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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
第三部 迷宮エア編 二層

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第122話「名乗る刃、名乗った影」

マランの世界、連日投稿中です。

当面、毎日2話投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

崩れた鎧の残骸が、まだ、床のあちこちに散らばっていた。


戦いの熱が、まだ、体から抜けきっていない。


その中で、六人は、板を囲んでいた。


「これ、何だ」


ダダが、眉を寄せる。


板の隅、これまでどの色にも当てはまらない、一つの点が、うっすらと浮かんでいた。


赤でも、黄でも、青でも、黒でも、白でもない。


「色が、ないな」


ワングが、板を、角度を変えて見つめる。


「いや……ある、のかもしれないでござる。ただ、判別がつかないだけで」


「新しい点、こんな時に出るんだ」


ノリアが、疲れの残る声で呟く。


視線の先で、点は、まだ、ゆらゆらと揺らめいていた。


「今の戦いと、関係あるのかな」


ミラが、板の縁を、そっとなぞる。


「わからない。でも、無関係とも言い切れない」


カインが、腕を組んだ。


「今、取り込んだばかりだしな」


ダダが、自分の手のひらを、ちらりと見た。


カインの手にも、まだ、あの紋様がうっすらと残っている。


「無事に、動いてくれるといいでござるが」


ワングが、板から目を離さずに言う。


「試してみないと、わからないよ」


ノリアが、肩をすくめた。


「体力、大丈夫か」


カインが、皆の顔を、順に見る。


「まだ、いける」


ネリスが、短く答えた。


「私も」


ミラが、頷く。


「無理は、しないでござるよ」


ワングが、念を押すように言う。


「わかってる」


カインが、頷き返した。


一同の顔に、まだ、疲労の色が濃く残っていた。


それでも、足を止める者は、いなかった。


「行くしかないか」


カインが、板を、袋にしまった。


誰も、異を唱えなかった。


疲れた足を、それでも、前へ向けた。


---


通路は、これまでと、様子が違った。


壁も床も、白く発光している。


音を吸い込むように、静かだった。


歩くたびに、足音だけが、やけに大きく響いた。


「なんか、変な感じ」


ノリアが、周囲を、見回しながら呟く。


「集中は、切らすな」


ワングが、前を見据えたまま、短く応じる。


「気配、変」


ネリスが、耳を伏せる。


その時。


足元の床が、わずかに、盛り上がった。


「跳べ!」


ワングの声に、六人が散る。


土を割って、太い蔓のようなものが、六本、勢いよく突き出した。


先端が、鋭く尖っている。


中心に、花のような器官が、開いていた。


ぬめりを帯びた表皮が、鈍く光る。


見た目に反して、動きは、俊敏だった。


「植物、か……!」


カインが、剣を構え直す。


体液を吸って、床が、じわりと黒ずんでいく。


普通の魔物とは、明らかに違う気配だった。


「動く花なんて、聞いてない!」


ダダが、盾で、一本の蔓を受け止めた。


衝撃で、腕が、痺れる。


「重い……! これも、力任せか!」


「六本、勝手に動いてる!」


ミラが、二本の蔓を、盾で同時にいなす。


蔓は、それぞれが、意志を持つように、別々の標的を狙っていた。


「花の中心が、本体か……!」


カインが、中心の器官を、目で追う。


蔓の隙間から、時折、覗くだけだった。


「近づけない!」


ノリアが、後退しながら叫ぶ。


「ネリス!」


ミラの声に、ネリスが振り向く。


肩口を、蔓の先端が、浅く掠めていた。


「大丈夫……!」


「動かないで」


ミラが、素早く、癒しの波を放つ。


傷口が、みるみる塞がっていく。


「助かった」


ネリスが、爪を握り直し、再び前へ出た。


「ネリス、危ない!」


背後から迫った一本を、カインが、辛うじて斬り払う。


樹液のような体液が、飛び散った。


「範囲が、広すぎる……!」


ノリアが、間合いを取りながら、詠唱の隙を窺う。


蔓の動きが、一瞬たりとも、止まらない。


一進一退どころか、押される一方だった。


「くっ……!」


ワングが、二本を同時に相手取り、刀で受け流す。


だが、三本目が、死角から迫った。


「危ない!」


ミラが、割り込むように、盾で受け止める。


