしれない。
焦らず、待つ。
それが、今の、私にできることだと思う。
爪を、そっと、握り直す。
次に潜る時も、きっと、この爪で、前へ出る。
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**ノリア**
終焉を、続けて二回撃った日から、少し、腕が重い。
魔力の消耗というより、気持ちの疲れの方が、大きい気がする。
強い呪文は、便利だ。
でも、頼りすぎたら、いけない。
そのことは、自分がよく、わかっている。
業炎獄や業火弾で、もっと丁寧に削れたはずの場面も、あったかもしれない。
次は、もう少し、抑えて戦えるようになりたい。
魔術師から、魔道師になった日のことを、たまに、思い出す。
もともと素質があっただけ、と鑑定士には言われたけれど、あの日から、見える景色が、少し変わった気がする。
呪文を撃つたび、少しずつ、自分の輪郭が、はっきりしていく感覚があった。
ベーダーさんの話を聞いてから、迷宮そのものが、前より、少し不気味に見えるようになった。
でも、不思議と、嫌な感じはしない。
エカチェリーナさんも、エランドさんも、ずっとそこにいる。
そう考えると、迷宮自体が、一つの、大きな生き物みたいにも思えてくる。
知らないことが、また一つ増えただけだ。
それだけ、と思うことにしている。
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**ミラ**
大群癒を放った瞬間の、あの熱を、まだ覚えている。
間に合って、本当に良かった。
僧侶だった頃には、想像もしなかった戦い方を、今、している。
いなす。
受け流す。
守るための形は、一つじゃないと、少しずつ、わかってきた。
聖アリアの剣は、今も、お守りとして、腰にある。
対の剣も、あれから、もう片方に、下げたままだ。
いつか、この剣の由来も、わかる日が来るのだろうか。
わからないことを、わからないまま、持ち歩く。
そんなことにも、少しずつ、慣れてきた気がする。
エカチェリーナさんと、同じ類の存在。
その言葉が、今も、胸の奥に、静かに残っている。
強さだけが、守る力じゃない。
そのことを、これからも、忘れずにいたい。
祈りだけでは、届かないこともある。
でも、祈りが、無意味なわけじゃない。
その両方を、これからも、抱えていきたいと思う。
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**ワング**
夜、一人になると、あの太刀筋を、何度も、思い出す。
鎧の魔物の剣も、カイザーの剣も、どこか、覚えのある動きをしていた。
無駄のない、静かな踏み込み。
拙者が、若い頃、目標にしていた誰かの型に、似ている気がする。
右手を失う前の記憶は、もう、随分と、遠くなった。
それでも、剣筋だけは、体が覚えている。
誰に似ているのか、まだ、わからない。
わからないまま、口にするのは、拙者の性分に合わぬ。
だから、皆には、まだ話していない。
余計な期待を、抱かせたくもない。
氷姫を、鞘から抜き、静かに眺める。
この刀と、共に潜ってきた歳月が、そのまま、拙者の歴でござる。
答えが出るまで、この刀と、向き合い続けるだけだ。
いかがでしょうか?
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