↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
第三部 迷宮エア編 二層

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

123/237

第121話「白に立つ六人、灯した終焉」

マランの世界、連日投稿中です。

当面、毎日2話投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

白の点は、これまでのどこよりも、静かだった。


石でも木でも金属でもない、乳白色の床が、奥まで続いている。


足音すら、いつもより、響かなかった。


「静かすぎる、な」


ダダが、周囲を、じっと窺う。


その中央に、六つの影が並んでいた。


全身を鎧で覆い、右手にロングソード、左手に盾を構えている。


一体、一体が、微動だにしない。


「六体……」


ネリスが、低く息を呑んだ。


「揃ってる、な」


ダダが、盾を構え直す。


中央の一体が、他より頭一つ、高かった。


「あの背丈……」


ネリスの声が、かすかに震える。


「ベーダーじゃないのか……」


その呟きが、消えるより早く。


六体が、一斉に動いた。


---


中央の一体が、地を蹴った。


ロングソードが、まっすぐカインへ振り下ろされる。


「速い!」


かろうじて、剣で受け流した。


腕に、鈍い痺れが走る。


答えは、なかった。


言葉も、呻き声も、何一つ返ってこない。


ただ、剣が、盾が、正確に襲いかかってくる。


期待は、一撃で、粉々に砕けた。


「散れ! 各個で受けるでござる!」


ワングの声に、六人が、左右へ散った。


一体ずつ、応戦する。


ダダの盾が、正面からの一撃を受け止める。


「重い……! 力比べなら、負けぬ!」


ウォーハンマーが、相手の盾を弾き返した。


ネリスの爪が、隙間を狙って走る。


だが、鎧の継ぎ目にすら、届かない。


「硬い!」


「後ろ!」


ミラの声が飛ぶ。


背後から迫った一体の剣を、丸盾で受け流した。


いなす動きで体勢を崩し、返す刃で肩口を斬る。


火花が散った。


「もう一体、来る!」


続けて、二体目が、ミラへ襲いかかる。


盾で受け、剣先を逸らし、また受け流す。


息をつく間もない、応酬だった。


「大丈夫か!」


カインが、駆け寄ろうとするのを、ミラが手で制した。


「私は、平気。そっちを、見て」


短く言い切り、三度目の一撃を、いなす。


ノリアの業火弾が、右端の一体を、まとめて焼く。


炎の中でも、動きは止まらなかった。


「拙者が、往なす!」


ワングが、中央の一体と、刃を合わせる。


打ち合うたびに、火花が、通路を照らした。


相手の剣筋は、粗くない。


むしろ、洗練されていた。


「この太刀筋……どこかで……」


ワングの呟きは、続かなかった。


相手の一撃が、体勢を崩しにきたからだ。


「くっ……!」


刀の腹で、辛うじて逸らす。


「ワング!」


カインが、横から斬り込み、援護する。


一体の膝が、わずかに沈んだ。


「今!」


ネリスが、跳んだ。


爪が、鎧の隙間へ、正確に吸い込まれる。


だが、致命傷には、程遠かった。


「浅い……!」


すぐさま、後ろへ跳んで距離を取る。


「深追いするな! 各個で削るでござる!」


ワングの声に、六人が、頷いた。


一進一退。


押しても、押し返される。


崩しても、すぐに立て直される。


六人の呼吸が、少しずつ、荒くなっていく。


汗が、額を伝い、床に落ちた。


---


「詠唱、来るでござる!」


ワングが、叫んだ。


六体のうち、三体が、剣を鞘へ収める。


代わりに、宙へ、赤い紋様を描き始めた。


「くっ……!」


「離れろ!」


カインの声も、間に合わなかった。


三つの業火弾が、同時に、中心へ叩き込まれる。


爆風が、六人を、まとめて薙いだ。


「うぁ……!」


ネリスが、地に膝をつく。


ダダの盾が、焼け焦げていた。


「立て、まだ……!」


「大群癒!」


ミラの声が、響いた。


淡い光が、六人を、一斉に包む。


焼けた傷が、みるみる塞がっていく。


「助かった……!」


ダダが、息を吐き、盾を構え直した。


「これで、まだやれる」


ネリスが、立ち上がる。


だが、敵の数は、変わらない。


六体は、傷一つ、負っていないように見えた。


「化け物か、こいつら」


ダダが、うんざりしたように、盾を握り直す。


「化け物、で合ってるでござる。おそらく」


ワングが、短く返した。


再び、六体が、一斉に動く。