衝撃で、腕が、大きく痺れた。


「これ、いつまで続くんだ……!」


ダダが、押し込まれながら、歯を食いしばる。


蔓の一本が、地を這うように、足元を狙ってきた。


「跳べ!」


ネリスが叫び、辛うじて飛び退く。


裂けた床の跡が、深く抉れていた。


「数が、多すぎる。手が、足りない……!」


カインが、剣を握り直しながら、周囲を見渡す。


このままでは、じり貧だった。


何か、決め手が、要る。


---


「カイザー!」


カインが、鋭く叫んだ。


淡い光とともに、鎧を纏った人影が、宙から現れる。


かつて、白の点で取り込んだ、あの一体だった。


無言のまま、ロングソードを構える。


「頼む!」


言葉は、返ってこなかった。


代わりに、剣が、動いた。


一本の蔓へ、迷いなく踏み込む。


刃が、蔓の中ほどを、正確に両断した。


「速い……!」


ネリスが、目を見張る。


カイザーは、そのまま、二本目、三本目と、剣を振るい続けた。


無駄のない、正確な太刀筋だった。


一撃ごとに、蔓が、力なく垂れ下がっていく。


「あの動き……前にも、見た」


ワングが、低く呟く。


その声は、剣戟の音に、掻き消された。


「助かる……! こっちも続くぞ!」


ダダが、残った一本を、盾で押さえ込みながら叫んだ。


ネリスが、その隙に、爪で切り込む。


「今のうちに、削る!」


ダダが、残った蔓を、盾で押さえ込む。


「よし、そのまま押さえてろ!」


ネリスが、身を低く沈め、隙を狙う。


カイザーが、花の器官へ向け、最後の一撃を振り下ろした。


深く、切り裂く。


だが、まだ、絶命しない。


震えるように、花が、閉じかけていた。


「終わらせる!」


ノリアが、杖を構える。


「業炎獄!」


渦を巻く炎が、花の中心を、まとめて焼き払った。


「まだ動いてる……! 追撃!」


カインの声に、ノリアが、間を置かず、次の詠唱に入る。


「業火弾!」


放たれた炎が、とどめを刺した。


蔓が、力なく垂れ下がり、そのまま、地に崩れ落ちる。


静寂が、戻った。


カイザーは、剣を鞘へ収め、一礼するように頭を下げると、光の粒になって消えた。


「相変わらず、何も、喋らないな」


カインが、苦笑いを浮かべる。


「頼りには、なるでござるが」


ワングが、刀を鞘へ収めながら、まだ、何か考え込んでいる様子だった。


「どうかした?」


ミラが、その横顔を、覗き込む。


「いや……何でもない。今は、先を急ぐでござる」


ワングが、首を振り、歩き出した。


その表情には、まだ、拭いきれない引っかかりが、残っていた。


---


戦いを終えた通路の先に、部屋があった。


かつての、一層の時と同様に。


だが、扉も壁も、何色とも呼べない色をしていた。


見た瞬間に名前が浮かばず、目が、すぐに逸れてしまうような色だった。


ここまで歩いてきた道のりが、随分と、遠く感じられた。


「これは……」


ミラが、言葉に詰まる。


「気持ち悪い色、だね」


ノリアが、眉をひそめた。


「色というより、色の隙間、みたいでござるな」


ワングが、目を細める。


見つめるほどに、輪郭が、ぼやけていく感覚があった。


「あんまり、見ない方がいいかも」


ノリアが、視線を、そっと逸らす。


扉に近づくにつれ、足取りが、自然と、重くなった。


「戻る、なら今のうちでござるが」


ワングが、冗談めかして言う。


誰も、笑わなかった。


「行くよ」


カインが、扉に、手をかけた。


軋む音もなく、扉が、静かに開く。


中は、思ったより、広かった。


天井も壁も、同じ、名づけようのない色に覆われている。


「誰か、いる」


ダダが、真っ先に、気配を捉えた。


六人は、慎重に、部屋の奥へ、足を踏み入れた。


中央に、人影が、一つ立っていた。


長身の、鎧を纏った人物だった。


微動だにせず、こちらに背を向けている。


白の点で見た六体と、どこか、似た佇まいだった。


だが、纏う空気は、明らかに違う。


張り詰めた気配が、部屋全体に、満ちていた。


「……!」


ネリスが、息を止める。


誰も、声を出さなかった。


足音を殺し、じりじりと、間合いを詰める。


一歩ごとに、心臓の音が、大きくなっていくようだった。


その人影が、ゆっくりと、こちらへ向き直った。


「ようこそ」


低く、落ち着いた声だった。


「私が、ベーダーだ」


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

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