第121話「白に立つ六人、灯した終焉」
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白の点は、これまでのどこよりも、静かだった。
石でも木でも金属でもない、乳白色の床が、奥まで続いている。
足音すら、いつもより、響かなかった。
「静かすぎる、な」
ダダが、周囲を、じっと窺う。
その中央に、六つの影が並んでいた。
全身を鎧で覆い、右手にロングソード、左手に盾を構えている。
一体、一体が、微動だにしない。
「六体……」
ネリスが、低く息を呑んだ。
「揃ってる、な」
ダダが、盾を構え直す。
中央の一体が、他より頭一つ、高かった。
「あの背丈……」
ネリスの声が、かすかに震える。
「ベーダーじゃないのか……」
その呟きが、消えるより早く。
六体が、一斉に動いた。
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中央の一体が、地を蹴った。
ロングソードが、まっすぐカインへ振り下ろされる。
「速い!」
かろうじて、剣で受け流した。
腕に、鈍い痺れが走る。
答えは、なかった。
言葉も、呻き声も、何一つ返ってこない。
ただ、剣が、盾が、正確に襲いかかってくる。
期待は、一撃で、粉々に砕けた。
「散れ! 各個で受けるでござる!」
ワングの声に、六人が、左右へ散った。
一体ずつ、応戦する。
ダダの盾が、正面からの一撃を受け止める。
「重い……! 力比べなら、負けぬ!」
ウォーハンマーが、相手の盾を弾き返した。
ネリスの爪が、隙間を狙って走る。
だが、鎧の継ぎ目にすら、届かない。
「硬い!」
「後ろ!」
ミラの声が飛ぶ。
背後から迫った一体の剣を、丸盾で受け流した。
いなす動きで体勢を崩し、返す刃で肩口を斬る。
火花が散った。
「もう一体、来る!」
続けて、二体目が、ミラへ襲いかかる。
盾で受け、剣先を逸らし、また受け流す。
息をつく間もない、応酬だった。
「大丈夫か!」
カインが、駆け寄ろうとするのを、ミラが手で制した。
「私は、平気。そっちを、見て」
短く言い切り、三度目の一撃を、いなす。
ノリアの業火弾が、右端の一体を、まとめて焼く。
炎の中でも、動きは止まらなかった。
「拙者が、往なす!」
ワングが、中央の一体と、刃を合わせる。
打ち合うたびに、火花が、通路を照らした。
相手の剣筋は、粗くない。
むしろ、洗練されていた。
「この太刀筋……どこかで……」
ワングの呟きは、続かなかった。
相手の一撃が、体勢を崩しにきたからだ。
「くっ……!」
刀の腹で、辛うじて逸らす。
「ワング!」
カインが、横から斬り込み、援護する。
一体の膝が、わずかに沈んだ。
「今!」
ネリスが、跳んだ。
爪が、鎧の隙間へ、正確に吸い込まれる。
だが、致命傷には、程遠かった。
「浅い……!」
すぐさま、後ろへ跳んで距離を取る。
「深追いするな! 各個で削るでござる!」
ワングの声に、六人が、頷いた。
一進一退。
押しても、押し返される。
崩しても、すぐに立て直される。
六人の呼吸が、少しずつ、荒くなっていく。
汗が、額を伝い、床に落ちた。
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「詠唱、来るでござる!」
ワングが、叫んだ。
六体のうち、三体が、剣を鞘へ収める。
代わりに、宙へ、赤い紋様を描き始めた。
「くっ……!」
「離れろ!」
カインの声も、間に合わなかった。
三つの業火弾が、同時に、中心へ叩き込まれる。
爆風が、六人を、まとめて薙いだ。
「うぁ……!」
ネリスが、地に膝をつく。
ダダの盾が、焼け焦げていた。
「立て、まだ……!」
「大群癒!」
ミラの声が、響いた。
淡い光が、六人を、一斉に包む。
焼けた傷が、みるみる塞がっていく。
「助かった……!」
ダダが、息を吐き、盾を構え直した。
「これで、まだやれる」
ネリスが、立ち上がる。
だが、敵の数は、変わらない。
六体は、傷一つ、負っていないように見えた。
「化け物か、こいつら」
ダダが、うんざりしたように、盾を握り直す。
「化け物、で合ってるでござる。おそらく」
ワングが、短く返した。
再び、六体が、一斉に動く。
今度は、剣と魔法を、交互に織り交ぜてきた。
「読めない……!」
ミラが、盾で受けながら、じりじりと後退する。
「囲まれるぞ!」
ダダが、間に割って入り、二体を、一手に引き受けた。
盾とウォーハンマーが、休みなく振るわれる。