今度は、剣と魔法を、交互に織り交ぜてきた。


「読めない……!」


ミラが、盾で受けながら、じりじりと後退する。


「囲まれるぞ!」


ダダが、間に割って入り、二体を、一手に引き受けた。


盾とウォーハンマーが、休みなく振るわれる。


汗が、目に染みた。


腕が、少しずつ、鈍くなっていく。


「数が、減らない……!」


ネリスが、爪を構え直しながら、舌打ちする。


倒したはずの一体が、また体勢を立て直していた。


「本当に、削れてるのか、これ」


カインが、剣を握り直す。


手のひらに、汗が滲んでいた。


---


「このままじゃ、押し切られる」


カインが、歯を食いしばる。


剣を持つ手が、震えていた。


「退避! 全員、下がって!」


ノリアの声が、鋭く響いた。


「終焉!」


黒い光が、宙に、巨大な紋様を描く。


極大の一撃が、三体を、まとめて呑み込んだ。


轟音とともに、鎧が、砕け散る。


「まだ、三体……!」


「もう一度!」


ノリアが、間を置かず、再び詠唱に入る。


肩が、荒く上下していた。


それでも、声に迷いはなかった。


「終焉!」


二度目の光が、残った二体を、正面から捉えた。


爆発の熱が、通路の奥まで、吹き抜ける。


「はぁ……はぁ……」


ノリアが、片膝をつく。


肩が、大きく上下していた。


砂煙の中、五体の鎧が、崩れ落ちている。


だが。


最後の一体だけが、まだ、立っていた。


膝が、大きく震えている。


盾を、地面に引きずるようにして、それでも立っていた。


---


「まだ、動くのか……」


ダダが、警戒したまま、間合いを詰める。


その一体が、剣を、力なく下ろした。


崩れる寸前の、ぎりぎりの姿勢だった。


カインの中で、何かが、動いた。


言葉より先に、手が動いていた。


「これは……」


印を、組む。


いつもの、召喚の型だった。


だが、いつもと、感覚が違う。


呼び出す、のではない。


引き込まれる、感覚だった。


「カイン……!?」


ネリスの声が、遠くに聞こえる。


鎧の一体が、淡い光に、包まれていく。


崩れ落ちるはずの体が、そのまま、光の粒になって消えた。


静寂が、戻った。


「今の、何……」


ノリアが、震える声で呟く。


カインの手のひらに、見覚えのない紋様が、うっすらと浮かんでいた。


「わからない。でも……」


カインが、自分の手を、じっと見つめる。


「取り込んだ、気がする」


「取り込んだ、って」


ミラが、息を呑んだ。


「ゴーレムや、スルみたいに……?」


「たぶん」


答えになっていない答えだった。


それでも、誰も、それ以上は聞けなかった。


「今、何が起きたか、誰か説明できるでござるか」


ワングが、皆を見渡す。


誰も、手を挙げなかった。


「わからない。それだけは、確かでござるな」


ワングが、小さく息を吐いた。


---


肩で息をしながら、六人は、周囲を見渡した。


崩れた鎧の残骸が、乳白色の床に、点々と散らばっている。


コインは、どこにも、落ちていなかった。


「ベーダーさんは、いなかった、な」


ダダが、低く呟く。


「うん。誰でも、なかった」


ネリスが、静かに答えた。


その声に、落胆と、わずかな安堵が、同時に混じっていた。


「これで、白は終わり、なのか」


ワングが、板を取り出す。


白い印は、色を変えないまま、そこにあった。


「わからぬな……何をもって、ここが片づいたと言えるのか」


「コインも、出なかったし」


カインが、崩れた鎧の破片を、拾い上げる。


金属でも石でもない、聞いたことのない手触りだった。


「今の一体を、取り込んだことと、関係あるのかも」


「かもしれないし、違うかもしれない」


ミラが、静かに首を振った。


「今は、断言できることが、何もない」


「一旦、戻ろう」


カインが、皆の顔を、順に見る。


「これ以上は、体が、もたない」


「賛成でござる」


ワングが、刀を鞘へ収めた。


「あの太刀筋、気になるでござるが……今は、それどころではないな」


ワングが、独り言のように、小さく漏らす。


「太刀筋?」


ネリスが、聞き返す。


「一体だけ、妙に、洗練された動きをしていたでござる。まるで……いや、忘れてくれ」


ワングが、首を振った。


その横顔に、消しきれない引っかかりが、残っていた。


疲れ切った六人は、それぞれの足取りで、白い床をあとにした。


カインの手のひらの紋様だけが、扉をくぐる間際まで、かすかに光っていた。


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。