汗が、目に染みた。
腕が、少しずつ、鈍くなっていく。
「数が、減らない……!」
ネリスが、爪を構え直しながら、舌打ちする。
倒したはずの一体が、また体勢を立て直していた。
「本当に、削れてるのか、これ」
カインが、剣を握り直す。
手のひらに、汗が滲んでいた。
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「このままじゃ、押し切られる」
カインが、歯を食いしばる。
剣を持つ手が、震えていた。
「退避! 全員、下がって!」
ノリアの声が、鋭く響いた。
「終焉!」
黒い光が、宙に、巨大な紋様を描く。
極大の一撃が、三体を、まとめて呑み込んだ。
轟音とともに、鎧が、砕け散る。
「まだ、三体……!」
「もう一度!」
ノリアが、間を置かず、再び詠唱に入る。
肩が、荒く上下していた。
それでも、声に迷いはなかった。
「終焉!」
二度目の光が、残った二体を、正面から捉えた。
爆発の熱が、通路の奥まで、吹き抜ける。
「はぁ……はぁ……」
ノリアが、片膝をつく。
肩が、大きく上下していた。
砂煙の中、五体の鎧が、崩れ落ちている。
だが。
最後の一体だけが、まだ、立っていた。
膝が、大きく震えている。
盾を、地面に引きずるようにして、それでも立っていた。
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「まだ、動くのか……」
ダダが、警戒したまま、間合いを詰める。
その一体が、剣を、力なく下ろした。
崩れる寸前の、ぎりぎりの姿勢だった。
カインの中で、何かが、動いた。
言葉より先に、手が動いていた。
「これは……」
印を、組む。
いつもの、召喚の型だった。
だが、いつもと、感覚が違う。
呼び出す、のではない。
引き込まれる、感覚だった。
「カイン……!?」
ネリスの声が、遠くに聞こえる。
鎧の一体が、淡い光に、包まれていく。
崩れ落ちるはずの体が、そのまま、光の粒になって消えた。
静寂が、戻った。
「今の、何……」
ノリアが、震える声で呟く。
カインの手のひらに、見覚えのない紋様が、うっすらと浮かんでいた。
「わからない。でも……」
カインが、自分の手を、じっと見つめる。
「取り込んだ、気がする」
「取り込んだ、って」
ミラが、息を呑んだ。
「ゴーレムや、スルみたいに……?」
「たぶん」
答えになっていない答えだった。
それでも、誰も、それ以上は聞けなかった。
「今、何が起きたか、誰か説明できるでござるか」
ワングが、皆を見渡す。
誰も、手を挙げなかった。
「わからない。それだけは、確かでござるな」
ワングが、小さく息を吐いた。
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肩で息をしながら、六人は、周囲を見渡した。
崩れた鎧の残骸が、乳白色の床に、点々と散らばっている。
コインは、どこにも、落ちていなかった。
「ベーダーさんは、いなかった、な」
ダダが、低く呟く。
「うん。誰でも、なかった」
ネリスが、静かに答えた。
その声に、落胆と、わずかな安堵が、同時に混じっていた。
「これで、白は終わり、なのか」
ワングが、板を取り出す。
白い印は、色を変えないまま、そこにあった。
「わからぬな……何をもって、ここが片づいたと言えるのか」
「コインも、出なかったし」
カインが、崩れた鎧の破片を、拾い上げる。
金属でも石でもない、聞いたことのない手触りだった。
「今の一体を、取り込んだことと、関係あるのかも」
「かもしれないし、違うかもしれない」
ミラが、静かに首を振った。
「今は、断言できることが、何もない」
「一旦、戻ろう」
カインが、皆の顔を、順に見る。
「これ以上は、体が、もたない」
「賛成でござる」
ワングが、刀を鞘へ収めた。
「あの太刀筋、気になるでござるが……今は、それどころではないな」
ワングが、独り言のように、小さく漏らす。
「太刀筋?」
ネリスが、聞き返す。
「一体だけ、妙に、洗練された動きをしていたでござる。まるで……いや、忘れてくれ」
ワングが、首を振った。
その横顔に、消しきれない引っかかりが、残っていた。
疲れ切った六人は、それぞれの足取りで、白い床をあとにした。
カインの手のひらの紋様だけが、扉をくぐる間際まで、かすかに光っていた。
いかがでしょうか?
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